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産経の新規インディーゲームパブリッシャー『HYPER REAL』はなぜ立ち上がったのか。 巨女に飼われて暮らすADV『SAEKO』、流麗なアクション『34EVERLAST』などのラインナップ意図を聞く

新聞社でも知られる産経グループが、ゲームメディアIGN JAPANを運営しているのは一部で知られているが、パブリッシャーを立ち上げたという話は知っているだろうか。
2023年7月3日に発表された新鋭のパブリッシャー『HYPER REAL』がそれだ。
電ファミニコゲーマーの『Project:Cold』、GameSparkの『Wizardry外伝 五つの試練』など、近年はゲームメディアがゲーム事業に手を出すことも増えているが、『HYPER REAL』は何を目指すパブリッシャーなのだろうか。
東京ゲームショウ2023で、代表の今井晋さん、櫛引茉莉子さんにお二人に話を伺った。
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▲左から今井さん、櫛引さん



ゲームキャスト:
まずは二人の経歴をお聞かせ願えますか。

今井晋(以下、今井):
インディーの業界では10年以上ライターとして仕事をしてきて、IGN JAPANの編集をしていたのが期間としては長いです。
デジカ(Steam向けのパブリッシャーをしていた会社)時代にパブリッシャーとして仕事をしてきたり、全体を通してインディーの仕事を経験してきました。

櫛引真理(以下、櫛引):
同じく、デジカでパブリッシングマネージャーをしていまして、その後ポーランドにわたってCD PROJEKT REDという会社PRやコミュニティマネージャーとして過ごした後、フリーランスでインディーゲームの仕事をしていました。
また、2人ともiGi(日本在住のインディークリエイターのための無償インキュベーションプログラム)でメンターを3年ぐらいやっています。

ゲームキャスト:
黎明期から日本のインディーゲームに携わっていた二人が中心になって立ち上がっているんですね。
ちなみに、今井さんはもう同じ産経グループのIGN JAPANと関わりはないのでしょうか。

今井:基本的にはHYPER REALだけです。

今後文章を書いたり番組の手伝いをすることはあるかもしれませんが、編集部にコミットすることはないと思う。
書くとしたら、フリーライターとして寄稿することはあるかもしれません。

ゲームキャスト:
本格的に仕事を変えたのですね。本気が伝わってきます。
HYPER REALを立ち上げたきっかけから教えていただけるでしょうか。

今井:
もともと、二人でなにかやりたいと話していたんです。
今井がジャーナリストで、櫛引がパブリッシャーで働いてきて、2015年ぐらいに同じパブリッシャーでデジカで働いていました。
その後も付き合いがあり、ゲームや映画などの話をしていく中で、昨年末ぐらいから一緒にインディーゲームの仕事をしたいという話をしていた。
そうなったとき、「自分たちが出したいインディーゲームを手伝って出していきたい」という話になりました。

日本のインディーゲームがいっぱい(目に見えるところに)出てきたけど、もっと多様な表現ができるゲームっていっぱいあるかなと。
グラフィックと言うとアニメやドットが主流だけど、日本の3Dや変わったイラストのものが出てきて欲しいと思った。

櫛引:
目指しているテーマ性もあります。
例えば社会問題をとらえたインディーゲームが海外に多いですが、日本でそういったものを扱ったゲームを取り上げ、日本のインディーゲームの多様性を広くしていくことができると思っています。
マイノリティに光を当てたものとか。

ゲームキャスト:
失礼な言い方かもしれませんが、マイノリティというと日本では同性愛的なものを取り上げたゲームがかなりあり、ジャンルの偏りはあるかもしれませんが、少ないという印象は私にはありません。
社会、文化というと具体的にどういったものを求めているのでしょうか。

今井:
日本ならブラック労働、歴史のものだと第二次世界大戦は扱いづらいけど、日本から扱ってもいいのではないか。
戦争の中の市民を扱ったゲームとか、日本にアニメの『火垂るの墓』はあるけど、ゲームはない。
海外は『This War of Mine』とかあるけど。
他にも震災とか、不幸な出来事があるけど、上手く表現できるものががあれば出していきたい。

ゲームキャスト:
確かに二次大戦物は少ない印象はあります。
震災ゲームというとGoogle Indie Festで『サバイバーズ・ギルト』 が表彰されていたり、有名なところでは『絶体絶命都市』などありましたが、地震国の日本ではもっと出てもいい、ということですね。

今井:
ゲームを通して文化を知るということはインディーゲームだと多かったけど、日本でももっと出てくるべきものだと思っています。
ただ、単にシリアスを求めているわけではなくて、エンタメとして成り立っていて欲しいとも思っていますが。

ゲームキャスト:
日本的な文化面、それでいてゲームとしてエンタメであることを同時に重視されていると。
現在ラインナップされている4作品は、そういった理念に基づいて選ばれていると思いますが、具体的にどこを見込んでいるのか、教えていただけるでしょうか。


『34EVERLAST』


▲絡み合い、滅びゆく世界の謎を発見と行動で紐解いていくアクションアドベンチャーゲーム。

今井:
端的に映像クオリティが高い。日本のインディーの中では飛びぬけて高品質なものに挑戦する野心を買っています。
あとは、音楽が激しかったり、エクストリームなところを評価している。

櫛引:
もともとiGiの参加者の作品だったんですけど、制作者さんのバックグラウンドが鉄工所を営んでいるというところで非常にユニークな作品です。
ゲームと違うバックグラウンドの人が、ゲームに飛び込んでチャレンジする姿に共感しています。
ゲーム以外のフィールドからゲームに入る人を支援することは、多様性の実現にも繋がると考えています。

