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儲からない、大変、インディーゲームで食うのは無理ゲー。そんな無理ゲーに挑む開発者に送るOdencat株式会社Daigoの「知っておきたいこと」と「やってよかったこと」

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本記事は、2023年4月に行われた福岡インディーゲーム協会におけるroom6の木村まさしさんと、Odencat株式会社のDaigoさんによる講演を再構成し、講演者の協力の元で記事化したものとなる。
インディー開発者として生きることの大変さ、そして苦労して生き抜いてきたからこその生々しい知見をぜひ参考にしていただきたい。

なお、福岡インディーゲーム協会での講演はもともと非常に生々しい数字を伴ったインディー開発者向けの内容だったが、いわゆる「まとめサイト」のようなゴシップサイトによって一部分の切り抜きを悪意の記事タイトルで拡散されてしまったため、本来の内容からはかなりマイルドにして届けしている。

<Odencatとは>
ドイツで生まれて日本で育ち、留学などした後、海外で就職して大手をあちこち行ったあと独立し、Odencatを立ち上げました。
モバイルで『くまのレストラン』というゲームをリリースし、『スノーマンストーリー』、『ねずみバスターズ』ときて、最新作は『メグとばけもの』です。  
こちらは2023年3月2日に発売して思いのほか人気になり、大変好評をいただいております。  
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<最新作メグとばけもの>
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ばけものとメグという少女がいて、この2人の絆などを描くようなゲーム。  
わりとバトル内で話が進むゲームですね。
メグとばけものは大ヒットと言っていいのではないかと言うぐらい配信もされてますし、エゴサすると、いつも誰かがメンションしてくれてる状態になっている。
そういう意味で非常に満足しているし、自分たち自身もいいゲームだと思ってるのでよかったなと思います。  

<でも、儲けたいならインディーはおすすめしない>
ここまで言っておいてなんですけど、インディーゲームは儲からないな、というのが正直な感想です。『メグとばけもの』がここまでヒットしてるなら、フェラーリくらい乗ってもバチはあたらないんじゃないの、と思うこともあります。
が、実際には開発費の支払いや生計を立てることで手一杯で、そんな余裕はありません。

自分が会社員のときの方が裕福でした、有給もありますしね。
お金だけ考えると起業してインディーゲームを作らない方が良かったということになります。
ここまでヒットしてもそうなるのは夢がないとは思うんですけど、好きなことをして生きているとも言えるのでしょうがないのかなと。とはいえ、まだまだ上を目指したいなと思っています。  

<なぜ、メグとばけもののヒットで左うちわではないのか?>
なぜ、『メグとばけもの』がヒットしたのに厳しいのかというと、これは世界的ヒットではなく、日本における限定的なヒットだったのが1つの理由です。
もともと『デルタルーン』の歌手の方にお願いしたりして、海外も狙いに行ったんですが、結果的にほとんどの売上が日本からでした。

▲メグとばけもの主題歌。

ヒット自体は喜ばしい事ですが、日本市場のみでは限界があるなというのは感じざるを得ない状態です。 
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もう1つの限界がジャンルの限界です。
基本的にインディーゲームはメディアや配信者に取り上げてもらえないと認知されないので積極的に配信してもらうことが重要です。
でも、売上という意味では、ストーリーゲームは配信との相性がだいぶ悪いです。
配信でストーリーを知っているゲームを買うかというと、(他のジャンルと比べて)買わない人は多いと思うんですね。
今後どうするかは知恵を絞らねばならないと感じます。

<インディーゲーム開発はゲーム制作以外の能力も必要>
インディーゲームの世界がキラキラ輝いて見えていた方には夢のない話をしてしまったかもしれません。
でも、実は輝いて見えるとしたらそれは生存者バイアスで、インディーに挑戦して散った人はそもそもこの講演に呼ばれていないと思います。
輝いているその下にたくさんの屍がある。
今回はその大変さを少し語ろうと思います。

自前でインディーゲームを完成させて売って生きようと思ったら、スペシャリストじゃダメだと考えています。
ウケる面白い企画を考えるにはセンスがいりますし、シナリオだって人の感情を動かすことを考えなければいけない。
プログラムを自分で書こうとしたら相当の経験がいるし、なんとかゲームを完成させても、PRやマーケティングをサボると本当に売れないので、結局やらざるを得ない。
ときには広告を出すとか、そういうところまで手を回さなきゃいけなくなる。
チームを組むのも一つの手ですけど、チームを組むのもひとつの能力で、コミュニケーション能力やディレクション能力も求められます。

