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すべてはクイズのために。1年近いメンテナンスでリニューアルした『マチガイブレイカー Re:Quest』の改善点を、開発者自ら語る。

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前半の記事(業界最長の8,247時間のメンテを決行したスマホゲームの裏側に迫る)で、あまりにも未完成だったゲーム『マチガイブレイカー(以下、旧マチブレ)』を1年かけてリニューアルするまでの赤裸々な話を語ったが、それではリニューアル版である『マチガイブレイカー Re:Quest(以下、新マチブレ)』はどのように面白くなったのだろうか。
具体的な改善点と、ゲーム開発者は何を考えて改善を実施しているのか、引き続き、ディレクターの林幸司さんにお聞きして印象的だったものを書いていく。

そもそも『マチガイブレイカー』の基礎の面白さは確立している
と、その前に1つ。書いておきたいことがある。
そもそもとして、『マチガイブレイカー』は面白いコンセプトを持っていて、基本となるアイデアは『旧マチブレ』時代から面白そうだった。
普通のクイズRPGは4択クイズから1つの正解を探し、正解を指摘できると敵に攻撃できる。これには1つ、クイズの正解がわからないとまったく手も足も出ないという欠点があった。苦手ジャンルのクイズが出ると、連続して攻撃できないことも多かった。
ところが、『マチガイブレイカー』4択クイズのなかから3つの誤答を指摘し、誤答の選択肢を破壊する(=攻撃)して遊ぶものになっている。
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▲マチガイを3つ選ぶクイズ。間違いを1つでも見つければ攻撃できる。

この仕組みの優れていることは、正解がわからずとも“明らかに間違っている回答”を1つ見つけて選択すれば攻撃できること。つまり、手も足も出ない状況が少なく、低ストレスで遊べる。
もちろん、3つすべてのマチガイを指摘するとパーフェクトブレイクが発生し、強力な攻撃がでて相応に気持ちいい。
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そういった面白い独自アイデアを活かすため、リニューアルは行われている印象を受けた。

すべては間違い探しクイズのために
nama
『旧マチブレ』のマチガイで驚いたのは、公式ページで「クイズにマチガイがあった」ことを書いていたことです。
もちろん、多くのクイズゲームにマチガイがあって、大抵はバグ報告のような形で後に直る。マチガイが少しあって当然のジャンルで、特別に改善点とした理由などをお聞きしたいです。

林:
『旧マチブレ』のクイズは作り直す必要があったんです。
クイズは専門家に作ってもらっているが、マチガイブレイカーはマチガイを探すので通常のクイズと同じ常識では作れない。
何をやっていいの、こういう問題はだめだったね、というのをナレッジとしてまとめて、お客様に届けられる問題の作り直しを外部発注しています。
『旧マチブレ』の問題は、実に6000問がボツになっています。
クイズゲームを作るときは1万問以上作らないといけないのが通説なので、新たにクイズを発注しました。

nama
つまり、『マチガイブレイカー』のシステムが新しかったため、既存の常識で作られたクイズではシステムを活かしきれないことがあり、『マチガイブレイカー』専用のクイズを作っていったということですね。

林:
文章のつくり方も肝なので、数字の使い方、漢数字の使い方、三点リーダーの数など、すべてを決めて文章を目で確認しました。

nama
自動の禁則処理(※一定の規則で文章を整える処理)には任せられなかったのでしょうか。

林:
文章のつくり方はゲームのコアなので、禁則処理では対応できない部分もあるんですね。1つの文章内で数字のときと漢数字のときで、クイズのわかりやすさが変わってくる。
あと、わかりやすいルールとしては二重否定の文はやらない。
マチガイを探す行為は難しいのに、さらに文章が難しくなると気持ちよくプレイできなくなってしまう。
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 ▲『』と「」の使い方、改行位置などは非常にこだわっていて、文章を書く仕事でも勉強になるレベル。

nama
ひっかけクイズなどで「〇〇ではないとは言えないものはどれ?」といった感じの内容ですね。確かに二重否定は難しい。
そういったルールは、前にはなかった?

林:
僕が引き継いだ資料の中には存在しなかったです。
ほかにも『マチブレ』におけるジャンル分けの考え方を決めたり、独自に品質向上のためにシステムも細かいことをいろいろやっています。

nama
いろいろというと?

