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あの感動の物語が、平凡になって登場。『FF4』のストーリーをなぞるだけのデメイクRPG『ファイナルファンタジーIV ピクセルリマスター』レビュー

FINAL FANTASY IV (App Store 2,200円 / GooglePlay 2,200円 / Steam 2,200円)
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あの感動の物語が、安っぽく平凡になって登場。
スクウェア・エニックスが『FF』を新たなピクセルグラフィックとサウンドでリマスターすると宣言し、スクウェアでドットキャラクターを生み出してきた渋谷員子さんがドット絵を監修、植松伸夫さんが音楽を監修した上でリリースした『ファイナルファンタジーIV ピクセルリマスター(以下、FF4PE)』は、残念ながら首をかしげる品質のゲームになってしまった。

1991年にスーパーファミコンで発売された『ファイナルファンタジーIV』は、愛憎入り交じる大人の物語と個性的な敵味方のキャラクター、そしてギミック豊富な手強いバトルなどを特徴とするRPGだった。
が、リメイク版はそれらがすべて薄くなり、平凡な何かにリメイク、グレードダウンしているから“デメイク”とされたと思えるゲームだ。
なお、ピクセルリマスターシリーズは公式ではリマスターと称されているが、バトルバランスや一部アイテムの扱いに調整が入って元のプレイ感を変えているため、本サイトではリメイクとして扱う。
本作の特徴としては愛憎入り交じるドラマが挙げられる。
ゲームは飛空挺騎士団“赤い翼”の団長セシルが村の焼き討ちを行ってしまうところから始まり、その生き残りリディア、国を捨ててセシルを追った恋人のローザ、セシルの親友でありながらローザに恋心を抱く竜騎士カインと、序盤に登場する人物を順番に挙げるだけで人間関係の地獄。
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だが、登場人物がそれぞれに業と向き合い、立ち向かい、償う物語は本作の見所の1つだ。
もちろん、そういった物語の筋書きはピクセルリマスター版でも変更はない。
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▲心を入れ替えても、セシルは許されない。

ピクセルリマスターの売りであるグラフィックについてはスーパーファミコン版のオリジナルをベースとしており、色が足されてはいるがオリジナル近い。
キャラの細部が見えるようになり、より良くなったと感じる部分もある。
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アレンジされた音楽についてだが、楽曲自体は非常に良いものが多い。
原曲の雰囲気を損なわず、管楽器の余韻、シンバルの残響音まで細かく聞き取れる。
スマホをスピーカーやヘッドホンにつなげると、その音の鳴り方に感心してしまう。

ただ、ボスの戦闘シーンのギターに違和感を感じる部分、古めかしいドット絵には過剰に豪華に感じる部分もあり、旧作の音楽を選択できるようにして欲しかったのが正直なところだ。
効果音は少し違和感を感じることがあるが、まあちょっと気になる程度か。

操作性に関しては、スマートフォンゲームサイトなのであえてスマホ版を規準にするが……微妙だ。
本作ではタッチした位置にキャラクターが移動するタッチ移動と、スティックでの8方向移動操作を使い分けられる。
タッチ移動は移動速度も早くて便利で、十時キーはゆっくり移動したいときに使うものとなっている。
そこまでは良いのだが、ゲーム内で隠し通路を探す・移動するときは十字キーでの移動操作のみ受け付ける使用になっており、これが大きく快適性を損ねている。
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▲原作にはない斜め移動も可能。スマホでは4方向移動が面倒なのでありがたい。

本作には隠し通路が多く、街やダンジョンに入るたびタッチ移動と十時キーを使い分けなければならないし、隠し通路を通るときは移動速度が落ちてイライラする。
他のハードではコントローラーに対応しているが、スマホ版はコントローラー不可(さらに言えば、十字キーで高速移動にも他機種は対応している)。
プレイは可能だが、ストレスがある。
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▲隠し通路を歩いているときは速度半減。タッチ移動でも隠し通路を移動したいし、隠し通路の隣いれば入れるぐらいあってもいいのではないか。

