「最近、えっちなイラストに隠れておじさんがボイスチェンジャーで声を入れているYoutuberにハマっているみたいだけど、大丈夫?」
と聞かれました。「ゲームキャストの中の人が狂った」とか思っている方も多いようなので、真面目にマグロナ先生のすばらしさを語る必要があると思って、記事を書きます。今回、特に個人のアプリ開発者の方には読んでいただきたい。
私が Vtuber を推すのは、Vtuber が作家やゲーム開発者にとって重要な表現の一部になる可能性を感じているからです。
2008年に iPhone が出て、App Store に個人が企業と同じようにゲームが出せるようになったとき待っていたのは「個人の力でゲームを宣伝する」地獄でした。企業と同じ土俵に上がるためには、個人のゲームも同じように宣伝しなければ戦えないのです。
ゲームは作って終わりではなくて、知ってもらって初めて遊んでもらうことができるからです。
▲『Minecraft』も、『レイトン教授』も、『Muse Dash』も、みんな同じストアに平等に並びます。
例えば、2017年末には『どうぶつタワーバトル』が流行りましたが、このゲームは2017年4月に出ていたのに知名度がとても低いままでした。しかし、任天堂が『どうぶつのもり ポケットキャンプ』を出したときに偶然に「どうぶつ」のワードで検索に表示され、一気に知名度を得て人気に火が付きました。
『どうぶつタワーバトル』が面白かったから広まった側面はありますが、偶然がなければその面白さは永遠に埋もれていた可能性が高いはずです。
▲どうぶつタワーバトル。
そんな理屈で開発者がゲームを宣伝する重要性が認識されていく中で、一部の個人開発者は自らの生き方をネタにし始めました。Twitterでいい感じのイラストを描いて放流したり、ゲーム論を語ったり、開発中のゲームの様子を小出しにしてファンを作ったり、ファンに楽しんでもらう。
そして、ゲームが出たときには遊んでもらう。ゲームではなく、ゲーム開発者の生き方も楽しんでもらう広報の流れです。
▲こんな感じ。ゲーム世界のマスコットTwitterも同列。
これはライターも同じで、記事を書いて「良いもの書いた」だけでは好きなゲームを広めるには足りない。だから Twitter を頑張ったりゲームと異なるものを扱って、今まで情報が届かなかった層まで情報を届けたいというのが最近のゲームキャストの考えです。まあ、任天堂の「ゲーム人口を拡大する」という理念リスペクトなんですが。
おかげさまで、半年前は0RTのゲームも多かったのに、最近はゲームの種類を問わず読者の皆さんがTweetを積極的に拾ってくれるようになって感謝してます(可愛いだけのゲームが10RTを超えるなんて以前は本当にありえなかった)。
オーストラリアの大地をウォンバットになって生きるゲームが、帰ってこられなくなりそうなほど可愛い。
— ゲームキャスト@メギド推したい (@gamecast_blog) 2018年6月21日
何この生き物。可愛い。https://t.co/7MxNmisDzS pic.twitter.com/UEEbOQENyW
ただ、ここまでは誰でもやっていることなので、その先も当然探していました。そこで目にしたのが狐耳の女子3Dモデルをオッサンが動かして、オッサンが声を当てて番組を流す Vtuber、ねこますさんです。
ねこますさんの動画が、すごく楽しかったんですよ。
技術系の話、細かい日常の話など、男文化に属する話題が楽しく聞ける。だんだんと声はオッサンなのも気にならなくなってきて、自分の中でねこますさんは「かわいい」存在になってきました。
ねこますさんはVRを広めたい理想を持っていて、その未来について必死に語る姿は「応援したくなるかわいさ」だったんですね。精神性として。
将来的にVtuberになるコストが低くなるだろうと予想したら、ゲーム開発者が、ゲームの世界で語ったりするのはありなのではないか。
動画はやりたい。でも、自分の姿をカメラで撮って出したくはない。すると、Vtuber は将来的に誰もが気軽に手を出せるPR方法になるのかなと感じたしそれを開拓してみたくなって男性系 Vtuber を漁ってました。
そして、そこに出てきた模範解答がマグロナ先生です。
マグロナ先生とは……。
おじさんが自分で絵を書いて自分で動かしたLive2Dの体に受肉して、更にに自分で声帯を弄って自分で声を当てた地獄のようなコンテンツです。(公式説明より)です。
オッサンが描いた女性アバターに、オッサンが声を当てている Vtuber。何がすごいって、ボイスチェンジャーを通した声が完全に女性だったってこと。
最初の10分は完全に女性 Vtuber だと思っていたのですが、「中の人はおっさんやぞー」とか言い始めてボイスチェンジャーを使ったオッサンだと知り、「あ、俺が女性だと思えば、Vtuber の中身に関係なく女性と思えるんだな……」とダメな悟りを得ました。
いやだって、本当に女子の声なんですよ。咳なんて不適切なほどなまめかしい。
マグロナ先生がUPした7秒の咳込みボイスのツイートはマグロナ先生本人が「不適切な内容が含まれている可能性がある」設定でツイートされていましたが「実際に不適切だな」と思いました。
おっさんの声がなまめかしくて、フィルタリングされることが正しいと思ってしまう……そんな未来が2018年だ!
