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文字通り”作者が生きてきた証”のゲーム『RPGタイム!~ライトの伝説~』。人生を凝縮して独創的なゲームを作る方法論 | 選りすぐりBitSummit

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小学校のころ、自由帳に絵をかいてゲームを作るクラスメイトが必ず1人はいたものだ。
BitSummit Vol.6で展示される『RPGタイム!~ライトの伝説~』(以下、RPGタイム!)は、小学生“けんたくん”が自由帳にイラストを描いて作ったゲーム『ライトの伝説』をゲーム内で遊ぶRPGである。
学校机に所狭しと並べられたノート、鉛筆、折り紙に消しゴム、ベルに付箋。そういった「どこにでもある道具」を使って作られた世界は、単に暖かくも面白い子供のためのRPG……で終わらない。

子供を楽しませ、大人は童心に返し、すべての世代にエンターテイメントを提供するほどの鬼気迫る完成度、隙のない世界観を持つ唯一無二のインディーゲームである。
BitSummit Vol.6に出展する開発者の中から、注目の作品と人を選んで紹介する「選りすぐりBitSummit」第5回は、この『RPGタイム!~ライトの伝説~』だ。

『RPGタイム!』は、自由帳のページをめくって、そこに描かれた障害を越え、魔王を倒すRPGだ。
まず目を引くのは、その圧倒的な鉛筆画アニメーション。子供が描いたようなイラストが、実に滑らかに動くのだ。
また、鉛筆やノート、消しゴム、そして落書きだらけの学習机など、懐かしの道具には物体がそこに存在するかのような“物感”があり、プレイヤーを一気に小学校時代の思い出に引き込む。
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そうして自由帳を開くと、そこには自由な発想で作られた様々なゲームが待っている。
すべてのページで制作者の“けんたくん”が得意げにセリフを読み上げ、ルールを説明しプレイヤーをガイドする。その様子は作ったものを褒められたくて、得意げにしている子供そのものだ。
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だが、ゲーム内容は子供だましではない。
ある時は、ページに貼られた付箋を剥がして展開を見るマンガ。付箋を剥がすまで何があるかはわからない。
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敵が出現したら鉛筆で線を引いて、切り裂くアクションバトル(ノートに描かれたゲームという設定だが、緻密な鉛筆画アニメーションで敵は動く)。
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子供の遊びの大定番である迷路、すごろく、そして『遊戯王』に影響を受けたかのようなカードも出てくる。
“けんたくん”の自由帳に描かれたゲームはバラエティ豊かで、かつ子供独特のきまぐれな奇抜な展開が意表をつき、プレイヤーを楽しませるように設計されている。
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BitSummit Vol.6で体験できたのはその一部だけだが、隅々まで「小学生の考えた最強のゲーム」で統一された世界観のなか、気まぐれで混沌としたゲームのルールを体験することは、他にない“唯一無二の面白さ”であった。
独創性がインディーゲームの特徴であるとするなら、このゲームを遊ばずにBitSummit Vol.6を語ることはできない。そういったゲームである。

藤井TOM(藤井トム)
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ゲーム専門学校時代からインターンでゲーム開発に関わり、オリジナルRPGの企画などを経てPS3の『rain』のリードプランナーを務める。
現在名前を出せる代表作は『rain』。


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今日はBitSummitの準備が忙しい中でお時間をいただきありがとうございます。

藤井:
藤井TOMです。RPGが好きで、昔からずっとやってます。2017年からは『FF15』、『ドラクエ11』、『二ノ国2』をはじめとして、RPGが豊作すぎて嬉しい悲鳴を上げています(笑)
DESKWORKSは、ちょっとプログラムができるプランナーの私と、ちょっと絵が描けるプランナーの2人でやっている、プランナーだけの変わったチームです。

nama
『RPGタイム!』について一言で紹介していただけますか?

