「日本のメーカーは有料ゲームを出さない、海外は有料で追加課金があまり必要なくて面白いゲームがたくさんあるのに!」
もう、これはスマホのゲーマーの間でさんざん言われてきたことである。
が、本日自分はこの議論に終止符を打ちたいと思って記事を書いた。
なぜ、日本の大手メーカーから有料ゲームがあまり出ないのだろうか?
理由は簡単で、すでに日本の有料ゲームは市場として死んでおり、日本をターゲットにした有料ゲームを出すのは不可能に近い状態になっているからだ。
自分の手元にある(詳細には明かせない)いくつかのデータを元にすると、昨年AppStoreの有料部門で総合1位をとるのに必要だったDL数はあまりDL数が多くない時期で3000本程度である。
ちなみに、なんと! App Store の iPhone 有料アプリ国内市場はここ1年で半分以下に縮小!?という記事では、今年に入って1800本あれば1位、48本DLされれば100位に入れるともある。
が、自分の実感でもiPhoneACさんとゲームキャストで同時にマイナーゲームを取り上げたりするとトップ100に浮上する有料アプリがあったことから、実感としてそこまで間違いではないように思える。
ではこれを元に計算してみよう。
ゆるく見積もって3000本で1位がとれるとしても、1位を2日間とれたところで6000本。
その後もゆるゆる売れたとしても大甘に見積もって10000本。
それが有料アプリの市場である。
売れ筋の85円アプリをリリースし、1位を獲得したとして儲かる金額は…。
85×10000×0.7=595,000円
グラフィック・サウンドなどの費用をいれたらこれで食べられるとは到底思えない。
例え、それらを1人でまかなう個人開発者だったとしても有料アプリの製作に1ヶ月程度しかかけられない計算になる。
続いて、大企業が600円のハイクオリティアプリをリリースしたとしよう。
600×10000×0.7=4,200,000円
今、ほとんどの高価格アプリは半年以上かけて複数人のチームで作られている。
420万円売り上げたところで、日本だけに向けて海外を超える豪華なものが作れるのか?
答えはNOだ。
だから、『BLOODMASQUE』テレビCM公開と聞いた時に耳を疑った。
▲売れてくれればいいんだけどね…。
しかし、これ以上を望むには話題になって大ヒットするしかない。
それはもう、年に数本出るかでないかのレベルであり、1年に数本(もしかしたらゼロ)しか満足な利益を出せない日本の有料ゲーム市場は絶望的な状態である。
有名メーカーがリリースするともう少し売れるが、大メーカーは大メーカーなりにコストがかかるので、より採算の天井が上がって基本的にはきつい。
例外として『ファイナルファンタジー』や『ドラクエ』のような誰もがプレイしたことのあるビックタイトルや、アニメの人気タイトルの移植などはそれ以上に本数が出るが、もちろんそんなタイトルを誰もが持っているわけでもないし、過去作のリメイクも限界がある。
▲ファイナルファンタジーIIIはスマホ向けでDS版の本数を超えているという。
で、なぜこの状況になったのか。
結局のところ、有料アプリを支えるゲーマーの圧倒的な少なさが原因だと思う。
ゲーマーの数は圧倒的に少ない。
「過去に◯◯が家庭用で数百万本売れた!」
とは言うものの、その数百万はゲーマーではない層も巻き込んだ数字。
現実にはゲーマーというのは少ないし、昔ゲーマーだった人も社会人になり引退していることも多い。
AppStoreで言えば、1万人いればいい方ではないかと見ている。
しかも、ゲーマーは非常に賢い消費者だ。
独自に情報を集め「あのアプリは◯◯と似ていて、◯◯のが少し質がいい上に安い」というような厳しい判断を下し、値下げ情報をチェックして後から買ったりもする。
余分に金を払わず、腕のみで攻略するので難易度緩和系の課金もしない。
▲腕のみでクリアできないとBLOODMASQUEのように課金ゲーと言われる。なお、現在は難易度が下がった。
