ゲームキャスト

面白いゲームを探すなら、ここ。

開始2カ月で終了か、続けるかの判断。大規模改修、業界最長の8,247時間のメンテを決行したスマホゲームの裏側に迫る。

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昨今のオンラインゲーム市場は競争が激しく、多くのゲームが1年未満でサービスを終了していく。
ところが、新作を出すよりも厳しい世界がある。それは、初動が振るわなかったゲームの再起をかけて大リニューアルするものだ。
リニューアルが大成功する例もあるが、その多くはうまくいかず、一説には商業的な成功率は10%未満で、新作を作った方がヒット率は高いといわれる。
しかし、スマホゲームとしては異例の1年近いメンテナンスを行い、そのハードルに挑戦しているゲームがある。
スマートフォン向けクイズRPG『マチガイブレイカー Re:Quest』だ。

業界最長8,247時間のメンテに突入した『旧マチブレ』
通常、クイズRPGはクイズに対して正答することで敵に攻撃する仕組みを持つ。
しかし、『旧マチブレ』は正答ではなくマチガイになる回答を指摘して破壊する “つっこみクイズRPG“として、2018年9月12日、『旧マチブレ』は大きな注目を浴びつつサービスを開始した。
ところが、リリースされたゲームはお世辞にも良いとは言えないモノだった。バトルで使用するキャラクター “賢者”の入手方法はわからないし、マルチも人が揃わずに遊びづらい。実際、ゲームはしばらくすると目に見えて勢いを失っていた。
リリース直後に勢いを失ったゲームは短期でサービスを終えることが多い。だが、『旧マチブレ』は違う道を選んだ。
ディレクターを変更し、8カ月もの期間をとって異例の大規模リニューアルを行うことを発表し、延期期間も含めると約1年もの時間をかけてゲームのリニューアルを行ったのだ。
さらに驚かれたのが、マチガイに対する厳しい自己言及だった。新ディレクターが就任すると「ゲームの問題点と改善方針」が公式ページに掲載されたが、その表現は厳しかった。
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▲公式サイトより一部を抜粋。7項目にわたって様々なゲームの不備を開発側が認め、改善案を提示する異例の内容となった。

「ゲームとしての方針や目的がない」など歯に衣着せぬ言葉で的確に問題点を語っており、その様子はゲーム開発者などを中心に話題となった。
▲ゲームキャストでもツイートした結果、RTがもりもり伸びていった。

そして、『旧マチブレ』は予告通り2019年2月21日にメンテナンスに突入し、当初2019年10月サービス再開予定だったところ、サービス再開延期を経て2020年1月30日にサービス再開した。
メンテ時間は業界最長記録の総計8,247時間。1年近いメンテナンスで『マチガイブレイカー Re:Quest(以下、新マチブレ)』という名前になって生まれ変わった。

そして、実際に遊んでみると前より確かに前より面白い。何が起きたのか、気になる。
リニューアルの裏側、再配信延期の経緯、そしてリニューアルで行ったことなど、あまりに的確な「ゲームの問題点と対策」を示した『新マチブレ』のディレクターの林幸司さんにお聞きした。
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林:
でらゲーの林と申します。
『新マチブレ』では、予算に関わる業務も行ってプロデューサー兼ディレクターという感じで動いています。
普段はゲームコンサルタント、アドバイザーのような仕事をやっていまして、ゲームの仕組みを分析してレポートし、改善策などを提示する仕事が多いですね。

nama
ゲームの仕組みのプロということですね。
まず、林さんが大規模リニューアルに参加することになった経緯からお聞かせいただけるでしょうか。

おまえしかおらへんねん
林:
僕が『旧マチブレ』に入ったのは途中からですね。
今でも忘れない2018年の11月14日、当時すでに2つのゲームを担当しておりまして、ヘロヘロになりながら帰宅中。
その午前2時に電話がかかってきて。
みると岡本(※)から電話で。
※岡本吉起さんとは
2013年10月、株式会社ミクシィより開発に関わった「モンスターストライク」がリリースされ、2014年にはAppStore、GooglePlayでの国内トップクラスのセールスを獲得するまでに成長。
でらゲー公式サイトより抜粋)

nama
岡本さん!
レジェンド的なクリエイターから午前2時に電話。たしかにただ事ではないですね。

林:
恐る恐る出るんですよ。

岡本「マチブレ引き受けてくれへんか?
まずいねん、あのチーム。KPI(※)みとるか?ちょっと、見てくれや」
林「明日、見ます」
岡本「いや、待ってられへん。ディレクターやって欲しいねん」
林「え、嫌です!これ以上やったら僕死にます」
岡本「わかった、ほか当たってみるわ。すまんかったな夜中に」