藤井:
ゲームクリエイターになりたい少年”けんたくん”が、一生懸命に作りすぎた手作り大作RPGですね。
大作RPGというのは『ドラゴンクエスト』や『FF』で、その規模には及ばないんですけど、小学生にしてはすごいというか、ゲームへのあこがれがいっぱい詰まっているんです。

nama
自由帳に絵をかいてRPGっぽいものを作っていた過去を、プレイしていて見事に思い出しました。
すでに6年も作られているとのことですが、そもそも製作のきっかけは何だったのでしょうか。

藤井:
作り始めは、学生のときですね。同じ学校の同級生と『RPGタイム!』の前身となる作品を卒業制作のときに一緒に作ったんですよ。
それぞれ別のゲーム会社に就職したんですが、お互いこれは良いものになると思っていて、「いつか、これをプロになってからちゃんとした形で作ろうよ」と約束して別れて。

nama
そうして、6年前に再び合流して作っている……?まさか、現代にそんな『ONE PIECE』の「2年後に集まろう」的な出来事が……。

藤井:
そうですね、ありました。

nama
ほんとにあったすごい話だ……。とすると、再び集まるまでの修業期間、いや、お仕事は何をされていたのですか?

藤井:
いろいろなゲーム会社に入ったんですが、SCE(SIEの前進、ソニー・コンピュータ・エンタテインメント)にいたときに『rain』というPS3タイトルのリードプランナーをやっていまして。
雨の中、透明な男の子が浮かび上がるという。まだUnityが普及していない時期で、それがSCEでも国内で初のUnityタイトルの国内タイトルだと思うのですけど。今思えば幸運でした。Unityを触って、「これがあればできるんじゃないか」、と。
その他の後押しとかもあり、本格的にやるかと言ったのが6年前ぐらいですね。

nama
現在は、専業でDESKWORKSをされている?

藤井:
DESKWORKSは法人じゃなくてサークルというか、2人の開発チームなんですね。
今はフリーランスなんですけど、開発していてお金が無くなったら出稼ぎに出てまた作ると。リリース予定が2019年初頭なので、そろそろ追い込みをかけようと思っています。
今の状況で言うと、RPGというからにはボリュームは欲しいので、絵の枚数で1万枚、プレイ時間ですでに10時間は作ってます。

nama
そんなにっ!?人生をかけた一大プロジェクトですね。ゲームはどこを見ても独創的で驚かされたのですが、このようなつくりになっているのはなぜですか?

藤井:
私の経歴を振り返ると、そもそもオリジナルタイトルのつくり方しか学んでこなかったというか……。
一番最初に関わったのはカプコンの『大神』というタイトルで、たまたま学生のときにインターンシップを募集していて、お手伝いをさせてもらいました。
それまでは『ドラゴンクエスト』の続編を作りたいと思ってゲーム業界を志していたんですけど、『大神』の作りに衝撃を受けてそこから「オリジナルタイトルやりたいな」と思うようになりました。
先に挙げた『rain』も完全にオリジナルゲームですが、他の仕事もオリジナルRPGの企画だったり、完全新規RPGのプランナーだったりですね。ちょっと、名前は出せないのですが。

nama
今どき、何年もプランナーをやって完全新規ゲームしか作ったことがないというのはすごい話ですね。
既存のアイデアを使ったり、すでにあるものを使うことができない、ということでしょうか?

藤井:
偶然もあるし、版権ものや、既存のタイトルから持ってくるのが嫌だ、というわけじゃないんですけど、自分が得意なのはそれじゃなくて。
いちからアイデアを考えて、どう既存のものを活かして、その葛藤の中でバランスをっていく作り方が得意なんです。

よくある話ではあると思うんですけど、RPGを作るときに「UIはペルソナ風」で、システムは「××風」で、と言われるプロジェクトもあるし、それは目指すものがわかりやすく、うまくいく方法ではあるんですけど。
私は「いちから考えようよ」と思う。オリジナルを作ることで、できることがあると思っています。

<ドラゴンクエストとの戦い>
nama
まったく既存から持ってこないで、新しく考える。その壮絶な作業が、この世界観を生んでいる。他のゲームから全く持ってこないんですか?

藤井:
自分で考えます。ただ、結果として他のゲームに存在するものを考えつくことはあって、いちから考えた結果に出てきたものであればそれがオリジナルだと思っています。
でも、考え抜いていたときに気づいたのですが、油断するとゲームが『ドラゴンクエスト』になるんですよ。
たぶん、僕たちの中でRPG=『ドラゴンクエスト』というのがあって。何も考えないでやるとそれに引きずられるんです。
でもそういった要素は「なんでこうなったんだっけ」という、違和感があって。

nama
具体的に、どんなところでそうなるのでしょうか?