(※当初AIでTwitterにフィルタされたと書いておりましたが、Twitterの設定によるものでしたので訂正いたします)
▲「不適切な内容が含まれている可能性があります」に声を出して笑ってしまった
しかも、トークがまた面白い。昔ゲーム開発をしていた経験から『Zバッファ』などゲーム技術を図解で説明してくれたり、ファミコンゲームを解析して移植したときの話をしてくれたり。マグロナ先生視点で「ゲーム機からソシャゲに移る時のゲーム会社の内部」の話をしてくれたり。“滑らないゲーム業界の話”が超面白い。
▲お絵かき能力を活かし、オブジェクト描画とカメラ位置と、Zバッファの説明をする魔王様2時間12分頃から
もう1つ、漫画家のukyo_rstさんがやっている Vtuber というのが私の中でポイントでした。近年、漫画も紙の本の売り上げが減り、編集部が持つ広告効果が薄くなり、作家自らが売り込む必要が出てきたという流れがあります。つまり、ゲームアプリの個人開発者が2008年に直面した状況が10年遅れでやってきている。
ゲーム開発者は App Store の登場で自らをネタにして広報をする必要が出てきたのですが、広報の形は「プレスリリースして、Twitterして」と、10年ぐらいずっと同じ方法論で足踏みしています。同じ課題に対して、漫画家さんのネットワークとアイデアがマンネリを打破するのではないか、と考えて「面白いし、もっと知られて欲しい」思いました。
そうして書いたのが女子の声を手に入れたゲーム開発者(おっさん)によるバーチャルYoutuberという記事。
「オッサンが美少女やっている動画にハマっている」と知人に語ったらドン引きされたので、このときは自分がマイノリティだと思って記事を書いたのですが……世間は予想より進んでいて、マグロナ先生は記事を書くまでもなかったほど凄まじい勢いで人気になりましたね。
それどころか、
・20年来の友人に迫られる
・「お前の声がが良くなるなら」と友人が機材を貢ぎ、代償にエロセリフを朗読させられる
・LINEで昔の上司から食事の誘いがくる
などなど、中の人に対する現実の人間の行動の方が常軌を逸していたという……。
あと、中身がオッサンとわかっていた方が話しかけやすい事実にも気づいて、「あ、俺は中身がおっさんじゃないと素直に可愛いとも言えないんだな」というコミュ障っぷりにビビったんですが。
で、この時点でマグロナ先生は面白かったのですが、最近はマグロナ先生が自分にとってゲームを広める「模範解答」だと思える事件があり、さらに追っかけが加速しています。
あるとき、「ずっと言いたかったことがあるんだけどさぁ炎上覚悟で言っていい?」と、唐突に『サンダーフォースV』というゲーム関連の炎上事件と、そのゲームがどれだけ好きだったか語り始めたんですね。これがすごくて、「よくわからないけど、この人はこのゲームがすごい好きなんだな」と力強く伝わってくる。
「トークの熱量だけでゲームの中身がわからなくても放送が聴けてしまうなぁ」と感心していたのですが、その熱量は予想を超えていた。なんと、噂を聞きつけた『サンダーフォースV』作曲の九十九百太郎さんが放送の最後にやってくる奇跡を起こしてしまうのです。
▲最後にやってくる。
さらに、続く『サンダーフォースV』配信では本来は1人で配信するだけだった予定が、九十九百太郎さんが『サンダーフォースV』のプレイに乗せる形で知られざるゲームの裏設定や楽曲の解説をコメントで行う豪華配信に。
▲ゲーム設定をゲーム進行に合わせて語る九十九百太郎さん
この放送では、途中から『サンダーフォースIV』の開発者もやってきて、『サンダーフォース』同窓会が始まります。
最後には九十九百太郎さんの未発表初音ミク楽曲が公開され、非公式放送なのに下手な公式ゲーム配信を凌駕する内容に。
文字でゲーム紹介していると「ここは書かないと突っ込まれるな」とか「これは無視しとこう」とかネットで突っ込まれない“文章の防御力”みたいなものを考えて記事のパワーが落ちてくるものなんですが、それがない。
放送はだらだらトークが6割ぐらいなのですが、端々で好きなものを好きだから紹介し続ける力に満ちていて、本当に羨ましい。妬ましい。
模範にしたいと思ってマグロナ先生の配信を常々見ています。
この熱量は、ゲーム開発者で動画を使って宣伝したいと思っている方も、ゲームを広めることをしたいと思っているライター方も見てみる価値があると思います(最近エロ要素も強くなってるのでそこはお覚悟を)。
なお、この奇跡は現在進行形で、最後には6月22日の夜に九十九百太郎さんを迎えての配信が決定しています。『サンダーフォースV』ファンの方はお見逃しなきよう。あと、コメント欄ではっちゃけている私を見たら、そっとしておいてください……。
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