つぎつぎと不幸な死に見舞われ、一族がほぼ死に絶えたフィンチ家。
彼らは死者が出るたびに屋敷に手を加え、歪に増築された屋敷は“フィンチ家の奇妙な屋敷”として有名になった。
そして今、その屋敷に足を踏み入れる者がひとり。
フィンチ家の最後の生き残りとして屋敷を相続したエディス・フィンチ、つまりはあなただ。
あなたは、このWhat Remains of Edith Finch(フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと)』を通じて奇妙な屋敷を散策し、そこに残る記録から一族の死の謎に触れることとなる。
『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』や『Horizon Zero Dawn』など、強烈なライバルがいる2017年~2018年に、さまざまな賞を受賞した(英国アカデミー賞などではベストゲーム賞すら獲得している!)本作が、ついに iOS に登場した。
しかも、充分に楽しめる品質で。
お気に入りのゲームなので、この機会にしっかり紹介していきたい。
本作は、屋敷を相続したエディス・フィンチの視点で屋敷を散策し、一族の死にまつわる記録を探し、手元のノートに死因を記して家系図を完成させていく主観視点の探索ゲームだ。
基本操作はバーチャルスティックによる移動と調べるボタンのみで、脱出ゲームのように「パスワードを推測せよ」というような謎解きはないし、隠されたアイテムを探す必要もない。
本作は散策して物語を見ることに主眼を置いていおり、ただそこに奇妙な屋敷があり、かつて屋敷で暮らしていたエディス・フィンチの独白を聞きながら、フィンチ家に思いをはせる物語ゲームなのだ。
▲独白は英語ボイスと、屋敷に浮かぶ字幕(日本語対応)で示される。字幕の表示が次に進むべき方向を示しており、奇妙な屋敷で迷うことはまずない。
ただ、それでも本作は充分すぎるほど興味深く、面白い。
まず、プレイヤーを圧倒するグラフィック。
フィンチ家の屋敷も、庭も、リアリティある印象的なグラフィックで描かれており、歩き回ってみることがエンタメとなっている。
すでに本作を知っている方は、「スマートフォンやタブレットでこのゲームが楽しめるのか?」と疑問に思う方もいるだろう。
本作の物語は、グラフィックのリアリティに依存する部分もあるので、そのあたりはかなり配慮されている。
本作は利用している端末に応じたアセットを用意し、最低動作環境ですら物語の魅力を引き出すグラフィックを実現しているのだ。
こちらが、PC版(Steamのストア画像)の映像で……。
こちらが iOS 版、最低動作環境である iPad Pro 第2世代の映像。
自然物の揺れが控えめなどの差異はあるが、オブジェクト量などは Nintendo Switch 版と同程度で、物語の説得力は失われていない。
そんな美しいグラフィックで表現される屋敷には、高く積み上げられた缶詰、ホラーコミック、かつて住人が愛用したもの……”奇妙な何か”があり、それらが登場するたびエディス・フィンチの独白によって由来が語られ、物語として積み上がっていく。
ディズニーランドなどのテーマパークにある、景色を見ながら解説を聞くアトラクション……例えば、『ホーンテッドマンション』を思い出してみて欲しい。
本作は、そういったアトラクションのように、曰く付きの屋敷を語り部とともに巡る興味深いツアーなのだ。
さらに、そのツアーは亡くなった人々の私室に入ることでより興味深く変化する。
屋敷では亡くなった者たちの部屋が当時のままに保存されており、そこに残された記録を読むことで、その部屋の主が死んだときの状況を、その人物の視点で追体験できるのだ。
死の様子はミニゲーム風にそれぞれ異なる固有の表現で描かれ、誰もいない屋敷を静かに探索する屋敷パートと印象はガラリと変わる。
たとえば、ときにはファンタジーRPGのような表現がある。
かと思えば、コミックのように表現でされることもある。
単に面白く体験できるだけでなく、静かな探索とミニゲームが繰り返されるおかげでプレイにリズムが生まれ、飽きさせない。
もちろん、死の物語自体もプレイヤーを引き込む仕掛けとなっている。
すべての死の物語は、現実に人が亡くなったのか、呪いによって死を迎えたのか、判別が難しい微妙なラインを貫き、結末はプレイヤーの想像にゆだねる表現がなされている。
短い時間の間でつぎつぎと、ひとつの死が一片の短編ミステリを語るように綴られ、それが積み重なっていく。
すべてを見たとき、大きなフィンチ家の謎が見えてくる、そういったことを期待して1周目(2~3時間で終わる)は一気にプレイし……その真実が判明することはなかった。
いや、この部分はプレイヤーによって感想が異なるだろう。
ただ、私を待っていたのは、狐に化かされたような、壮大な脱力感だった。
夢中でプレイして集めたフィンチ家の情報は、すべてが集まっても死の描写と同じように曖昧で、結論はプレイヤーの想像にゆだねられていて、私には解釈が定められなかったのである。
単に不幸な現実が襲ってきたようにも読めるし、呪われた一族がいたと思えば、そのようにも読める。
それが貫かれていた。
「いまでも、あれは夢だったのかもしれない、と思う。だが、フィンチ家の一族は確かに存在したはずなのだ」などと、モノローグを入れたくなる。
そんな後味だった。
そして、そのまま私は周回作業に入った。
2周目はリアル路線で、3周目はファンタジー路線で、というように解釈の方向性を決めてプレイすると、物語の空白部分の捉え方が変化し、ようやくフィンチ家のことが理解できた(気持ちになった)。
屋敷の情報と、死に際の映像と、主人公エディス・フィンチの記憶からもたらせる独白と、すべての情報を見て、比べて組み立て、奇妙な物語の真実をプレイヤーが決める。
ゲームからもたらされるあらゆる視覚・音・文字情報を拾って、プレイヤーが考えて結末を決める物語が、『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』だったのだ。
もちろん、プレイヤーが解釈を定めるゲームというのは他にもある。だが、本作はその傾向が特に強い1作と言えるだろう。
死を描くものの、抽象的に描かれるためホラーや残虐なゲームが苦手な方も物語として楽しめると思うので、ぜひこの「遊ぶ人間によって解釈が変わる物語」を体験してみて欲しい。
プレイ動画:
概要:
つぎつぎ不幸な死を遂げた一族の屋敷を散策し、その死の様子を追体験して物語を推測する。美しい映像と物語を見るエンタメ。
評価:8(かなり面白い)
おすすめポイント
スマホでも充分に美しいグラフィック
現実とも、ファンタジーともつかない物語
一族の物語を連続で体験するテンポ感
気になるポイント
PCやPS4、Xbox版の方がより良い映像で体験できる
物語を見るゲームであり、謎解きや駆け引きを求めるプレイヤーには向かない
アプリリンク:
What Remains of Edith Finch (App Store 610円 / Steam 1,980円)
開発: Giant Sparrow(米国)
販売:Annapurna Interactive(米国)
HP:https://edithfinch.com/
レビュー時バージョン:1.0
課金:なし
ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中。