藤井:
たとえばHPの表示する方法も、安直に数字や体力メーターにすれば簡単ですけど、そうするとそれは『RPGタイム!』の世界に溶け込まないんです。そこで悩んで、メジャーでHPを表現することを考えて。HPがメジャーになったときに、子供の考えたRPGに違和感なく溶け込むようになる。
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▲主人公のHP現在値メジャーで表示されている。

“遊び再構築”というほどではないんですけど、そういった要素を1個1個考えていくことがオリジナルというか、新しいものになるんじゃないかなぁ、と思って作っています。
そうしていると企画職しかいないので、扉のデザインが5日間決まらなかったとかあるんですけど(笑)

nama
オリジナルの世界があって、そこに必然性のあるものを妥協なしに考えていく、という方法論なんですね。だから、必然的に外から持ってきただけの要素は違和感を感じる。

藤井:
自分達がすべてのオリジナルなんだというつもりはないんですけど、開発者としては、ちゃんと自分で考えだした要素なら、オリジナルと言っていいんじゃないかな、と。
プレイヤーが見たら、自分で考えたつもりで「これパクリじゃん」と言われるかもしれないし、違うものから引っ張られてできた要素に「オリジナルじゃん」と言われるかもしれないけど、自分で考えていればいいかなって。
何より、考えないで入れた要素って、ゲームと整合性がとれなくなるというか、違和感というか、良くないんですよ。僕らができることって、考えることなんですよ。考えて、考えて、埋もれないように、引っかかる面白さを作って。

nama
確かに、少しプレイしただけで整然とした世界観を感じました。その中でも特に思い出に残っているアイデアなどはありますか?

藤井:
(しばらく考え込んで)ああ、オープニングは4回ぐらい変わって、最後にすごく良いものができました。
BitSummitの体験版にはそれは反映されていないのですが、それを見たら皆さん驚かれると思います。我ながらいいものができたんじゃないかと(興奮気味に)

nama
そんなに良いものができたのですか?というか、ここで言ってもいいんですか?

藤井:
はい。何かっていうと、ぼくら昔ゲームについていた説明書が大好きだったんですけど、今は説明書不遇の時代じゃないですか?
ということで、相方に作ってもらったら説明書ダンジョンというのができて、遊びながら説明できる説明書ダンジョンというのが製品版では出ていて。遊べる説明書ですよ、絶対楽しいでしょう!
追って情報は出していくんですけど、すごくいいものになったなぁ、と。

nama
それはもう、聞くからに個性的で楽しそうですね!
個性的といえば、実際のプレイでもヘンテコなハシゴが出てきたり、とつぜん消しゴムで道が消されたり、イベント展開もすごく独特で変でしたね!?

藤井:
はい、変なものが好きで。ゲーム業界を目指したきっかけの1つなんですけど、『ルーマニア#203』というゲームが好きで。
あの頃のドリームキャストは良かったですね。変ゲー全盛期というか。当時は変ゲーというジャンルというかもしれないですけど、その変ゲーの要素があるのが『RPGタイム!』です、と。
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▲セガの怪作、『ルーマニア#203』。変に見えて泣ける。面白いからずるい。


nama
『スペースチャンネル5』に、『Rez』、『ジェットセットラジオ』とか、個性ビンビンでしたねぇ。私も好きでした。

藤井:
変なだけじゃ戦えないし、売れなくなっちゃったから。いかに王道のふりをして変なことをするとか。そういうところに一つの答えだと思っていて。
だからドラクエベースで面白いことをやろうと思って作っています。

nama
しかし、10時間もプレイできるほど“変”を用意するなんて、かなりの作業じゃないですか。

藤井:
そうですね。たとえば、バトルではフリックして切った場所を攻撃するシステムですけど、大人が考えると弱点を切るとか、ひもを切ってなにか落とすとか。そういうのは出尽くしたんですよ。それで面白いし、いい感じにできてきたんですけど。
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▲フリックで切り裂くバトル。しかし、それだけで終わらないらしい。

