『Infinity Blade』、これはもはや伝説のスマホゲームといっていい。
iOS11で遊べなくなるゲームを紹介する32bit遺産第5回は、2010年に出るや空前のヒットを記録したこのゲームを紹介する。
ヒットしたものに対して後から「こうだからヒットした!」なんていくらでも言えるのだが、今回はあえてそう言った思い出話という形で語りたい。
また、今だからネタバレ上等でストーリーも語っていきたい。ストーリーを知ってから遊ぶと、このゲームはより楽しくなるので記事を見たらまた遊んでみてほしい。
……と思ったら、64bit対応したので『Infinity Blade』はずっと遊べるゲームになった、万歳!(記事を書いた時点では64bitアップデートされていなかった)
2010年に『Infinity Blade』が出たころの興奮は、今でもまだ覚えている。
当時はまだスマホは性能・普及台数ともに発展途上で、「スマホは未来の機械であり、これからすごくなる」という期待感があった。
そんなところに2010年9月、Appleが自社の発表会で爆弾を投下した。
大作ゲームに使われる高級なイメージのゲーム製作ツール『Unreal Engine 3』がスマホに対応し、Appleと協力関係を築いて『Project Sword』なるゲームを開発しているという。
▲Epic Gamesの公式動画より
ゲーム機のツールで作った本格ゲームが、iPhoneにやってくる!
これは、いろいろな意味で未来につながるキーワードだった。
当時、スマホに関してはいろいろな言説があった。
ゲームキャストが強く推していた「スマホの表現力が豊かになり、ゲーム機はいらなくなるのではないか」という話題が真実味を帯びて2ちゃんねるやゲーマーの間で語られた(ご存知の通り、実際はそうならなかった)。
意識高い開発者の方々はUnityとUnreal Engineのゲーム製作ツール覇権争いという技術的な話題で語り、マーケターたちは3Dリッチゲームの可能性を語り始めた。
▲このグラフィックを見せられては、そうなるのもやむなし。
「Retinaディスプレイ(iPhone4の画面は当時画期的に美しく、それがステータスだった)でこれを遊びたい!」
「何だか知らないけど、すごそう」
iPhoneを漠然と買って、その性能を活かすアプリを探していた層にも届いた。
「スマホも3Dリッチゲームが来るかもしれない」
当時はAppBankオフというのがあって、ゲーム開発者、ときには偉い人も来ていた。なんだか偉い人も飲み会で語っていた。
そうしてiPhoneの発表の一部としてビジネスや技術系サイトが取り上げ、ゲームと関係ないスマホサイト、スマホと関係ないゲームサイト、当時隆盛していたブロガーサイト、果ては新聞系のWEB面にまで取り上げられ、『Project Sword』は異常な期待値でリリースを迎えることとなった。
(当時のことはスマホで美しい世界を自由に旅したい! 32bit遺産第3回でもちょっぴり触れている)
そしてリリースされた『Infinity Blade』は、圧政を敷く不死の王“ゴッドキング”を倒すために、人間たちが何代にもわたって勝負を挑み続けるというファンタジーアクションゲームだった。
ゴッドキングは圧倒的な力を持つが、主人公の一族にはそれに対抗する不思議な力がある。倒されても息子に戦いの記憶と装備を引き継ぎ、世代を重ねるごとに強くなれたのだ。
構造で言うなら、勝てるまで無限にレベルアップして同じ城に挑み続けるRPGにアーケードライクなアクションを重ねたゲームである。
システム面はシンプルで、フィールドを移動し、敵と出会ったら1対1で戦うバトルアクションを採用。
フィールドは自由に移動できず、決められた少ないコースを移動できるだけ。この点で一部に不評はあったが、どの角度から見ても絶景で、「iPhoneのすごさを試したい」層の期待に応えた。
▲フィールド上にお金が落ちていて、ひたすらお金を探てタッチする探し物ゲームでもあった。
敵とのバトルのシステムもシンプル。
敵と出会ったら攻撃モーションを見て、攻撃の来る方向を見切って“盾でブロック”するか、“避ける”か、攻撃の方向に合わせて武器を振って“パリィ”するか、瞬時に選択する。
攻撃を数回しのぐと“ブレイク”が発生して敵が無防備になり、そのタイミングで画面をスワイプして剣で敵を切りまくる。演出が爽快で、切っているだけでもなかなかの満足感があった。
また、エネルギーを貯めて使用する魔法、スーパーといわれる滅多切りタイムに突入する必殺技もあった。
その簡素さに「単なる高速パンチアウトだよね」と揶揄されたり、ゲームボリュームが少ないので燃焼不足を感じたりもしたが、今思うと「iPhoneですごいアプリを遊びたい」というだけの層も遊べるシステムで、その難易度に合わせつつゲーム好きも楽しめるゲームを開発したのは神業だったな、と思う。
また、ファンタジーから突然にSFへと変貌するラストも話題を呼んだ。
開発期間は5カ月だったというが、世界観は深く作りこまれており、何か不思議な後味があった。
ご存知の通り、『Infinity Blade』は大成功した。
発売後も「Appleが見せたスマホの可能性」というライトなストーリーから「ゲーム機!Unreal Engine 3!」というゲーマー向けのストーリーまで幅広く満たされ、ビジネス、技術、ゲーマーの期待、なにより2010年という時代の「スマホへの抽象的な期待」にのって広がった。
発売6カ月で1,000万ドル(DeNAのプレスリリースより)を売り上げ、2作目が出た1年と2カ月後には6,000万ドルの売り上げを突破したことを発表している。
▲日本独自でソーシャルゲームにもなっちゃった。
