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なんで『ホームスケイプ』や『Hero Wars』の広告動画と実際のゲーム内容は違うの? 広告会社はどう思っているの? 調べてみました!

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「広告動画とゲームの内容が違いすぎる!」
ときおり、ゲーム好きの間では”広告詐欺”が話題になります。
広告詐欺とは、実際のゲーム内容が著しく異なる動画などを利用して集客する手法です。
スマホで広告付きゲームをプレイしていれば、1度はこういった事件を経験したことがあるとおもいます。
なんで、こんな動画が作られてしまうのか不思議ですよね。そこで、ゲームキャストは、これをネットで調べてみました!

スマホゲーム広告では、「スマホのゲーム広告が実際のゲームと異なる」という批判がかなり昔からあったようです。
有名なものでは2015年、Machine Zoneの『Game of War』のTVCMは「ゲーム画面がない」「女性の裸だけじゃないか」と言われて不評を買っているみたいです。


『Game of War』は日本で言えば『ブラウザ三國志』、最近のスマホゲームで言えば『マフィアウォーズ』のような、大勢のプレイヤー1人1人が領主となり、戦力を整えて戦う大規模オンライン戦略ゲームです。
実際のゲーム画面(下図)を見てみると……確かに地味で広告と違います。
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でも、「イメージ動画」を流す広告はゲーム機、PCゲームの広告でも利用されています。
戦争ゲームの『Game of War』で、戦場に向かう指揮官の描写をイメージ動画として広告に使うのは「あり」じゃないかな、と思いました。

▲ゲーム機では昔から実写イメージCMが使われていた。任天堂系、結構多かった気がする

日本のスマホゲームだと、『星のドラゴンクエスト』も実写CMを流していましたね。


2016年になると、それまで動画広告に加えて実際に触って遊べる“プレイアブル広告”が登場します。
広告内で「あなたはどっちを選ぶの?」と聞いて選択肢を選ばせたり、探し物ゲームをプレイできるようになったりと、広告作りの自由度が上がり、面白い広告も出てきました。

面白い広告、元ゲームの一部が遊べる広告などが出てきてよくなった面もありますが、ここで『Game of War』が発明をしてしまいます。
なんと、ゲーム内容と異なるタワーディフェンスゲームを作ってプレイアブル広告に使用してしまったのです!
そらく、スマホゲームの広告詐欺はこのあたりから言われるようになっていったのだと思います。


日本ではスクウェア・エニックスがこの広告詐欺を広めるのに一役買っています。
多くの人がご存知、『ファイナルファンタジーXV 新たなる王国』。
これはMachine Zone(配信元のEpic Actionの親会社)とスクウェア・エニックスの協力で生まれたアプリで、ほぼ『Game of War』のビジュアルを『FFXV』風に置き換えたゲームです。
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このゲーム内には本編とほぼ関係のないタワーディフェンス風のミニゲームなどが実装されており、広告と同じ内容のゲームが一応プレイできるようになっています。
これで「俺は広告詐欺じゃないぞ」と言い訳を作っているんですね。まさに悪魔的発想……!!
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そして現在。その流行も終わり、「存在しないパズルゲームを含めた動画広告」が流行り始めます。
たとえば、2016年10月にiOSでリリースされた横スクロールのRPG『Hero Wars』。
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最初は直球のゲーム画像、ちょっとセクシーな静止画などで宣伝していたようですが、2019年3月ごろからゲーム内容とまったく関係ないパズルゲーム風の動画広告を始めています。
これは動画にしか存在しない架空のゲームで、『Hero Wars』を遊んでも、ストアで他に探しても出てきません。
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なぜ、こんな広告ができあがって、それを流すことができるのか。
この動画でプレイヤーを増やしても、広告詐欺に怒ってアプリを削除してしまい、儲からないのではないでしょうか。
気になりますよね。
でも、ネットの調査ではわかりませんでした!