nama
たしかに、面白いけど“変”ではないですね。

藤井:
オリジナルさを作る方法論の1つなんですけど、童心になって考えるのが早道でした。
子供ってオリジナルじゃないですか。自分で考えて、常識を知らないからオリジナルをやっちゃうことが多い。なので、子供の気持ちになったり、子供のころ考えていたことなどを出していきました。
あとは毎週1回落書きを書いてきて、その落書きを見せ合ったり、折り紙を作ったり、レゴブロックを作ったりして。
すると、展開がすごく豊かになったんですよ。子供の発想は大人を超えていくんですよ。RPGの戦闘が途中でガンシューティングになるのはあまりないですけど、子供の脳を持つとまっとうな理由をもってガンシューティングになるんですよ。
そいう突飛な展開や意外性、オリジナルな展開ですね。

nama
ああ、わかりました。たしかに、理不尽で意外な展開もありましたね。
でも、ゲームを進行する“けんたくん”が、我々が小学校の時に見たような共感できる子供像を持っていて、かつゲームの世界観が完全に考え抜かれたオリジナルで統一されていて、子供の発想として納得してしまう。理不尽でも、このゲームなら楽しい納得感がある。むしろ、プレイしている側が子供に戻った気持ちになって解を探せるように感じました。だから面白かったのか!
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▲子供の都合で、突然に消される道。だが、それでも納得できる。

藤井:
ありがとうございます。
そうして作った『RPGタイム!』なんですけど、普通は6年も2人だけで、お金もない状態で作ったら失敗すると思うんですけど、これはは作っていて楽しいし、可能性も感じています。

<ゲームとは、もう1人の自分自身>

nama
長くなってしまいましたね。最後になりますが6年も作っている『RPGタイム!』は、藤井さんにとって何なのでしょうか?ライフワーク的なものですか?

藤井:
『RPGタイム!』は、この時代に生まれてきた記念に作るということを言っているんですけど。
オリジナル、オリジナルといいながら、どこかで『ドラゴンクエスト』だったり、『FF』だったり、『Mother』だったり、『Doom』だったり、ファミコンから流れを汲んだ感じになっているので。
20代後半から30代後半って働き盛りじゃないですか。その中でここまで自由に時間をかけて、考えて作ることはもう生涯ないかな、と思っています。

nama
記念どちらかというと、もっと別の、そう……このゲームに出てくる“けんたくん”って、藤井さんのそのものではないですか?
藤井さんの大好きなRPGの要素を詰め込んで、自分で考えた精いっぱいのアイデアを出して、子供の頃に考えていたものも投入して、ゲームを進行する“けんたくん”は藤井さんの分身で、自分のすべてをこめてプレイヤーにエンターテイメントを提供している……そんなように聞こえました。

藤井:
言われてしまいましたね。そう、そうです。
いままで何を作っていても、何も思わなかったんですよ。
でも『RPGタイム!』が完成に近づにつれて、赤面するほど恥ずかしくて。もう1人の仲間の子供性もにじみ出ているんですけど(笑)
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▲吹き出しで登場する“けんたくん”。それは、子供に託した作者の人生。

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名前を出せない……結構話題になったオリジナルRPGを作り、『rain』を作り、そしてこれまでの人生をすべてつぎ込んで、ゲーム化する。
鬼気迫る完成度の秘密が、ようやく理解できました。これが売れなかったら、ちょっとショックですね(笑)

藤井:
この時代に自分たちが生きた記念で、作ったことに満足しています。仮に売れなくても。
もちろん、売れたらどんどん積み重ねていけるんですけど(笑)
でも、まずはBitSummitでは、『RPGタイム!』をぜひ見に来てください。

以上。

今回、選りすぐりBitSummitのコーナーはスマホ関連ゲームのみの枠で紹介してきた。しかし、本作はそういった枠を超えて、全BitSummitのゲームの中でもダントツの可能性を秘めた1作だ。
本作はPCとスマホ向けに2019年発売を目指して制作されており、ゲーム機も計画にあるとのこと。来年を待ってもいいのだが、BitSummitに行けるなら、今のうちに体験してその世界に触れてみて欲しい。

『RPGタイム!』は、BitSummit Vol.6であなたを待っている。

関連リンク:
RPGタイム!~ライトの伝説~ by DESKWORKS

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