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スマホ市場と向き合った結果、ダークな物語作家はポジティブ路線に転向した。Nintendo Switch『くまのレストラン』発売記念、製作舞台裏インタビュー

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天国と地獄の間には、死者が最後の晩餐のため訪れる特別な“くまのレストラン”がある。
そして、そこには客の記憶をのぞきこみ、好物をふるまう“くまのシェフ”と“ねこの給仕”がいるという。
スマホで発売されるや世界で人気を博し、100万ダウンロードを突破した物語ゲーム『くまのレストラン(くまレス)』の完全版が本日6月17日に Nintendo Switch で発売された。

本作に関しては感動の物語、泣ける、などの評判が高いが、作者の Daigo さんは『くまレス』以前に暗く後味が悪い物語を作る作家として有名だった。
なぜ、Daigo さんは変わったのか、変わった結果何が起きたのか、今回は Nintendo Switch 版発売記念としてお話を聞けることになった。

以下、発言の前には発言者の名前を付けて掲載していく。

Daigo:
Odencat株式会社代表、『くまのレストラン』製作者のDaigoさん

ゲーキャス:
本記事を執筆しているゲームキャスト運営者の寺島壽久

--------------

ゲーキャス:
今日はよろしくお願いします。
早速ですが、『くまレス』といえば Daigo さんには珍しいポジティブなストーリーが印象的でした。なぜ、そうなったのでしょうか。

Daigo:
実は『くまレス』の前半部分は早期に、今とは違う暗い話として完成していたんです。
しかも、プレイヤーがレストランで毒のワインを振る舞う選択ができるなど、過去作『償いの時計』の方向性に近いものでした。
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▲Daigoさんからいただいた“やみおちくまさん”。

ゲーキャス:
ダークすぎる……!
しかし、完成していたとなると、完成品をわざわざ路線変更した理由がよりきになりますね。
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▲いただいたイメージ画像(当時のままは残っていなかったので再現画像)。左が闇バージョン、右が現在のゲーム。

Daigo:
スマホ市場に合わせて「プレイヤーの満足感を上げつつ、お金も稼ぐ」ことを必死に追求した結果、物語が変化してきました。

ゲーキャス:
「お金を稼ぐ」ですか。

Daigo:
『くまレス』開発時はまさに崖っぷちで、オバマケア(低所得者層向けの米国の福祉)を受けつつゲームを作っていて、『くまレス』がヒットしなければ自由にゲームを作る夢を諦めて就職するしかない状態でした。

それまで作った『しあわせのあおいとり』や『償いの時計』などは、ヒントシステムを入れるなど、脱出ゲームっぽいマネタイズを中心に作っていましたが、プレイしてくれた人の評価も高かった反面、ダウンロード数に対する収益は低かったので、同じ作り方のままでは食っていけないことがわかっていました。
なにか別の方法を考える必要があった。
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▲しあわせのあおいとり。ドット絵は明るくかわいいのに、タイトル画面が示すとおりダークな側面があった。

ゲーキャス:
それまでも一定間隔で流れる広告、広告削除課金、ゲームのスタッフロールに載る権利を買えるスポンサー課金などがありましたが、それだけではダメだったのですね。
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▲スタッフロールに名前が載る権利を購入できた。

Daigo:
はい。
そこでどうやれば売上を増やせるのかを考えたときに、「課金収入」を伸ばすという点についてはDLCの追加(※エンディング後の追加ストーリー)という王道の方法ですんなり決まったのですが、「広告収入」を伸ばす方法を考えるのはかなり難しい問題でした。
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▲レストランのあとのストーリーは、追加DLCとして作られた。

遊びきりのゲームである以上、カジュアルゲームのように毎日起動させて広告を見せるわけにはいかない。それでもビジネスとして成り立たせるために、広告をたくさん見てもらわなければいけない。
当然、いわゆる強制広告を数多く表示するだけではプレイヤーはゲームを辞めるだけなのでそれはできない。要するに「プレイヤーが任意で広告を10〜20回は視聴し、物語体験を損なわない」仕組みを考える必要がありました。

ゲーキャス:
ストアでも「広告が多過ぎ★1」などのレビューがあるなか、広告を増やすのにプレイヤーの満足度も上げる、ということは無茶な要求では……?

