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命なき世界に生命を作る『World for Two』開発者インタビュー。リア充がインディゲーム開発を始めるまで | 選りすぐりBitSummit

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国産の2Dゲームには珍しい、きらびやかなアートスタイルのアドベンチャー『World for Two』。
生命が死に絶えた世界に新しい生命を作りだし、美しい世界を復活させるという題材もアートと合致しており、本作に注目している方も多いことだろう。
インディーゲームというとドロドロした情念の詰まった開発者が多い印象だが、今作の開発者は違う。生活が安定しており、時間もあり、何でもできる中であえてゲーム開発をしているのだ。

なぜか。BitSummit Vol.6に出展する開発者の中から、注目の作品と人を選んで紹介する「選りすぐりBitSummit」第3回は、『World for Two』と作者のしんいちさんを紹介する。

しんいち

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ウェブエンジニア出身。『ナンプレLV999』など、一般向けのカジュアルパズルアプリを多く作り、ヒットさせている。

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まず、しんいちさんの経歴を教えてください。

しんいち:
もともとウェブのプログラマーをしていたのですが、会社でアプリ製作技術を身につけて、そのころに休みを利用して『ナンプレ』のアプリを作って、独立しました。
『ナンプレ』を作った理由は、私がナンプレが好きだったと言う理由ですね。

nama
あー!『無限ナンプレ』とか『ナンプレ Lv999』はヒットしましたよね。良く名前を見ました。

しんいち:
『ナンプレ Lv999』はヒットしましたね。『無限ナンプレ』そこまででもないですが。

nama
え、どちらも良くできていたように思うのですが。『無限ナンプレ』が機械生成の無限に遊べる出題だったからとか、そういった差ですか?

しんいち:
Lv999も無限ナンプレもプログラムでステージを生成していたんですよ。同じなんです。
でも、名前のLv999というキャッチーさか、みんな終わりがある方が好きなんでしょうかね。
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▲999問の問題を持つナンプレ。売れた!しかし、無限ナンプレと同じ方法で問題が作られているので、本当は無限ナンプレの方がすごい。

nama
名前と見せ方で、ほぼ同じアプリが大ヒットしたり、売れなかったりする……考えさせられる話です。

しんいち:
今もパズルは続けていて、安定して生活を固めるようにしています。その上で時間があるので『World for Two』を作っている感じですね。

<命と死のゲーム>
nama
それでは、『World for Two』にいきましょう。これはどんなアプリなんでしょうか。

しんいち:
動物がいなくなった世界に生き残った博士がいまして、博士の助手のアンドロイドを操作して、世界に生命を作っていくゲームになります。
テーマとしては、生命。命と死を考えておりまして、主人公のアンドロイドが命を作る過程で発生する心の変化を描きたい思っています。
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nama
ゲームの画面、すごいアートですよね……しかも、展示会などで新バージョンを見るたびにきれいになっていっている。これで生命の誕生を描くというのがすでにいい。
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しんいち:
見た目に関しては私自身がきれいなものが好きなので、好きなものを表現した感じです。
それを実現できた技術に関してはUnityのおかげですね。Unityの標準でついているライティングの機能だったり、アセットストアにあった水面のシェーダーだったり、各種ライティングであったりを購入して。Unityがなければ、おそらく作れていないだろう、と。

nama
ゲームとしては、横スクロールアドベンチャーで、外界に出て自然エネルギーをあつめて……。
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▲蒼い火から自然エネルギーを集める。

で、外の世界に残されている遺伝子を集めて、それを2つ掛け合わせ、組み合わせて新しい生命ができるんですね。
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そうして外に出ると作った生命体が生活している……この感じ良いですね!
そして遺伝子を集めるときは、遺伝を解析するパターンパズルを解くと。
なるほど。しんいちさんはパズルゲーム出身ですし、見所はパズルになるのでしょうか。
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しんいち:
個人的にはシナリオに注目していただきたい。
もちろん、ゲームとして謎解きやパズルを入れたりはしますけど、シナリオに力を入れているつもりではあります。テキストでもありますし、ビジュアルとして見た目でも訴えかけたいなと思っています。

nama
このビジュアルで訴えられたらキますね……。

<楽しそうだから、ゲームを作ってる>
nama
『World for Two』はきっちりゲーム機のアドベンチャーしていますが、なぜ、カジュアルパズルから急に作風を変えたのですか?

