アプリをダウンロードすると、そこは異世界だった。
日本の主流から大きく外れたデザインの……いや、クソコラのようなキャラクターが闊歩し、「珍ポ」や「マ○コー」などのテキストやキャラクター名、ボイスが飛び交う。
Appleの審査を通ったことが信じられない……というか、存在自体が信じられないゲームが『妖怪惑星クラリス』である。
このゲームをどう紹介しようか悩んだが、今回は私が見たままを順番に紹介していこうと思う。
『妖怪惑星クラリス』は2017年初めに発見され、そのときには事前登録を開始していた。
現代日本では事前登録において女子キャラクターなど特典としてプレイヤーを集めるが、その流れからあまりに遠い特典キャラクターは人々に衝撃を与えた。
あるゲーマーは「内容を隠して釣る気がない、ある意味誠実なゲームだと思った」と語っていたが、まさにその通りであった。
▲激レア召喚獣の雄姿。事前登録「キャンペン」など奇妙な日本語も話題に。
しかし、この惑星は単に奇妙で終わらなかった。
キャラクター名の候補をTwitterで募集し、同じくTwitter投票で決定することを発表してしまったのである。
ねーこの召喚獣に名前をつけてもらえる?🙄何がいいかな?困っている🙏 pic.twitter.com/pFFxFoK1t9
— 妖怪惑星クラリス公式 (@claris_pr) 2017年2月14日
ネット界の投票には魔が潜む。
ケロッグの食品『チョコワ』の味を決めるネット投票で、ネットユーザーが“わさび味”に大量投票して公式が焦った“チョコワ事件”(参考:ニコニコ大百科)、ジバニャンを差し置いて“3兆円”が1位をとって公式が切れたレベル5の人気投票(参考:投票結果)など、ネット投票にはろくなことがないのだ。
当時の『妖怪惑星クラリス』には、“お祭り好きのネットユーザー”ばかりが注目していたので、冗談のようなデザインに対して、冗談ではすまない名前の案が集まった。そして、その中で最もヤバいものが投票で選ばれていく。
結果として“チンポンデリング”やら“ペンケツマン・コーチン・ポーペン”など、Appleの審査を通らないであろう名前の怪物が誕生してしまった。
▲なお、チンポンデリングは本当にAppleに怒られたため、珍ポンデリングに改名された。
当初は軌道修正を試みていた感もあった『妖怪惑星クラリス』運営だが、最終的には腹をくくる。
次々とキャラクターの名前を投票にかけ、キャラクターの名前はおろか設定から声優までTwitterで募集を行うこととなった。
この判断により、『妖怪惑星クラリス』はネット民の狂気を取り込んだ異質な“何か”に変貌を遂げる。
(参考:よくわかる『妖怪惑星クラリス』の歴史)
さて、そうしてリリースされたゲーム内容はどうだったかというと……面白かった。面白がってウォッチしていたネットユーザーが求たものを誠実に提供していたのだ。
予想もつかないキャラクターたち。
手巻き寿司やらバラが壁に採用されたデザインのフィールド。
ギリギリすぎるストーリー。
運営自体が自ら「とんでもない名前のキャラクターがいるって話だぜ」と初期ロード画面で語らせたり、ストーリーに入っても珍ポンデリングを略して“珍ポ”と言わせたり。
ガチャを引いてみると、脳みそが並ぶ中で『ツァラトゥストラはかく語りき』の壮大な音楽と共に奇妙なキャラクターたちが出てくる。
次の展開が予測できない。想像を越えて酷い。
『妖怪惑星クラリス』に期待されていたものは酷さだから、予想を越えた酷さとは「プレイヤーの期待を超えたエンターテイメント」と同義。
興味のないプレイヤーはApp Storeのページを見るだけでアプリをDLせずに回れ右するから低評価もつかない。
人が『妖怪惑星クラリス』を選ぶのではなく、『妖怪惑星クラリス』に選ばれたプレイヤーだけがゲームを遊ぶ。そんな状況も手伝い、初期のアプリ評価は平均で★5.0に達した。
▲その昔、美少女ゲームなのにキャラが不細工過ぎる『美少女競泳メドレーバトル』というバグだらけのゲームがあり、プレイヤーは「課金ガチャから不細工キャラが出て満足する」奇妙な状況だった。それに近い。
加えて、ゲーム部分も奇跡的に面白かった。
本作のベースシステムは、クエストを受けてスタミナを消費すると専用のフィールドにワープし、そこで敵を倒すと報酬がもらえるだけの原始的なオンラインRPGのもの。
フィールドに他のプレイヤーもいて戦闘に随時割り込めるからオンラインの意味はあるが、今のリッチなゲームから見れば貧弱なギリギリMMOなバトルRPGである。
だが、その肝となるバトルが面白かった。
本作のバトルはパズル要素のあるコンボゲームになっており、画面下にある4列の顔アイコンがゲームのキーになっている。上2列は、攻撃順番を示している。なにも操作しないと、この順番にキャラクターが攻撃してオートでバトルが進む。
そして、下2列の顔アイコンをタッチして上のアイコンと入れ替え、同じ属性(カラー)のアイコンが並べると連続コンボが発生し、コンボが終わるまで一方的にプレイヤー側の攻撃が続く。
変則的な『スピード』のようなバトルだが、各アイコンには使用後にクールダウンタイムが設定されており、復帰を計算して並べる戦術性があった。