そして最後、最も重大で問題な変更点を紹介する。それは、戦闘のバランス変更だ。
本作はリアルタイムに時間が流れてコマンドを入力していくアクティブタイムバトルを始めて導入した『ファイナルファンタジー』だ。
最大5人がパーティーを組み、武器で攻撃したり、魔法を使ったり、キャラクター固有の技で敵を倒すか、全滅するまで戦うものとなっている。
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オリジナルの『ファイナルファンタジーIV』はかなり敵が強力で、ボスに負けてしまうこともしばしばあった。
が、『FF4PR』は原作よりレベルアップが早くサクサク進めるバランス……どころか、過剰に簡単になって元の持ち味を損ねるほどになっている。

『FF4』と言えば多彩な戦闘ギミックの面白さがあったが、そういったギミックは敵が弱すぎてほとんど意味をなさない。
ダメージを受ける警報装置を一発で倒せるのも当たり前だし、蛙を通じて攻撃を仕掛けてくるトーディウィッチだって即座に倒せるから蛙の出番はない。
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最終盤は敵が強くなるが、小ボスを強くし忘れたようで、10カウント後にキャラクターを倒す“死の宣告”を使用する小ボス“プレイグ”だって1カウントしたところで倒れてしまう。
原作では油断していたプレイヤーを全滅させかねない強さだったのだが……。
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▲死の宣告を受け、バトルに勝利した図。頭上のカウントが10から9になった時点で勝利。なお、特段レベル上げなどはしていない。何ならバハムートやリヴァイアサンなどの召喚魔法を取り忘れたままラストダンジョンにきている。

「お前らは10カウント後には死ぬぞ!」
「カウントが進む前に倒してしまったが、その場合はどうなるんだ?」
そんな、最強系異世界転生小説の序盤に出てくる小物のような勢いだ。
バトルギミックを楽しませつつ簡単にする方法もあるはずだが、エンタメを保ったまま容易にする工夫はなく、単純に質が下がっている。

ボスもえらく弱くなっており、それはストーリーの感触にまで影響している。
たとえば、四天王のカイナッツォ。
3つの形態を使い分け、毎ターン回復するコイツを相手に長期戦で負けたプレイヤーも多いことと思うが、『FF4PR』では何も考えずサンダガを1回+αで倒せるので、2つめの形態で倒れてしまった。
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▲厳密に言えば倒し方を工夫すれば原作でもサンダガ2発か、つよがる連打で楽勝だが、今作は工夫はいらないし、正面からやり合っても苦戦することすらまずない。

この後でパロムとポロムが犠牲になるシーンは有名だが、戦闘が簡単になった結果「魔法2回ぐらいで倒れる雑魚から、なぜか主人公を守って犠牲になる」イベントになってしまい、カタルシスがなくなっている。
そういったことがゲーム全体に発生してしまっているわけだ。
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懐かしの物語をスラスラ楽しめれば良いと簡単にした結果、バトルは限られたボスを残して形骸化し、物語は筋書きを変えないまま軽薄になっている。
『FF4PR』を遊べば、原作より短時間でストーリーの流れは理解できる。
しかし、「あの敵が強かったよね」とか「あの苦労の後にこれがくるなんてね」とか、『FF4』の原作が提供した体験は間引かれている。
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▲プレイヤーにせまってくる強敵(原作版では)デモンズウォール。昔と同じように戦っても、ほぼ動かないまま壊れて圧迫感なし。

では、『FF4PR』はそういった体験を切り捨ててでも快適さを追求したのかというと、それも違うようだ。
原作ではバックアタックなどの先制攻撃を食らう確率が高く、厳しいバトルバランスも相まってそれが脅威となっていた。
戦闘が楽になったリメイクでは脅威ではなくなり、ただ一定時間行動できずに殴られるストレスタイムとなっている。
しかも、不利な体勢から逃げようとするとオート(オート戦闘中のみ倍速で動く)が切れてさらにストレスがたまる。
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プレイヤーに快適さを提供したいなら、バックアタックなどにも対処すべきだったと思うが、そういった一貫性は本作にない。
RPGツクールのような共通エンジンを使ってピクセルリマスターを制作し、その過程で出る不都合をどうするか、プレイヤーにリメイクを通じてどのような体験を与えたいのか、ビジョンのないまま制作されたのではないかとすら思えてしまう作りだ。