Daigo:
そうですね、なかなかむずかしいよなあ、と自分も思っていました。
ガチャの導入など他のゲームで成功しているやり方を知り合いの開発者に勧められたりもしましたが、ガチャのようなマネタイズをいれると自分の作りたいゲームを作るのがむずかしく、物語体験のためのゲームという軸をぶらすとわざわざ独立した意味がなくなってしまうのでそこも譲れなかった。
悩んだ結果として考えたのが”記憶のかけら”というシステムです。

ゲーキャス:
”記憶のかけら”は、プレイヤーが欠片を眺めるとレストランにやってくる人物がなぜ死ぬ直前の物語がわかる仕組みですね。
眺めたときに広告が差し挟まれるが、見なくても物語自体は進められるので広告を見たくなければ見ない選択をして物語を進められる。
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▲記憶のかけら。手に入れてから「チェック」を選択すると、登場人物の死の様子が見られる。

Daigo:
任意とはいえ、やはりなるべくは視聴してもらいたいわけなので、プレイヤーの好奇心をくすぐる内容にする必要がありました。
「なぜ死んだのか」というのは、ショッキングな内容であり、怖いもの見たさで人の興味を引く力があると思い、本作のテーマにもぴったりだと感じたので、その方向でいくことになりましたね。

ゲーキャス:
収益化を考えた結果、本来は予定になかった物語要素が導入されたと。

Daigo:
実際、導入してみると、マネタイズの手段というよりは物語を補完する方法として優れているなと感じました。
本編に直接は関わらないですが、死を通じてお客さんの人生に触れる体験はある種の「見せ場」になったのではないでしょうか。

ゲーキャス:
それで腑に落ちました。
実は『くまレス』の物語には独特の濃密さがあって、他にあまり見ない特徴になっていると思っていたんです。
死を扱う前後編の短編のなかに、さらに小さな生死の物語が大量に入っていて、どこを切り取っても見せ場。
スマホという場に合わせてシステムを作った結果、見せ場しかない、目が離せない物語構造になっていたんですね。

Daigo:
無料スマホゲームの様々な制約が、本作を独特なものにしたと思います。
本ゲームをはじめから買い切りのアプリとして作っていたら、おそらく同じような物語構造にはなっていないのではないでしょうか?
多くの場合、ゲームのマネタイズを考えることは、クリエイティブではなく、本質ではないと考えられがちだと思うのですが、本作ではマネタイズで試行錯誤したことで結果的に密度の高いユニーク体験を生み出せたのではないかと思います。

ゲーキャス:
『くまレス』を遊んだとき「広告のストレスに対して、物語の魅力で戦っている」と思ったんですね。間違いなく、スマホで、広告がある前提だから生まれたテンポだと思います。
広告は見たくない、でも気になって見てしまう。

最終的に課金して広告を消したのですが、広告があっても濃い物語の広告を消すと、さらに濃密でまさに洪水と言った感じでした。
そうして、最後に「Daigoさんのゲームなのにポジティブエンドだ!?」と驚いたのですが……。

Daigo:
驚かれましたか(笑)
ポジティブな物語になったのは、必死に作った結果として「プレイヤーの心に寄り添いたいな」と思えるようになったからでしょうね。

ゲーキャス:
プレイヤーの心に寄り添う?

Daigo:
それまで私は、後味の悪い話を作ってきました。
たとえば、過去作の『償いの時計』なら人間のクズが不幸になる話なので、後味が悪くてもいい。
でも気がつけば『くまレス』はたくさんの小さな死を扱っているゲームになっていて、誰が遊んでも登場人物の1人ぐらいには心が重なる死があるんじゃないかと思ったんです。
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▲『償いの時計』。自分の思い通りにならない女性を殺してしまう男の話だった。

もしもこれを後味の悪い作品にすると、キャラクターが救われないだけではなく、プレイヤーが救われないんじゃないか、そういう気持ちになったんです。
だから、『くまレス』はダーク路線からポジティブな物語に浄化されました。
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▲くまレスには「俺が救わなきゃ」というメッセージが登場するが……作者の声でもあったのかもしれない。

ゲーキャス:
そうして、完成したものは100万DLを越えるヒットになったわけですが……出す前の気持ちはいかがでしたか?

Daigo:
くまのレストランのリリース直前はお金もなくて本当にギリギリだったのですが、くまのレストランがヒットになる予感はありました。
周囲のテスターの評価がすばらしかったのもありましたが、なによりも自分がゲームを遊ぶ時、話が全部わかっているのに、すこしうるっとなっちゃうんです。
そういうわけで、リリースの前は自信満々で、はやくこのゲームをあそんでもらってみんなにびっくりしてもらいたい、という気持ちでした。

ゲーキャス:
実際、リリース後はストアに「自分の人生と重ねて、泣けた」というようなレビューが届いていましたね。
そういえば、リリース時期に『くまレス』のレビューを書くと、作者が必ず返信してくれるから応援したい、みたいなツイートもありましたが、なぜ返信していたのでしょうか。

Daigo:
ゲームをリリースした後、届いたのはいままでとは全く違う質のレビューでした。
つらい思い出や現状を吐露するようなレビューも数多くあり、自分のゲームが人の人生に触れた気がして、それに感動してリリース後3週間は全てのレビューに返事を書いていました。
毎日3時間程度はレビューの返信につかっていましたが、ゲームがプレイヤーに寄り添った結果を台無しにしたくないという強い気持ちがあって、返信をコピペすることは絶対しませんでしたね。
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▲App Storeなどに行くと、今でも当時のやりとりが見て取れる。

