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サービス終了してから書く、コロプラの大作1人用RPG『最果てのバベル』の感想 - サービス終了ゲームを想う7

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コロプラのRPG『最果てのバベル』が、2020年4月30日にサービス終了となった。プレイできたのは約11カ月。
シナリオは『FF7』の野島一成さん、音楽は『オウガバトル』の崎本仁さん、コンセプトアートにINNEIと、ゲーム界の有名どころ採用した1人用RPGとして期待を集めていたが、あまりにも短命だったし、リリース後は悪い話題が多かった。

セールスランキングを不正操作し、悪いことしたゲーム。
なんだか『アナザーエデン』に似たゲーム。

そんなイメージしか持っていない方が多いのではないだろうか。
実際、ネットを見ても不正操作事件以降は記事での言及も少なくなり、あまり実態がよくわからない。そこで、一応ちゃんと遊んだプレイヤーとしてこのゲームの紹介記事を残しておこうと思う。 ====


私にとって、『最果てのバベル』の最大の特徴は野島さんが手がけるシナリオにあった。
野島さんは『FF7』のシナリオで有名だが、ゲーマーの間ではそれ以前にスーパーファミコンで発売された『ヘラクレスの栄光III 神々の沈黙』に革新的なシナリオを提供したことで注目されていた。
あ、この先『ヘラクレスの栄光III』最大のネタバレが入るので注意。

多くのRPGでは、主人公が死んでも教会やセーブポイントから復活する。『FF2』のミンウとか、イベントでキャラクターが倒れたら死んだままシナリオが進むのに。
でも、それがRPGのお約束だ。
約30年前、『ヘラクレスの栄光III』の発売当時のRPGプレイヤーだって「そういうもの」と納得しながらプレイしていた。

ところが、ゲームを進めていくと驚くべきことに主人公だけが死んでも復活する理由、そしてそれ以外の人々が生き返らない理由が判明する。
そして、それがゲーム最大の謎と直結しており、ゲームの山場で「お前らが追い求めている謎の真相は、主人公が死んでも復活することを考えればわかるだろ」と明かされ、プレイヤーは「ああ!」と驚く。

 

『ヘラクレスの栄光III』では主人公が復活することはシナリオ上の必然であり、プレイヤーが追い求めていた答えは常に目の前にあったのだ。
私はリアルタイムでプレイしなかったが、当時のゲーマーの間には「初めて『アンダーテール』をプレイした」ような衝撃が走ったという。
現代となっては似たような構造のゲームも多いが、30年ぐらい前にそれを作り上げた功績を考えれば、後に『FF7』やら『大乱闘スマッシュブラザーズX』やら、大作のシナリオに採用されたのも当たり前、というぐらい衝撃的だった。
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▲野島さんの代表作『FF7』のリメイクが、バベルのサービス終了と同じ月にリリースされて奇妙な因縁を感じてしまった。

さて、話は『最果てのバベル』に戻る。
このゲームは『ヘラクレスの栄光III』から続く、”野島シナリオ”の系譜といった感じをビンビンに出していた。

ゲームの舞台となるのは”謎の塔”。
この塔は古の機械技術で作られており、技術が失われても稼働している塔のインフラを利用して街を築き、その中で生活していた。
が、現在は経年による故障、稼働に必要なセル(電池)の枯渇による停電が頻発して、塔を基盤にした文明も崩壊の兆しを見せている。
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ゲーム開始時、主人公とヒロインは特別な能力を危険視され、その塔に閉じ込められている。
主人公は自らが知る場所に瞬時にワープできる”飛翔識”という能力を持っており、ヒロインは他人の記憶を強制的に写し取る”史識”の能力を持つ。
が、主人公は塔の機能障害によって外に出ることになり、飛翔識に目覚めて外出可能になってしまう。
そこでヒロインと出会い、飛翔識の能力を利用してトラブルを解決することで街に受け入れられ、セルを探索するために外の世界に出ることが許される……という感じなのだが、
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・古代人の作った塔の謎にワクワクする
・今にも生活基盤が崩壊しそうなポストアポカリプス感が最高
・主人公たちの生い立ち(家族は、監禁の理由は?)など謎だらけ