と言う感じで。
危なかった、と思いつつそこは帰ったんですよ。
※KPI…Key Performance Indicatorの略称。ゲームにおいては、たいていゲームが好調かどうかの指標となる数値。これが良いならゲームが好調で、悪いならゲームはうまくいっていないことになる。

nama
いきなり!ディレクター。ただ事ではない感がすごい。

林:
ところが次の週、11月19日か20日に岡本から連絡がありまして「やっぱ、お前しかおらへんねん、頼むわ」と。

nama
無理をわかっての2回目となると、よほどですね。

林:
2回もかかってくるなら、本当に(他の人は)無理だったのでしょう。
「じゃあ引き受けますけど、どういう結論を出してもNOとは言わないでください。
現状、KPI的にうまくいっていないことは確認したので、サービス終了してクローズするにしろ、やり直すにしろ(※)、成功する確率は限りなく低いです。それでもよければ、やるかどうか検討しますので」と言って引き受けることになりました。

※ディレクターを「引き受ける」は、単純にディレクターとしてゲームを運営して盛り上げるという意味だけではない。ゲームがサービス終了するまでプレイヤーを楽しませる、円満終了のためのディレクター業務なども存在する。

nama
なるほど。

林:
そして確認しましたが、最初に出した答えは「クローズした方がいいです」でした。

nama
11月と言うと『旧マチブレ』から2カ月ですよね。そのスピード感で終了・リニューアル判断が……!

林:
あと、このタイミングでディレクターも更迭されている(※つまり新ディレクター決定前なので、ディレクターがチームに不在だったことになる)。

nama
終わる気配しかない。

林:
当時、僕はクイズゲームについてお金をかけて調査したんですね。
有料の情報なので具体的には言えないのですが、クイズ系はヒット作があってブルーオーシャンなイメージがありますが、世の中でクイズゲームで開発費を回収できているスマホゲームはほとんどなく、難しいジャンルであることがわかっていました。

nama
確かに、最初の大ヒット作以降はクイズ系でのヒットを聞きませんね……。

林:
ディレクター不在、チームだけで動いていて数字も悪い、運営上手くいっていない。マーケティング的にも厳しい。
さて、どうするか……これはクローズした方がいいです、と。
当然クローズになると思って資料を作り、提出しました。
ところが、「(旧マチブレを)作りなおしてくれへんか」という回答が返ってくる。
おかしい。
そう思いましたが、作りなおしのプランを練り始めました。

nama
サービスを続けることが「おかしい」という状況。そこに立て直しプランを考える業務に。大変すぎる。

林:
でも、このころはまだ(最終的にクローズすると思っていたので)大したことだとは思っていませんでした。
さらに、過去にリニューアルしたゲームタイトルを調べると、調べた限り成功しているのは10%以下だったんですね。

nama
「〇〇リニューアル!」というプレスリリースはたまに受け取りますが、その成功率は10%……でも、確かに世界的なMMORPGにまで巻き返したPCのMMORPGやら目立つものもありますが、あまり成功を聞かないですね。

林:
サービスを作り直した場合、開発に時間が掛かります。お金も3億円ほど。新作が作れるほど掛かります。
リニューアルしても回収できる可能性は0に近い。
それでもやりますか、と聞くと……お金が出ますと。そうして、リニューアルのプランが始まりました。

旧マチブレのマチガイを振り返る
nama
林さんから見て、『旧マチブレ』はいかがでしたか。
いくつか、印象的だったことを具体的に語っていただけないでしょうか。

林:
公式サイトでも書いたこと、書いてないこと、いっぱいあります。たとえば、バトルで武器などを装備して戦うキャラクターの賢者。
nama
賢者はメインクエストを進めると手に入りそうな表示が出ていて、でも手に入らなくて「どこで手に入るのか?」ってなっていましたよね。

林:
そうです。『旧マチブレ』では、クエストに賢者のアイコンがあって、メインクエストを進めると賢者が手に入るように見えていました。
実際、そうするつもりだったそうなんですが、バグで手に入らない状態だったそうです。

nama
!?

