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葛飾北斎の絵がそのまま動く『UkiyoWave(浮世ウェイブ)』作者インタビュー。目指すは「みんな知っていて、誰も見たことがない」ゲーム | 選りすぐりBitSummit

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スマホのインディーゲーム開発者と言えば、2010年付近から個人でゲーム開発し、『ネコアップ』や『スバラシティ』などのヒット作を出しているKuwakiさん抜きに語れない。
ゲーム機の開発者であった経験から手堅いゲーム理論を持ちつつ、スマホ文化を吸収しつつ日本でのヒット作を生み続けた彼の1年ぶりとなる新作『UkiyoWave』はどのような作品で、何を考えて作られたのだろうか。

BitSummit Vol.6に出展する開発者の中から、注目の作品と人を選んで紹介する「選りすぐりBitSummit」第4回は、『UkiyoWave』と作者の桑木さんを紹介する。

Kuwaki
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ゲーム機で有名メーカーのゲームなどに携わった後、独立。
『ネコアップ』、『スバラシティ』などのヒット作を持つスマホアプリ開発者の古参。

<インディーゲームなんて関係ない>
nama
今日はよろしくお願いします。久々の新作が出ると聞いて楽しみにしていました。
ゲーム内容はBitSummit Vol.6で遊べば分かるので、ゲームより作る裏側の話を聞く感じでお話を聞きたいと思っています。

Kuwaki:
裏側と言うと、開発者にとってはいい話かもしれないけど、ゲームファンにとっては全然面白くない話するけどいい?

nama
むしろ、ゲーキャスの読者は例外的にそういうの好きだと思います。ぜひ。
Kuwakiさんはスマホ初期からスマホインディーをひた走ってきった第一人者ですし、みんな興味深く見ると思います。

Kuwaki:
まあ、僕にとってはインディーゲームっていうのはなくて、有名作品も、1人で作っていても全部同じゲームです。
でも、今は僕のゲームがインディーゲームの条件を満たしているみたいだし、インディーゲームと名乗ると良いことがありそうだからインディー開発者と名乗ります(笑)

nama
いきなり、開発者の闇トーク……。BitSummit Vol.6の根幹を揺るがす発言ですね(笑)
しかし、その意見はわかります。

Kuwaki:
まあ、あまりそういう話をするのも。ゲームの話をしよう。

<ヒットの法則と過去作の経験>
nama
そうですね。
『UkiyoWave』ですが、驚いたことに今までのKuwakiさんのアートスタイルを捨てて、浮世絵のアートに移った事にまず驚きました。動画を見ると、完全に浮世絵が動いてますよね。


Kuwaki:
それは……今回は、海外でヒットしたかったので浮世絵にした。

nama
今まで独創性やアートスタイルにこだわっていたように見えたのですが、今回は本気でヒットするために変えたゲームったということですか!?

Kuwaki:
そもそも、僕はこだわりとかはなくて。いつも計画を練って作っていて、ヒットさせるために、最初から考えて作っている。そういう流れです。
僕の独創性がどうのこうのは考えていない。

nama
ずっと、オリジナリティにこだわっていると思っていたのですが、意図をもって計画通りに何かを作っていたんですね。

Kuwaki:
ヒットさせる条件は「みんなが知っているもの」と「みんなが見たことがないもの」それが両立した物だと思っていて、それが何か考えたら今回は浮世絵になった。

nama
なるほど、「みんなが見たことがないもの」を毎回入れようとすれば、私がオリジナリティを毎回感じていたのも納得です。
しかし、「みんな知っていて、見たことがないもの」という条件は矛盾していませんか?

Kuwaki:
今回で言えば、浮世絵は世界の人知っていますよね、それがゲームとしてしっかり遊べる。
みんな知っているものが、ゲームになっている新鮮さをもって作れば行けるんじゃないかと。
過去作の経験も活かして、ワールドワイドのヒットを狙えるかな、という目論見でずっと頑張って作っていました。

nama
過去作を活かす……では、ゲーム紹介の前に過去作でやったこと、そこで得たものを簡単に振り返らせてください。
初期のヒット作『ネコアップ』、大ヒットの『スバラシティ』、そして最後の作品『みんなの脳内ワールド』あたりを経て、何を得たのか興味あります。

ネコアップ
UFOを動かして宇宙人がネコをさらっていくアクションゲーム。難易度は高めだが、短い時間で何度も遊べて、プレイするほどにスコアが上がる面白さに中毒者が続出した。
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Kuwaki:
猫という一般性と、自分の独創的なゲームを組み合わせると良いのではないかと。
あの当時、すでにカジュアルゲームがあって、『ネコアップ』はちょっと濃いゲームだった。
カジュアルゲームの世界に『ネコアップ』を投入したらヒットするかというと、大ヒットはしなかったね。海外でも結果は同じで、「なんでヒットしないんだろう?」と、コンシューマーから来ていたので、カジュアルゲームを勉強し始めました。

スバラシティ
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異なる色のブロックが上から落ちてきて、同じ色のブロックが繋がっている箇所をタッチするとまとまって大きな建物ができるパズルゲーム。シンプルなのに面白くて中毒者続出。

Kuwaki:
これは大成功。自分で言うのもなんだけど、ゲームの出来が良すぎて言うことがない。かなり一般の人にも届いた。
あとは、自分のプレイの結果が(街という)ビジュアルで収束するのがいいことを体験した。ツイートしたくなるし、広がる。

nama
これは国内では本当にヒットしましたね。一方で海外では知られていないのが歯がゆいほどのゲームです。

Kuwaki:
面白さの伝え方がまとまっていなかった。海外でヒットさせるためには、シンプルに1つ「ここが面白いんですよ」って言わないと伝わらないんだな、と。
あと、街作りという題材が『シムシティ』みたいなゲームとイメージが被っちゃって。そこで(シムシティのように複雑だと思って)試してくれない人がいて。簡単なゲームなんですよ、というメッセージも伝えられていなかった。

