かつて、人間と呼ばれる存在が地上にいた。
人間たちは非効率的で、奇妙な文明を築いていたらしく、その遺物を展示する博物館は大人気。
今日もまた、博物館には見学者がやってくる……。
本日紹介する『A Monster Expedition』は、ここ最近のパズルゲームの中でも最高の1本だ。
人間の存在を知らないモンスターが考古学的に人間文明を探る世界観が面白いし、パズルはシンプルで奥深い。
そして、最後にオープンワールドが世界観とパズルを2つを見事に結びつけ、非凡なゲームに仕立て上げている。
え、オープンワールドといえばRPGかアクションじゃないかって?
いやいや、パズルゲームだってオープンワールドで楽しくなるのだ。
本作の舞台は、人間が消え去り、新たに生まれたモンスター種族が主となった世界。
かつて存在したという人間文明の遺品が展示される博物館を巡るモンスターがプレイヤーだ。
で、最初に書いたようにモンスターの視点から人間文明を見る、という考え方が大変面白い。
たとえば、モンスターの学者は人間たちが観光地で売っていた“絵はがき”に、下記のような考察をしている。
休暇の嘘
休暇中の人間たちは、自分たちが撮ったわけではない写真を、あまり好きではない人たちへ送り、その人たちが一緒に休暇にこれたら良かったのにというのでした。
絶妙に間違っていて、皮肉が効いている。
展示物の説明文はどれも価値観・常識の差からくるギャップがあり、我々人間から見るととても面白い。
また、博物館はとてもゆったりと、のびのびとした空間として表現されている。
モンスターによると人間はやや生き急いでいた種族とみられているようで、異なる文明のもとに作られた癒やしの空気感もまた「人間の滅び」を感じられて良い。
▲モンスターは人間の使っていたアトラクションを利用したりもする。人間よりだいぶゆっくり、ゆったりと使う。
そんな『A Monster Expedition』のパズル部分は、この博物館を行き来する橋を作るもの。
博物館は野外にあり、島で隔てられている。
展示を見るためには木を切って丸太にして、それを転がして島の間に橋をかけなければならないのだ。
橋を架けるとき、モンスターができるのは「押す」ことだけ。島に生えている木を押すと、木が倒れて丸太になる。
丸太を横に転がすと何かにぶつかるまで転がり続け、縦向きに転がすと1マスずつ転がる。
これを利用して丸太を押して、島と島の間に浮かべると丸太が橋となり、モンスターは次の島へ移動できるわけだ。
丸太には多くの応用的な使い方が用意されているのだが、応用編の使い方は文字などで説明されない。
しかし、プレイしていれば自然と気付くようにステージが構成されている。
この作りが絶妙で、プレイ中には何度か「なるほど、丸太にこんな使い方があるのか!」と感心し、発見した自分自身が誇らしくなることがあった。基本ルールは簡単だが、応用の方法が沢山あって奥深い理想的なパズルになっていると言える。
とは言え、パズルが面白くて、解くとご褒美があるだけならパズルゲームの作りとして黄金パターンで、そんなパズルはたくさんある。
『A Monster Expedition』を特別な存在にしているのはオープンワールドを採用し、それによってパズルゲームとしての完成度を高めている点にある。
パズルゲームは面白い。
しかし、発想やひらめきが求められるパズルほど難しいく、楽しめる人の割合は減ってしまう。
RPGのようにキャラレベルを上げて挑戦することはできないから、1度詰まったらそこでゲームは終了。
多くのパズルゲームには解けないパズルを後回しにできるよう、ステージ選択機能がついていたりするが、ステージ選択機能がついていたところで「ステージを飛ばしたらなんだか負けた気がする」感じはあるし、先に待っている応用問題はやっぱり解けなかったりもする。▲Draknekの前作『Cosmic Express』のステージ選択画面。なお、『A Monster Expedition』はクリアできたけど、『Cosmic Express』はステージ12が相変わらず解けない……難しさが段違い。
それに対してオープンワールドのフィールドでパズル遊ぶ、という発想は有効な手段となる。
詰まってもフィールドをぶらつけると気分転換になるし、フィールドに散らばる別のステージを遊ぶ、という選択もできる。
有名なところでは、かの『The Witness』にもこの仕組みが導入されている。
▲こんな感じで島は複雑に繋がっており、橋を架ければ自由に行き来できる
『A Monster Expedition』の野外博物館にも順路はなく、特定の島で行き詰まっても別の島を見て回ればいい。
この構造自体はステージ選択画面があるパズルゲームと同じなのだが、オープンワールドだと「ステージが解けないから飛ばす」ではなく「今は進めない場所の敵が強いから後回しにしよう」ぐらいの感覚で、“負けた感”を感じないでステージを飛ばせる。
さらに、本作には複数の正解がある島が存在する。
プレイヤーが慣れていないあいだは、簡単な1本の橋しか見えない。
しかし、経験を積んで戻ってくると2つの橋が架けられるようになり、隠された展示を見られるようになる。
▲正しく解けば、1つの島から2つ以上の橋が……!
この島の存在がまた素晴らしい。
1度解いた島に行って、新しい道を見いだすのはアクションゲームをクリアしてから遊び直すよう感覚だった。
オープンワールドのアクションゲームで、ゲームを1度やりこんでから最初に戻ったときのような……プレイヤーの腕が上達して新しいルートが開ける感覚。
パズルで、こんなに素直な上達を感じられるとは思わなかった。
最後になるが、難易度にも言及しておきたい。
Draknek の作品を遊んだことがあるなら「この会社のパズルは難しすぎる」という印象を持つ方もいるだろう。
だが、安心して欲しい。本作は比較的簡単で「頭を使わせる前提だけど、解ける」程度の絶妙な難しさにしあがっている。
他のゲームでたとえて言うなら、『レイトン教授』ぐらいだろうか。アレが問題なく遊べれば、きっとこのゲームでもひらめいて解いていけるはずだ。モンスターが人間の文化を考察するユニークな世界観、難しい謎を後回しに遊んでも“負けた感”がない設計、島に存在するもう1つの回答に気づいて上達を感じる楽しさ。
これに興味があり、なおかつ『レイトン教授』ぐらいの謎の難易度が自分にとって適正、と思える方には自信を持っておすすめする。このゲームは、数あるパズルの中でもひときわ素晴らしい作品の1つだ。
概要:
パズルを解きつつ、かつて地上にいたという人間の痕跡を訪ねる博物館を巡る
動画:
評価:9(すごく面白い)
おすすめポイント
オープンワールドを利用したストレス軽減の仕組み
シンプルだが奥深いパズルと、難易度の緩急
人間を考察するモンスターを見るユニークな体験
気になるポイント
ヒント機能がないので、人によってはつらいかも
アプリリンク:
A Monster's Expedition (App Store Apple Arcade / Steam 2,050円)
開発:Draknek (イギリス)
レビュー時バージョン:1.0.2
課金:なし
ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中