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人間の脳は2つのゲームを同時に遊ぶようにできていない(実際は違った)。斬新すぎた2画面同時進行RPG『World II World』を振り返る - 終わったゲームたちを想う8

縦に長すぎるスマートフォンの画面を見て「いっそ、分割して2つのゲームを同時に遊びたい」と思った事はないだろうか。

私はない。

が、2023年2月22日にリリースされた『World II World』開発チームはそうではなかった。
なんと画面の上下に分割して異なるRPG世界を描画し、2つの冒険を同時に楽しめる前代未聞のスマホRPGを世に送り出してしまったのである。

 

え、なんの冗談かって?

冗談でも何でもない。
実際に起動すると、上下で別々のゲームが動いて、別々に操作を受け付けている。
ストーリー同時展開なんて当たり前、上画面でバトルしている最中に下画面でクイズや連打ゲームを遊ぶことすらある。

▲上は戦闘、下は牛の乳しぼりゲーム(右)。これなーんだ。答えは「World II World!」

まさに斬新。
斬新すぎて、私の第一印象は「半年で終了かもしれない」だった。
本日はそんな予想を覆して5カ月(7月31日)で終わった“ニコイチRPG”『World II World』を紹介する。

先に書いておくが、本作は斬新すぎて商業的に失敗しそうな気配が漂っていたが、私自身はサービス開始から終了まで課金して楽しんだ。
商業的失敗=ゲームが楽しめない、ではない。

とくに私は物語と世界観、さらに上下画面を同時に操作が楽しく……つまり、開発元の狙いが完全に私に刺さった状態にまで至った。
が、最初に書いた通り第一印象はかなり悪かった。

 

人間の脳は同時に2つのゲームを遊ぶようにできていないんだよォ!

で、肝心のプレイの感触はどうだったかというと……正直、最初は非常に困惑した。
オープニングから、上下に表示されるテキスト、上下で行われる演出!

どっちから読めばいいのかわからない。
思わず「人間の脳は上下で同時に物語が展開してもついていけない」と画面に突っ込んでしまったほど混乱した。

文字で説明するだけなら、本作の説明は容易い。
スワイプ操作で横スクロール型のフィールドを移動し、ランダムエンカウントでバトルし、イベントポイントに行けば物語が始まる。

バトルは最大6人(1人は控え)で戦うターン制コマンドシステムで、似ているゲームを挙げるとすれば『アナザーエデン~時空を超える猫~』だろうか。
分かりやすいほど王道型RPGシステム。

でも、『アナザーエデン』は2画面で遊ばないんだよなぁ。
上下でバトルをしているとスキルを選ぶ操作も面倒だし、片方の画面でシナリオが進んでいても別の画面の作業で頭に入ってこない。
開発側もそれを想定してか初期ストーリーをスキップ不可としていたが、それはそれでストレスとしてのしかかった。

2画面を活かして上下のマップで連動するギミックもあるが、ここでも2画面が重くのしかかった。
2画面同時操作を実現するため、フィールドは見ないでも半オート移動ができる。
そのためプレイヤーはマップを覚えておらず、連動ギミックが出てきても利用する場所がわからない。結果、上下連動のギミックがあっても無視してしまう。

キャラもそうだ。
頭に入ってこないからキャラパラメータや装備アイテムに関しても無関心になっていき、ガチャや育成を意識しないし、愛着もわかない。

 

冒険は2つ、そのぶん各冒険の印象が薄れて魅力も半分に薄まっている。
それを補うはずのストーリー演出も、マップギミックも2画面であることの面白さが打ち出せていない。

Nintendo DS時代に出てきた「ちょっと変な2画面ゲーム」を遊んでいる気持ちでやれば楽しいが、いわゆる「FGOのアニプレックスが出してきたガチャRPG」と思って遊ぶにはきついものがあった。
が、しばらく遊ぶと劇的な変化が訪れる。

 

脳が…進化した!?

