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AIイラストに人が手を加えてもNG。SteamからAI生成アセット使用でゲーム審査を拒否されたインディー開発者が、他の開発者に向けて明かす体験談

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ある日、Steamを拠点とするあるゲーム開発チームに1通のメールがValveから届いた。

あなたのゲームには第三者が所有する著作権で保護された素材に依存している可能性のある、人工知能によって生成されたアートおよび/またはテキストアセットが含まれているようです。(中略)これらのAIが生成したアセットを含むゲームを出荷することはできません。

AI生成の画像かテキストを使っているため、この開発者のゲームはリリースできない、ということだった。
6月上旬から、Steamを運営するValve社は、権利関連の危うさからAI生成画像やテキストを含むゲームをストアから排除しようとしていることが各所で報じられている。
つまり、「お前のゲームはSteamのルールに違反したから削除するよ」ということなのだが、話は簡単に終わらなかった。
なんと、この開発チームはAI生成アセットを利用した記憶がなかったのである。

Valveは、どの部分がAI生成と判定されたか教えてくれない。
これを教えてしまうと対策を取られるので、指摘しないのはまっとうなのだが、AIを利用した覚えがない開発チームリーダーは困惑するしかなかった。
2023-07-05_19h23_14
▲こちらはゲーム名を伏せたほぼ全文。違反部分の情報がない!

開発チームに聞いても誰もAIを利用した記憶がない。
画像アセットもAI生成ではないものを選んでいるつもりだし、テキストも同様だ。
翻訳についても機械翻訳(AI翻訳テキスト)ではないことを確認した。

結局、どうしてもわからないのでAI生成物を判定するサービスを利用し、イラスト、テキストなどをチェックすることにした。
結果、利用したイラストアセットの一部がAIである確率が高いと判定され、それをもとにアセット制作者に問い合わせることで「これはAI生成に手を加えたものである」と回答を得られた。

通常、AIを利用して作られるアセットは価格が安く、量が多い。
ところがサービスを利用して特定されたAI生成アセットは、アートに参加しているメンバーもAI生成であるとは思っておらず、価格も適正の範囲で、AIであると判定されてようやく「そうなのか?」とメンバーが思うものだったという。

その後、アセットストアで購入した全イラストについて問い合わせることでようやく開発を前に進められたが、かなりの時間とアーティストの精神的な疲労があり、消耗が激しかったという。
このことを教えてくれた開発者は、以下のようにアドバイスしている。

「異常に安くて量が多いアセットだけでなく、価格が高いもの、人が手を加えて見た感じでAIと分からないものでも安全ではないので、疑いを感じたら1度は問い合わせたほうが良いと思います。
また、これとは関係ありませんが、今回は開発から外れたメンバーがいれたアセットの出どころが分からなくなってしまっていることもありました。
私たちほど不注意なチームは少ないと思いますが、利用するアセットは最初から出どころを管理しておくようにてください」

と、他の開発者にアドバイスしている。

Valveがどのような手法を用いてAIを検知しているかは不明だが、ゲームキャストが独自に別の開発者からも話を聞いたところ、AIが生成したイラストをベースにフォトバッシュ(上書き的な手法)して作ったイラスト(主に背景のようだ)も多く警告を受けていることがわかっている。
先の開発者の例からしても、Steamをターゲットにしたゲーム開発ではAI生成物をベースにした時点でリスクは高いと考えてよさそうだ。
もし、いまAI素材を検討している開発者の方がいれば、この情報は頭の隅に入れておいていただきたい。

この処置について恒久的なものではなく、法整備などがなされれば変わっていくだろうとValveは示唆しているが、しばらくの間はAI生成素材を利用したゲームは厳しくなりそうだ。

最後になるが、これを教えてくれた開発者は

「Valveがきちんと著作権を考えてるということに感銘を受けたし、この際すべて自分で描くチャンスだと思ってやり直す」

と語っていた。
AI生成物のイメージが良くないため記事で名前を出したくないそうだが、Steamでゲームを探していたら、いつかこの前向きな開発者のゲームを見ることもあるかもしれない。

2023.07.08 17:51 修正
開発者が伝えたいメッセージが伝わらないことがあったため、以下を加え、分の前後を整えました。
「通常、AIを利用して作られるアセットは価格が安く、量が多い。
ところがサービスを利用して特定されたAI生成アセットは、アートに参加しているメンバーもAI生成であるとは思っておらず、価格も適正の範囲で、AIであると判定されてようやく「そうなのか?」とメンバーが思うものだったという。」