元が色あせづらい面白さなら、普通に移植されれば今遊んでも面白い。
『ファイナルファンタジー』を新たなピクセルグラフィックとサウンドでリマスターする『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター(以下、FFPR)』シリーズ。
その中でも『ファイナルファンタジーV ピクセルリマスター(以下、FFV PR)』はそんな移植作品になっている。
過去にも『ファイナルファンタジーV』のレビュー記事は書いていて(名作『FF5』がきっちりスマホ向けにリメイク)、面白さ、遊び方はほぼ同じではあるが、今回また改めて、旧版との違いも含めて紹介していく。
本作はクリスタルの加護が消えゆく世界を救うため、4人の勇者たちが世界の危機を救うRPGだ。
ゲームの進行としては、町で装備を整え、2D見おろしのフィールドを旅してエンカウントした敵と戦って進める王道の JRPG と言っていいだろう。
本作の面白さは、ジョブ・アビリティの育成システムによって下支えされている。
ジョブとは、戦士や黒魔導士など異なる戦闘能力を持った職業のこと。
ストーリーの進行によってさまざまなジョブが手に入り、プレイヤーはキャラクターのジョブを自由に切り替え、状況に応じて戦術を組み立てられる。
特定ジョブを使い続けたキャラクターは、ジョブの持つ特殊能力を引き出す“アビリティ”を覚え、他のジョブを利用しているときも“アビリティ”を装備することでその力を使用できる。
黒魔導士を極めてアビリティ“黒魔法LV6”を入手してから戦士になると黒魔法を自在に使える戦士が誕生するし、忍者の“二刀流”を覚えてから戦士になれば二刀流で攻撃回数2倍の戦士だって作れる。
ゲーム開始時、4人の仲間は無個性になっている。
しかし、選択したジョブによって異なる役割をこなせるだけでなく、アビリティを覚えることでだんだんと個性が際立ってくる。
あのキャラクターは戦士系アビリティ、このキャラクターは魔法使い系アビリティ、あっちバランス系アビリティなど、プレイの方針によって異なるキャラクターが生まれるのだ。
プレイヤーが考えて育成し、個性を獲得したキャラクターが活躍することで、『FFV』は単なるRPGから、自分の育てたキャラクターが活躍する冒険物語になっていき、プレイヤーを夢中にさせる。
そんな、現代でも色あせない面白さが『FF5』の原作には存在する。
『FFPR』版でもその面白さは建材だ。
『ファイナルファンタジーIV ピクセルリマスター』はバトルを大幅に簡単にしてストーリー体験との整合性を損ねていたが、あれは育成・数字の遊びがメインではないからまだ許される。
『FFV』は数値と育成の遊びだから、簡単になってしまうと面白さが消える。
それはスタッフも承知していたようで、ゲームバランスについては普通にプレイするだけなら難易度は原作と大きく変わっていない。
原作が面白いから、このゲームも面白い。本作は良い意味でそんな作品となっている。
▲強いていえば、バトルで得られるアビリティポイントが序盤渋いので、2倍モードとかも選択できて良かった気がするが。
さて、『FFV』の面白さを説明したところで、旧作との違いを説明していこう。
まず、ピクセルリマスターの売りでもあるグラフィックと音楽。
グラフィックについてはスーパーファミコンのイメージを保ったまま高解像度化されたドット絵で、これは思い出を損ねない雰囲気になっている。
▲まれに「ちょっと違うな」と思うこともあるが逆に素晴らしくなっている部分も多く、全体でいえば気にならない。
音楽はアレンジにはなっているが、『FFIV』までのピクセルリマスターと比較すると大きく原曲のテイストのままで、違和感は少ない。
昔の音楽が音色やちょっとした変更を加えて出てきた程度で、思い出を楽しみながら、多くのシーンでは違いを楽しむことができた。
グラフィックと音楽については良好といって良いだろう。
▲良くを言えば旧作の音楽も収録して欲しかった。
過去に出たスマートフォン版『ファイナルファンタジーV』に付属していたおまけダンジョン・ジョブはなくなったが、代わりに過去の『FFV』の資料を収めたギャラリーと、BGMを楽しむサウンドモードが搭載され、スマホ版には出会ったモンスターが登録され、自由に戦える“ひと味違うモンスター図鑑”も搭載。
▲スマホ専用。図鑑からそのまま戦える。
▲ギャラリーには天野さんの原画に加え、全キャラの全ジョブのイラストが収録されている。あと、原作では男らしく描かれたファリスの魔法剣士だが、『FFVPR』のイラスト準拠のドット絵で描き直されている。
操作に関してはバーチャルスティックでの斜め移動、移動したい場所を選んでのタッチ移動に対応し、移動速度も倍速で快適。
バトル中に敵をタッチして選択できるようにもなっており、移動時の操作性は旧版『ファイナルファンタジーV』より大きく向上していると言っていいだろう。