マルチプラットフォーム対応も簡単ではない。
「Unityで複数出力できて簡単」なイメージがあるかもしれないですが、意外とそうでもないと言われます。
ローカライズ費用もいいところであればあるほど、すごく高い。
安くやろうと思うとファンに翻訳してもらうこともできるけど、開発者が英語を話せないと(ファンとの連絡に)対応できない。
成果物のクオリティチェックも簡単ではないです。
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▲翻訳に出したら、次はその翻訳精度が高いのか、自然な言葉なのか判断するクオリティチェックが必要。自分でやれなければ、ネイティブスピーカーにさらにお金を払って成果物をチェックしなければならない。

もしも運良く流行ると、今度はメディア対応とかPR、講演など、自分の顔をさらして人と話すという機会が増える。
自分は好きだからいいけれども、苦手な人には結構きつい。
そういった事は一切やらなければいい、という考え方もあるかもしれませんが、やはり少しでも宣伝はしたいですしね。

▲OdencatのDaigoさんは、インタビューや各メディアへの個別連絡をする、Google PlayのCM出演などもこなしている。こういった作業が合わずに辛い思いをする開発者もいるそうだ。

契約関係もかなりきつい作業の一つです。
どんなニコニコと話をしていた相手とでも、契約書になった途端に残酷な内容が書いてあったりして、自分の不利になる条項がないか、騙されていないか読んでいくので本当にストレスです。
ときには交渉をするスキルも必要で、弁護士に丸投げですむというわけでもない。
だいたい弁護士はとても高いので、インディーゲーム開発者にはなかなか手がでないです。
あと、インディーゲーム開発者で世界で勝負したい場合、英文の契約書に目を通さなければならないこともあり、これはなかなか痺れます。

税務処理、会計処理、のようなものもあります。
自分でやるのはあきらめて顧問税理士を雇っていますが、年で30 ~ 50万円かかりますし、自分の作業がゼロになるわけでもない。
売上集計やらレシート保存やらやることはありますし。支払い処理、納税処理、やることが無限にあります。 

リリース後も油断できません。バグ報告など日々飛んでくるカスタマー対応もあるし、自分のせいじゃない問題の対応のためSDKをアップデートしたりと、なにかとメンテナンスコストが発生します。
イベント出展、SNS対応もあります。例えば、ツイッターに投稿するのも時間を使うわけだし。

……まだまだ大変なことはたくさんありますが、考えるだけで嫌になりますね!

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専業のインディゲーム開発者になるというのは、もはや会社を起業するのと同じだと思います。
インディー開発者になる方は、自分が起業する覚悟があるのか考えたほうがいいかもしれないですね。まずは会社に勤めながら副業でインディーゲーム作るのがいい気がしますが、一旦は専業インディーになるのがどういうことか、について。

一度インディ開発者になってしまうと、なかなか普通の社会にもどれないリスクがあるかもしれません。
とくに会社員を経験せず学生からインディー開発者になって失敗してしまうと、新卒カードがなくなる。
採用時にインディーゲーム開発経験がプラスに働く場合もあると思いますけど、どちらかというと「あ、この人すぐやめるな」とか「自分のゲーム作りたいだけだな」って思われる可能性があり、ネガティブな側面も大いにあると思います。

人と会わなくなったり、そういう時間を作れなくなったりすると結婚とかのライフイベントの方を軽視してしまうので、若い人はそこも考えた方がいいかなと思います。  


<周囲に理解してもらえず、メンタルに問題が発生することも>
これはたまにメディアでも言及されますが、健康、メンタルの問題はかなり大きいです。 
フルタイムでインディーゲームを作りはじめると、当然プライベートの時間も相応に削られます。
ゲームで遊ぶ時間も減ったり、人となかなか会えなくなったり……。
金策周りもつねに気にしなければならず、日々不安がつきまといます。

精神的に辛くなっても、友達がみんな普通の仕事をしていると、もう全然(生き方を)理解されない。理解者が少なく、人にも相談できない。
自分の場合だと周りの人は誰も自分がインディーゲームで食えると思っていなくて、「満足したら普通の仕事に戻ったら?」みたいな空気がありました。

金がない、時間がない、相談できない、で心が荒んでしまうと周りが敵に見えてしまって、良かれと思って手伝おうと言う人とか、良かれと思って近づいてくるパブリッシャーとかも敵のように見えてしまって孤立することもあります。
周りの人に置いていかれる焦りもありますね。インディーゲーム開発者はそういったメンタル的なリスクを抱えています。

<その出資、受ける、受けない?>
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海外では専業のインディーゲーム開発者に出資するという流れは割とあって、ようやく日本でもそのような動きが出てくるようになりました。
この流れはすばらしいし、成功事例が増えて行って欲しいなと思います。
しかし、出資を受けるリスクの大きさが正しく認識されていない気もしています。
特にお金がもらえることで、「ノーリスクでゲームが自由に作れる」という誤解がある気がしています。