などなど冒険の理由が大量にあり、こういった課題提示が狭い塔で行われる。
それが終わると外の世界に旅立ち、遠くまで見渡せる小高い丘にたどりつき「世界ってこんな広かったのか!」とプレイヤーが感じたところでタイトルがでーんと表示されて盛り上げる。
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▲ゲームが少し進んでからのタイトルコールだけでずるいのに、「えっ、塔って自分たちのいた場所だけじゃないの?」とか、複数属性の塔が存在する感じが一気に情報として読み取れて情報の洪水だった。

ゲームシステムとシナリオのリンクもあって、
Q.「RPGで行ったことのある場所に瞬時にファストトラベルできるのはなぜ?」
A.「主人公が飛翔識を持っているから、行ったことがない場所にワープできないのは、飛翔識は知らない場所に飛べないから」
と、”野島シナリオ”っぽい理由付け感も出していた。
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シナリオの筋だけを見ると、”識”の成り立ち、塔を作った文明との出会いなどの伏線があり、ラストには回収されていて、面白かったんだと思う。
面白かったんだと思う、というのはサービス終了のため駆け足で伏線が回収されたからだ。
「ゆっくり作れたら、もっと面白かったんだろうな」と思えるシナリオになっていた。
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▲後半の物語を早回ししたシッタンカンのメドラー、キャラが立っていて好きだったなぁ。

そんな感じで、序盤は野島ファンなら「まあ、そうくるよな」という作りが見えていて好感触。
ゲームシステムとしても、キャラガチャを採用せず、キャラが装備するジョブ・武器のガチャを採用してシナリオに力を注ぐ判断をしていた。
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▲魔導士とか、戦士とか、そういったジョブがガチャから出てきた。第1章は普通に遊んでいてもなんとかなったが、第2章は★5を複数持ってないときつかった。

キャラガチャではなくジョブガチャの採用がシナリオに力を注ぐことになる理由も一応説明しておこう。
日本の基本無料RPGでは、ガチャからキャラが出てきてレア度の高いキャラを使ってバトルするのが普通になっている。
これを採用するとシナリオ上で盛り上がり、主人公が因縁のボスと戦っても、実際に戦うのは物語に絡まないガチャキャラ。
それでいて戦闘が終わるとまた主人公が「苦しい戦いだった……」とか言い始めて「おまえ、戦ってないだろ」とプレイヤーが考えたりしてゲームとシナリオの一体感が薄れてしまう。
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キャラガチャの方が課金を促しやすいといわれるが、売上よりも野島シナリオを活かす方向に舵を切ったところには「野島シナリオと心中するぜ!」という漢気が見えた。

そのシナリオを補強するアートなどもすごく良かった。
このゲームは上下左右に移動できるフィールドになっていて、3Dで作られた背景アートは美しいものばかり。高さの概念もあり、上下を活かした演出もある。
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また、世界にはさまざまな精霊がいて、その属性に合わせた種族がいて、土地がある。
それぞれの属性に合わせた土地に行くのは楽しかった。
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とくに好きだったのは水の”輝きの街フォルマ”で、古代人の住居が完全にツタに覆われている無常感と、その上に作られた自然の街の対比がとてもよかった。
ゲーム終了後にスクリーンショットを確認してみると、フォルマのスクリーンショットだけすごく多くて驚く。
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これだけアートがいいうえに、そこで鳴る崎本さんの音楽もすごくいい感じ。
大物を採用した基本無料ゲームはアート以外がっかりなことがあるが、「シナリオ野島!」「音楽は崎本仁!」「コンセプトアートINNEI!」を期待したプレイヤーは基本的に裏切らない作りだった。
フィールドを観光するのは楽しかった。
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思うに、コロプラは『クロノトリガー』っぽさを前面に押し出した基本無料RPG『アナザーエデン』が成功したのを見て、コロプラの『FF7』(級ゲーム)を作りたかったのではないか。
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実際『FF7』のシナリオを作った野島さんを持ってきたわけだし、魔道アーマーっぽいものとか、『FF7』のミッドガルを思い出すワンシーンなどのオマージュらしきものもあるし、意識しているだろうな、と。
そう思える力の入り具合だった。
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▲ミッドガルをちょっとだけ感じた鋼国の首都。