林:
結局、サービス開始して1週間後、賢者をプレゼントしたようです。

nama
『旧マチブレ』でゲームを起動したら突然に賢者が加入したのはそれだったのか!
今、謎が明かされました。もう1つぐらい、いいですか。

林:
そうですね。
『旧マチブレ』は、ガチャから武器とスピリット(防具相当)が当たったんですけど、イベントをクリアするためにはまずスピリットが必要なんですね。防具がないと倒れてクエストはクリアできない。

nama
RPGの基本で、敵の攻撃には耐えられないとバトルできないというものですね。

林:
しかも、それを複数当てて限界突破しないとクリアできない。
イベントは皆に楽しんでもらうものなのに、ガチャから出るスピリットがイベントの参加権になってしまっていました。
実際、イベントの参加率はとても低くなった。

nama
厳しい……。

林:
それだけしてイベントで手に入る報酬は武器。
ガチャで強い武器が当たります。イベントをクリアするとガチャで手に入る武器より弱い武器が手に入ります。
余っても意味がない。いや、合成できたので意味ないことはないのですが、最上級アイテムを1400個集めるとか、クエスト3600周してくださいとか、それぐらいしないと意味がありませんでした。
現実的な数字ではない。

nama
改めて冷静に聞くとすごい状況ですが、当時のプレイヤーの反応はいかがだったのでしょうか。
もちろん、ゲームの根本のコンセプトを楽しんでいたプレイヤーがいたのはわかっていますが、その……全体の傾向として。

林:
そうですね、かなりのスピードでユーザーの皆さんからそっぽ向かれたとは聞いています。
『旧マチブレ』は広告費もかけて、岡本吉起のコンセプトを形にしましたという売り文句で初日や1週間ぐらいの流入数って結構あったんですね。

nama
11月5日に20万DLとプレスリリースが出ていて、リセットマラソンを含んでいなさそうな数字(※)で完全新規タイトルとしては結構良い数字ですごいなー、と思っていました。
※スマホゲームでは「100万DL!」などと景気の良い数字が並ぶ印象があるが、こういった数字はガチャで良い結果が出るまでアプリをダウンロードしなおすリセットマラソンというテクニックで稼いだダウンロード数値を含むことが多い。それを含めない場合20万という数字は十分にすごいし、運営し続けられる数字と言える。
林:
それが、1カ月離脱率98%。ディレクターを引き受けて欲しいといわれた2カ月後に残っていたは1%。
「このタイトルではごはんを食べられないですよ、という数字が出ています」
「おやつかもしれません」
と、語りました。

nama
おやつ……。

なぜ、テストプレイですぐわかる欠点がある状態でリリースされるのか
nama
しかし、それを聞くと改めて疑問がわきます。
プレイヤー側も、欠陥が明らかなゲームに対して「運営はテストプレイしているのか」などと言われますが、『旧マチブレ』もそんな状態だったと考えられます。
なぜ、完成度の低い状態でゲームがリリースされたてしまったのでしょうか。

林:
納期の問題が1つと、チームがまとまっていなかったというのが大きいと思います。
実は『旧マチブレ』は、私がでらゲーに入社した4年前弱にはベータ版があって、ファンクルー(※)という会社で少人数で長く作っていたものになります。
※ゲーム開発会社。現在に至るまで新旧の『マチガイブレイカー』の開発を担当している。
nama
なるほど。小さなチームでアイデアを出し合ってコツコツ作っていたんですね。