何より、やけくそなまでに派手なエフェクトが気持ちよく、システムを理解してコンボを出せるようになるとジャンクな楽しさが得られた。
そう、『妖怪惑星クラリス』はカジュアルゲームとして結構遊べたのだ。
一般的なソーシャルゲームであれば「バトルは良いけど長続きしません」だが、『妖怪惑星クラリス』では「変なものを見られれば満点」に加えて「意外にシステムも楽しかった」という加点ポイントになる。
結果として、奇妙な物体を見て楽しんでいる間にバトルの理解が進み「このゲームは理解できれば楽しい」と言うプレイヤーが現れはじめた。
私も含め、人類は妖怪惑星の環境に順応したのだ。
そうして慣れたプレイヤーは“自作小説機能”を発見した。
自作小説機能とは、登場人物に好きなセリフをしゃべらせて物語を作って公開する機能だ。無料でも有料でも公開することができ、10,000円以上売り上げると運営からキャッシュバックされる斬新な機能である(だが、プレイヤー数が少ないので売上げは絶望的)。
当初、これは下品なネットスラングに占領されていた死に機能だったが、妖怪惑星の住人たちはこれを活用して交流を始めた。
意味不明だったシステムを解説した“妖怪惑星クラリス攻略”、アップデートの変更点に対するプレイヤーの意見表明、ちょっとホロリとくる二次創作、果ては当時爆発的に流行した『どうぶつタワーバトル』攻略などが自作小説機能で行われた。
大げさに言うなら自作小説は妖怪惑星におけるSNSとなり、妖怪惑星は環境に順応した住人と独自のコミュニティを獲得した。
▲妖怪惑星では言論の自由が保証されている。アップデートが気に入らなければ、自作小説で世論に是非を問える。
ただ、遊んだ人間は盛り上がっていても、リリース当初の『妖怪惑星クラリス』は外から見てまったく盛り上がらなかった。
事前に盛り上がりすぎたゲームはリリースまでに熱が冷めてしまうことが多い。予定より半年以上も遅く出た『妖怪惑星クラリス』への関心も冷え切っていて、リリース初日のダウンロード数は「100~500インストール(Google Play調べ)」。数日待っても1,000ダウンロードに届かなかった。
“珍ポンデリング”の名前決定時には20,000近い投票があったというのに。
このままサービス終了なのかとも当時は思ったが、そこに奇跡がやってきた。
2017年末にリリースされた話題の基本無料ゲームが軒並み問題に見舞われたのだ。長期メンテナンス、増殖バグ、膨らみすぎたプレイヤーの期待に応えられないシステム……などなど、行き場を失ったコアなプレイヤーが生まれ、そこに妖怪惑星プレイヤーたちの「意外に面白い」という声が届き始めたのだ。
そこに来て、普通のゲームの常識ではあり得ない“妖怪惑星の風習”とでも言うべき奇行が、その熱意を後押しした。
「きみもタンポポを無慈悲に食い荒らそう!」など、普通のゲームではあり得ない奇抜なメッセージがネット上でまず話題になった。
「今のところ周回は他のゲームで十分だと思います」
「エレちゃん実装おめでとうございます!」
(※FGOのエレシュキガル実装を祝って、なぜか妖怪惑星クラリスのプレイヤー向けにメッセージが送られた)
続いてゲーム内チャットで運営に「誕生日だから何かくれ」と言ったプレイヤーに課金アイテムをプレゼント(他のソーシャルゲームがやったら大事件である)するなどの奇行が話題となり、ついでに「ゲームも実は面白いようだ」などと紹介されることで、ダウンロード数は伸びた。
実際、LINEスタンプを出し、公認のニコ生も行われ、『妖怪惑星クラリス』は2018年1月現在も元気にサービスしている。
これが『妖怪惑星クラリス』である。これが、というのはゲーム内容だけでなく、リリースまでの逸話を含めて『妖怪惑星クラリス』なのだ。
本作はカジュアルRPGとして遊べるが、私の楽しみはそこがメインではない。アプリ以上に『妖怪惑星クラリス』の奇行を見て共有することを楽しんでいる。
SNSが発達した現代だからこそ楽しめる、まさにソーシャルな存在。それが『妖怪惑星クラリス』なのだ。『Fate/Grand Order』で新キャラクターが実装されたときに「今度はこう来たか!」と語り合うような楽しみ方である。
……ベクトルが大きく違うが。
誰にでも勧められるわけではないが、ここまで見て「妖怪惑星クラリスの経緯は面白い」と思った方は同じベクトルで楽しめる可能性がある。つまり、妖怪惑星の住人になる素質がある。
10年に1度レベルの奇ゲーだから、観光に行くつもりでサービスしている間にクラリスを訪れて欲しい。
評価:9(すごい奇ゲー)
おすすめポイント
独自の文化ができあがっている
奇妙すぎる運営
気になるポイント
ネットのネタがとても下品
気になるポイント
ネットのネタがとても下品
常識であり得ないことが起きる
アプリDL:
アプリDL:
開発:nobuko ueki(日本?)
レビュー時バージョン:1.1.2
課金:ダイヤ(召喚獣と妖怪ガチャに使用)
レビュー時バージョン:1.1.2
課金:ダイヤ(召喚獣と妖怪ガチャに使用)
ライター:ゲームキャスト トシ