ゲームキャスト

面白いゲームを探すなら、ここ。

ダウンロード数に応じて支払うUnityの新ライセンス撤回を求め、大手含むゲーム会社21社が連名でUnityが関わる広告サービスでの収益化を止める声明を発表

09-2023_Blog_Hero-image_Penguin_Option-3 (1230x410)
9月13日(米国時間で9月13日)にUnityが発表した新たな料金「Unity Runtime FEE」。
ゲームのインストール数に応じて料金が増えていくこの仕組みに対して、Voodooなどスマートフォンの大手を含む21社が共同で「Unityが新たな条件が見直されるまで、Unityが提供するIronSourceとUnity Adsの収益化を停止する」と声明を発表し、他社にもこの運動への参加を促している。
Unity AdsはもともとUnityが展開していた広告収益化サービス、IronSourceは2022年11月に合併したアプリのマネタイズ(広告を含む)・分析プラットフォーム。
参加企業を見てみると面白法人カヤック、東京芸者など日本のゲームメーカーも見られる。
声明は以下の通り。
ゲーム開発会社からの共同書簡:新たな条件が見直されるまで、すべてのIronSourceとUnity Adsの収益化を停止します。

私たちはゲーム開発業界の声を集約した団体です。開発者、ゲームデザイナー、アーティスト、そしてビジネスマインドを持つ人々です。私たちの技術に情熱を注ぎ、世界中の何百万人もの人々の生活に影響を与える業界を形成するために何年も投資してきました。利害関係者として、ある決定がこのエコシステムを不安定にする恐れがあるとき、私たちは黙っているわけにはいきません。

団結は、この業界において重要な力となっている。多くの点で、Unityは私たちに新たな没入型世界の創造を促し、多くのダイナミックで独立した開発者たちに彼らのビジョンを実現する力を与えてきました。私たちは、業界を前進させ、プロジェクトの主要なゲームエンジンとしてUnityを使用する専門家を作成し、この旅で私たちの役割を果たしてきました。

私たちはUnityを中心としたイベントを開催し、知識を共有し、国際的なコミュニティにインスピレーションを与える教育コンテンツを制作してきました。この共生のおかげで、Unityはゲーム開発の要へと進化し、今やゲーム制作に欠かせない資産として確立されました。

それだけに、9月12日の発表は私たちに大きな衝撃を与える。2024年1月1日より、Unityはインストールに依存する料金を導入する予定であり、これは中小規模のゲーム開発者から大規模なゲーム開発者までをも危険にさらす決定である。Unityのように、この新しい「ランタイム料金」が業界の10%にしか影響を与えないと主張することは、誤解を招くだけでなく、明らかに虚偽です。

私たちは、私たちの業界特有の課題や複雑さを無視したこの動きに強く反対します。

私たちはいつも、協力して仕事をしてきたと思っていましたが、この決定は私たちとって寝耳に水でした。協議も対話もなく、一筆で何百ものスタジオを危険にさらしたのです。

自動車メーカーが突然、1年前に購入した車の走行距離に応じて料金を請求すると決めたとしたら?消費者や業界全体に激震が走るでしょう。

業界はすでに、利益率の低下、競争の激化、開発・マーケティング両面のコスト増に直面しています。これは開発者だけの問題ではありません。
アーティスト、デザイナー、マーケティング担当者、プロデューサーにも影響が及ぶ。この業界にすべてを捧げてきた企業の閉鎖につながりかねない連鎖なのです。

Unityさん、私たちはあなたのあらゆる革新に立ち合い、祝福してきました。ではなぜ、これほど重大な決定について、私たちは会話から取り残されたのでしょうか?

当面の措置として、私たちゲーム開発会社の集団は、これらの変更が再考されるまで、私たちのプロジェクト全体にわたってすべてのIronSourceとUnity Adsの収益化をオフにすることを余儀なくされています。

私たちは、このスタンスを共有する他の人々にも同じことをするよう強く勧めます。ルールは変わりました。Runtime Feeは、Unityとのパートナーシップにおける受け入れがたい変化であり、即時解消する必要があります。

私たちはゲーム開発が好きでこの業界に入りましたが、この業界を真に特別なものにしているのは、オープン性、専門知識の共有、そして集団的進歩の上に築かれたコミュニティです。

私たちの思いに共感するならば、私たちに加わることを呼びかけます。公平で公正な解決策が見つかるまで、Unityの収益化を停止してください。

また、私たちの公開書簡に署名して、この運動を支援することもできます。あなたの声をこの運動に加えるために、リンクをチェックしてください。

Azur Games、Voodoo、Homa、Century Games、SayGames、CrazyLabs、Original Games、Ducky、Burny Games、Inspired Square、Geisha Tokyo、tatsumaki games、New Story、Playgendary、Supercent、KAYAC、TapNation、Matchingham Games、Moonee、YSO Corp、MondayOFF

