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ゲームライターは『エロマンガ先生』を読むべき。作品への愛と作家同士の流儀のぶつかり合いを見て記事を書け!

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昨日、『エロマンガ先生』のVRアプリが Apple の基準に触れて配信不可にという記事を書いたとき、初めて『エロマンガ先生』というライトノベルを読んだ。
「この物体がエロすぎる!」と書くにあたって原作に触れないのも失礼だと思ったし、記事を書く前に1巻だけ購入して読んだのだが……今、手元で最終巻を読み終えてしまった。おかしい。1巻だけ買おうと思っていたのに。
というわけで、『エロマンガ先生』がえらく気に入ったのでゲームライターとかブロガーとか、文字を書いている人たちに『エロマンガ先生』をおすすめしていこうと思う。

VRアプリを遊ぶ前に少し調べたところ、『エロマンガ先生』の主人公は高校生のラノベ作家で、タッグを組んでいるイラストレーター、エロマンガ先生が実は引きこもりの義妹だったことが発覚し、そこからライバルとの戦いが始まる……というあらすじを知った。
あとは、次にVR化される予定だった山田エルフ先生の趣味は「全裸でピアノを弾く」であること。
『エロマンガ先生』は、さぞかし読者サービスいっぱいのエロ・ハーレムノベルなんだろうと思っていた。
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▲水着の妹とベッドで添い寝したり、おし倒した様子を観られたり……まあ、エロすぎるというより13歳で水着という年齢・設定が Apple 的にまずかったと思う。

ところが、読んでみると『エロマンガ先生』はエロくなかった。
ハーレム系だけど、アニメにしたらサービスシーンになるであろう個所も多いけど、小説上では挿絵も控えめで、1990年代のお色気ラノベのがよっぽど……というぐらい。

それどころか、超面白かった。
『エロマンガ先生』はハーレムものラノベである前に、主人公の和泉正宗が悩み、人と協力して小説を書き、ライバルの小説家たちと競うラノベだった。
主人公=ラノベ作家というからには、作者である伏見つかささんの経験がガンガン出ている……のだと思う。なんというか、リアリティを感じる。
ゲームライターの末席にいる人間として見ると、すっごく感情移入できてしまう。なんだ、この楽しさは!

主人公の和泉正宗は速筆で多作、締め切りは守るが、ボツが多い努力型のラノベ作家である。
成長パワーの源はファンレター。彼は“小説家になろう”に投稿したりして、数少ない感想に勇気づけられ、成長してきたのだ。
あーー、わかる。ゲームライターにはファンレターとかこないけど「ゲームキャストで見た」とかそんな感想ツイートや友達のツイートが原動力だったからね……エゴサ最高。


ただ、主人公は私と違って真面目に生活していて、生活のために毎週決まった量の執筆をこなして……すべてちゃんとやる人間なので、そこは感情移入できない。
いい加減ライターですまん。
しかし、主人公に感情移入できない私の前に運命のキャラが出てくる。それが、大物ライバル作家、山田エルフ先生。
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▲公式ページより。添い寝させたらダメな年齢だわ。

山田エルフ先生の流儀は「自分が最高と思えるものを書けば、部数が伸びて世界一になれる。部数こそ幸せにした読者の数」という感じ。
これはライターの中で真理でもあって、ゲームライターだって「君の記事のおかげで私のゲームが売れた!」とメーカーの人に言われたり、「君の記事でゲームを見つけてハマった」と言われた回数とかが幸せを作ったバロメーターであり、勲章なわけで。
『Grimlavor』をおすすめして多くの人が喜んで、作者さんから連絡が来たとか、そういうのが幸せなの。ゲームライターって嬉しいことが多い職業なんですよ。わかる。

で、あともう1つ。
山田エルフ先生は「やる気がないのに書くな!」「やる気がないときに書いて、いいものができると思うな!」という、やる気型。
わかるーーーー!!
やっぱり「これっ!」ってゲームが出てやる気が出るといい記事を書ける可能性は高い気がする。
全裸でピアノを弾く気分転換には同意できないけど、山田エルフ先生、超頑張って欲しい……。
と思いつつ読んでいくと、圧倒的に正統派な理由で「面白い小説を書く勝負」で敗れてしまう。
悔しい。でもね、何というかコミカルに描かれつつも書く仕事の人の主義主張の片鱗に触れていく面白さがあって、『エロマンガ先生』の続きを買ってしまった。

