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room6が明かす、インディーゲーム開発で生きてくため、金のかからない生存戦略3ポイント。福岡インディーゲーム協会講演より

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本記事は、2023年4月に行われた福岡インディーゲーム協会におけるroom6の木村まさしさんと、Odencat株式会社のDaigoさんによる講演を再構成し、講演者の協力の元で記事化したものとなる。

なお、福岡インディーゲーム協会での講演はもともと非常に生々しい数字を伴ったインディー開発者向けの内容だったが、いわゆる「まとめサイト」のようなゴシップサイトによって一部分の切り抜きを悪意の記事タイトルで拡散されてしまったため、本来の内容からはかなりマイルドにして届けしている。

<room6 とは?>
京都の出町柳という京都の隅っこでインディーゲームの開発及びパブリッシングを行っている小さな会社。 
2010年に起業し、2013年頃からスマホ向けゲーム開発をスタート。2017年にNintendo Switchが出た頃からコンシューマーゲーム開発も手掛ける。 
Bitsummit、東京ゲームショウ、デジゲー博などゲームイベントにも毎年出展し、2019年からイベントで知り合った開発者とのつながりでインディーゲームパブリッシング事業を開始。 
2020年に世界に浸れるゲームを集めたインディーゲームレーベル「ヨカゼ」をはじめ、現在も引き続き活動している。 
コンシューマー・PC向けリリース済みが6本、スマートフォン向けが自社開発含め6タイトル。 
リリースを控えているタイトルは十数本。  

<インディーゲーム、売れていますか、儲かりますか?>
皆さん気になるところから行きます。
これは自分たちの売上での肌感ですが「結構厳しい」と思っています。
何本かのゲームはセールス好調ですが、まだそれほど売上が上がっていないタイトルもあります。
ゲーム開発は開発に凄くお金の掛かる「先行投資」ビジネスということもあり、事業としてインディーゲームを安定させるのはまだまだ時間が掛かると感じています。
事業としていま安定しているのは自社モバイルゲームという状況です。
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▲room6直近のヒット作『Rogue with Dead』。モバイルの運営型ゲームだが、独自開発のインディーゲームでもある。

<今回語るのは売れる方法ではなくroom6の生存戦略>
今回はインディゲームを生業にして生活したい方向けに、我々がやって良かったことを紹介します。
我々のroom6が考えている生存戦略。  
これをやれば必ずというわけじゃないんですけど、生存確率が上がるんじゃないかなと考えているポイントを紹介していこうと思います。
生存戦略なので、単純にゲームを作りたい、好きな物を作りたい、別にお金のことはどうでもいいぜと言う方のあまり参考にならない話かもしれません。

<ライバルの増加と開発コスト増大に直面するインディーゲーム市場>
知り合いの話と、我々の狭い範囲の体験談からの認識ですが、前提としてインディーゲームを取り巻く現状の厳しさを前提としてお話します。 
  
インディーゲームは年々めちゃめちゃ増えています。日本も、海外からのゲームも増えて、プラットフォーマーの特集など露出も増えているけど、大手を含むライバルの参入が(露出の増加以上に)多くて競争が激しい。
国内市場では(一般ゲーマーへの)インディゲームの認知はまだまだ少なく、プロモーションは金も手間もテクニックも必要で、(露出を得るのが)なかなか厳しい状況だなと思います。  

クオリティも年々上がってきていて、5年前なら「すごいな」と言われたことが、今では当たり前みたいな感じで。 
大手と遜色ないゲームが増えてきて、開発コストも増大している。 
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▲2021年のGame of the Yearとして話題になった『HADES』もインディーゲームだが、開発元は7人から始まり、今では20人以上。開発規模は年々大きくなっていっている。

国内のインディーゲームでもキャッチーでバズったもの、王道でハイクオリティなタイトルで海外に届いてたものなどは売れています。
ただ、バズを狙うのは難しいし、王道や海外に届けるものは金も手間もかかる。  