DS版の『ファイナルファンタジーIV』リメイクでは「過去のプレイヤーはギミックを知っているから戦闘ギミックから作り直そう」としっかり作り直して体験も提供していた。
しかし、『ファイナルファンタジーIVピクセルリマスター』はリメイクと言うよりも、原作の良さを消して補わない“デメイク”とすら思える出来具合。
無論、ひっかかりなく遊べる安いRPGの面白さはあるが、『ファイナルファンタジーIV』を体験したいなら、3Dリメイク版を遊ぶべきで、本作をやるべきではない。
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▲3D REMAKE版。レビュー:FINAL FANTASY IV 3Dになって演出は格段にパワーアップ!プレイしやすさはちょっとダウン。ちなみにDS版は難しいと評判だったが、スマホ移植にあたりやりがいを残しつつ簡単めに難易度は調整されている。

ただ……それでも過去に『FF4』を遊んでいたプレイヤーなら、本作に価値を見いだせるかもしれない。
体験は再現されずとも、ストーリーは3倍速程度でなぞれるから、さっと遊ぶならもってこいだからだ。

小学生のときに『FF4』を遊んだ私にとって、本作のプレイは『FF4』と自分自身を再発見する旅になった。
たとえば過去、ギルバート王子は恋人アンナをさらうように故国に連れて行き、置き去りにして死なせてしまったダメ男に見えていた。
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しかし、今になって見ると恋人を置き去りにしようとするセシルに「ローザは君と一緒にいたいんだよ」と語るなど、恋人をなくしたからこそ説得力を持つ言葉で人を動かす、悲しみと愛を知る男に見えて味わい深い。
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感情移入するキャラクターも変わっていた。
私が子供の頃、正義のヒーローであり、ヒロインと結ばれるセシルに自分を重ねてプレイしていた。カインなんてのは、ちょっと信じられない裏切り者だった。
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しかし、『FF4PR』が出るまでに成長し、恋愛し、失敗し、思うようにいかない30年を過ごしたいまではカインを許せるし、その弱さが好ましい。
セシルを目指してきた小学生だった私は、カインのように迷う人生を送り、変化していた。
そういった自身の振り返りができる、と言う意味でこのゲームを遊んで良かったと思う。
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▲2人が抱き合っている空間に背を向けているカイン。でも、この背中を向けているカインの姿こそが私の人生に重なるとは小学生のとき思いもしなかった。

だが、適当なリメイクを施された『FF4PR』は平凡な古いRPGでしかなく、昔の時代性を知るにも適切ではない。
初めて『FF4』をやるなら、3DREMAKE版を遊ぶか、別の機会にリメイクされるのを待った方がいい。
しかし、懐かしさに浸るという意味で言えば、ドット絵『FF4』だからプレイした当時の記憶を刺激するし、私もその部分では良かったとは思える。
過去を振り返る目的でなら、このゲームは買う価値があるかもしれない。

プレイ動画:


概要:ファイナルファンタジーIVを短時間でクリアできるようにし、体験をプアにしたデメイク。過去の体験を現代に通じる見た目で遊ばせるリマスターのような存在ではない。

評価:5(楽しめる)

おすすめポイント
 愛憎入り交じる物語
 素晴らしい音楽(ヘッドホンで聞くべき)
 手早くFF4を摂取できる

気になるポイント
 ただ簡単にしすぎてゲームの体験を損ねている
 一部の音楽がレトロなドット絵にマッチせず、原作音楽も選択できない
 隠し通路移動操作がストレス
 一貫性を感じないリメイクの作り
 あそびの感触まで異なるリメイクをリマスターと称している

アプリリンク:
FINAL FANTASY IV 3DREMAKE (1,840円 App Store / GooglePlay 1,840円)
FINAL FANTASY IV (App Store 2,200円 / GooglePlay 2,200円 / Steam 2,200円)
販売:スクウェア・エニックス(日本)
レビュー時バージョン:1.0
課金:なし

ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中