本文に入る前に、『ワールズエンドクラブ』をフルに楽しみたい方に向けてお知らせを書いておく。
Apple Arcadeで2020年9月4日に配信された『ワールズエンドクラブ』は、話が途中で終わる。
よって、2021年春予定のNintendo Switch版か、Apple Arcade版のアップデートを待ってプレイすべきだ。
プレイして何ヶ月もたつと、ストーリーの細部を忘れる。それは物語重視のゲームにとって致命的だから、完成版を待った方がよりゲームを楽しめるのは間違いない。また、本文章は多くのネタバレが含まれる。
「12人の少年少女が地下水族館に連れ去られ、謎のピエロにデスゲームへの参加を強制される」以外を知ると、ゲームをプレイしたとき面白さが減じてしまうかもしれない。
よって、ゲームを心待ちにしている方はこの先を読まない方が良い。
人々がお互いを疑い、疑心暗鬼の中で殺し合い、生き延びる“デスゲーム”もの。
このジャンルにおいて『ワールズエンドクラブ』開発陣はエリートと言っても差し支えないだろう。
クリエイティブディレクターである小高和剛さんは、高校生たちが学級裁判で殺人者を探して死刑台に送っていく『ダンガンロンパ』シリーズを手がけている。シナリオを担当する打越鋼太郎さんは、同じくデスゲームの『極限脱出』シリーズのシナリオを担当しており、こちらもファンがついている。
そして、公式サイトや App Store に示されるストーリー概要をみると……12歳のおちこぼれ12人を集めて作られた“がんばれ組”と呼ばれる学級の少年少女たちが、1,200kmの旅を繰り広げるとある。
これはもう、打越鋼太郎さんのデスゲームもの『9人9時間9の扉』のセルフパロディ!
さらに読み進めていくと、このがんばれ組のメンバーは修学旅行の途中で拉致され、廃墟のような場所に閉じ込められ、謎のピエロに「殺し合いのゲーム」をするように命じられる、とある。
これまた学級内で殺し合いをする『ダンガンロンパ』のセルフパロディ。
こんなかわいいキャラクターデザインの少年少女たちが、どのように殺し合うのか……プレイする前は完全にデスゲームのエリートが作ったデスゲームものだと思って期待していた。
が、その期待はプレイ30分ほどで意外な……そして面白い方向に裏切られる。
デスゲームというのは完全にプレイヤーを誘うためのミスリードで、序盤でキャラクターが「デスゲームは中止!」と宣言すると、ゲームは一変。
12人が拉致されて眠っている間に世界が滅んでいたことが判明し、その原因を探るため、12人の少年少女が鹿児島から東京まで1,200kmの旅をする青春・終末旅行ゲームが始まった。
「デスゲームの大御所が、デスゲームを捨てるのか!」
死を通じて希望を描くのではなく、生きることを通じて希望を描くデスゲームの神の新境地。
しかも、序盤はデスゲームが始まったと信じてキャラクターが動くことで、短時間で印象的なキャラクター紹介を行う有効な仕掛けにもなっていた。
ただデスゲームを捨てたのではなく、キャラを活かすために捨てている。
これはもう、してやられた、と思った。
さて、そんな衝撃を持って始まった『ワールズエンドクラブ』は、横スクロールのアクションパートと、物語パートが混在するアクションアドベンチャーだった。
物語パートでは、会話をベースとして物語が進む。
世界崩壊に関わる会話だけでなく、12歳なりの青春を扱ったトークも微笑ましく、この12人の旅を見守りたい、最期まで見届けたい、と思わせるものがあるのは素晴らしい。
キャラクターデザインも印象的だが、キャラクター性も十分魅力的と言えるだろう。
そんな12人だが、ゲーム中はたびたび意見が分かれ、プレイヤーによる選択が求められることもある。この選択はかなり重要で、選択によっては次に行く場所から展開までが変化してしまう。もちろん、プレイヤーが選択しなかった物語は見れない。
各選択の先には異なる展開が用意されており、エンディング後に「そういえば、自分が行かなかった班には何が起きていたのだろう」と、もう1度プレイすると意外な情報が手に入り、また楽しめる。
この作りは素直に良いな、と思える。
さらに、単純に違う話が見られるだけでなく、選択した先には見た目にも楽しい旅が待っている。
1,200kmの旅をする中で、がんばれ組はさまざまな場所を訪れ、その地を観光する。
鹿児島のアーケード、京都の千本鳥居、福岡は屋台街、大分ならば温泉旅館街と、各地の名物が背景に採用されており、終末とはいえ旅行気分で観光できる。アクションパートは左右移動とジャンプで進むもので、忙しい操作は要求されない。
ゲームはパズル要素を前面に押し出しており、進行に応じて主人公たちが獲得する特殊能力を利用して仕掛けを解くものがメインになっている。
アクションを普段遊ばないプレイヤーでも楽しめるだろう。
▲操作性はタッチアクションになれていれば超快適。なれてなくても遊べる。
ただ、ステージの作りは単調で手応えがなさ過ぎるすごく気になった。しかし、簡単にクリアしても演出で物語を盛りあがりが伝わるような工夫がなく、アクションパートは後半になるほど物語を間延びさせてゲームの足を引っ張っているように感じられた。
手応えがなさ過ぎるから、障害をクリアしても、物語上で凶悪な敵が出てきてもいまいち盛り上がらない。
変に難しいと物語がスムーズに楽しめなくなるし、ファン層を考えても簡単にする選択はわかる。
▲とくに後半のボス戦の冗長さたるや……。
とは言え、全体でみて言うなら私はゲームを楽しめていた。
雑な展開があるようにも感じたが、世界が崩壊した謎やら、奇妙な敵の存在やら、気になることだらけ。ここからどういった事実が明かされるのだろうか?
先ほど書いたとおりキャラクターたちにも愛着がわいていたし、「面白くなりそう」な舞台のセットアップができていた。
しかし、そこに無慈悲な鉄槌が下される。
謎はかけらも明かされることもなく「2021年、春の完全版をまってね」と中途半端な状態で終わってしまうのだ。
App Storeの説明文に途中で終わることが明記されていなかったので、終わったときの感想は「まさか、これで終わるのか?」であった。
こういった謎を匂わせる物語のゲームは、最後まで遊んでこそ、と言う部分がある。
先に書いたとおり、物語にもアクションにも不満点はあるが、それすらもラストパートですべての解が示されて納得するかもしれないし、アクション演出もたたみかけるような波が来て満足するかもしれない。
しかし、現段階では「いまいちだったなぁ」と感じるプレイヤーもかなりいるだろう。
未完成のゲームを遊ぶのは(よほど待ちきれないファンでなければ)意味がない。
完成すれば良い物になるかもしれないポテンシャルはあるから、ゲーム自体の評価も定めようがない。
本作は、2021年春になってから遊ぶべき、とはっきり言える。
最後になるが、こういった形で中途半端に出してしまうのは Apple Arcade の悪いところで、他にも『シャンティ 7人のセイレーン』やら『Guildings』やら、出して途中で終わってがっかりというゲームが存在する。
例えば「1月に1話提供し、前半部分の反応で最後の結末は変わるかもしれない」などであれば定額サービスに未完成で出す意味はある。
しかし、ざっくりとぶった切って「先行で出しました、続きは数ヶ月後」ではゲームの面白みが損なわれるだけ。
Appleには今後、そういった部分を考えて作品を扱って欲しい。