—―そこで、取材班はネットをあきらめて広告会社へと飛んだ—―

今回、匿名で取材に協力してくださったのは、実際に海外ゲームの広告を制作した2人の広告制作担当者だ。
ここでは女性向けの基本無料ゲームの広告製作担当していた方をAさん、中国製の男性向けの基本無料ゲームの広告制作担当をしていた方をBさんとする。

「当たり前ですけど人気ゲームはよくできているし、最初は普通に広告を出してますよ」
どんなゲームも、最初は普通にゲーム内容で広告を出す。
『ホームスケイプ』だって、普通にゲーム内容を前面に出していた。


ところが、大規模に広告を出していくと広告が全体にいきわたり、広告を見ても「もうこれは見た」と、新しいプレイヤーを呼び込めなくなる。
そうなると、今度はゲームを別の新しい切り口でPRする広告を出さなければならない。
『ホームスケイプ』ならパズルではなく、家をリノベーションするんだ、スローライフを送るんだ、そんなストーリー性を出していく。
すると、これまでと違う層が食いついてプレイヤーが増える。
そんなこんなで工夫していくと、先に説明していった『Game of War』のようなイメージ広告ができあがったりするわけだ。
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そんな状態だから、2016年にPlayableAd(遊べる広告)が登場するとゲーム会社は”新しい切り口”を求めて食いついた。
2018年に欧米のSNSでトップシェアを誇るFacebookがHTML5で遊べる“Facebook MessangerAds”を始めるとその流れは加速する。
皆さんも、この時期に下のような遊べる広告を見たことがあるはずだ。これはかなりの効果を発揮した。
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https://www.marketjs.com/html5-playable-adsより。クリックすると遊べます。

ところが、この”遊べる広告”には問題があった。
HTML5でゲームを作る作業は、動画を作るより大変だったのだ。
通常、広告は10種類以上が常時配信されていて、効果が良いものだけを残して定期的に新しい広告と入れ替えていくが、それが難しい。
そこで手軽にプレイ可能に見えるゲーム画面を動画で作ってみると……これが、うまく広告効果を発揮してしまう。
つまり、ゲーム画面風なのに遊べない(なんで遊べるようにしない、と怒られる)広告は、「ゲームを作ったら手間がかかるから生まれた」というわけだ。
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しかし、まだ「実際のゲームと違いすぎるゲーム動画」が生まれ、使用され続けていることには疑問が残る。
これに関しては、AさんもBさんも「おそらく」という前置き付きで同じような回答してくれた。
「どこでも話題になるぐらいの大ヒットゲームだと(Aさん、Bさんが広告を作ってきたゲームと)事情が違っていて、ネタを使い切ってしまうのです。それで目立つように演出を頑張って明後日の方向にいったら、成功してしまったんじゃないかと」

しかし、それで来たプレイヤーがゲームを遊んでくれるのだろうか?
それの疑問に関しては、明確な回答が返ってきた。

「基本無料のゲーム会社は人数を金で買う計算をしているところが多く、実際にお金になっていれば気にしません」と。
イメージと異なる広告を出すと、プレイヤーの多くはすぐゲームをやめてしまう。
しかし、100人のプレイヤーを集めればその中の1人ぐらいは結構課金してくれるから広告の採算がとれる。だからプレイヤーさえ入れば、多くのゲーム会社は気にしない。

そんな状況だから、『ホームスケイプ』などは明後日の方向に行った広告の成績が良いと他のゲーム会社も真似をする。
そちらの方面に演出が加速して、他の会社もそれを真似だして、「遊べるように見せかけた広告の戦国時代がやってきて競っている」状況なのだとか。
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▲Hero Warsのパズルがホームスケープに導入される。容赦ない競争。

つまり、広告詐欺の動画は
・ゲームがヒットした結果、たくさんの種類の広告を出してネタ切れした。そのため、ゲーム内容とかけ離れたものを試したら受けてしまった。
・基本無料ゲームは人数を集めれば儲かるので、内容と違っても問題ないと考える会社があってゲーム内容とかけ離れた広告が継続した。
・もとは遊べる形式のプレイアブル・ミニゲーム広告を作っていたが、ゲーム作りは手間なのでミニゲーム風動画にしたら効率が上がった。
という流れで作られたようだ。