ゲーキャス:
1日3時間返信!
反響はいかがでしたか。

Daigo:
実際のところ反響はよく分かりませんが、自分のメッセージに返信をくれる方はそれなりにいたと思います。売り上げに影響しない気はするし、自己満足かもしれないけども……。
ただ、自分なら開発者から返信もらえたらうれしいかな。本当は今でも返信したほうが良いと思いますが、どうしても時間が限られているので。でも、本当にファンのみなさんには感謝しています。実際、今回 NintendoSwitch 版を出すにあたってはファンの力が大きかったと思います。

ゲーキャス:
具体的に、どういったところにファンの力が反映されているのでしょうか。

Daigo:
まずは、スポンサーによる直接的な支援です。金銭的な面もそうなのですが、「応援してくれる人がこれだけいる」と思えたおかげで、「Nintendo Switch 版を出しても買ってくれる人がいるはずだ!」という自信につながったんです。

また、現在『くまレス』は14言語に対応していますが、多くの翻訳者の方はみんなファンの方でボランティアで翻訳してくれた方なんです。ファンだから翻訳のクオリティも高く、作品のことを真剣に考えてくれる。本当にありがたいです。おかげでスイッチ版は全世界リリースができました。

一部の親しいファンの方に、「追加要素としてほしいものはなにか」という探りを入れたのも今回新しい取り組みでした。
追加エピソードとしていろいろな案があったのですが、おかげでファンが一番望んでいるものをいれられたと思います。詳細を言うとワクワクが減るので、記事では伏せて戴きたいのですが……こういった内容です(内容を伝える)。

ゲーキャス:
なるほど、確かにそれは完全版にふさわしい、というかファンがもっとも望んでいそうな物語のマスターピースですね。
私も見たい……!

Daigo:
Nintendo Switch 版でもスポンサーの方々は……全員は入れられなかったので5月までのプラチナスポンサーまでですけど、スタッフロールに入れました。
エンディングまで行ったら、是非見て下さい。載せられなかった方もいるのは申し訳ないですが、みんな『くまレス』の一部だと思っています。

ゲーキャス:
その他の特徴などはありますか。

Daigo:
もちろん、それだけではなく、物語を盛り上げるために映像面も横画面に対応して情報量を増やしています。
おかげさまで、某社の方からも「もとがスマホゲームという感じが一切しない」と太鼓判を押してもらえました。普段スマホのゲームをまったく遊ばない方も、楽しんでいただけると思います。
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▲Nintendo Switch版の画像。

ゲーキャス:
スマホ版では見えないところが増えて、3倍ぐらい情報量がありますね。
枠を作ってはめ込むだけの移植もありますが、この移植は作業量が途方もない。
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▲スマホ版。情報量が違う!

Daigo:
Nintendo Switch 版は完全版と書いていますが、家庭用ゲームを出すという夢が叶ったので、本当に悔いのないように作り込みました。

私には、子供の頃にあそんだゲームで今も思い出に残っているゲームがたくさんあります。私もそんなゲームをずっと作りたかった。
『くまのレストラン』はその夢を叶えてくれた作品です。そんなだいじなゲームがついに家庭用ゲーム機の Nintendo Switch で登場します。
自分の思い出になったゲームたちのように、自分のゲームが誰かの思い出に残ってくれればとても嬉しいと思っています。

ゲーキャス:
スマホだからこその物語……広告と戦うように作られた濃密なテンポのシナリオが Nintendo Switch に解き放たれ、どんな評価を得るのかとても興味があります。

--------------
以上。

『くまのレストラン』のアプリストアの平均評価は日本で★4.8、世界平均★4.9と驚異的な高評価を得ており、物語内容が評価されている。
しかし、その裏にはスマホで広告を見せ、同時に広告で受けるストレスをはるかに超える仕組みと、物語を生むための努力があった。
そして、その努力が濃密なゲーム物語を生み、ファンに支持され、Nintendo Switch の『くまのレストラン』発売につながったという。
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最後になる『くまのレストラン』のリリース記念として、Odencatからご厚意で『くまのレストラン』のキーホルダー、ステッカー、Daigoさんからのメッセージカード、ニンテンドープリペイドカード1,500円(くまのレストランと同価格!)のセットを、本記事をRTした方抽選で1名様にプレゼントするキャンペーンを行う。

応募期限は、記事の公開日からNintendo Switch版発売日の6月21日(月)23:59まで。
応募方法は、記事末尾のツイートをRTし、ゲームキャスト公式アカウント(@gamecast_jp)と、Odencat公式アカウント(@daigo)をフォローすることで完了する。
抽選は6月22日(火)に行われ当日に Daigo さんから Twitter の DM で当選が発表され、Daigoさんから直接品物が発送される。
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▲キーホルダー。さらにメッセージカードなども

この記事を見て「くまレスが気になる」とか、「他の人にくまレスを勧めたい」と思えたら、ぜひ参加して『くまレス』の輪を広げて欲しい。


ストアリンク:
くまのレストラン ダウンロード版 | My Nintendo Store

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