続く2巻に登場するのは、千寿ムラマサ先生。
ムラマサ先生は周囲にまったく興味がなく、自分の理想とする読みたいものだけを書くタイプである。
くうぅぅー!わかるぅ!
私なんか、大昔に読んだ『コンプティーク(昔のPCゲームマガジン)』のゲーム日記的なものが忘れられなくて、ずっとそこを目指していて。そこについては、他人の意見とかどうでもいい感じで書いている。
そこを譲らないせいで、「ゲームキャストさんって、人間にまったく興味ないですよね」とか(少しショックを受けつつ)言われながら書いているからね。
でも、好きなものを現代向けに書いて、人気記事が書けたら「やっぱり、俺は安田均先生や光栄SLGリプレイを書いていたライターの弟子(勝手に)で、弟子の記事が受けているってことは先生は偉大だった!」とか思い込める。
最高なわけですよ、この「自分のルーツを確かめる行為が簡単にできる」ウェブ時代のゲームライターってヤツは。
ということでムラマサ先生、頑張ってくれ!正統派作家に負けないでくれッ!

当然のように、これも敗れる。

自分がライターとして感情移入した作家が、次々と「真面目」とか「愛」とか、自分にない要素に負けていく。
どんな拷問だよ、このラノベ。

で、そのまま凡才型の獅童国光先生を見て、夢がありつつも将来を心配しているところにちょっと共感したり、草薙リュウキ先生は「ろくに読まずに炎上させるやつら、死ね!」というようなことを言っていて、登場作家が増えるたびにどこかしら共感しつつ読んでいけてしまう。
3/4ぐらい超鈍感主人公のハーレム展開だが、私はもう残り部分だけで満足(あと、ヒロイン1人決め打ちのラブコメも好きなので残りも好き)。

この作品のテーマは好きなものへの愛と姿勢なんだよね、多分。
大抵は「妹」だったり「小説作品」だったりするんだけど、これを「ゲーム」と読み替えるとゲームライターにも通じる普遍的な要素が抽出されてきて、ゲームライターやってて良かったことがどんどん思い出せる。
好きなゲームの公式サイトに記事リンクが張られたり、ゲーム会社の人から文句言われたり、喜ばれたり、他のライターと流儀の違いで話しあったり。
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公式ページ最後から3番目のお知らせに、「ケイオスリングスIIIがゲームキャストの2014年ベストゲームでした」って書いてある。ひゃっほう!

でもって、読んでいくと「やる気のないときに書かない」山田エルフ先生が絶対に最終締め切りを守っていることが判明し、アニメ化作家の忙しさを目の当たりにすると「ゲームライターは食えない」とか言って甘えている私自身を恥じる気持ちがわいてくる(ラノベに説教される大人)。
4巻までそんな感じで読んでいて、最終的にキャラクターが好きになって一気に読み終えてしまった。

読み終えた今思うのは、このノベルは恥ずかしさ。
いや、ヒロインが12歳とか、13歳で伏見つかささんがロリコンとか、そういう話ではなく。
恥ずかしいものを書ける伏見つかささんはカッコいいなと。

「作品と作者を混同するな」という話もあるが、わりと自伝的性格がある作品のキャラクターなどは、作者を強く反映していることもあるし、漫画で言えば炎燃先生とか、富士隆ジュビロ先生とか、わりと漫画通りの印象だったし。

作中で主人公が自伝的な小説を人に読ませたとき、「この鈍感野郎!露出趣味の変態め!よくもわたしに、こんなものを読ませたな!」と作中で叫ばれるわけだけど、それをやっているのはおそらく作者の伏見つかささん自身でもあって。
だからこそ、少しぐらい文字を書くし事をしている人間には響くのかな、と考えてしまった。

ラノベ作家としての伏見つかささんの経験を(多分)フィードバックした『エロマンガ先生』は、ライター業の人や、ライター業を目指している人が読んだらとても楽しいと思う。

……余談になるが、この記事は Amazon Kindle で『エロマンガ先生』1~5巻が50%セールをしている間に書き上げようと思っていたのに、結局セール終了20分前に書き上がることになってしまった。
やる気が出ても、執筆速度は上がらないようだ。

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