一方、旧版はバーチャルスティックでの斜め移動を前提にマップが作り直されていたり、バトル時の選択ボタンが大きいのでタッチしやすいなどメリットがある。
また、旧版には追加ダンジョン・追加ジョブが存在していたが、今回は原作準拠なのでそれらのり、一概にどちらが上とは言えない内容になっている。
▲旧版『FF5』は斜め移動を考慮してマップが作り直されていて、これはこれで好きだった。移動時の操作性は劣るけども。
とは言え、もともと面白い『FF5』を、大きく変更しないでちょっと快適にしたのだから本作も面白い。
また、本作はてんこ盛りのバグが追加され、新たな楽しみもできた。
『FF5PR』はバグが多くて有名だが、1人用ゲームのバグは面白さでもある。
もともと『FF5』はバグが多いゲームで、それを利用した攻略も楽しまれてきた。ゲーム進行や、プレイの快適さに影響が出なければバグの増量、大いに結構。
たとえば、今回は本来1本しか手に入らない強力な武器“チキンナイフ”や“ブレイブブレイド”が2本取れるバグが追加され、遊びがまた増えている。
さらには機種ごとに限定バグもある。
とくに Android 限定で“バックキーバグ”が存在するため、低レベルクリアを極めようとする強者も登場している。
各機種版の差を利用して低レベルクリアしているレポートでは、Android版でバグを使って城爆発イベントが発生しなくなり、試行錯誤してゲームを進め「城が爆発して本当に良かった」と喜んでいる様子などがみられる。
おそらく、次の RTA(ゲームの早解き競技)はかなりアツくなるはずだ。
ということで、1人用なら有用に使えるバグはゲームの華。
歓迎……とはいかなくても、気にしないで遊べば大丈夫。
原作版と異なる挙動もあるが、それもまたプレイに支障がなければ「PR版の仕様」として受け入れて楽しめばいいだろう……。
…。
……。
………そう思っていた時期が私にもありました。
バグはゲームの華、そう言い聞かせつつ、ゆっくり楽しくプレイを続けて、ラスト間近。
仲間に回復魔法を使えないどころか、敵に使ってしまうタイプのバグに遭遇してブチキレ。初回遭遇時は、回復魔法1回のタイミングで全滅するボス戦なので、見事全滅してしまった。
▲回避方法としては、画面端なら仲間を指定できるので全体を選択→画面右下タッチで全体回復できる。スマホ版『ファイナルファンタジーVピクセルリマスター』だけで出ると思われる最悪のバグを見つけた。ラストのエクスデス戦では仲間も敵もターゲットに出来る魔法やアイテムを使おうとすると、なぜか対象がエクスデスになる。スマホ版をタッチ操作で通しプレイしたか怪しいレベルのバグでは… pic.twitter.com/LPXp6DWSfP
— 寺島壽久/ゲームキャストの中の人 (@gamecast_blog) January 4, 2022
その他、2022年1月11日時点でも二刀流でジャンプを使うと2回攻撃にならないとか、MPが足りているのに魔法が使えないとか、ショップで装備を購入するときの能力比較マーカーに誤りが出るとか、細かいバグに多く遭遇したので、あと1年待ってバグが修正されたころに遊ぶと何も考えず楽しめるのではないだろうか。
しかし、操作性は確実に向上しているし、致命的なバグが解消されればスマホ RPG でおすすめの1つに入る内容ではあると思うので、スクウェア・エニックスには開発予算を増やして欲しい。
現状で言うならば、ピクセルリマスター版発売と同時に販売停止になった旧スマホ版『FFV』の方が追加要素はあるし、目立ったバグは少なくてよかった……というのがなんとも悲しい。
プレイ動画:
概要:
ファイナルファンタジーVのリマスター作品。下手にバランスをいじらず快適さを追い求めたことが楽しさに繋がっているのだが、バグが多い。
評価:6(面白い)
おすすめポイント
+ ジョブ・アビリティによってプレイヤーがキャラクターの個性を作る育成
+ 原作のメロディーや音色に近いアレンジ音楽
+ 旧作より移動が快適
+ バグが多く、ときに面白いことができる
気になるポイント
- 原作バージョンの音楽も欲しかった
- バグが多く、ゲームプレイに支障が出ることもまれにある
- タッチ移動で隠し通路を動けない
アプリリンク:
FINAL FANTASY V (App Store 2,200円 / GooglePlay 2,200円 / Steam 2,200円)
販売:スクウェアエニックス(日本)
HP:https://www.jp.square-enix.com/ff_pixelremaster/
レビュー時バージョン:1.0.3
課金:なし
ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中。