第一印象が散々の『World II World』だったが遊び続けているうちに印象が変わったのだ。いや、変わったのはプレイヤー自身か。
よく考えればVtuberの配信を2画面、3画面で見ている人もいるのだから、慣れれば人間何でもできる。
ゲームに順応して2画面同時プレイできるようになったら、急にゲームが楽しくなってきたのだ。

そもそも普通のRPGを遊ぶように2画面同時にプレイしようとするからいけなかったわけで、シナリオは順番に読めばいい(読んでいる間は別画面を放置して1画面RPG)。
なんなら、ガチャ石が欲しくて読むサブシナリオがつまらないときは、別画面に集中して飛ばせばよい。

▲集中するときは片方の画面は放置だ!

さらにいえば、経験値稼ぎしているときに2画面使って限界まで操作を効率化していると「普通のゲームの2倍有益な経験値稼ぎをしている!」という高揚感すらある。

よくよく思い起こせば、プレイヤーに限界まで操作効率を求める楽しさは『Cooking Dash』などタイムマネジメントゲームの人気が立証しており、原始的で手堅い。『World II World』はこの面白さを通常プレイに導入していたわけだ。

▲『Cooking Dash』。スマートフォン初期はこの手のゲームがむちゃくちゃ流行った。

濃い味のときは集中して楽しんで、薄味のときは雑に2画面同時に遊ぶと薄味が補える。
2画面のうち楽しみたい部分だけを楽しみ、省きたい部分は省いて遊べるゲームが『World II World』。
そう理解すると、急に魅力が増してくる。いや、ストーリーがわかってくると『World II World』はかなり面白かった。

 

王道をやったら、あと大暴投でもええやろ精神の物語

本作では“分断王ディヴァン”によって、2つに分断された3つの世界(つまり、合計6世界)の主人公を操作する。

分断された世界はそれぞれ対になっており、機械×人間(マキナ×ラボル)、西部×東部(ガンマン×サムライ)、現代×異世界(リアリティ×ファンタジー)の3対。
3対3通りの物語が、週刊連載で展開される。

▲上下の画面には必ず対となる世界が表示される

機械×人間「親方、空から女の子が!」

機械と人間の世界は空で戦いを繰り広げる機械人たちの世界と、空から降ってくる瓦礫に怯えながら暮らす人間たちの地上世界に分断されている。

で、あるとき天から落ちてきたヒロインを救った少年はその礼に機械の体をもらうが、少年はヒロインを忘れられずに天に向かい、最終的に2つの世界を結び付ける……ド・王道な物語が展開する。

▲空から落ちるときなど、重要イベントでは上下を意識した全画面演出もなされた。

西部×東部「ダブルヒロイン×2、つまり負けヒロイン×2」

西部と東部の世界は、文化が断絶されながらも、双方ともにガンマンは決闘で、サムライは果し合いで成りあがる武力の世界。
物語では「俺はもう立ち直れないんだ」と酒浸りになるガンマンやら、刀で銃を制するサムライやら、「あー、このシーンがやりたかったのね」という展開の連続。

西部・東部ともにダブルヒロインのハーレムものかと思いきや、終盤にプレイヤーの選択によって主人公と結ばれる相手が変化し、物語展開が分岐する。
選ばれなかったヒロインは選ばれなかった相手として描写され、サービス終了間際の剛速球に驚くプレイヤー続出。

もちろん、ヒロインの選びなおしはできない。

現代×異世界「女子高生魔王の日常系×なろう系ギャグ」

そして最後、私が最も好きだった現代×異世界は、究極魔法で現代の村に放逐された魔王が人助けする日常系物語と、魔王が放逐されてチート能力持ち現代人が荒らした世界で主人公が建国する異世界もの物語がコミカルに描かれる。

現代にやってくると「ワシ、魔王やっていたけど本当は楽しく暮らしたかったのよね」と、学生服に着替えて人助けを始める。
魔王四天王もそれを受け入れ、社会常識を身に着けて能力を社会に溶け込み、魔王を愛していたヤンデレメデューサも魔王にかわいい服を着せて喜ぶ……など、戦いを忘れて楽しく暮らそうとする。

▲異世界転移した魔族を集めて現代の常識クイズをしたり、声が美しい鳥系魔族がラジオパーソナリティしたり……楽しく溶け込んでいる。

一方、魔王が現代に転移した異世界では主人公がチート能力で建国する物語を主軸としつつ、サブストーリーでは異世界転移・転生ネタギャグをこれでもかと繰り出す。

オタクにやさしいギャルを探しているキャラが「オタクに優しいギャルはいたんだ!」と喜ぶなか、相手は異世界転移時にチート能力でTSしてギャルになった男性だったりと、いちいち全員設定が濃い!