林:
ところが、プロトで作ったプロジェクトが正式に開発の承認を受けたあと、大規模な資本が一気に入ってきて加速することになるんですね。
そうすると、今までの経緯を知らないスタッフが入るわけじゃないですか。
その結果、チーム内で不和が発生して、結果としてチームとして機能しなくなる。

nama
急速に大きくなるプロジェクトあるある。

林:
で、前任者のディレクターが「このままだとまとまらないので、僕の言うとおりに作りなさい」と強権を発動したんですね。
残りスケジュールで完成するものを作った結果、ああなったと聞いています。
本来は世に出なかったかもしれないモノをディレクターの力で形にできた、とも言えるかもしれません。

nama
更迭されたディレクター、と聞くと評判が悪く聞こえますが、短い時間の中でプロジェクトを立て直したディレクターという2面の考え方があるわけですね。
ゲームの出来が悪いときプレイヤーが「テストプレイしていないのか」とか語りますが、実際は悪い個所を開発者も理解しつつ様々な要素の兼ね合いで世に出てしまうこともある。
『旧マチブレ』の場合は、残された開発期間の短さが完成度不足の一因だったのですね。

林:
一般的に最低3カ月、バランスとりやデバッグに必要と言われていますが、その期間が取れなかった。

成功が厳しくてもリニューアルをするとき
nama
先ほど、リニューアル案件は成功例が少ない、なおかつクイズRPGジャンルはメジャーではないなど、厳しい話をされていました。
そのうえで、会社がリニューアルの判断を下した理由は何でしょうか。

林:
その理由は私まで下りてきていないので、これは想像ですが……。
チームメンバーがトップダウンに納得していなかったのが大きかったと思います。
チームメンバーはやりたいことがあって、それができなかったから売れないと思っていたんですよ。
そこに道筋立ててやってくれへんか。と言うのが入り口。

かつ、世に送り出したものがあまりにひどかったのがあると思います。
クリエイターとかデベロッパーが悪評にさらされ続けて、会社の開発力が低いんじゃないかとか、言われてしまった。
ダメだったものを普通に遊べるものにしないといけない、という意思決定があったんじゃないかな、と思っています。

nama
プレイヤーに楽しんでもらわないといけないし、放置すると「あのマチブレの」とずっと言われてしまう。
社員の納得とプレイヤーへののエンタメの提供、クリエイターの名誉のために作りなおしたと。

林:
でも、今振り返ると大変なのはその先でした。

nama
ええ、『旧マチブレ』のリニューアル決定の経緯よりも大変なことが!?

チームを作り直す作業へ
林:
前に語った通り、複数のゲームを担当している僕は『マチブレ』にフルコミットできない。
プランを練るのは僕ですけど、それを実行するのは現場です。成功したらスタッフの実力なので、現場を評価してあげてください。
そして(リニューアルはそもそも成功率が低いので)ダメでも現場のスタッフの評価を下げないでください、そういう条件で入りました。
ここからプラン製作が始まりますが、リニューアルの正式発表と概要は1月に発表をしているじゃないですか。
つまり、リニューアル決定から発表まで残されている営業日数は20日ちょいしかありませんでした。
しかも、チームに入ってみると「また誰かきたよ」という形で、歓迎されていない状況。

nama
チームとしてはゲームが上手くいってなくて、その原因がトップダウン型のディレクターだと思っていたわけで、よそ者がまた来た感じになるのはわかります。

林:
まずチームに納得してもらう必要があった。
そこで、今の残っている人たちのスキルを見るために「どうすればゲームが良くなると思いますか」と、全員に改善点を資料で出してもらいました。

nama
トップダウンで納得いかなかったスタッフも、それなら納得しそうですね。

林:
ところが、そのアイデアの多くは使えないモノでした。
既存システムの駄目なところはそのままに、新しい要素を追加しようとしていました。それに、お客様が自発的にイベントやゲームに参加してくれる前提で考えていて、ゲームのモチベーション設定ができていないものが多かったんですね。
たとえば「マルチプレイは人が沢山あつまる」と書かれている。なぜですかと聞くと「マルチプレイがあることで友達と遊びたくなるので、友達を呼んでくれます」と。

