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レビュー:展覧会の絵 ゲームブックである長所を生かした最高の1冊。

展覧会の絵(Ver1.0) 500円 + iPhone/iPadの両方に対応
開発:Faith
評価:3.5(かなり面白い)
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小さいシーンの連続で把握しやすい。
小説の描写とBGMがマッチしており、引き込まれる
行動回数の制限がプレイに緊張感を生んでいる
選択肢がページの端にあると選択しようとしてページめくりになることがある
自分の名前すら思い出せない「あなた」が不思議な旅を繰り広げるゲームブック。
ゲームブックとは読者が読みすすめながら選択肢を選び、それによってストーリー展開から結末まで変わる、「遊ぶ」本のこと。
『展覧会の絵』は初プレイだったのだが、ゲームブックにはまっていた当時にプレイしなかったのを後悔するぐらい、よくできたゲームブックだった。
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▲行動を自分で選ぶ

ゲームのストーリーはピアノ組曲「展覧会の絵」をモチーフにしており、プレイヤーは吟遊詩人として10枚の絵の世界を冒険し、自分の記憶を探すこととなる。
ゲームブックは小説とゲームの間にある本で、アドベンチャーRPGのような雰囲気の物が多いが、本書はどちらかというと小説に近い。
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▲文章の表現は小説のよう。

背景描写は通常のゲームブックよりも長めで、最初から最後まで流れるちゃんとしたストーリーもあって、ゲームブックにありがちな行き当たりばったり感が薄い。
月並みな表現だが、BGM(もちろん、展覧会の絵)もマッチしているのもあって自分自身が不思議な世界に入り込んだような没入感がある。
これは他のゲームブックではあまり見られない特徴だ。

また、ゲームの進め方も独特。
ゲームでのプレイヤーの立ち位置はよくある冒険者ではなく、吟遊詩人。
障害の解決方法もありがちなバトルではなく、竪琴による3つの旋律によるものになる。
どんな生き物とも話し、分かり合える【和解】、様々なものを破壊する【戦い】、邪悪なものを退ける【魔除け】の3種類の【魔法の弦】を複数持っており、状況を判断して使い分けることでRPG的なバトルだけでなく、会話などで切り抜けることが可能。
これらの【魔法の弦】はなくなってしまうとゲームオーバーになるので選択に緊張感が生まれ、「自分で状況を判断して切り抜けている」感覚が生まれている。
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▲魔法の弦が行動回数+HPの役割

ゲームブックとして見てみると、わかりやすくなっているのも iPhone の手軽さにマッチ。
10枚の絵の世界はそれぞれに独立した1場面となっており、小さくまとまっているので状況が把握しやすい。
それでいて【魔法の弦】がゲーム全体で使うべき資源となっているし、ストーリー背景もしっかりしているので物語とゲームには全体としての統一感がある。

もちろん、単なる電子書籍ではなく、手持ちのアイテムなどを管理してくれたり、重要な情報を記録してくれる機能、しおり機能、サイコロが必要な場所はランダムで判定してくれる機能付き。
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同じメーカーの作品である『iグレイルクエストⅠ・Ⅱ』と比べても進化しており【前へ】ボタンでいつでも前のページに戻ることができ、より本物の本でイカサマをしている感(ゲームブックはイカサマしてプレイするのも定番の遊び方)が出ている。
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▲これ、最高。

ズルといってもなんでもできるわけではなく、初回はアイテムなどを取得していないと通れない場所は遊べないようになっていてゲームとして楽しめるし、1度クリアした後はフリーモードで本当に自由に選択肢を行き来することが可能。
さらに、ゲームブックだけの特典としてクリアした後は本の著者が編曲した「展覧会の絵」の曲が聴けるおまけ付き。

ストーリーに入り込むことができ、ゲームブックとして遊ぶバランスもよく、個人的には今までプレイしたゲームブックの中でも最も好きなゲームブック。
(もちろん、人それぞれ好みがあるだろうが、最も気に入ったのでタイトルにもあえて最高と入れた)

ゲームブック世代には必ずプレイしてもらいたい1作。
本を読むのが好きなゲームプレイヤーも試してみる価値がある。
評価はゲーム内容と、その独自性を考慮して3.5としたい。

さあ、展覧会の絵をダウンロードするならAppStoreへ
そうでなければiグレイルクエストⅠ・Ⅱを買ってもいいし、他のゲームを探してもいい。

関連ページ:
「展覧会の絵」の想い出

余談
この記事を書いているときに著者の方のHP、「展覧会の絵」の想い出にてゲームブックについて語る段で「なるほど!」と思った部分があるので最後に引用させていただく。
私の考えでは、もう少し文章力や構成力のある新人を育てて、コンピューターゲームとは違った独自の道を行っていれば、あんなに短命で終わらなかったはずなのだが――。
その解答がこのそのまま『展覧会の絵』で、確かに今までプレイしたゲームブックにない小説とゲームのいいとこ取りがあり、20年前にブームが終わったゲームブックの可能性を、今更感じさせられた1冊だった。