『青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署』image3

▲都市伝説である怪異を解剖、事件解決のヒントを摘出、事件の真実を暴き、怪異の魂を鎮めるアドベンチャー

今井:
アートワークが斬新だったのがひとつ。
ゲームはホラーノベルで1999年の日本を舞台にして、現代社会の闇に触れるところも関心が強い箇所です。

櫛引:
制作しているフロシキラボのチームは、田平さんが中心になってプログラマーやアートなどいろいろな人が集まっていて、プロジェクトとしての多様性があるところを評価しています。

今井:
田平さんが民俗学など社会的なところに興味が深いのもHYPER REALとして合っていると考えています。

『Dome-King Cabbage』



今井:
アメリカ人が作ったタイトルで、BitSummit 2018でIGN JAPANの賞をとったゲームで縁が深いゲームですね。アートワークは世界でも類を見ない。
また、日本のゲームの影響を受けて『ポケモン』などをメタ的にとらえており、日本人のノスタルジックなところを多く見いだせる。海外から見た日本文化という側面もある。

櫛引:
作者のジョーさんが『ポケモン』みたいなRPGを再解釈したいという目標を掲げていて、HYPER REALの「ジャンルを再定義する」目標と重なりました。

『SAEKO: Giantess Dating Sim』


▲巨大な女の子に飼われ、気まぐれさに怯えながら彼女の机の中で飼われるというフェティッシュなアドベンチャー

今井:
フェティッシュな要素でバズったけど、開発者の人に聞くと海外のビジュアルノベルに影響を受けたとおっしゃっていて、感性は近いところにあると考えて話が進みました。
もちろん、巨大な女の子に飼われることに関心がある人におすすめなんですけど。あまり語れませんが、ただフェティッシュな話で終わらない。

ゲームキャスト:
原作が2000年ごろのインターネット小説で、ネットエロ文化を引き継いでいるゲームでもありますよね。
ドット絵もDLSITEで見られそうなテイストで。

今井:
ちょうど日本の90年代後半インターネットのもの、Y2Kと呼ばれる2000年代の美学とかは海外では興味を持たれるところで。
再解釈した90年代、2000年代というところがあのゲームの面白さなんだと思います。

ゲームキャスト:
なるほど、HYPER REALがゲームをどのような目で見るか、わかってきた気がします。
さて、次は開発者にとってのHYPER REALについて聞かせていただけませんか。
率直に言って、IGN JAPANもHYPER REALも産経傘下ですが、それがもたらす利点はありますか。

今井:
その意味では、資金的なバックボーンがあって、開発資金を出すようなこともできなくはない。
急になくなるリスクもあまりないと思います。組織的なバックボーンがある程度ある。

ゲームキャスト:
それは強い。

今井:
ゲームのプロモーションについては慣れていることは売りだと思います。
HYPER REALでTGSに出展しているけども、それ以外にも産経デジタルとしては東京ゲームショウに4個ぐらいの出展の手伝いをしています。
バジェットがあるならば、大規模なブースを作ったり、交通広告出したり、商業施設でイベントを出したりする経験もありで、イベントなどに関しては強い

メーカーとのコネクションがあって支援をいただくこともできる。
パートナーも多くいて、機材的な支援とかも検討していただける。

ゲームキャスト:
開発のサポートはしていただけるのでしょうか。

櫛引:
ローカライズや外部の会社に依頼したデバッグなどの基礎的なところは備えていますが、サポートの仕方の多様性もあります。
ストーリーが必要ならストーリー、アートが必要ならアーティスト、人材面も紹介して支援していきます。

また、『34EVERLAST』はPLAYISMがパブリッシャーで、うちはプロデューサーです。開発者さんと一緒になってゲームを作っていって、ディレクションとか、そういったこともやる意気込みです。
完全放置で「完成させてください」みたいなのは、開発者が希望しない限りあまりない。image2

▲『34EVERLAST』はPLAYISMのサイトに並んでいる。

ゲームキャスト:
ものをいうパブリッシャーとしての側面。なるほど。
最後になりますが日本のパブリッシャーは海外に弱いイメージがありますが、その当たりはいかがでしょうか。

櫛引:
もともと私が海外の会社ではたらいていたこともあり、海外のアクセスやコミュニケーションは強みですね。今後も海外に向けて積極的に発信していきたいと思っています。

ゲームキャスト:
CD PROJEKT REDの経験から出る言葉は強いですね。
ありがとうございます。
最悪のところで「なんだか産経がインディがはやっていると聞いて新規事業に手を出した」ぐらいに考えていましたが、予想以上にとがりがあるレーベルとしてやっていくのだということを聞けたように思います。

櫛引:
レーベルの傾向として、個性がとがったゲームをうちは扱っています。
また、ブランディングを重視しているのでタイトルラインナップに統一感を求めるようにしています。
そういうところにJOINすることで、一員となって光ることができると思ったら連絡してください。

今井:
タイトルも求めていますし、仕事を一緒にしている人も求めています。
はじまったばかりで小規模なチームなので、頑張っているけどもっと人は必要だなと思っています。
仲間になってインディーゲームを盛り上げたいという方も待っています。

以上。

HYPER REALのゲームは、東京ゲームショウ2023の9~11ホール/インディーゲームコーナー/ブース番号 09-E68で体験できる。
上記の内容が気になったら、是非見に行ってみるといいだろう。

関連リンク:
HYPER REAL (ハイパーリアル) | ゲームレーベル