nama
すみません、もう少し詳しくお願いします。

林:
この例でいうと、友達を誘う行為をプレイヤーが自発的に行ってくれる前提なんです。でもプレイヤーってそんな簡単じゃない。
これはAppleさんに禁止されてしまった方法ですが、昔は友達を呼ぶとダイヤが100個もらえますとか、強烈な動機を作って友達を誘ってもらっていた。多くの場合、何かしらの利点がないと自発的に動いてくれない場合が多いのです。
そういった「システムさえあればシステムを使ってくれる」という考え方の案が多かったので、まず私がトップダウンでプランを練り直すことにしました。


nama
先ほどの例でいうと「強い武器をガチャから得てイベントに参加するのに、報酬が弱い武器」みたいな、やる動機の弱さがあったと。
それにしても、最初はトップダウンでダメだったのに、再びトップダウンですか。

林:
そこで、納得できないことは説明するから、納得したらこれでやってくれ、という説明会をやりました。
ゲームの改善プランを示すリニューアル概要書を12月4日に作り、全員に納得してもらう説明会を行い、同時に良い案があれば採用するから、なんでも僕に言えと。

nama
前回はチームが機能していなかったトップダウンでしたが、今回はチーム内でとことん語ってトップダウンを通すという方向になったのですね。

林:
そうですね、公式サイトに掲載した内容より細かいものをまとめて、1つ1つ問題点と改善点を語っていて。
たとえば、『旧マチブレ』はクイズという方針はあっても、ゲームの目的がない。
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そこで、基本方針としてクイズ好きが遊んで、「俺がクイズナンバー1になるゲーム」にしようと語りました。
その方針として、いま世に出ているクイズゲーはクイズを解かなくてもクリアできるから。そこで、クイズを遊んで、クイズが得意な人が楽しめるものにしようと。
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たとえば、『新マチブレ』クイズ大会では3つのクラスがあります。
ポーンとビショップと、キング、これはノーマルクエストをどこまで進んだかでスタート地点が決められて、ゲームを長く遊んでいるほど上位ランクに進みやすい設計となっています。

しかし、本選クエストと言うゲーム内の順位を決めるイベントクエストがあるんですけど、これはクイズ能力が高ければゲームを始めてすぐにでも行けるようになっています。

当然、既にゲームを進めて強くなっている方が上位に入りやすいのですけど、別軸の評価も取り入れて正解率が100%だとか、めちゃくちゃ回答が速いですって人は始めた瞬間に最高クラスに上がって行けるんですよ。

nama
始めた日から、クイズが得意だと最上位にいける!
ソシャゲでいうと、最強の装備がないとクイズが上手くても上位に行けないようなイメージがありますが、そこまで徹底されるとやりたくなりますね。

林:
遊びとしていろいろありますし、もしトップになれないときでも次回までに戦力を強くしようとか、クイズをもっと覚えようとか、やりたいことが出るようになっています。

nama
ゲームを遊んで欲しい人を念頭に置いて、改めて目的を定めて、着地点をチームに説明したんですね。
「クイズゲームだから、クイズが好きな人に、クイズで楽しんでもらおう」
と語ると、当たり前のように思えますが、基本無料ゲームの世界ではそれが意外にうまくいかずにぶれがち。
先ほど例に出てきた「武器とスピリットが報酬として機能していない」問題などはどうなったのでしょうか。

林:
武器やスピリットも整理して、意味を作りなおしました。
先ほど、スピリットはイベントの参加権であったという話をしましたが、参加権がガチャだと遊ぶ人が限られてしまう。
よって、ガチャから出るのは武器だけにして、スピリットは誰でも手に入れて育てられるものにしました。
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nama
となると、武器がガチャでひたすら溜まっていくと。