やはりうまい話というのは存在しないもので、なにごとにもリスクはあるものです。
一旦コミットしてしまうと、もっとも重要なリソースである「時間」が消費される、というのはいわずもがな、出資を受けてしてしまうと、自分の好きに作れなくなる可能性は高いです。
口を出す人がいるわけですからね。
もちろん、それは悪いことではありません、出資側も売れるゲームを作りたいわけなので。

次にお金があることで完成しなくなることもあります。
「使えるお金があるから使わなきゃ」というような発想になってゲームがまとまらなかったり、お金の制約があるからこそ生まれるアイデアやコスト削減の工夫が出なくなる、ということもあると思います。
お金の使う能力も1つの技術なので、それがないうちにはお金のせいで逆にうまくいかなくなることもあるのかな、と感じます。
お金の使い方がうまくいっていないと、豪華なアートワークとサウンドトラックだけはできているけど、ゲームがまったくできていない、というようなことに…。

また、出資者も無制限にお金を出せるわけもなく、完成の前に開発費が尽きてしまう場合がありえます。
開発の中止を決断できるならまだよいのですが、愛着が湧きすぎていてやめられなかったり、キャンセルを許さない契約になっている場合、自腹での開発を継続する事もありえます。
そうなると借金したり、仕事しながらゲーム開発をしたりすることになるかもしれません。
仮にそうやって血がにじむ思いをして完成させたとしても、開発費回収するまでは一銭も貰えず、利益が出るようになってもレベニューシェアでほとんどお金が残らない、というようなこともありえるわけです。

このあたりはすべて契約次第となるでしょうが、出資を受ける時点でこのようなケースも想定するべきだと思います。
……ですので、出資を受けることは必ずしも悪いことではないが、安易な気持ちでお金を受け取るべきではないし、契約関係の精査はとても重要です。
開発プランを明確にしてから出資を検討するほうがいいでしょうし、いざとなったら撤退できるようにしておくことも重要かなと思います。

<それでも、インディーゲーム開発者をやりたいなら>
プライベート時間が無くなる、精神的にキツイ、最近は出資のチャンスがあるように見えてそこにも落とし穴はある。
それでもインディー開発者として生きる無理ゲーに挑みたいなら重要なことはなにか?
自分の経験から良かったことを語っていこうと思います。

1.ゲームの完成経験が必須
大事だと思うのは、ゲームを完成させたことがある、ということです。会社員の方は会社を辞めずに完成させ、学生の方は学生の時に完成させるのが理想です。
会社が忙しいから完成できないんだ、と思うかもしれません。しかし、(自分の見た経験では)いざやめても思ったより時間もなく、アイディアもなかなか閃かず、完成させる癖がないから結局は完成しないことが多々ある。だから、チャレンジする前にどんなものでも、とりあえず完成させないとダメだと思ってます。  

2.自分は天才ではないと知る
若いうちって自分が無敵だと思うこともあるでしょう。
自分も昔は「俺はすごいし、何でもできる」と思っているふしがありました。
けど、どこかで自分は天才じゃなくて凡人だと認めると、意外とそこからうまくいくんじゃないかなと思っています。  

3.人の話を聞く力
人の話を聞く力は重要だと思います。
インディーでは我が強いというか、人の話を聞かない人っていますよね。
先ほどの「他の人が敵に見える」につながるんですが、心が荒んでいると、その人のことを悪く言っているつもりもない発言にも敵意を感じてしまうときがあります。
人に対しても敵視してしまう時がある人とか。

素直に聞いて、意見を受け入れて取捨選択すればいいのに聞くことすらしない。
そうなると次第に関わってくれる人が減ってそういう人は次第に人が関わろうとしなくなって意見ももらえなくなるので、可能性を狭めてしまうと思います。

4.世界を見据える  
自分の国のことを言うのは心苦しいですけども、やっぱり日本は統計上、人口は減ってきますし、国力が落ちて行くので売り上げもそんなに期待できる国ではなくなってしまいました。
自分のゲームは世界展開も14か国語対応を試してみましたが、意外なところで売れて助かることもありました。やはり世界をどうしても視野に入れないといけないのかなと思います。

5.貯金しておく
先ほどの話に出ましたが、会社を辞めてゲームを作っているのにバイトするような状態になってはいけないということで、やはり貯金はすごく大事だと思います。  