そこがわかると、次の疑問が出てくる。
過激すぎる広告を出したり、プレイヤーをだますことには抵抗がないのだろうか、ということだ。
正直に質問をぶつけてみると、意外にも2人とも「プレイヤーをだましている認識はない」と返ってきた。
『ホームスケイプ』のような大手がやっていることはまた事情が違う(ネタ切れの結果)が、基本的に広告するゲームの世界観やキャラ素材などを使っている限り、ゲームを補完したり、キャラをPRしたりするものでだましていない認識だという。
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▲Bさんはこのような広告を出したことがあるらしい(画像は別のゲームの似た画像)。
ゲーム内容は王になって征服するというモチーフだし、世界観とゲーム内容に一致するので問題ないし、だましていないと思うとのこと。海外で言えばホームスケイプ、日本で言えば『ビビッドアーミー』レベルはモラルの崩壊を感じるとは言っていたが、理解もできるという。

広告を受け入れるプラットフォームにも「シネマティック」というジャンルがあり、イメージ動画として申請すれば問題なく配信できる。
どこまでがイメージ動画で、どこまでが騙し広告なのか、明確に判断することはプラットフォーム側には難しい。

▲例えば、日本では武富士の広告はひたすらダンサーが踊っているだけだった。しかし武富士に行ってもダンサーはいないし、踊りも教えてくれない。金を貸してくれるだけだ。これがイメージ広告として許されるのだから、ゲーム内容と離れていても許さない……という判断は難しい。

また、実際に現在のところ「広告詐欺」というように欧米でもゲーマーにはネタにされているが、広告のターゲットとする層には受けているし、通報もされないから受け入れられている認識だという。
今回はゲームに関してコアゲーマー視点で聞いていったが、そもそもこういったイメージ広告はゲームジャンルの外でも多用されている。ゲームに近いジャンルで言えば、漫画などの広告はゲーム以上に実態を誤解するものが多い。
広告制作側からは「なんで他のジャンルでは社会的に認められているのにゲームだけダメなの?」という意識の差を感じた。

いわゆる広告詐欺はゲームをプレイする層からすると、面倒だしストレスに感じる。
しかし、広告を受け入れるプラットフォームがあり、ゲーム会社が望んでいて、広告を作る側も「イメージ動画である」と考えている。
さらに、実際に客がくるし通報されるわけでもない。となると、この広告は当分続きそうだ。
ただ、見ていて本当に行き過ぎていると感じるものがあれば……消費者庁に通報するのがいいのかもしれない。

—―あれが最後の広告詐欺とは思えない。取材班はそんなことを考えて帰宅した—―

いかがでしたか?
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ところで、この「広告詐欺」が本物になってしまった例が1つだけあります。
この記事でも紹介した『Hero Wars』では、広告を出した後に「ゲーム内にパズルゲームなんてないじゃねぇか!」という文句が出まくりました。当たり前ですよね。
文句が出まくって、出まくって……なんと2019年12月に「みんなが遊びたがっていて好評だったから、パズルゲームをHero Wars内に実装したよ!」と、公式に実装してしまったのです。
実際、いまダウンロードするとゲーム開始時に少しだけパズルが遊べますね。動画もとってみました。

▲参考動画。開始して少しするとパズルが遊べる。

でも、このパズル広告動画で見るよりもギミックがショボくて、はるかにクオリティが低いんです。だから、これがまた不評を買ってしまったようです。
現在は公式より高品質に広告ゲームを再現した『Hero Rescue』というゲームが出ているので、気になる方はこちらを遊んでみてください。


3月19日16:00
誤字や文章のおかしいところ、他のジャンルでも実際と異なるイメージ広告が使われていること、取材部分の導入と終了の区切りが明確になるよう修正しました。