林:
クイズゲームは解けない問題はつまらないじゃないですか。なので、適正な難易度になるような仕組みを作りました。
クイズ出題された割合や正答率などをデータとしてとっていまして、出題がどんどん調整されています。
一般的にはクイズは専門家の方に作っていただいて、専門家の感覚で難易度が決定されているんですね。作っていただいた問題を3段階の難易度に割り振っている。
でも、それって作った人の主観じゃないですか。

nama
そうですね。

林:
多くのお客様の遊んだ結果が重要だと思っていまして、日々帰ってきたデータに対して、正答数が多いものはイージーに寄せていく。
100%正解率、100%誤答率のものは目を通して検討する。そういった運用をしています。

nama
実データに合わせて整理していく、わかりやすい理屈ですね。
新しくクイズ出題時に“報告”というボタンもできましたが、これも気になっています。
問題があったら報告するボタンと公式にありましたが、これは押したらそれで終わりですよね。何を報告しているのでしょうか。
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林:
実は多くのお客様にとって「クイズがおかしかったから問い合わせする」って難しいんですよ。
この問題って難しい、間違っていたと瞬間的に考えても、ゲームをやっているとあとで報告しようとしたころには忘れている。
でも、出題されたときに報告ボタンを押すだけならできる。

nama
確かに、何か問題があったとして問題文面を描くのも面倒ですし、「ま、いいか」ってなってしまいがち。それでも報告ボタンを押すだけなら、できる。
でも、この方式だと「なぜ、報告されたのか」わかりづらいですし、間違ってボタンを押すこともあって、報告が増えて手間があるのでは?

林:
仕組みは企業秘密ですが、間違えて押してしまうというものも考慮されていて、問題を報告した状況、通報のされ方を解析して、まずいものを直せるようになっています。
これによって、クイズの品質が上がっていく。
これは公式サイトにも書いてあるのですが、クイズを解いて行われるバトル演出のテンポも上がっています。

nama
『旧マチブレ』のときよりも、クイズを気持ちよく解けている気がしていて、演出の進化を実感していたのですが……。
出題の見直し、難易度改善、問題解析の全面で見直されていたんですね。

クイズが解くことが楽しいゲームへ
nama
さて、ゲーム面の改善の目玉などあれば、うかがえるでしょうか。とくに公式サイトを見るとマルチプレイは改善したと書かれていますが……。

林:
『旧マチブレ』では、どのクエストでも協力プレイでクイズバトルするマルチプレイ機能が解放されていました。
しかし、マルチに関しては、全部のクエストで好き勝手行けると失敗すると考えていて、『新マチブレ』では“ジャンルの塔”というイベントで解放される機能にしています。

nama
その考えは?

林:
マルチ機能が流行してから多くのゲームにマルチが採用されていますが、最初はいいですけど、時間がたつと一番最後のクエストにしか行かなくなりますよね。
序盤の人のクエストにめっちゃ人がいない状態になる。
マルチどこでも行けますよと言っていたのが、「超高難度クエスト」しか人が集まらない。
すると、初心者が入ってきてもマルチがマッチングしなくなって、ゲームに実際に人がいるのに、過疎感が演出されてしまう。

nama
確かに、サービスが長いゲームは序盤クエストがマッチングしないことが多い。

林:
また、別の問題も発生します。
(マルチを実装する開発者は)みんな仲良く遊んでもらいたいと思っているけど、一般に“超高難易度クエスト”に分類されるクエストは難しいじゃないですか。そうでないと、やりごたえがなくなってしまうから当たり前で、針の穴を通すような難しいものにならざるを得ない。

nama
あ、わかりました。
高難度クエストになると、弱いプレイヤーはマルチで強いプレイヤーに嫌われて、マルチがなかなか成立しない問題ですね。
弱いと「部屋から出ていけ」って言われる。

林:
はい。そういうのは良くないと思っていて。
『新マチブレ』では、上級者の人は初心者マークついている人を囲ってくださいね。ポイントが手に入るので、と言うところを目指しています。
イベント頑張って協力した結果、育成が加速するアイテムがいっぱい手に入る予定になっています
上級者は成長して、初心者は参加しやすくなって、win-winになるものを目指しています。

nama
前回の記事と若干かぶってしまいますが、『新マチブレ』は「クイズが楽しいRPG」になるためにリニューアルをしていった経緯があるわけじゃないですか。
そして、クイズの正答率や回答速度で判定されて、クイズが得意なら始めた日から1位になれるイベントが用意されている。
マルチが楽しいのはわかる。しかし、その意味はどこで生きてくるのでしょうか?

