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大資本傘下のゲームはインディーゲームなのか? 『デイヴ・ザ・ダイバー』のTGAインディー部門ノミネートから考えるインディーゲーム境界線問題

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もう、これで何回目だろうか……。
インディーゲームとは何か、大企業がインディーゲームをリリースできると問題が起きてしまうのか。

11月14日、世界的なゲームの権威である『The Game Awards 2023(以下、TGA)』が、ネクソンという大資本傘下のゲーム『デイヴ・ザ・ダイバー』をベストインディーゲーム部門にノミネートされたことで、インディーゲーム定義の曖昧さと、大資本のバックグラウンドを持つインディーゲームの存在が再び議論になっている。

まず、今回の『デイヴ・ザ・ダイバー』が議題に上がっている背景から触れていこう。
11月14日世界最大級のゲームアワード『The Game Awards 2023(以下、TGA)』のベストインディーゲーム部門に『デイヴ・ザ・ダイバー』がノミネートされた。
ミントロケットが開発・販売する『デイヴ・ザ・ダイバー』は面白いし、見た目が2Dで価格帯も安いインディーっぽいゲームである。
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ただし、ミントロケットは世界でもTOP10に入るゲーム会社ネクソンがバックグラウンドについたゲームで資金も余裕もある。
これに対して、インディーゲームファンやインディーゲーム開発者からは「インディーの精神を損なう」と不満の声が出ているわけだ。
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TGAノミネートリスト。先だって『Golden Joystick Awards 2023』でも『デイヴ・ザ・ダイバー』がインディー枠でノミネートされていたが、TGAで初めて議論が巻き起こるあたり、TGAの権威がうかがえる。

この議論はインディーゲームの定義の曖昧さから起きている。例として4つほど定義を上げていこう。

・少人数、小資本で作っているゲーム。
・大企業では実現できない尖ったゲーム。
・独立資本のゲーム。
・企画やゲーム制作が独立しており、他社の影響を排除しているゲーム。

などなど。人によってインディーゲームのイメージも定義も異なる。
そのため、異なるインディーゲーム観を持つ人間の利害が対立してしまう。
今回の『デイヴ・ザ・ダイバー』はこの問題の中心にいる。

インタビューなどを紐解くと、ネクソンやミントロケットの関係者が「デイヴ・ザ・ダイバーはインディーゲームである」と言うシーンは見当たらない。
それどころか、GAMETOCのインタビューではキムデウィン副社長の見解として「インディーゲームのように見えるかもしれないが、そうではない」と語られている。

ゲームキャストでは過去に『エビルファクトリー』や『アフタージエンド』などがリリースされたとき、ネクソンに「面白いけど収益性が低い、もしくはリクープできなさそうなゲームが開発許可されたのか」と質問したことがある。
回答は「作りたい開発者がいるので自由に作らせている」だった。
恐らく2017年からネクソン社内で自由にゲームを作れる環境があり、その延長線上で『デイヴ・ザ・ダイバー』がある可能性は高い。
つまり、「企画開発の独立・自由」という定義のインディーゲームであるとは認識しているし、スマートフォン版が来たらインディーゲームとして取り上げていた可能性はある。
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▲世界崩壊の跡を旅する『アフタージエンド』。スマホ専用の買い切りゲームだった

自らインディーと言わない一方で、宣伝において『デイヴ・ザ・ダイバー』はインディーとしてふるまっている。
日本のGameSparkのインディーゲームのメールインタビュー企画にも、海外のインディーゲーム記事にも登場している。
また、IGN本家レビューでも「AAAタイトルと同じようにインディーRPGを楽しめると思っていなかった」とあり、多くのメディアでインディーゲームとして扱われているが、あえて訂正することはしていない。

なにより、Steamでミントロケットは自ら「インディー」というタグを設定してプロモーションしている。
つまり、積極的に「インディー」とは言わないが、見た目やストアの検索属性としてはインディーとしてふるまい、勘違いがあっても積極的には訂正せずプロモーションしているわけだ。
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▲このストアタグはユーザータグと異なり、ページ所有者(ミントロケット)しかつけられない。