そんな力が入っていた『最果てのバベル』だが、冒頭で書いたとおりに約11ヶ月でサービスは終わってしまう。
これは、最初にランキングの不正操作をしたからではなく、ゲーム自体のつくりが微妙だったから、だろうと思っている。
正直、リリース前の注目はあったし、DL数から言って作りが受け入れられれば十分にゲームが続くだけの人数を確保していたと思う。

このゲームには良い部分があるが、同時にその良い部分をつぶしてしまう仕組みも存在していた。
フィールドは美しいが、無意味な行き止まりが多くて無駄に長く、敵とのエンカウント率が高くて嫌な気持ちになる。
RPGでいう宿屋、回復にはスタミナが必要になる。
つまり、宿屋課金を採用したため、雑魚と戦闘していてもなんとなく”スタミナを削られている感”が常にツライ。
あんなにアートはいいのに、ダンジョン構造と雑魚戦でフィールドが嫌になってしまう。
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▲宿屋スタミナは3時間に1点回復。課金しなくても初期リリース分は全部クリアできたが……なんとなく嫌な感じだった。

 

フィールドが無駄に長くて戦闘が多いということは、シナリオとシナリオの間に面白くない時間が続いてテンポが悪くなるということで……シナリオの味も損ねていた。
先ほど書いたようにシナリオの序盤はかなり良かった。
が、それ以降は引き伸ばし感があり、ゲームのテンポも退屈になった。
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▲敵とエンカウントせずにフィールドだけ移動したかったなぁ。
バトルをみると、ダメージとは別にブレイクゲージ(姿勢ダメージのようなもの。一定値ためてブレイクすると大ダメージを与えたり、敵の攻撃をキャンセルできる)を利用して敵の体勢を崩して戦うターン制のコマンドバトルシステムを採用しており、普通に楽しめた。
が、ジョブが揃わないと組み合わせを楽しむのはツライ。
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という感じで、シナリオ良し・アート良し・テンポやプレイ感は微妙というRPGが『最果てのバベル』だった。
「良いところもあるが、クチコミで広がりはしないRPG」ぐらいの良さ。

 

『最果てのバベル』サービス開始時に『アナザーエデン』のパクリなんていう人がいた。
確かに影響を受けていることは否定できないが、根本の思想がはっきり違うし、プレイ感も全然違う。
サービス終了してまでプレイしていない人に「アナデンのパクリだったらしいよ」と言われるのはあんまりなので、最後にきっぱり否定しておく。

 

ゲームとしてはシナリオや世界観などの長所ははっきり打ち出されていて、「シナリオで売る」ことを前提に作ろうとした結果、課金と面白さのバランスが取れない状態になってしまったのが泣き所だったように思う。

 

近年、いろいろと悪役っぽく言われるコロプラだが、ゲームシステムに関してはガラケー時代のポチポチゲーにRTSっぽい要素を入れた『秘宝探偵キャリー』から有名な『黒猫』『白猫』、3DSTGの『アリスギア・アイギス』、今回の『最果てのバベル』に至るまで、ゲームとしてはやや冒険しているモノも多い。
ゲーム制作チームにはこれにくじけず頑張って新しいものを作って欲しいと思うし、そう思えるゲームではあった。

 

いやほんと、いいパーツはそろっていたんだよなぁ(大作ソシャゲにありがちな惜しみ方)。