林:
実はクイズ大会とマルチイベント「ジャンルの塔」はゲームサイクルで繋がっているんです。クイズ大会には報酬クエストと呼ばれる追加クエストが登場します。
この報酬クエストは、キャラクターが育っていないと莫大な報酬を得ることが難しい。クイズが苦手であれば勉強すればいいのですが、ゲームで強くなるというのは一朝一夕では終わらない。それをサポートするためにマルチイベントである「ジャンルの塔」で後押しする流れになっています。

マルチであれば一人ではクリアできそうもないクエストも先に進められる。そうして沢山の報酬を手に入れ、強くなる。強くなればノーマルクエストを進められる。
そうすると自然に次のクイズ大会では上位クラスに最初からエントリーされますし、報酬クエストもクリアできるようになっているはずです。
そういった細かいサイクルと大きなサイクルで、プレイヤーのやる気や目標が自然にできるように作っています。

nama
クイズが得意だと楽しい、そしてクイズ大会で成績を残せたら報酬を多く得たい、多く得るため強くなるためにマルチプレイをしたくなると。
ゲーム全体に「〇〇をしたら、××したくなるという」小さなサイクルが埋め込まれているように感じました。

林:
ゲームを始めると「最初は仲間を増やしたい」からメインクエストを遊んで賢者を集める。
賢者が集まると使用する武器やスピリットが欲しくなってくる。
武器やスピリットが手に入ると育てたくなっていく。と言った形で次の目標が見えて、ゲームが加速していきます。そこから最終的にはクイズ大会で好成績を残したいとなるようにしています。

nama
そういったプレイのモチベーションが自然に見えてくる作りになっている、ということですね。
プレイしていて次の目標が見えてくるというのはごく当たり前に思えますが、意外にできていないゲームも多い(※ゲーマーは長い経験から〇〇したら××などと自然に考えるが、現実はそうできない人も多い)。
『新マチブレ』では、どのような動機でプレイを続けたくなるのか、そこに注目して遊んでいきたいと思います。

速度テンポ4倍以上!バトルを快適に全面改良
nama
改良点と言えば、『マチガイブレイカー』独自ではありませんが、バトルについては気合を入れて改修されていますよね。
2倍速が導入されたのもいいですし、テンポがすごくよくなったと思います。

林:
実は、『旧マチブレ』のバトル演出にはすごい欠陥があったんですよ。
『旧マチブレ』のキャラクターは“スペル”という能力を持っていて、マチガイを破壊した数に応じてスペルを使用し、その演出が入っていました。
スペルはキャラクターが成長すると増えていき、ゲームを長く遊ぶほど演出が長くなってしまうという……。

nama
プレイすればするほどゲームが面倒になり、数少ないゲームをやりこんでいるプレイヤーを襲う……壮絶なマチガイ。
この点は公式サイトでも説明されていましたね。


旧演出は5.96秒以上かかっていて、新演出は2.37秒で終わるので2倍速以上早い。
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▲動画より切り抜き。

林:
それに加えて、2倍速やオートバトルなども実装したので、以前とは全く別物になっています。

nama
演出が改良されて待ち時間が半分以下になって、そのうえで2倍速で遊べると。
実際にプレイしていて気になりませんし、動画を見てもクイズRPG的な作品の中でもかなりいいテンポなのではないかと思えます。
オートバトルについても、クイズ大会のようなイベントでは使えないので「オートで作業をなくしたい」ときと、「本気でクイズしたい」ときで分かれていていいな、と思えています。
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▲通常時はクリアしたクエストでオートが使用できる。クイズ大会時はオートボタンが使えなくなる。

ゲーム業界で鍛えられた「説明書力」を見よ
nama
さて、クイズゲームとして強化された『新マチブレ』ですけども、そのほかに「これは独特」という改修などあるでしょうか。

林:
ヘルプを充実させたのは珍しいかもしれません。

nama
ソーシャルゲームのヘルプとなると、見に行くと大抵は役に立たない。
合成の細かいところが知りたいのに書いていないとか、課金に関する注意事項しかなかったり、それで見なくなってしまう印象がありますが。