ログインボーナス最高!

あと、地味に好きだったのが世界を繋ぐ境界にいる“境界の少女ウィーブ”。
世界を俯瞰して語ったりログインボーナスをくれるナビ係だが、細かいことはどうでも良くて(物語完結前にサービス終了だから、謎のナビのままだった)、この子のログインボーナスが抜群に良い。
ウィーブはお絵描きが好きで、毎日その日にちなんだ落書きで迎えてくれるのだ。

全体的な物語も含めて、全体にコミカルで、心休まるトーンで楽しめるのが本作を続けられた理由かもしれない。

▲キャラが細かく動くのも魅力で、人形劇のような見た目の楽しさもあった。

エンドコンテンツで育成の面白さ復活

そうしてゲームを続けて2カ月ちょい。
空間の裂け目、分断城と呼ばれるエンドコンテンツが登場するとゲームはまた面白くなった。ここでは同時に20人のキャラクターが一気にバトルに参加し、強大なボスを倒すことで報酬を得る総力戦も展開される。

通常ストーリーでキャラ性能や装備を意識することはまれだが、ここではキャラを出す順番、スキルのシナジーなどが重要になり、突然考え抜くことになる。

で、育成のためドロップ装備集め(ランダムで付属効果もつく!)、さらには「結束の盟約(バトルパス)」のポイントを高速でためる効率化は楽しいし、足りないキャラが出てくればちょっとガチャしたい気持ちも少し湧いてくる。

本作では、プレイしている世界の住人しかバトルに参加できない。
★4のキャラクターは最大まで限界突破すれば、★5キャラクターは1回以上限界突破すればどの世界でもお助けキャラとして利用可能だが、お助けキャラ枠は1体のみなので、基本的にはその世界のキャラクターをガチャで集める必要があるからだ。

▲ガチャからは特定世界のキャラしか出ないので、欲しい戦力を補充できた。

とはいえ、難易度としては毎日プレイしていれば容易にクリアもできる程度のバランスで、やりこみプレイヤーはエンドコンテンツ不足。課金の圧力的なものではなかった。
というか、課金するとしても480円の「結束の盟約」がお得すぎて、これさえ買えばほかに必要なものもなかったし……。

▲一応、特定キャラが集まるとストーリーが読める仕組みがある。コンプガチャではないかと思ったが、サービス終了間際まで存在に気づいていなかったし、別にそれで何か有利になるわけでもなかった。

そして、終了

サービス開始から地味に続けて3カ月。
「あ、これは楽しいぞ!?」となり、なんやかんやでモチベーションが湧いてきた2023年5月31日に無慈悲に告げられるサービス終了予告。

残念だったが、自然に受け入れられた。

「2画面で遊べるニコイチRPG」という売り文句では「珍しいな」と思っても「面白そうだな」とはなりづらく、宣伝も地味だった。
遊んでみても斬新すぎて脱落する人も多い。語る仲間がいないのは、プレイヤーとして実感できていた。
タイトルに書いた「人間の脳は2つのゲームを同時に遊ぶようにできていない」というのは真実ではなかったが、遊べるようになるまでは時間がかかるのだ。私はゆっくり遊んで半月かかった。

▲リリース時のストア説明文。2画面で遊ぶ魅力は文字でも動画でも説明が難しかった。

「画面を見て面白さが伝わらない」、「実は面白いが、2画面の良さはわかりやすく提示できていない」、「課金体制の弱さ」を考えると、終了にはなんら不思議はない。

「作業と言われる部分を効率化を楽しむものとした」新しさ、「先が気になる週刊ストーリー連載」が気に入っていたので、豪華なRPGを出すイメージではなく、草の根で広げたいRPGとしてアピールしていたら……と少し思うが、言っても詮無きことだろう。

とはいえ、開発のDeskworksはユニークな見た目のRPG『RPGタイム!ライトの伝説』に続き、本作でも目新しくて面白い仕組みを提示してきた。
2作とも暖かみのある作風、新しいアイデアの提示が共通しており、今作が好きなら次回作も期待したいと思える、開発会社の株が上がるゲームではあったと思う。

ということで、Deskworks先生の次回作に期待しています。