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スマホで美しい世界を自由に旅したい!その夢を実現して散ったゲーム『Return to Castlerama』 - 32bit遺産第3回

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2010年!その年、スマホゲームは希望にあふれていた。
毎年のスマホ性能の向上に合わせてゲーム表現の幅が広がり、つぎつぎ驚きのある新作が登場していたのだ。
その中でも多くのプレイヤーにインパクトを与えたのが『Epic Citadel』だろう。『Epic Citadel』はゲームではなく狭い城下町を散策するデモだ。しかし、あまりに美しい風景が多くのプレイヤーを魅了した。
その中で最も魅せられた男たちは考えた。「美しい箱庭をもっと広く作ったらきっと楽しくなる!よし、全3部の大作を作ろう!」と。
そうして、出てきた『Return to Castlerama』(R2C)は美しく広い箱庭を備えていたのだが……まったく人気が出ないまま埋もれ、古い32bitアプリとして生涯を終えようとしている。もちろん、3部作の2作目は出なかった。

その昔、スマホで実用的に使うならゲームロフトのように独自ツールを使用するか、Cocos2DやUnityのような軽量なゲーム製作ツールを使うことがスマホの選択肢と思われていた。
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▲当時最高峰、『モダンコンバット2』。

しかし、2010年8月。PCの本格ゲームに使用されるゲーム製作ツール“Unreal Engine 3”をスマホで動かすデモ『Epic Citadel』が登場し、周囲の度肝を抜く。
まさにゲーム機級の素晴らしい映像が、スマホで動いているではないか!例示している映像はアップデートで当時より良くなっているが、当時でもiPhone 4ならこれに近い映像が見られた。
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▲iPhone4時代は、天からの光(ゴッドレイ)がなかった。

アプリ自体は小さな街を歩けるだけの物足りないものだったが、その映像はスマホゲームの可能性を見せつけた。いや、見せつけすぎてしまった。
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人1人いない美しい街を歩く体験は、ゲーマーの妄想を膨らませた。
この美しい街を存分に歩き回れて、それがゲームになっていたら……どれだけ素晴らしいものが遊べるのだろうか。
このデモを元にしたゲームとして『Project Sword』が発表されたとき、ゲーマーたちは大いに沸き、妄想を膨らませた。
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結局、それは後に『Infinity Blade』(IB)と名を変えて登場するが、『Epic Citadel』で膨れ上がったiPhoneゲームへの期待を完全に満たすものではなかった。
というのも、IBは3Dのフィールドを自由に探索できるゲームではなかったからだ。
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▲とは言え、IBはすごかった。

しかしながら、あれだけの映像美を製品として出すのは難しい。結局、『Epic Citadel』の後継に名乗りを上げたのは知る限り2社だけだった。
1社は日本のprope。propeは『pd -prope discover-』という小城を歩く脱出ゲームを2011年中旬にリリースした。これはミニゲームの域は出なかったが、素晴らしい映像と『Epic Citadel』が作り出した期待感の残滓もあり、本作は当時かなり注目されたように記憶している。
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そして、もう1つは後にR2Cを作るイタリアのCG製作会社、CONDERAMAである。
彼らは2011年5月にイタリアのAsisiをモデルにしたフィールドを作り、『Epic Citadel』と同じように歩き回るアプリ『Castlerama』をリリースした。
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この出来はかなりすごかった。
『Epic Citadel』に近いグラフィックを実現し、地下洞窟や動物など独自の要素もある。デモアプリ『Castlerama』は『Epic Citadel』系として好意的に受け入れられた。
CODENRAMAは本作を“『Epic Citadel』に触発されて製作されたゲーム”であると認め、デモの10倍以上のフィールドがあるとも語った。リリース予定は年末。年末商戦の目玉はこれしかない!
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そして、実際に出た製品R2Cの映像は期待通りで、文句なしの出来だった。
ブラボー!彼らは、仕事を果たしたのだ。
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予告通り、多様な場所が用意されていた。農村、悪魔の洞窟、神秘の遺跡、魔法使いの館……どの場所も印象的だし、イタリアの風景や建物をモデルに作った映像はとくに素晴らしかった。
もちろん、単なるデモとは異なりアドベンチャーとしてのイベントもあった。1182b1f2

では、このゲームは売れたか……というと、売れなかった。3部作の第1作のはずが、リリース後は続編の話すら出なくなった。
大きな要因は2つある。1つは時期の問題だ。2011年5月5日にリリースされたデモは話題になり、予告動画は5万を越える再生数を得た。
しかし、実際にゲームが出たのは2年後の2013年6月7日だった。プレイヤーたちの興味は冷めており、リリース予告動画の再生数は8,000を割った。開発元が『Epic Citadel』が作り出した夢を追っている間に、プレイヤーたちは夢から覚めていた。
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そして、もう1つ……これが致命的なのだが、アドベンチャーゲームとしてはひどい出来だったのだ。
操作性はイマイチだし、クリアが死ぬほど難しかった。当然、口コミで伸びることもなかった。
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焦った開発元はさらにグラフィックを向上させ(頭悪いほどスゴイと思う)、同時に操作性向上や調べられる箇所をわかりやすくするアップデートを行ったが焼け石に水。

▲なお、記事執筆時点でアップデート予告動画は127再生であった。

あとに残ったのはプレイフィールがイマイチな……それでいてCGは一級で、『Epic Citadel』に抱いた“自由に美しい環境を歩き回る”夢には忠実なゲーム。
良識あるゲームサイトのレビューは散々だったが、プレイヤーの評価は「最悪のゲーム」か「最高のビジュアルで歩き回れる」かで真っ二つになった。
前者はゲームとして期待を抱いたプレイヤーの感想で、後者は私のように「『Epic Citadel』が見せた夢の続きを買った」自覚のあるプレイヤーの意見だったように記憶している。
少なくとも、後者の側に立つプレイヤーが一定数いて、それらのプレイヤーが高評価を下していたことは間違いない。

この記事は、本作は誰にでも勧めるための記事ではない。面白いゲームや、単に美しいゲームなら今日どこにでもある。
ただ、もしあなたが『Epic Citadel』に夢を見たことがあるのであれば、32bitアプリとしてひっそり消えようとしている『Return to Castlerama』を遊んでみる価値はあるという話だ。ゲームを買うのではなく、あの日見た夢の続きを買うのである。
もしかしたら、あのときの夢の続きが見られるかもしれない。
幸いなことに、今なら無料お試し版もあるからゲームの内容は先に吟味して購入できるはずだ。

評価:5(楽しめる)

おすすめポイント
観光できるほど美しい風景
音楽や効果音が良い

気になるポイント
操作に癖がある
ゲームが難しすぎる

アプリDL:
Return to Castlerama(itunes 600円 iPhone/iPadの両方に対応)
R2Cfree (itunes 無料 iPhone/iPad対応)

開発:CODENRAMA(イタリア)
レビュー時バージョン:1.2
課金:なし

ライター:ゲームキャスト トシ