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基本無料時代に、作家性と収益を両立する方法。『くまのレストラン』で実現したガチャのない優しい世界

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一般に、課金を気にせず思い通りにゲームを作るほど、収益化は遠ざかっていくといわれる。
広告を入れるほど世界観が壊れるが、収益化できる。
有料ゲームにすると、間口は狭くなってしまう。
そこに対して、果敢にアプローチするインディー開発者がいる。作家性の高い無料アドベンチャーゲーム群を出し続ける『くまのレストラン』作者Daigoさんだ。

2019年7月6日、銀座のユニティ・テクノロジーズ・ジャパンにて行われた“Unity Monetization コーヒーミートアップ”のセッションにて「作家性と、収益化を両立するためのマネタイズ」というテーマでその成果を発表してくれたので、記事として情報を共有したい。

セッションは、「くまのレストランはだめですね、クソゲーです」と、インパクトのある言葉から始まった。
『くまのレストラン』の1週間継続率は4.7%。
近代的な基本無料ゲームは長い時間遊ばせて課金収益を得る仕組みだから……継続率の出ないゲームなんてダメ。
もはや、この継続率では勝負にならない“くそげ”というわけだ。
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もちろん、これはセッションの“掴み”でしかない。
『くまのレストラン』は、遊びきりゲーム(終わりがあって、短く終われる)だから、継続率は低くなる。ダウンロードして1日目で多くのプレイヤーがゲームを終えるのだ。

人間の人生は短いから、暇つぶしゲームを100時間遊ばせるより、素晴らしいゲームを100本遊ぶほうが、人の人生は豊かになるのではないかと考え、
「1回遊んで思い出に残っておしまい」
ウェットな感情を重視して、それでいいと、こだわりをもって作りたいと考えた。

ただし、これが成り立つなら、今頃App Storeは遊びきりのゲームで成り立っているはずだが、現実はそうではない。
この状況を打破すべく、「作家性と収益を両立する」べく『くまのレストラン』は作られた。そして、その成功の秘訣がセッションで語られた。

ゲームを出すとき、その収益化モデルは大きく3つに分けられる。
広告・無料だとは、無料なので遊んでくれる人が多いが、単価が低く広告でゲームが阻害される。
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買い切りだと最高のプレイ体験を提供できるが、プレイ人口が減る。お試しできないし、広まりづらい(友達に有料ゲームを進めてもらいづらい)。
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DLC(基本無料)は、お試しできて、入り口が無料だから広告モデルと同じだけプレイヤーが獲得できる。しかし、無料部分を遊んだ後に有料部分が出ると不満を抱くプレイヤーがいること、課金設定の難易度が高いことが問題となる。
『くまのレストラン』では、この難易度の高いDLCモデルにチャレンジした。
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『くまのレストラン』の課金アイテムは下記の通り。
コンプリートパックはお得なので、大抵コンプリートで買ってもらえたとのこと。
またクリア後にゲームのスポンサー登録して、スタッフロールに表示される仕組みを導入したが、これも結構売り上げたとのこと。
ただし、スポンサーがただの募金では皆買ってくれないことが過去の作品でわかっていたため、スポンサーにはちょっとした追加コンテンツを入れたという。
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これに、さらに広告が加わる。
広告は世界観を壊す。それを最小限にとどめ、プレイヤーの納得を得るような出し方を心掛けたという。
そこでプレイヤーに対して最初に「広告を消す」という選択肢を表示することで、買い切りゲーム派のプレイヤーにも、広告で遊びたいプレイヤーも、納得して遊べるように気を付けたという。
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広告の挿入タイミングも、1日を終えて夢を見るときに(物語の区切りとして)入れることでゲームの世界観の破壊は最低限にした。
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また、広告を見ることで登場キャラクターの死因を見られるマイクロエピソードを提供し、プレイヤーの満足感を高めるようにも心掛けたそうだ。
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▲買い切りゲームにおける追加シナリオDLCを、広告で見られるような構造だ。

さらに、ゲームのつくりとしてDLCモデルはボリュームが必要になる。
無料部分に十分なボリュームがなければプレイヤーは不満を抱くからだ。
このあたり、多くのゲームを調べたが『レイジングループ』はうまくやっているな、と感じ、参考にしたそうだ。

こういった課金構造を考えるとき、インディーゲーム制作者はLTVを絶対に計算するべき、とDaigoさんは語る。
たとえば、こんな表だ。
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そして、この表を眺めて、改善するべき部分を考えるのが良いという。
Daigoさんは、『くまのレストラン』を1度完成させた後にマネタイズを表に描きだして改善点を探している。
この数字の中でいじりやすい部分を改善するのだ。
Daigoさんの場合、一番大きな問題だと思ったのが有料部分が5%のプレイヤーにしかしか遊んでもらえないだろう、ということだった。
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▲先に進むにつれてプレイヤーは離脱していき、収益にならなくなる。

たとえば、ゲーム時間を100時間にのばせば収益は上がるだろうが、そこを作る労力は現実的ではない。引き延ばすのは本意ではない。
そこで、本来は有料DLCである虚無編を、無料分のプレイヤーにも見せる仕組みを入れたという。
120回広告を見せると、無料で虚無編を遊べる。これによって、虚無編の部分で離脱するプレイヤーも収益化するという試みだ。
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結果として、収益は1DLあたり6円、割合としては20%アップしたという。
こういった表を作って、どの部分であればゲームのクオリティを下げずに収益をあげられる。収益計算することは「ゲームを金に換えるあくどい行為」に見えるが、こういった表を作ることで「ゲームのクオリティを下げずに収益を上げる方法を探せる」とDaigoさんは強調した。
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120回も広告を見るプレイヤーの割合は低いが、それでも収益は上がり、なおかつ嬉しい誤算として「無賃乗車の客がスポンサー登録してくれることもあった」という。
また、「どこから人がくるか」も重要で、例えばゲームキャストからダウンロードしたプレイヤーはゲーム購入率が非常に高く、平均的な客の3倍以上の収益があったという。

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で、最も重要な「これで食べられているんですか?」という会場の参加者の質問には「かなり食べられています」と笑顔で回答。
「作家性の高い遊びきりゲームを作りたいと考えていて、実現できていない開発者の皆さんの参考になれば嬉しいです」と、セッションを締めくくった。

いわゆる基本無料ゲームとマネタイズ、作家性は相反するといわれるが、こういった研究が進めば事情が変わってくるかもしれない。

アプリリンク:
くまのレストラン (itunes 無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)
ADV レイジングループ (itunes 体験無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)