林:
ガチャから手に入って、ダンジョンでも手に入って、それをどうする?という流れを作りました
武器は今売却システムがないんですよ。
同じ武器を合体させて強くしたり、他の武器の育成素材になります。また、分解してスピリットの強化素材にする3つの役割を与えています。
で、スピリットはこぼれてきた武器の受け皿になります。スピリットは育ててもいいし、売却してもいいです。

nama
で、スピリットでは武器を強化できないと。

林:
あと、これは「アイデアを持ってこい」と言った話の続きですが、リニューアルでスピリットを卵から育てたいというアイデアをどうしてもやりたいと語ったスタッフがいて、それは採用しました。
結果、スピリットは卵からかえし、生まれたスピリットは原案通りスキルツリーのように自由に育てられる形に着地しています。

nama
ソシャゲでは素材の役割がわかれているのが一般的で、何も疑問を覚えずに遊んでいましたが、「どこから手に入って」「どこで余るのか」考えて、より再利用しやすい、しづらいなどが考えられているんですよね。
武器は素材として上位で、スピリットは受け皿で……など、ゲームの小さな序列を分解してみていくだけでゲームの見え方が変化して楽しそうです。

あと、少し話がそれますが、この資料がわかりやすくて驚きました。
ライターの自分から見ても、わかりやすい資料だな、と。
たとえば「クイズ大会で自己承認&自己実現」というタイトルがすごくいい。
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▲エンターテイメント業界なので、装飾がない資料は良くないという林さんのこだわりも盛り込まれているという。「これ(エンタメを見せること)に手を抜いた場合、ゲームに手を抜くのと同じ」と語っていた。

林:
資料を作るとき、見出しに「クイズ大会について」とか、そういったタイトルを書きがちなんですね。
でも、人はタイトルと絵しか見ない。タイトルと絵で興味を引いて、細かい内容を見てもらえ、という教えを受けていて。

nama
記事の見出しでも同じような指導を受けますが、ディレクターが伝えるための資料を作る時も同じなんですね。
納得感のある分析と、わかりやすい資料スタッフで、スムーズに納得してもらえたのでしょうか。

林:
当然、最初は納得いかない、と言う声もありましたが、すべて対話して納得してもらいました。

nama
そうして、公式サイトにあったような膨大な修正点を改善し、今の『新マチブレ』につながる、と。
と、めでたしで終わりそうなところですが、ここで最後の爆弾と言うか、気になるポイントが……。
なぜ、リニューアルは一度延期されたのでしょうか。
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▲当初予定していた2019年10月に再開できず、再開延期のお知らせを出している。

林:
それは完全にディレクターである私の力不足なのですが、予定の期間で納得いくクオリティのものができなかった。

nama
でも、延期するということはまた予算がかかるということで……。

林:
当時は追加の予算を得るためにいろいろな場所で説明したり、交渉したりでずっと外に出ていました。
それこそ、抱えているほかのゲームの作業を平日にほぼできず、『マチガイブレイカー』のためにずっと働いて、他のプロジェクトは土日にやるような状況で。
現場にまったく顔を出せなかったので、気づくと「俺たちが作っているのに、林は現場を見離した」みたいなことも言われていて……大変でした。
が、その甲斐もあってUIなどを作りなおすことができ、最終的に延期した意味があるだけの完成度にできたと思っています。

nama
確かに、ゲームは劇的に変わったと思います。
実際、林さんとは「ゲームをプレイして良かったら取材しよう」みたいな話をしていて、「良くなってる、取材したい!」と思えた。
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▲出てきたものを触ってから取材しようという話になっていた。

私の体感としては良くなっていると感じていますが、実際にゲームとして、数字で良くなったことは見えているのでしょうか。

林:
詳しくは言えないですが、例えば先に話に出た継続率で言うとものすごく改善しています。

nama
体感が間違っていたら自分が信じられなくなるところだったので、よかったです(笑)
では続いて公式ページにあったこと、なかったこと含め、1年近くかけて改善した内容を細かく教えていただけないでしょうか。
ゲームの具体的な改善と理由が示されることは珍しいので、興味を持ってみる方も多いかと思います。

林:
はい。今回はとことん話させていただきます。

次は『マチガイブレイカー』リニューアルの経緯を終え、ゲームの問題点と具体的な改善点の解説に入る。
年単位の時間をかけてリニューアルするスマホゲームは『新マチブレ』ほかわずか。ゲーム開発者はどのように考え、何が、どのような意図で改善されたのか。
アプリをダウンロードして実物と比較しつつ見て欲しい。

続きはこちら:すべてはクイズのために。1年近いメンテナンスでリニューアルした『マチガイブレイカー Re:Quest』の改善点を、開発者自ら語る。

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