今回紹介するのは、我々の扱っているゲームでセールスが良かったものの共通点を分析して考えた、「生存のための、あまりお金がかからない3ポイント」。
それはブランディング、仕込み、ロングテールです。

<ブランディングはゲーム+開発者本人>
僕らが長い時間をかけて開発者自身とゲームをブランディングしていることが効いていると感じています。
我々がヨカゼというレーベルを立ち上げたのも、これを意識した戦略です。 

▲ヨカゼでは、浸れる空気のゲームを紹介する配信イベントを実施している。

日本国内のインディーゲーム認知度はインディーゲーム開発者が思うよりも少なく、おそらく思っている半分以下、1/3、1/4だと思っていただいていい。 
認知が少ない中でもインディーゲーム好きの人は盛り上がっていて、彼らはゲーム自体の開発者自身、ゲームそのものを「どういう人・物なんだ」と意識して、探して選んでくれてるイメージです。

賛否両論あるかもしれないですけども、開発者自身の振る舞い、趣味嗜好も(インディーゲーム)ファンは見てます。 
どんなゲームに影響されて作った、どんな趣味の人間なんだ、こういう人間なんだ、と発信していくと共感を呼び、実際にゲームを出したとき「なるほどね」と思っていただけることが多い。 
 
<初報のイメージが大事>
ゲーム自体の認知を得るには、その情報をユーザーがツイッターですとか、いろんなところで見たときにどう思って、どういう感情を持ってもらえるか意識して情報を出すことを計画的にやってます。
特に情報の初出しのタイミングと、そこの(情報・映像)クオリティがすごく重要。
サラっと出すと、やっぱりサラッと流れてそのまま終わってしまう。
初出しのタイミングでインパクトが出せたり、打ち出したい情報を定義できたゲームはうまく話題が乗ってきてくれるのがあるかなと思います。 

情報の初だしタイミング、その後もいつ情報を出してどのタイミングで期待感を上げていくか計画的にやっていております。  
ブランディング、イメージや期待感をどう熟成していくかというところは、本当に計画的にやった方が良いと思っております。 

<リリースのための仕込み、ウィッシュリストマラソン>
Steamは開発者自身で結構やれる仕込みが多い。
我々が意識してることはなるべく早くsteamページをオープンすることです。
これも賛否ありますけども、僕らがやってきたり、観測するなかの最適解は早めにSteamページをオープンすること。本当に早いタイトルでは2年前ぐらいにあけてます。
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▲room6の『狐と蛙の旅』は、2024年発売予定だがすでにウィッシュリストは受け付けている。

そこからウィッシュリストマラソンの開始で、国内外のオンラインイベントにどんどん参加していく。
オンラインのイベントに参加すると、そのたびにウィッシュリストが増えます。 
オフラインイベントでは、そのイベント主催者とValveのコラボでSteam特集ページができ、そこに載れることがある。そこでまたウィッシュリストが増えます。
  
あと、Steamでデモをリリース前に出して触ってもらうイベントが年3回あるので、これも参加する。などをひたすら繰り返してどんどんウィッシュリストを頑張って貯めていくのでマラソンと呼ばれています。  
ウィッシュリストですけど、まずは1万を目指しましょうと言われています。で、可能であれば3万、5万、何なら7、8万、10万みたいな。 

ウィッシュリストはたくさんあるほどよい。
Steamのロジックは非公開ですが、ウィッシュリストが多いタイトルはトップページでの扱いが良くなってくると、多くの開発者の間で言われて定説になりつつありますし、我々もそうかなと思うところがあります。
いつアルゴリズムが変わったりするか分からないですので、ひとつの指標でしかありませんが。 

で、ウィッシュリストからゲームを買う方が15%と言われていますので、10万貯められるとすれば、少なくとも1万5千ダウンロードが初速で出ます。
ものすごく、大きい数かなと思いますね。 