林:
もともとコンシューマーゲーム会社にいたのですけど、コンシューマーゲームには説明書があるじゃないですか。
実際、お客様に説明してわかる内容を書いて、お客様に理解いただく能力を鍛えないといけないというものがあって。
そのノウハウで、ちゃんと書いています。リリース時で39,000文字程度ですね。

nama
(確認して)確かに、すごく細かいしわかりやすい!
しかし、なんでこんなに詳しいヘルプを。
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▲ヘルプ。項目も多いが「何をすればいいか困った場合」など、普通のヘルプにはない項目も。実際に選択すると、文面もわかりやすい。

林:
ヘルプを見る方の人数は少ないかもしれませんが、困ったときゲーム内で唯一頼れるのがヘルプで、それが不足しているとゲームを辞めてしまうかもしれない。
今はシステムの都合でテキストだけでしか掲載できませんが、将来的には各種画像付きのヘルプに作り直す予定でいます。
お知らせに関しても元より機能を拡張して、非常に細かく表示しています。

nama
どれどれ。イベント開始などの出だしは普通ですね……ん!?
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どのお知らせも長い。スクロールできる!
そしてイベントの更新日時とか、細かい点までガッツリ書いてありますね。
ガチャ更新のお知らせでは新しい武器が活躍するシーンまで書いてありますし、ものすごく詳しい。
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でも、他のゲームよりもはるかに細かく、これほど書く必要ありますか?

林:
どれだけの人が見るかわからなくても、そこだけがお客様に対して情報を発信できる唯一の場所になるので、情報はできる限り見やすく、細かく書いています。
ヘルプはお客様が困ったとき最後に確認される場所ですし、お知らせは新しい情報を適切に得られる唯一の場所と考えています。

nama
私などはヘルプを見る習慣が長い間になくなっていきましたが、誰もが私のようにすれているわけでもないですし、とくに慣れていない人ほどヘルプなどを見る、ということですね。

林:
(サポートセンターなどに連絡してこない限り)そこだけが接点になりますし、わかりやすいことに意味があると思っています。

nama
他にも何か、『マチブレ』でしか見られないようなこだわりなどありますか。

林:
そうですね、実はどんな画面の端末にも対応しているのは隠れたこだわりです。
実は端末の仕様はAppleやGoogleが細かいガイドラインを出しているんですけど、そういったものを遵守して端末に応じて最高の状態で遊べるようになっています。

nama
確かに、『新マチブレ』はiPadで表示しても帯対応(※スマホで表示できない場所は帯のような壁紙でごまかす)じゃないですね。

林:
タブレットと縦長のスマホ端末とで表示領域が違うとき、最適な画面表示がされるようになっています。
たとえば、iPadだと横が広いので一覧に一列で5キャラ表示されます。スマホだと一列4キャラですが、縦長のスマホだと表示されるキャラクター数がその分増えて便利になります。
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▲iPadは横に5体のブキ(文中はキャラクター表記)が並んでおり、スマホは4体になっている。

nama
おお!確かにこれは面倒なことをやっていますね……!

林:
『旧マチブレ』から画像素材も作り直して、きれいに見えるようにもなっています。
珍しい画面比率の端末を持っているなら試してほしいですね。

nama
ありがとうございました。
『旧マチブレ』を遊んだとき、実はそのひどさに驚いてしまって記事を書いたほどだったのですが、『新マチブレ』は悪かったところは他のゲームの水準まで引き上げられていて、同時にそれ以上のこだわりのある場所もできている、それがわかる内容でした。
実は、私にとっては今は単にスタミナがなくて気軽に遊べるクイズゲームとして遊んでいるところがあるんですけども。
普段は意識しない武器やスピリット(防具)がどのように遊ぶモチベーションに作用しているか、遊んでいると何がしたくなるか、考えながら遊ぶと勉強になもなりそうです。

以上。

いま『マチガイブレイカー Re:Quest』は、クイズゲームとしての品質が上がって、明らかにリニューアル前より良くなっている。普通に遊んで楽しい。
が、「ゲームってこんな仕組みで考えられているんだ」と言うことを考えて遊ぶと、また別の面白さもあるだろう。
ヘルプを見たり、クイズの文面を見たり、他のゲームとの違いを気にしながらゲームも遊んでみるとまた違った楽しみが得られるはずだ。

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