自分が一番面白いと感じるゲームを、適価でプレイするのが一番なのでそれが悪いわけではないが、当然ながら人数が少ないにもかかわらず査定が厳しい層にゲームを作り続けるのは厳しい。
それでも1人5000円払ってくれれば大喜びでゲームを作る会社もあるだろうが、5000円払うぐらいなら彼らは携帯ゲーム機のゲームを購入するのでターゲットにならない。
最も賢い消費者で、アクティブにゲームを楽しんでいる存在だが、ゲーマー向けに頑張ったところで(特にスマホでは)お金にならないのだ。
▲『Infinity Blade 2』があれば先の『BLOODMASQUE』含めパンチアウト系は他いらない!というような効率重視の選球眼。
では海外でなぜそれが成り立つかというと、純粋に海外ではもっと売れるから。
北米だけで有料市場は10倍以上の開きがあると言われる。
よく「海外のゲームの課金はひどくない」と言われるが、海外には10倍のDL数という数の暴力があるからなんでも出来るのだ。
さらに言うと海外のゲーマーの方が緩い課金でも金を払ってくれるというのもある。
海外で大ヒットの『Candy Crush Saga』だって日本に来れば(DL数はそれなりにいっているのに)そこまで売上はない。
ということで、日本でゲーマーが満足する有料ゲームが出ない理由は単純に「作っても売れる確率が限りなく低いから」だ。
日本のメーカーの技術云々ではない。
こういうときに「海外で売れるものを作れ」という話になることが多いが、海外メーカーも実力をつけており、ローカライズ・プロモーションの面でネイティブでないメーカーはハンデを負っている。
それぐらいなら勝手の分かる日本向けに作るというわけだ。
大手ならばセガやスクウェア・エニックスのように海外向けに有料ゲームを出しているところはある。
で、日本の有料ゲームに将来の希望がないかというと、少しだけあると思っている。
今、一部のメーカー(特に海外)は「今までのスマホゲーはクオリティが足りなかった。クオリティが高くなれば買ってくれるはず」と思っている。
そして、スマホの性能が向上し、PS2を余裕で凌ぐようになったので自らの理論を証明するべく『Deus Ex:The Fall』のようにハイクオリティのゲームがこれから市場に出てくるはずだ。
これらのメーカーがインパクトのあるゲームでゲーマーの興味を引き、ゲーマーがこれらを購入するのであれば、メーカーも「クオリティが高ければ買ってくれる」と確信し、また有料ゲームが出ることもあるかもしれない。
少なくとも日本のメーカーが日本と海外両方を睨んで制作するぐらいには残るはずだ。
▲実際、600円でプレイできるものとは考えられないクオリティ。日本語訳…お願いします…。
「今だって俺はいろいろ購入している」という方もいると思う。
しかし、現状を思うに頑張って「生き残るかも」というレベルだ。
頑張るというのは、買うだけではなくてオモシロイと思ったゲームを人に勧めてみたり、コミュニティを作って情報を交換し、盛り上げていく…ここまでやってようやくだと思う。
過去、シューティングゲームが少なくなってきたときに、シューターと呼ばれる人たちが必死に「◯◯が出るぞ!」などとゲームを盛り上げてきて、かなりこのジャンルは延命した。
それと同じようなことをやってようやく生きるか死ぬか。
日本のAppStoreの有料ゲームはほぼ死んでいる。
現在は、ぎりぎり「まだ有料ゲームを試してみたい」とメーカーが思えている最後の時で、延命できるかどうかの瀬戸際。
もちろん、ゲームキャストも良いゲームがあればどんどん紹介していきたいと思っているので、気に入ったものがあったら人に勧めたりしてみて欲しい。
2013年8月21日8:50追記
日本の市場が世界有数とコメントしている方がいるが、それはパズドラなど基本無料ゲームを合わせたもので、有料ゲーム市場は小さい。
そして、この記事は基本無料のロジックで作られていないゲームがスマホでプレイしたいゲーマー向けのものだ。
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