昨今、ゲームを規制する県や自治体が話題になるが、ゲームを規制する自治体もあれば、活用する自治体もある。
2017年、京都の宇治市では地域プロモーションとして『宇治市~宇治茶と源氏物語のまち~』というゲーム風動画(上掲載動画)を公開して話題となった。その後、2019年12月に「本当にゲーム化して欲しい」という声にこたえ、開発費を募るクラウドファンディングを開始。
「ふるさと納税型クラウドファンディング」という、ゲーム開発への寄付がふるさと納税の対象となる珍しい取り組みで634万1,000円を調達した。
そうして作られたのが、この『宇治市~宇治茶と源氏物語のまち~』というゲームなのだが……これが、とんだ曲者であった。
ちなみに、ゲーム製作にあたってファンディング目標額は1,200万円だった。
が、足りない分は市の事業費を投入し、最終的に約1,038万円でゲームを開発している。つまり、このゲームは税金で作られたゲームなのだ。
通常、こういったゲームはおとなしいものになりがちだが……このゲーム、とんでもないやつだった。まず、ゲーム説明書は市のページを利用。
宇治市のYoutubeチャンネルを見ると、宇治市長のメッセージ動画に並んでゲームのリリースアナウンストレーラー。
しかも、2桁再生の真面目な動画に交じって4桁再生。
▲市長のコメント52再生、宇治市のゲーム派3591再生。
Youtubeチャンネルを調べると、ゲームのNGシーン集まで収録されている。
しかも、宇治市職員っぽい人物が金銭トラブルにあうゲームオーバー画面というから、まあNGも納得。こんな攻めていていいのか……!
宇治市のマスコットキャラクターがなんでも回答する質問機能を使えば、ちゃんとこのゲームのことを回答してくれる。
『宇治市~宇治茶と源氏物語のまち~』、調べるだけで面白いからもうズルい。
さて、そんな本作のジャンルは横スクロールアクション……いや違うな。ジャンルは宇治だ。
その特徴は、宇治を前面に押し出したコントローラー。
お団子型のボタンは長押しすることでぷにぷにと変形。ただし、長押ししても特に意味はない。
宇治の特産品を表示することが目的であり、ゲームは手段でしかないからだ。
お椀と皿をかたどった十字キーは、お茶の緑の部分にしかタッチの判定がなく、外周部をタッチしたプレイヤーは「動かないな?」と困るはずだ。
だが、この仕組みもジャンルが宇治であることを考えれば不思議ではない。
「宇治茶こそが宇治であり、皿部分はおまけ」という宇治市に主張なのだ。
何度も死んで、宇治茶部分にしか操作判定がないことに気づいたとき、プレイヤーは宇治と抹茶の関係を知るのである。
なお、ポーズボタンを押すとみやびやかな音楽を奏でて主人公がその場で休憩するが、ゲーム自体にストップがかからないので休憩中に敵から攻撃を受けて死ぬ。
自分は休憩しても、他人にそれを押し付けない。京都は宇治らしい奥ゆかしさ。
▲この後、敵に体当たりされて倒れる。
で、実際のゲームはというと、ツッコミどころの嵐。
ゲームの舞台は「観光地と おいしい 宇治茶がすべて奪われ、暴力だけが残った」宇治市。
宇治市……お茶と観光地以外なかったんか……。
操作できるシーンでは左右移動とジャンプ、攻撃のボタンを使い分ける横スクロールアクションになっているが、これまたすごいつくり。
操作性が悪いのはジャンル“宇治”だからいいとしても、操作が難しいタイミングで観光案内をさしはさんでプレイヤーを殺しに来るなど、「意図して作ったクソゲー」感満載。
宇治市の公式ゲーム、落とし穴地帯で急に観光説明を挟んでくる上、観光説明中は時間が止まらないまま操作無効になるので殺意がやばい pic.twitter.com/QahitZEoHZ
— 寺島壽久/ゲームキャストの中の人 (@gamecast_blog) July 12, 2020
加えて、世界遺産を使ったり、宇治市市長をけしかけて主人公を襲ったりと深刻な宇治市の乱用。
いやー、もう。
楽しすぎる。
尖ったものが求められる低予算ゲームと自治体のようなものは相性が悪いと思っていたが、宇治市を尖った素材として提供した自治体は称賛に値する。
宇治市のゲーム往年のネオジオというかADKを思い出すデモシーンととんでもストーリー、さらには宇治市公式ゲームであることを活かして現役市長にプレイヤーを襲わせる暴挙。イイぞー pic.twitter.com/Ir4kTYRi0k
— 寺島壽久/ゲームキャストの中の人 (@gamecast_blog) July 12, 2020
ひとしきり笑って最後にたどり着くと、プレイヤーに最後の難関がやってくる。
苦労の末にラスボスを倒すと……え、主人公が即死!?
何度挑んでも即死だが、今レニュー画面に「宇治にいく」という選択肢が。
なるほど、宇治にいくを選べばゲームが進むわけか。イカした演出だぜ。
で、選ぶと「今、宇治にいる?」と聞かれ……宇治にいないを選択すると即座にゲームオーバー。
宇治にいるを選ぶと、GPSの位置情報を検索されて「宇治に来るのだ!」と言われてゲームオーバー。
まさかの宇治に行かないとクリアできないゲーム……っ!
こんなゲーム、最後までクリアするやつがいるのか!?
と思ったが、身近に「ラスボス手前まで行けたので今週中に宇治市いきますね」と語っているゲーマーがいて、案外観光の役に立っていて驚くのだった。
こんな感じで、怒涛の突っ込みどころの嵐。
エンディングまで行けなくとも楽しい(私のケースだ)と思うので、ぜひ遊んでみて欲しい。
概要:
操作性や爽快感を置き去りにしてネタに振り切った宇治市公式ゲーム。宇治市に行かないとクリアできない。
税金を注いだだけでなく、無難な作りを避け、それを宇治市が認めたところにも価値がある。
評価:9(なんなんだ、これは……)
動画:
おすすめポイント
往年のネオジオのようなデモシーンと勢い
宇治市を乱用したゲーム
自治体がこのゲームを公式として認めていること自体が面白くてズルい
気になるポイント
1面のラストでお茶に入る(湯呑の上で下入力)のがわかりづらい
アクションのつくりは極めて甘い。
アプリリンク:
宇治市~宇治茶と源氏物語のまち~(App Store 無料 / GooglePlay 無料)
販売:宇治市(日本)
HP:https://www.city.uji.kyoto.jp/site/game-of-uji2020/
レビュー時バージョン:1.0
課金:なし
ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中。