ワンクリックでインストールまで完了するアプリストアだから?
違う。
PCのゲームやアプリを販売するだけならば大手のSteamもあるし、popcapを始め色々なメーカーが行っている。
インストールまでワンクリックと言っても、そんなのは既存の延長線上でしかない。
MacAppStoreが革命的であるのは、iTuneAppStoreと強く結びついた、「モバイルとPCの垣根を壊すオンラインストア」だからである。
モバイルの価格に巻き込まれるPC
ゲームタイトル | MacAppStore | iTune AppStore | PC版 |
Mecha War | 0.99$ | 0.99$ | - |
Angry Birds | 4.99$ | 0.99$ | - |
Peggle | 9.99$ | 2.99$ | 19.95$ |
Enigmo2 | 14.99$ | 0.99$ | 14.95$ |
Bejeweled3 | 19.99$ | 0.99$円(2の価格) | 19.95$ |
上の表はMacAppStore、iTuneAppStore、PCそれぞれの価格表。
itune App Storeでは一定の範囲(というか、携帯ゲームっぽい安さで)の価格に収まっていたゲームが、MacAppStore内ではばらついている。
これが「垣根を壊す」革命が最も顕著に現れている例だ。
現在、MacAppStoreには3つの価格帯がある。
1・iOSから移植してそのままの価格(Mecha Warなど)
2・iOSからの移植だが、ちょっと高め(Angry Birdsなど)
3・PC用に作って高価格設定(Enigmo2、Peggleなど)
1はそのまま移植。
2はPC用に少し手を加えた手間賃で、PCの方がiPadに移植するより手間がかかるから高い、という事だろう。
iOS版の理屈をそのまま持ってきた価格だ。
3はPopcapなどもともとPCでゲームを販売していた会社が、その価格にあわせているというもの。
PC用の豪華なゲームをPCに向けて売る、今までの図式だ。
モバイルとPC、2つの価格帯の垣根が壊され、混沌とした様相で「どの価格がスタンダードになるか」を争っている。
iOSがMacを浸食する?
まだこの戦いがどうなるか言い切れる段階ではない。
が、予想することはできる。
私の予想では、iOS版が存在するゲームの価格は安くなって、PCでしか出来ないハイエンドゲームのみが高価格帯に残る。
根拠は2つある。
iOSで出た安くて質のいい類似ゲームの移植が高価格帯ゲームのシェアを奪い、価格的に追随せざるを得なくなるだろう、ということ。
これは誰でも分かりやすい理由だ。
そして、iOS版の出来がよさが足を引っ張り、PC版を高価格でユーザーが買わないかもしれない、ということだ。
例えば、Angry Birds。
よく売れているアプリだが、仮に1200円だったらiOS版をプレイしてなおこのゲームをやりたいと感じるだろうか?
PopcapのpeggleやBejeweled3についてもそうだ。
iOS版もPC版も(BejeweledについてはiOSはBejeweled2をプレイした)、面白さがすごい変わるわけではない。
むしろ、Bejeweledについてはタッチ操作との相性が良いので「PC版はいらない」とすら感じた。
PCを目の前にiPhoneでプレイすればいいのだ。
iOSでできる簡単なゲームはiOS価格で。
高価格帯にはPCでしかプレイできない本当に一部のハイエンドゲームのみが残る。
この話はゲームに限らず、様々なアプリで「iPadにちょっと機能を追加したPC版」などが販売され、既存のアプリの牙城を崩していく未来が予想される。
Macユーザーの音楽・グラフィック系ツールなどはもろに影響をうけるはずだ。
そのツールでしか出来ないことがある、真のハイエンドツールのみが高価格帯で生き延びる。
そう、ゲームのみならず全てのアプリでMacはiOSに侵食され始めたのだ。
MacAppStoreのリリースは全世界で問答無用の価格競争を強制してきたiTunesAppStoreが、ついにPCまで巻き込んだ瞬間だ。
すでにPC勢力は負け始めているのかも
MacAppStoreの「そのまま移植」組と「手直し移植」組の価格はだいたい1000円以内。
日米共にゲームカテゴリ上位はこの2つが占領している。
iOSから移植された組の低価格がもともとPCの向けにつくっていたメーカーの価格設定とあまりにかけ離れているためか、PCでしかまだプレイできないBejeweled3以外はあまり売れていない。
PC組は販売数ランキングだけでなく、売り上げランキングでもトップ10に入らないものがほとんどなのだ。
PCの常識で売りたいメーカーと、iOSからの移植で小遣い稼ぎをしたいiOS中心のメーカーという状況だが、すでにiOSで元をとっていて余裕のあるiOS組が明らかに優勢だ。
韓国で元をとって日本で運営するネットRPGのような図式が出来上がってしまっているのだ。
PCのカジュアルゲームをその質に合わないほどの低価格でiOSにリリースし、低価格帯アプリの質を引き上げてきたPC側メーカーが、iOSに逆襲された格好だ。
プラットフォームの垣根が崩れる
価格争いと同時進行で起きている現象がある。
それはプラットフォームの垣根の破壊。
モバイル版に付加価値をつけたPC版が作成され、PCとモバイル版のアプリがそれぞれの特性を生かした働きをするようになるクロスプラットフォームが進み始めている。
PC/スマートフォン/タブレットで同じアプリが動くのが当然の世界。
前に「MacAppStoreがゲームにもたらす未来を考える」で書いたが、性能も入力系も異なるデバイスでのクロスプラットフォームが現実に出てきているのだ。
ゲームで言うと、iOS版とほぼ同じ内容なのに、iPhoneをコントローラーにしてプレイできるChopper2がMacAppStoreでトップを取ったのは「クロスプラットフォーム」を生かして成功した最初の例。
今後は異なるデバイスを生かす路線が増えていき、普通になるだろう。
過去にもその動きはあったがMacとiPhone/iPod touchほど強く結びついたデバイスはほとんどない。
プレイステーション時代、赤外線通信可能な持ち運び端末「ポケットステーション」が「どこでもいっしょ」というあらたなゲームを生み出した。
スマートフォンとPCができることはそれをはるかに越えている。
今までは考えられなかったゲーム・アプリがこれからどんどん出現するはずだ。
世界を巻き込む流れ
これはWindowsのメーカーにとってもこれは対岸の火事ではない。
遠くない将来、AndroidアプリとWindows同じような結びつきを始めるはずだ。
MacAppStoreとiTunesAppStoreはこの現象の先触れなのだ。
まだまだこのクロスプラットフォーム現象は始まったばかり。
新しいアプリ・ゲームの出現が楽しみで仕方ない。
反面、このクロスプラットフォームに対応する開発者の苦労、世界市場に巻き込まれることで少数派言語が不利になっていく(日本もその1つだ)ことも気になる。
ぜひとも、日本から主流になるアプリが出てもらいたい。
私個人としては、ゲームに関しては面白いもの日本でどんどん紹介して手助けしていきたい。
…と言うのはちょっとだいそれたことを言い過ぎか。
意見、反論などあればTwitterアカウント@gamecast-blogか、コメントでどうぞ。