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アプリの価格破壊を主導したAppleが有料ゲーム市場を復活させたい理由とは?

「Appleは有料アプリが売れないことにいらだっている」の記事で、Appleが有料市場を復活させたいと思っているだろうと書いた。

しかし、iPhone の前身である iPod は、音楽の単価を下げてシェアを取った製品だ。
iPhone を出してからは、アプリの価格破壊を劇的に推進した張本人でもある。
それが、なぜ今更「有料市場を復活させたい」と思うのだろうか。
Apple の予想以上にデフレが進み、焦っているのだろうか?

おそらく、そうではない。
自分は、Apple がシェアを取るために、冷静な判断で有料アプリを支援していると予想している。

まず、有料アプリ市場を作り出せると Apple にどんなメリットがあるのか考えてみよう。
1,000円〜2,000円のアプリが売れるようになった場合、Steam(PCのゲームDL販売ショップ)のインディーズゲームが多く iOS にやってくることが考えられる。
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▲話題に上った『The Banner Saga』もSteamゲームの1つ。


Android は有料ゲーム市場が壊滅しており、復活はまず不可能である。
日本では多少売れているが、例外中の例外と言えるだろう。
日本の Android は docomo のユーザーがおり、コンテンツに金を出す習慣があるユーザーがいる。
しかし、世界的に見るとあまりアプリに金を出さないユーザーが安いスマホとして購入している割合が多く、売上げのほとんどは基本無料ゲームが占めている。

そんな中で Android にインディーズゲームを移植する手間をかける開発者は少ない。
つまり、有料市場を復活させられれば、Android にはないゲームが手に入るわけだ。

これは、Apple にとって Android に対抗する大きなアドバンテージとなる。
海外ではヘビーゲーマーが iPad を携帯ゲーム機として使うケースが増えている。
日本にいると感覚的に理解しづらいが、海外での iPad は携帯ゲーム機として勢いがあるのだ。
例えば、最近リリースされた『モダンコンバット5』をiPhoneでプレイすると画面が小さくて見づらい。
それは、タブレットサイズをメインターゲットにして調整されているからだ。
つまり、スマホの売上げよりタブレットの売上げを多く見ているのだ。
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▲モダンコンバット5。敵が小さくてiPhoneではプレイしづらい!

Steam のヘビーなゲームをより多く出せれば、タブレット戦争で大幅に有利になるはずだ。
そう考えると、Appleの考えは理解できる。
市場を破壊しすぎて「本当はこんなつもりじゃなかった!」と取り繕っているのではなく、タブレット市場をとるために有料ゲーム市場を復活させる必要が出てきたわけだ。

Steamのゲームを「基本無料」や「体験無料」に直せるかというと、ほぼ無理である。
すると、自然に「有料アプリを高額で売りたい!」ということになる。

基本無料に修正できない理由は簡単だ。
Steam のゲームは、基本無料では成り立たないゲームなのだ。
コンテンツを細切れで売るやり方は、完結する前提で作られ、運営のないゲームでは売りづらい。

体験版を出せない理由もある。
有料のゲームの作りとして、買ったら最後まで我慢して遊ぶ前提のものも多い。
序盤は地味で、ラストに向けて盛り上がるストーリーのゲームを体験版にしたらどうだろうか?
体験版の時点で続きはやらなくなるだろう。

ならばいいとこ取りの面白い体験版を出せばいい、と思うかもしれない。
しかし、そんな体験版を作るとそこそこの大きさのアプリを1本作る程度の手間がかかる。
ユーザーを誘導する1つのアプリとして面白くなるようにデザインし、別途デバッグしなければいけない。
そんな手間をかけるぐらいなら、インディーズメーカーは別のゲームを作る。

だから、Apple は Steam のゲームがそのまま出せる有料の高額市場を作る必要がある。

が、基本無料に行くビジネスの流れや、無料を求める消費者の流れはもう戻らない。
過去にもさまざまなゲームメーカーがゲームの価格を高く維持しようとして失敗してきた。
Sonyは定額販売制度をしこうとして失敗したし、ゲームメーカーは中古裁判でも負けた。
安くなったものを高くするのはとても大変なことだ。

果たして、いまさら高額アプリ市場を作るなどムシのいいことが通るのだろうか?
自分はあり得ると思っている。

1つは Apple が本気で有料市場の復権を意識しているのではないだろう、ということ。
Apple の狙いがインディーズゲームであるなら、iPad のゲーマーを一定数確保して同好の士が有料ゲームを一定数購入する市場を作ればいい。
ものすごく儲からなくても、ある程度買われる市場があれば、インディーズの受け皿として機能する。

もう1つはApple は iOSハードを完全に支配しているだけでなく、最大の小売店である AppStore を持っていることがある。
ここではルールを決めることも、小売店でプッシュすることも Apple は自由自在だ。
現在でも、お気に入りのアプリに対しては助言を行い、競争相手がいない時期にリリースすることをアドバイスしたり、App Storeでおすすめとしてプッシュしている。
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そして、「ストアでプッシュするから、高額アプリは値下げを軽々しくしないでくれ」ということもできる。
価格を決める圧力をかけ、高価格アプリの価値を維持すれば、「高価格帯アプリは値下げを滅多にしない」と認識する消費者を作ることもできるだろう。

まあ、真の思いはどうあれど、Steamの名作が iPad で遊べるようになるのはありがたい。
シンプルな操作のゲームならアクションでも十分遊べるし、戦術シミュレーションなどはタッチパネルの方が操作しやすいことも多い。
開発者も収益源ができて嬉しい。

難易度は高いと思うが、Appleのチャレンジの成功を祈るのみだ。