しんいち:
単純に、作ったら楽しそうだったからです。
去年のBitSummitで私が一般で参加していたんですけど、スカシウマラボの『サムライ地獄』の出展を見て「私も出展したら楽しそう」と。
もともと自分自身もゲームを作りたい欲はあって、それをきっかけにハフハフおでーんさんを仲間にして作ることを決断しました。
FPSのようなゲームが好きだったんですが、最近3D酔いするようになってしまいまして、2Dの『Nuclear Throne』とか遊ぶうちに2Dも好きになって、ドット絵のゲームが作りたくなってきまして。
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▲Steamの『Nuclear Throne』より

nama
FPS好き……でも、『World for Two』はアドベンチャーですね!?

しんいち:
最初の構想はスマホ向けに縦画面で『アビスリウム』のように生物をたくさん作って進めるゲームを考えていたんですけど、作っているうちにゲームっぽくしようという欲が出てきて、横画面にしよう、シナリオを付けよう、もっときれいにしよう、と。
もともとゲーム好きなので、どんどんそうなっていく(笑)

nama
典型的な「作りたいから肥大していく」インディーゲームですね(笑)
▲およそ1年前、スマホ横画面にしようかなと考え始めのツイート。ここから今の画面に。

しんいち:
考えていると楽しくて……やりたいことがたくさん出てくるんです。
今は森や沼地に情報量が少ないと言いますか、プレイヤーに対して訴えかけるようなオブジェクトを入れたくて、その辺で欲が出てますね(笑)
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▲これでまだまだ足りないらしい。

nama
え、このビジュアルでまだ完成形ではない……と。完成するんですか……これ。

しんいち:
「気持ちは」早いうちにリリースしたいと思っています(笑)
一応、2018年の×月には……。

nama
その時期には絶対でない気がするので、記事では伏せ字にしておきます(きっぱり)

<なぜ、ゲーム作りを続けるのか?>
nama
自分の知らないイベントの世界がまぶしくて、自分もやりたくなって、仲間を集めてやる……『バンドリ』(※)みたいな青春の話ですね。
生活も安定していて、落ち着いた中でやるという。
※主人公の少女がライブを見て、その輝きに魅せられて自らもバンドを始めるアニメ

しんいち:
最初の部分は合ってますね(笑)
でも、今は辛いです。ゲームはやる方がもちろん好きで、できることならずっとゲームしていたい。しんどい、しんどい言いながら作ってます(笑)

nama
生活も安定していて、時間があるなら一番好きな「ゲームで遊ぶ」をしていれば良いように聞こえますが、なぜ文句言いながら開発を…。

しんいち:
昔、『ラグナロクオンライン』ってゲームにはまっていて、それですごく時間を浪費してしまった罪悪感があって、ゲームしているだけだと時間を浪費している気がしていて、素直に楽しめない体になってしまったんです。

nama
ゲーマーの業(カルマ)ですね……。わかる。

しんいち:
あとは……なんでしょうね、これしかないからでしょうね。
ゲームしか残せるものが作っていないからですかね。
まだゲームを出せるかも分からないですけど、Nintendo Switchとかに出して、「父ちゃんはこれをやったんやでぇ」って子供に言えたら最高に気持ちいいなぁと。

nama
一番いい動機が最後に。しかし、「楽しそう」で始めて「いい物をを残したい」という感じで、青春というか前向きですね。リア充開発者。
ゲームからも「これから作っていく」前向きさを感じて、すごく楽しみです。

しんいち:
まずはBitSummit版で『World for Two』の世界のきれいさを見て欲しいです。もしゲームが完成したらシナリオを見て欲しい。
シナリオの面白みは、アクションみたいに短時間で見せられないので。

以上。

なお、BitSummit Vol.6で展示される体験版は、本日よりPC向けにネットで配布されている。イベントまで行けなければ、そちらを試して欲しい。
イベントではグッズを買ったり、体験版に含まれない最新版のアートや画面も見られるはずだ。

しんいちさんの『World for Two』は、BitSummit Vol.6のR-22ブースであなたを待っている。

関連リンク:
World for Two体験版

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