6.戦略を立てておく
なるべくなら戦略を立てて生存確率を上げましょう。 
自分ははじめから大ヒットなんて出来るはずがないと諦めていたので、そんなヒットじゃなくてもいいから、月5万円のゲームを20本くらい作ろうと思っていました。
それで、年収1200万円。ザルすぎて笑いが出ますけど、こういう発想で始めました。
なんだかんだいって、うまくいった要因の一つではあると思います。  

<独立前にやっておいてよかったこと>
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参考にならないと思いますけど、独立前に経験して、やってよかったなと思うことをすごく雑にメモしました。  

1.RPGツクールでゲームを作った
RPGツクールで若い時から完成経験を積み、ゲームを作る経験をしていたのは役立っています。

2.ドット絵の練習をした
自分がある程度絵とかに興味を持ったり練習していたことで、ある程度のディレクションができるというのがあります。  
ほかのドッターさんが描いてくれた絵を見てちょっと修正するとか、意見を的確に出すとか、そういうことができるようになった。

とはいえ、音楽など手つかずなものも多くあり……若い時にもっといろんなスキルを伸ばしたらよかったと思います。 

3.海外留学、就職
これは本当にラッキーだったことですけれども、留学をしたことや海外就職したことは、やはり日本の外という世界を見れましたし、英語もできるようになったので、やって本当に良かったなと。
全然安くはないんですけど、投資ですよね。

4.貯金、時間の有効活用
昔の上司には呆れられていましたけど僕はお金にうるさくて、レシートを保存するのはもちろん、出張の午前着か午後着かで出る日当が変わるのでそういうところも細かく見て経費精算したり、代休や有休は絶対消化するとか、もらえるものはきちんともらえるよう気をつけていました。
お金を貯めれば自分の時間を買える、というような感覚がどことなくありました。

5.仕事を仕事と割り切った
ちょっと悲しいことではあるんだけれども、もともと自分は自分のアイデアでゲームを作りたいからゲーム会社に入ったけれども、「やっぱり自分のゲームはそうそう作れない」と気づいたんですよね。
いろいろな企画を考えてアクティブにゲーム企画を通そうとするよりも、与えられた仕事を最大限やって、自分の場合はプログラマーとして成長していこうと決めました。
会社を「プログラマーとして働く場所」と割り切ってから、仕事がうまくいって、会社からの評価もあがる好循環になりました。

6.こっそり開発した
自分の趣味というか、インディーのことを夢見るとか継続するのが大事なのかなと思います。
会社にもそういう悪い仲間(?)ってのはいるんで、そういう人たちを見つけて、一緒にやる。
情報交換したりするのは有意義ですし、成功して「卒業」していく同僚の姿が大きな刺激や励ましになりました。

7.コンソールとモバイルを体験
コンソール(家庭用)ゲームとモバイルゲーム、いろんなゲーム会社さんを経験したのはよかったなと思ってます。特にコンソールとモバイルの違いは、大きいですから。 

8.友達を大事に
実はうちの会社で一緒にやってる人たちは昔の友達が多いです。
例えば、昔一緒にツクールやってた友達とか、大学でそういうゲームの話をしていた友達とか。
人脈っていうのもあんまり好きじゃないんですけど、結局そういう縁が繋がって、今の自分があるので、友達を大事にするのは大事なのかな、と思いました。  

以上です。
「一度きりの人生だからチャレンジしたほうがいい」とよくいいますが、「一度きりの人生だから失敗を全力で避ける」、という考え方もあるんじゃないかな、と思います。
ぜひ、リスクを把握して慎重にチャレンジしましょう。


以上。

OdencatのDaigoさんは筆者の知人で、長期開発後に新作が出る直前は精神的にナーバスになっているのが見てきたし、『メグとばけもの』を開発中も「いかにして人の言うことを開発に生かすか」といったところを非常に気にしていたことを知っている。
1人の開発者の知見ではあるが、建前ではなく生々しい内容だと感じられた。
先に公開したroom6さんの講演と合わせて、これからインディー開発者を目指す方の参考にしていただければ幸いだ。
room6が明かす、インディーゲーム開発で生きてくため、金のかからない生存戦略3ポイント。福岡インディーゲーム協会講演より

最後に当サイトからのお願いになるが……。
本来、インディーゲーム開発者のために赤裸々な講演内容を届けられた方がいいのだが、本来届かなくても良いゴシップサイト、TwitterアカウントのPV(閲覧数)稼ぎに利用され、拡散されることを恐れて本記事は講演よりも内容が薄くなってしまっている。
読者の中にはそういった方はいないと信じているが、必要な人に情報を届けられる世の中を作るため、そういったまとめサイト、ゴシップ系のTwitterなどを拡散することはできる限り避けていただきたい。

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