<体験版で評価を上げる> 
体験版をリリースできるのであれば、早めにリリースして意見を集めて改善を図ることもあります。
ジャンルにもよりますが、リリースしてみたらプレイ感が不評だった、みたいなことはよくあるので、なるべく早めにユーザーの目に触れて改善を図るのもやったほうがいいかなと思います。 
リリース後にSteamレビューが賛否両論とか、やや不評みたいになるとすごく厳しくて。
トップページはもちろんなんですけども、レコメンドされなくなってしまう。
レビューはなるべく悪くしないように、慎重に進めた方がいいです。  

最後にリリースの3カ月前からはメディアさんに連絡してみたりとか、ストリーマーさんにSteam Keyを配ってみたり、やれることは全部やる。
これらがリリースの仕込みです。  

<ロングテール戦略とは?>
ロングテール戦略は、リリースした後の話になります。
これもあくまで我々の体験談ということでお話しさせてください。 

リリースした後にいきなり大ヒット、バズリで数字がばーんといきましたであれば、もちろんいいんですけれども、なかなかそうかないです。
露出も限られてますし、最初に山はできるんですけど、そんな大きな山は作れなかったと言うことも結構あるかなと思います。 
そういう時に我々、小さなインディーチームがやるべき事の最後はロングテール戦略かなと。 

「インディゲームを出してリリースしたらもう疲れた。もうあとは次のゲーム作るぜ」
なんて放っておくと、2・3か月後に日々の販売数は「0,1,0,1,1」と、二進数みたいになります。月の販売本数も本当に10本、20本、せいぜい30本では生活は無理。
この販売数を1日10本平均ぐらいにしていくと月の売上が300本、400本となるので「お仕事だな」という感じになります。
これが、我々の考えるロングテールです。 
法人と考えると物足りないかもしれないですけども、一本の収益としては悪くない気がします。  

<配信でロングテールを狙う>
ロングテールを作ることは、「日々、誰かが感想をツイートしてくれている状態」を作ることかなと思っています。 
自分らのゲームをやっぱり毎日エゴサするんですけど、やっぱりロングテールを作れているタイトルは、検索結果が途切れて無い。 
最新で並べた時に一つ前の感想がもう一時間以内かな。
こうなってくると結構強い。  

今、その状態を作るために強いと思ってるのは、配信者さんの配信。  
この状態を生み出している時には、毎日配信者さんがゲーム配信してくれてるんですよね。
配信者さんのチャンネル登録者50人でも100人でも、とにかくずっと誰かが配信してくれる状態が途切れないことが大事かなと。 

配信そのものを見たどうかというのではなくて、その配信したファンが一言ポロっとツイートしてくれる状態を狙うと。 
マーケティングとかでもよく言う認知を生成することですね。

今は登録者100万、200万人の人が配信してくれて、次の日にドキドキして売り上げ見ても、ほとんど平常時と変わらない事もあったりします。
この人がやったのに、こんなものかということも起きたりして結構皆さんがっかりされる。
だけど、全然がっかりしなくてもよい。
すごい有名な方がやると、それを見た配信者のフォロワーさん、いっぱいいる配信者さんもやってくれる。
すると話題が途切れない状態が作れます。
 
たくさん登録者がいる方にやってもらうには運が必要かなと思うんですけれども。  
そういう方も実は結構コンテンツを探してます。
認知が高まっていると配信者さんが「次、何かやりたいゲーム探しているんだけどなんかない?」みたいな呟きに「このゲーム良いですよ」ってレコメンドしてもらえる。 
で、実際やってくれるみたいなことが起きますので、こういう状態になると結構強いなと思います。 

 <インディゲーム配信に、機会損失はない>
ストーリーゲームを最後まで配信すると、それは(ゲームの売上的に)どうなんだみたいな話はあるかなと思うんですけれど、インディーゲームに関しては良いことばかりだと思います。
もともとインディゲームというのは認知がなく、機会損失の機会そのものがない状態。  
損したかもしれない機会を気にするよりも、暖めてくれる方がはるかにメリットがあると考えています。 