Azur Gamesの公式WEBより、翻訳はDeeplを手直ししたもの)
この声明を発表したゲーム会社を見ていくと、1つの共通点がある。
彼らは、薄利多売で利益を出す「ハイパーカジュアルゲーム」と呼ばれるジャンルを扱うパブリッシャー、デベロッパーであることだ。

実は、Unityの新ライセンスは法外に多くのゲーム会社(特にダウンロード単価が高い有料ゲーム屋ガチャソシャゲ)にとっては法外に高いわけではない。

Unity Runtime Fee が適用される条件(売上・ダウンロード数)と追加料金は契約プランによって異なり、無料でUnityが使用できるPersonalプランでも、過去12カ月で20万米ドル(およそ2,943万円)かつ、累計インストール数20万回以上でなければ支払いは発生しない。
支払い発生時の追加料金は1インストールあたり0.2米ドル(およそ29.44円)まで変動する。

Unity Pro であれば、12か月間の売上100万米ドル(およそ1億4710万円)かつ、100万ダウンロードを超えていなければ支払いは発生しない。支払い発生時の追加料金は1インストールあたり0.15米ドル~0.02米ドル(インストール数に応じて変動)となる。

TwitterなどSNSでは「1ダウンロードで約30円」という派手な金額で計算して煽るにぎやかし発言も見られるが、20万米ドル稼がなければ支払いは発生しない。
また、20万米ドルを稼いでいる開発者なら大抵はUnityのProライセンスを購入できるので、実質100万ダウンロードを越えなければ考慮しないで済む料金体系になっている。

「Unreal Engineなら手数料5%しかとられない」などと語られるが、価格200円の低単価ゲームなどで勝負していない限り問題にならない。
すでにUnity新ライセンス下とUnreal Engine利用時の料金計算機などが作られているが、100万で料金が科されてから110万、120万とヒットするほどにUnreal Engineの利用料は目に見えて高くなることが簡単にわかる。
少なくとも「インディードリームが消えてしまう」ような料金体系ではない。

しかし、先ほど「ダウンロード単価が高い有料ゲーム屋ガチャソシャゲなら問題にならない」の枠の外にいる開発者がいる。
そう、低単価・高ダウンロード数で勝負するゲーム開発者・パブリッシャーだ。
ハイパーカジュアルゲームは、「1インストール当たりの収益が1円でも広告費より高いならば広告を出し続け、収益化する」というジャンルで、100万ダウンロードなど当たり前。
300万、1,000万ダウンロードをたたき出して1ダウンロードあたり数円(広告費を除いて)の収入で百万、数千万……と売上を上げて行くジャンルだ。

Unity Runtime Feeを適用されると、1ダウンロード当たり最低でも2円は持っていかれてしまう。
となると、ダウンロードされるほどに赤字、という状況も発生しえる。
Unityで開発しているハイパーカジュアルゲーム開発者は今回の変更で破滅しかねないのだ。

ネット上では『Slay the Spire』のMega Critや、『Cult of Lamb』のMassive MonsterがUnityのボイコットなどを促しているが、こういった発表をしている有料ゲームメーカーの多くは十分収益を上げていて、今回の発表からのダメージは比較的小さいはずだ。
少なくとも、彼らの売っている2,000円のゲームが売れて3円程度が徴収される料金体系で「売れるほど赤字になる」ということはないだろう。


しかし、ハイパーカジュアルゲームにとっては今後「ダウンロードされるほどに赤字が累積していく」ことが現実的で、ダウンロード数も数百万が普通のジャンルだ。
Unity側は「Unityの提供する広告サービスなどを使えば支払わないで済む可能性がある(詳細はまだ不明)」と語っているが、これは「俺たちのサービスを使わなければ、商売が傾くぞ」と脅してされているようなもの。

ゲームキャストが独自にハイパーカジュアルなど広告収益で戦うメーカーに聞いたところ、Unityの広告サービスには足りない機能があったり、収益力が高くない場面もある(良いときもあるが、頼り切れるものではない)という指摘があり、詳細は発表されていないので断定できないが、Unityが示す条件によってはUnityのサービスに切り替えることで収益が下がる恐れもあるという。

もちろん、ゲームエンジンはUnityだけではない。
しかし、技術者が別のエンジンを学ぶには移行コストがかかるし、開発中のゲームだって急にはゲームエンジンを変更できない。
ゲームキャストとしても、今回の一方的に発表され、過去のゲームや開発中のゲームすべてに適用されてしまう料金体系良いものでないと思っているので、Unityが考え直してくれることを願いたい。