現在は当時よりもはるかにスマホが普及しているが、こんな大ヒットする有料アプリはないだろうな、と昔懐かしく思うと同時に、当時の熱狂を体験できてよかったと思う。
今風に言うならば、『ポケモンGO』の興奮より規模は小さいが、空気感としては近かったように思う。
この時の空気が、本稿で少しでも皆さんに伝われば幸いだ。
で、この記事を書くために最後(※この記事を書いた時期は64bit対応前だった)にプレイしてみたのだが……驚くことに、昔より今の方が『Infinity Blade』が楽しくなっていた。
リリース後にアップデートを重ねて、敵の行動パターンが増え、隠しエンディングとルートも増えて十分なボリュームのゲームになったということはある。しかし、ある理由によってもっと面白くなっていたのだ。
▲真エンドのチャンバーは、その後の展開を予見していた。
『Infinity Blade』のストーリーは結構複雑で、3作品に加えて小説(英語のみ!)の『Infinity Blade awakening』と『Infinity Blade redemption』を理解しないと全貌がわからない。
わけ合って2017年になって小説版『Infinity Blade』を読んだため、今回はストーリーを理解したうえでのプレイとなった。そして、設定を知ってから遊ぶと当時何となく見過ごしていたカットシーンの意味が分かり、より味わい深く楽しめたのだ。
以下、ネタバレになるが1作目のストーリーをざっと紹介する。再び遊ぶ方は、目を通してから遊んでみてほしい。なお、英語堪能ではないので細部は間違っているかもしれない。
初代作品最大の謎は、何度も同じ相手に挑戦し、能力を引き継ぎつつもゴッドキングに挑戦していた仕組みである。
ここには2作目に登場する神秘の探究者ことガラスと、主人公であるオウサーの物語がある。ガラスとオウサーは自然発生で生まれた原初の不死者で、絶対的な力を持つ神だ。
世界の歴史て暗躍しており、例えばエジプトなどであがめられていた太古の神の正体はガラスとオウサーのことである。
そして、現代からおよそ25,000年後。
現代文明を彼らが滅ぼし、不死者を人工的に増やして作り上げた「不死者が支配する理想の世界」が『Infinity Blade』の世界となる。
ガラスが作り上げたこの理想の王国だが、長い時間の中でガラスに反抗する不死者が登場して崩れ始める。
ガラスは死なないが、反乱者も不死。
見せしめに殺しても復活してしまうので、処罰にも限度がある。そこでガラスとオウサーは協力し、不死者を殺せる武器インフィニティブレードを作った。
▲神秘の探究者に逆らう中心人物、ゴッドキング。
インフィニティブレードを完成させるには、強力な不死者のエネルギーを何度も取り込む必要がある。
そこで、オウサーは自らが刺されては何度も復活し、原初の不死者のエネルギーでインフィニティブレードを完成させることとした。文字通り死ぬほど痛そうな作戦だ。
まず、オウサーは未完成のインフィニティブレードの力をもって暴虐の限りを尽くし、ゴッドキング率いる正義の反乱軍と戦って、インフィニティブレードを奪われる。
ゴッドキングはインフィニティブレードを手に入れると圧政を敷き、逆らうものを倒すという形でエネルギーを貯めだす(つまり、ゴッドキングが第1作で圧政を敷いたのはインフィニティブレード完成のためだ)。あとは、オウサーが何度も転生して刺されればインフィニティブレードが完成するはずだった……のだが。
インフィニティブレードにはオウサーの計画を壊す罠が仕込まれていた。神秘の探究者ガラスはオウサーを裏切り、リディーマーと呼ばれる記憶抹消装置をインフィニティブレードに組み込んでいたのだ。
そのため、オウサーはインフィニティブレードに刺されて転生したときに記憶を失い、本来の目的を忘れて「不死の王を倒すため」にゴッドキングに立ち向かうことになる。
この過程を描いたのが『Infinity Blade』初代の物語である。
▲ファーザー(父よ)と始まるオープニングだが、実はすべてが転生した同一人物だった!
そして、『Infinity Blade』のラストでオウサーはゴッドキングからインフィニティブレードを奪って倒す。
それが最後の一押しになり、インフィニティブレードはついに覚醒し、不死者を葬る能力を手に入れたところで次回作に続く。
これを知ったうえでプレイすると、意味深なセリフの裏が読めて『Infinity Blade』がより楽しくなると思う。
ぜひ、再び本作を遊んでみてほしい。
本日2017年9月13日は、奇しくもAppleの発表会であり『Infinity Blade』のほぼ6周年。
最近6周年動画が出るなど動きも活発だし、新作の発表されるなんてことがあればより深く楽しめるかもしれない。
この記事の続きは次回。9月14日か、15日の17時に公開される予定だ。
評価:7(要チェック)
おすすめポイント
一時代を担ったゲームを体験できる
深いストーリーライン
グラフィックはいまだにセンスを感じる
気になるポイント
今プレイすると序盤は簡単すぎる
長時間プレイすると単調になる。エンディングとともにIIに移行すべし
アプリDL:
Infinity Blade (itunes 720円 iPhone/iPad対応)
開発:Chair Entertainment(US)
レビュー時バージョン:1.4.2
課金:ゴールド(ゲーム内通貨。買わないでも問題なし)
ライター:ゲームキャスト トシ
最後になるが、本記事はiPadGamer氏に多大な影響を受けている。彼のブログを読み、ストーリーに興味を持ち、小説版を読むに至り、本記事となっている。
ストーリー部分に関しては彼(?)の解説の半分もかけていないので、興味のある方はぜひ上記のリンクから読んで欲しい。