『みんなの脳内ワールド』
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クイズに答えると地球に回答が示す物体が脳内に追加されていき、最終的に「自分が知っているものだけ」が存在する脳内ワールドができる面白クイズゲーム。

nama
これは……海外を狙っている感がないですね……。クイズとか翻訳大変そうですし、画像素材から作り直さないと出せない。

Kuwaki:
これは、思いついちゃったから、ゲームの神秘性を追求してみようかな、と作りました。
このゲームはクイズをやって絵が出てくるだけなんだけど、そこに意味を持たせて、これが実はあなたの脳内なんですよ、と言って、神秘性を持たせようと。
占いゲームとかは実際にコンピューターが占っているわけじゃなくて、機械的に結果を出すんだけど、外から見ると占いに見えちゃう。そういった機械が持つ神秘的な面白さを出せたら良いなって。

nama
スバラシティで街がTwitterとかで共有されたのは活かされてますね。

Kuwaki:
そう。ビジュアル重視。あと『みんなの脳内ワールド』は一般のゲームしていない人とかのツイートが多くて、こういう反応なんだ、と。
それは嬉しかったけど、今度はライトすぎてゲーマーに受けなかった。
ゲーマーに受けないと、一過性ですぐ終わる感じなんです。一般の人たちは去っていくのが早いのね。マニアがついてくれると息の長いものになるから、スマホのヒットゲームにはマニアも一般の人も必要なんです。それがわかった。

<そして、UkiyoWaveへ>
nama
そうして、それらの経験がすべて『UkiyoWave』に結実していると。

Kuwaki:
ずっとやっていること、考えていることは変わらなくて。
『ネコアップ』は猫のかわいさ、『スバラシティ』も街をつくるという一般性は入っているじゃない。でも、意識はしているけど、ヒットにつながっていなかった。
一般性を入れたけど、インパクトまで行っていなかった。
単なる浮世絵風を越えて、葛飾北斎のあの波が動いて、それがゲームとして遊べるのは誰も見たことがないインパクトじゃないかな、と。

nama
そして、そこにKuwakiさんが得意とするカジュアルだけどハマるゲーム性も入っていると。
早速、プレイさせていただいて良いですか。

Kuwaki:
どうぞ。

nama
ほうほう、スワイプ操作で左右に動いて、波に逆らうと大ジャンプできる固定画面のシンプルなアクションゲームですね。波が動く感じ、すごく浮世絵ですね……!
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Kuwaki:
そう。波にのまれて画面外に出たらゲームオーバー。
シンプルだけど、大きくジャンプするほどスコアが伸びたり、いろいろな気づくとスコアが伸びる要素をたくさん入れています。

nama
シンプルだけど、深い……Kuwakiさんの得意ジャンルのゲームですね。
実際、操作していて気持ちいいカジュアルさがあって、動きが面白くて、カジュアル層とゲーマーを両方とりに行っている感を感じます。
ただ、これは動画じゃないと伝わらない……静止画でTwitterに投稿するのと相性が悪いのでは。

▲再び先ほどの動画。

Kuwaki:
今回は動画映えを狙っています。
これで世界にヒットしたらいいな、という感じで。だからビットサミットに応募したし、そういう流れで来ています。

nama
先ほどからしきりにヒットという言葉を使われていますが、やっぱりヒットしたいですか。

Kuwaki:
うん。ヒットしたら楽しいから。お金が儲かるのも重要だけど、ヒットを作れたら楽しくない?
楽しいよね?

nama
普通のゲームとインディーゲームは同じゲームかもしれないけど、開発の姿勢にはインディーがある。
その言葉を聞いて「あ、この特集はインディーゲーム特集だった」と思い出せました(笑)
最後に、このゲームで表現した「見たことない」のポイントを詳しく教えてください!

Kuwaki:
今回は波に注目して欲しいかな。今回の波の部分は1人じゃないと作れなかったと思います。
毎回、「誰も見たことがない」新しい物を作ろうとしているけど、それが波。
1人で開発するメリットってあるんです。
決まった物を作るときは複数でも良いんだけど、どんなゲームになるかわからないけど作ってみようか、だと“見たこともないもの”って共有できないから、作っては壊してで作ろうとするときにすごく大変で。
1人で粘土をこねて試行錯誤することは楽だけど、2人、3人で同じ粘土をこねて試行錯誤するのは難しい感じ。
『UkiyoWave』の波は、1人でやっているから、プログラムも絵を同時に変えて何度も試して作られていて、プログラムとグラフィック両方のアプローチで完成させたインパクトのあるものになっていると思います。

nama
ありがとうございました!

以上。

スマホでたくさんゲームを遊び込んでいる方なら、誰でも1回はKuwakiさんのゲームには触れていると思う。こだわって作ってきたゲームは、すべて計画に沿って、何かの知見を得て還元するために作られていた。
そして、その計画とこだわりの結実である波は、BitSummit Vol.6のブースで確認できる。
どのタイミングでも、浮世絵らしさが崩れない波の動きには確かにインパクトがある。そして、ゲームも触っていて気持ち良く(Kuwakiさんによると)奥深いものになっているという。
BitSummit Vol.6では、波に注目して遊んでみて欲しい。

関連リンク:
KuwakiさんTwitterページ

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