では、実際にインディーゲームファンやインディーゲーム開発者が唱えるように、大資本がインディーゲームを名乗ると問題があるのだろうか?
それは、恐らくある。

インディーゲームの定義には「小資本、少人数のチームが作っているゲーム」という意味合いもあり、濃いインディーゲームファンは低予算で頑張るチームを応援している。
また、ゲームメディアもこれから成長する少人数チームを応援する気持ちがあり、インディーゲームの掲載ハードルは低めに見積もられていたり、特別に枠が用意されていることもある。

大資本がインディーゲームに割り込んでくることは、ゲーム業界のスタートアップを応援する、業界育成の精神に反しているわけだ。
そもそもTGAに「The Best Indie Game」というインディーゲーム賞部門が設けられていることがインディー特別枠で、そこに『デイヴ・ザ・ダイバー』が割り込んだことが今回の議論のタネなわけだ。
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▲TGAでのインディーゲームの定義は「独立開発スタジオのデビューゲーム」であり、そういう意味では『デイヴ・ザ・ダイバー』はノミネートの資格がある。賞によってもインディーゲームの定義は違うのだ。

ところが、この問題は立場によって利害関係が変わる。

大企業は新しい試みに対して批判を受けやすいが、インディーゲームとしてPRすることで挑戦的なゲームが好きなゲーマーの支援を受けられる。
野心的なコンセプトのインディー作品については品質に多少問題があっても「がんばった」という評価がつくが、大手が失敗すると「これを作るぐらいなら××を作れ」「最近の〇〇はダメだ」などと批判を受けがちだ。
「独立企画という意味のインディーゲーム」としてアピールすることで、寛容なインディーファンにアピールできるし、チャレンジもしやすくなる。

多くの一般ゲーマーはインディーゲームに対して「価格が安いゲーム」程度の認識しかないと言われる。
インディーとの競争で大手の技術で安く良い『デイヴ・ザ・ダイバー』のようなモノが遊べるなら、一般ゲーマーは得をする。
ユニークな内容であればいいのだから、大資本の中で試行錯誤して作ろうが、少人数が必死に作ろうがかまわない。

では分かりやすいように「インディーゲームの定義を改めて決めよう」というのも難しい。

少人数、小資本という定義でいくと、開発費1,000万円、1億円ならいいのか、1億円と定義したら1億1円のゲームは急にプロモーション上不利になってしまうのか。
インディーゲームの開発予算も年々上がってきているし、毎年決め直す必要もあるだろう。2015年あたりから海外では「IIIタイトル(トリプルアイ)」という概念が存在し、インディーの高予算枠タイトルもある。それらは尖っていてもインディーとは言えないのか。

尖ったゲームだけに限るなら、「昔懐かしのアレを復活」系の低予算インディーゲームは外れてしまう。

独立資本であれば、100万本売れた『HADES』の続編はブランドもお金もある状態で出るはずなわけで、インディーブームから数年たって一山当てた会社は永遠に巨大インディーとして君臨できてしまう。
十分に予算のあるメーカーに露出の優先性を与える必要はないから、コンセプトや企業の独立を維持していても、一発あてたらインディーゲームとカウントしない方がいいのだろうか?

▲昨年のTGAで告知された『HADES2』。おそらく大きく売れるだろう。

あくまで私見でしかないが、「インディーゲーム」という言葉は「安くて面白い」「独立系」その他さまざまな意味を取り込んでしまい、もはや1つの価値観にまとめ直すことも難しいのではないかと思う。
であれば、この機会に「大資本のチャレンジ枠」には別の名前を付けて切り離すとか「応援が必要なゲーム開発枠」に名前を付けるのか、何かしら新しい表現が必要だろう。

私としてはインディーゲームという尺度を捨てて、「ベストデビューゲーム」「尖っているで賞」みたいなものを作るのがいいかな、とは思う。
実際、TGAは「独立スタジオのデビューゲーム」をインディー枠で応援しているし、インディーゲーうイベントINDIE Live Expoは「独立不羈の精神があるゲームであれば何らかの形で紹介する」として多くのゲームを紹介している。
つまるところ、曖昧な「インディー」という言葉に対して、イベント、サイト、それぞれが独自解釈で露出枠を確保しているわけだ(もちろん、私もそういったものを加味して記事にしている)。

さて、この問題に思うところがある皆さんはいかがだろうか。