大手では反対のロジックになると思います。
彼らには機会がたくさんあって、認知も上がりまくっている。
それを配信されるのは損になる可能性があると思うので、インディーと大手有名な方とはロジックが反対だと思っています。  

そのあたり、ここで最近『メグとばけもの』が配信されてヒットしたOdencatさんにもお聞きしたいのですが、どうでしょう。

<インディこそ配信ガイドラインを作ってもいいのでは>
おっと。そうですね。
配信に思うところがある開発者もいると思いますが、インディーでは配信ガイドラインは腹をくくって用意した方がいいんじゃないかなと思います。
配信を禁止することは現実的ではないし、配信者さんの中にはゲームを気にかけてくれる良い人も多くて、規約に沿って配信しようとか、リンクを貼ってくれる人もいる。

でも、そういった良い配信者さんほどガイドラインがないと安心して配信できない。
配信ガイドラインを作らないと、ガイドラインの有無を気にしない雑な人ばかりが配信することになって、本当に配信して欲しい人に配信してもらえなくなります。
インディーゲームの流行は配信で作られてるところもありますから、良い人に配信してもらいたい。そのためにもガイドラインは用意した方がいいと思っています。
こんなところでしょうか。
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▲Odencat最新作の『メグとばけもの』は、公式ページに初日から配信ガイドラインが用意されていた。

<ロングテールの締めはセール>
ありがとうございます。
最後に大事なのがセールですね。 
SteamとかNintendo Switchはセールで買う人が本当に多いので、年4回ぐらいのセールを行ってスパイクを作ります。
暖まった状態だとセール待ちの人がたくさんいて、毎回のセールで1,000本以上買ってもらえたりする。  
 
<パブリッシャー、頼る、頼らない?>
ゲームを販売して収益をあげるにはマメな活動が必要で、とくに仕込みは相当大変です。 
ゲーム開発の追い込み時期にそんな仕込みができるかと言うと難しいと思いますので、パブリッシャーを頼ることは、選択肢の一つとしてはありかなと思います。 
  
ただ、パブリッシャーがこんなこと言うのもなんですけど、基本的にはセルフパブリッシングしても良いかもしれません。 
 パブリッシャーと収益を分け合ってペイするのも難しいですし、そのパブリッシャーが同じように情熱を持ってやってくれるかも分からない。 
結局やることは個人と似ることが多く、(小規模な予算で)企業ができることは大きくない。 
ここまで言ってきたことも、お金使わなくてもできることが多い。
やってやれないことはありません。 

<最後に>
いろいろ言いましたけれども、どうすればゲームが売れるかが分かるのであれば、苦労しない。結局、リリースしないとわからない。  
  
何もしなくても売れるときもありますし、いくら頑張っても売れないときがある。 
でもゲームを作って、リリースすることは本当に楽しいものです。 
いろいろな人が感想を言ってくれる状態を見るのはすごく楽しい。 
本当に大変だと思いますけれども、やったらやっただけ努力が報われる側面もあるかなと思います。 
僕もなんですけど、頑張っていけたらなと思います。  

以上。

ウィッシュリストマラソン、認知の形成、最後には(パブリッシャーなのに)小規模な予算でパブリッシャーがやれることは個人と変わらないので、パブリッシャーを使わないのでも良いのではないか、という大胆な発言まで。
インディーゲームのプロモーションを本職として扱っている筆者としても、納得できる話が多く、参考になる方も多いのではないだろうか。

同時に行われた Odencat 株式会社 Daigo さんの講演と合わせて参考にしてほしい。
儲からない、大変、インディーゲームで食うのは無理ゲー。そんな無理ゲーに挑む開発者に送るOdencat株式会社Daigoの「知っておきたいこと」と「やってよかったこと」



関連リンク:
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