作品に命を吹き込むため、画家は必要な“色”を探しながらキャンバスを埋めていく。
コーヒーを飲み、音楽を聴いて休憩し、ふと隣人が目に入ったり、アトリエに猫が迷い込んできたり……そんな日常からヒントを得てキャンバスを埋めていくと、さらに奥に秘められた物語が紐解かれ、怒濤の情報量がプレイヤーを圧倒し、余韻を残して一気に終わる。
スタジオジブリに影響を受けたビジュアルの『Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜』は、短時間で終わる物語重視の謎解きゲームだ。
本作において、一目でわかる魅力はビジュアルだろう。
スタジオジブリを意識したキャラクターやアートが最初に目を引くがどこか懐かしく、人を惹きつける。
しかし、実際にプレイすると止め絵のスクリーンショットで見る以上にこのゲーム世界は魅力にあふれていることに気づく。
しかし、実際にプレイすると止め絵のスクリーンショットで見る以上にこのゲーム世界は魅力にあふれていることに気づく。
背景は単なる静止画ではなく、カーテンは風にそよぎ、草木は揺れ、巧みに生きている場所であることを強調する。
主人公の行動に対しては専用のアニメカットが豊富に用意されており、コーヒーを準備すれば注ぐ専用のアニメがあり、世界観や生活観を強調するシーンを上手く演出し、世界に命を吹き込んでいる。
主人公の行動に対しては専用のアニメカットが豊富に用意されており、コーヒーを準備すれば注ぐ専用のアニメがあり、世界観や生活観を強調するシーンを上手く演出し、世界に命を吹き込んでいる。
謎解きパートにおいても、このビジュアルは力を発揮する。
謎解きパートでは部屋をタッチで調べて回るのだが、この部屋も小物から光の具合まで丁寧に描き込まれており、360度ぐるりと、自由に見回せる。
どの角度から見ても画になるし、部屋の隅々まで細かく見て、タッチして、すべての情報を得たくなる作り込み。
ビジュアルの力だけで、すでに本作は他の謎解きゲームと差別化されていると言えるほどだ。
▲部屋の中は上下左右360度自由に、見回せる。どこを向いても違和感なく、詳しく見たくなる
さて、そんな『Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜』の謎解き部分は、物語を語ることに主眼を置いて作られているように感じられた。
本作の謎解きは簡単で、気になる場所をタッチして調べれば情報が手帳に整理されていき、脱出ゲーム初心者でも答えにたどりつける。
しかし、調べること、謎解き、そしてキャンパスに色を塗って回答するまでの作業は物語に上手く組み込まれており、謎解きを通じてプレイヤーをゲームの世界に誘導し、没入することを促す。
▲謎を解いたらキャンバスに色を足していく。プレイヤーが塗っているかのように筆を動かし、主人公と一体化できる。
これは物語の導入としてもうまく機能していて、かなり良くできている。
物語を見るとき、序盤で多くの前提知識の説明が盛り込まれ、退屈を感じた経験のある方もいると思う。
そこに対して、本作では謎解きゲームという体裁をとり、「謎解きゲームだから調べて当然」というプレイヤー心理を利用して情報を集めさせ、プレイヤーが自発的に物語に必要な情報を得るように仕向けている。
描き込まれた背景アートで隅々まで見たくなるよう探求心を刺激することとあわせて、これはかなり有効に機能していた。
描き込まれた背景アートで隅々まで見たくなるよう探求心を刺激することとあわせて、これはかなり有効に機能していた。
序盤の短い間だけ、気になる点はあるにはあった。
普通の部屋に仕掛け箱が転がっており、私はこれに違和感を感じてしまった。
「ゾンビに追われてたどり着いた警察署に謎の仕掛けが大量」という『バイオハザード2』など、ゲームではこういった例は多いが、生活感あふれるなかにこの仕掛けは目立った。
普通の部屋に仕掛け箱が転がっており、私はこれに違和感を感じてしまった。
「ゾンビに追われてたどり着いた警察署に謎の仕掛けが大量」という『バイオハザード2』など、ゲームではこういった例は多いが、生活感あふれるなかにこの仕掛けは目立った。
▲この違和感がなければ、かなりパーフェクトだったと思う。
とはいえ、気になったの序盤の違和感だけで、それが終わればあとは物語を堪能するだけ。
ゲームは6章立てになっており、各章では主人公の画家が謎を解き、さらにその謎解きに関わる人々の視点からも物語が語られる。
視点が切り替わるたびに異なる背景アートやアニメーションを楽しめ、つくりとしてはかなり豪華。
視点が切り替わるたびに異なる背景アートやアニメーションを楽しめ、つくりとしてはかなり豪華。
後半になるとビジュアルにはさらに磨きがかかり、序盤を越える物量(終盤に使われる素材は前半部分より多く見えた)、さらに音楽の一体感をもってプレイヤーを圧倒し、物語に決着をつける。
プレイ時間は90分~120分程度だろうか。
プレイ時間は90分~120分程度だろうか。
いちど世界観に納得すると一気に引き込まれ、プレイヤーに余韻を残しつついっきに終わる。
プレイの終了後は良質な短編映画を見たような満足感があり、かなり満足感の高いストーリーゲームとして楽しめるはず。
自信を持って進められる1作なので、プレイ時間にこだわらないなら是非トライして欲しい。
プレイの終了後は良質な短編映画を見たような満足感があり、かなり満足感の高いストーリーゲームとして楽しめるはず。
自信を持って進められる1作なので、プレイ時間にこだわらないなら是非トライして欲しい。
最後になるが、本作は多くのプラットフォームでリリースされているが、筆者としてはiOS / Android 版をタブレットで遊ぶのがお勧めだ。
設定画面から「モーション設定」をONにすると、探索パートでは端末を傾けて覗き込むように部屋を見回せる。この機能を使うと、自分がその場にいるかのような臨場感が加わり、とくに後半の演出では素晴らしい効果を見せてくれるだろう。
なお、スマートフォンでも同じ機能は使えるが、画面は小さくなるのであとは好みで。
プレイ動画:
概要:
夢を抱いた画家が、キャンバスを埋めながら忘られていた記憶と対峙する謎解きアドベンチャー。ビジュアル・演出が素晴らしい。評価:8(かなり面白い)
おすすめポイント
どこを見ても美しく描かれた背景を360度見回せる
ちょっと想像の余地を残す物語
物語を彩る音楽
物量を伴う後半の展開
日本語対応もかなり良い物語を彩る音楽
物量を伴う後半の展開
気になるポイント
生活感ある部屋に謎が配置されている序盤の小さな違和感
アプリリンク:
開発:Silver Lining Studio(日本)
販売:Akupara Games(US)
レビュー時バージョン:1.0.0
課金:なし
ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中。