ゲームキャスト

面白いゲームを探すなら、ここ。

ハーレム伝説事件。サービス中の王道ゲームを買収し、主人公をハーレム好きのゲス野郎に改変した事件はなぜ、起きたのか。開発会社に聞く。

どうしても、このソシャゲ運営の行動が理解できないのです。
無理なお願いかもしれませんが、その理由を調べられたら記事にしてください。
ゲームキャストにはときおり、ソシャゲに関する調査依頼がくる。
大抵は無理な依頼だが……偶然にも調べることができたのでメールをくださった方のために記事化する。
「このゲームは、×月より運営元を●●社に移管します」
近年、苦戦しているソーシャルゲームが他社に移管され、運営元が変更されることがままある。運営の変化によってアップデート頻度が変わったり、課金要素が変化したりすることもあり、プレイヤーにとっては大事件だ。

その運営移管の事件でもとくに話題になった……闇案件とも言われる事件が、今回説明する『ハーレム伝説事件』である。
その事件は2019年におきた。
話題になったゲームは『蒼穹のミストアーク(以下、ミストアーク)』で、これは“未来を救う”ために勇者が聖剣を求めて戦う王道のファンタジーRPGだった。
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しかし、トライエグゼ社で配信されていた『ミストアーク』の権利がエクスカリバー社に買収されると、ゲームタイトルは『ハーレム伝説ZERO(以下、ZERO)』と改題されてハーレム系RPGになり、キャラクターの性格やストーリーまでも改変されてしまった。
ゲームシステムは『ミストアーク』のままだが、リニューアルにあたって新たに”真のチュートリアル”と呼ばれるオープニング物語を追加。
そこで主人公の性格・設定が完全に改変された。

旧版の主人公は雑務クエストの最中に魔族の復活を目撃してしまった新米冒険者で、世界の命運を賭けた大冒険をする者だった。
『ZERO』に追加された真のチュートリアルでは、苦労の末に聖剣を手にする勇者とその仲間の姿が描かれる。
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が、聖剣を手にした瞬間に勇者は豹変する。勇者は世界平和のためと偽り、ハーレム世界を作る願いをかなえるべく聖剣に探していたゲスだったのだ。
そして「この世のすべてをハーレムな世界にしてしまいたまえ!」と願い、ゲームの設定を変えてしまう。ヨヨイノヨイ。
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「今日までこんなクズ男と気がつかず、何年も一緒に冒険を」
と、絶望するヒロイン。
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旧作の世界設定を愛していたプレイヤーだって、それは絶望するよ……。
と、ゲームを購入したエクスカリバー社によって、ゲームのてこ入れとして世界観、これまでプレイヤーが愛してきたであろうキャラクターの性格まで過去に遡って改変されてしまったのだ。
当時のことは、ねとらぼに詳しく書いてあるので読んでみて欲しい。

リニューアルにあたって1,000連ガチャ無料キャンペーンが展開され、プレイヤーからは「リニューアル後に1,000連ガチャが回せるようになって、運に左右されずゲームが楽しめるようになった」という声ある反面、「遊んでいたゲームのキャラクターの性格が改変されるなど許されることではない」という声もあり、賛否両論(ゲームキャストは否定派だ)を巻き起こした。

ただ、この変更に至った理由は本当に謎で、当時のプレイヤーから「調べて欲しい」という依頼だけがゲームキャストに舞い込んでいたわけだ。
これを調べて記事にするのは困難だと思っていたが……運命というのはあるもので、あるときゲームキャストに『超偉人大戦(いじばと)』というゲームのPR記事の依頼が舞い込んでいた。

そして、そのゲームのインタビュー相手の伊藤ディレクターは、なんと『ZERO』の改変を指揮したディレクターで、その変更の経緯をきけたのである。
ただ、この記事は諸事情で公開にいたらずお蔵入りしていたが、今回は運よくインタビュー記事の公開にOKがでた。
貴重な話だと思うので、ぜひご覧いただきたい。

インタビュイー:伊藤D
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『ハーレム伝説ZERO』リニューアル時のディレクター。
コーエー系、『Civilization』や『Age of Empire』など、洋の東西を問わず戦略ゲームを遊び、スマホ系では『ブラウザ三國志』をずっと遊ぶ超ヘビー戦略ゲームプレイヤーでもある。

インタビュワー…ゲームキャスト、寺島壽久
nama
なぜ、『ミストアーク』が『ハーレム伝説 ZERO』になったのか。
厳しい言い方になりますが、これまでゲームをやってきて、主人公が誠実な勇者だと思って遊んでいたプレイヤーに対して何も思わなかったのか。
そういったところを聞きたいと考えております。大丈夫でしょうか。

伊藤D:
『ミストアーク』は理由もなく悪意で変更されたわけではありません。
それを誤解なく説明するため、少し遠回りですが我々と『ミストアーク』を開発した開発会社様との関係、『ハーレム伝説』シリーズ誕生から語らせていただきます。

nama
『ハーレム伝説』誕生というと、『ZERO』が登場する前に出た『ハーレム伝説 俺の時代がやってきた(以下、俺の時代がやってきた)』という別のゲームですね。

伊藤D:
我々と開発会社様との関係は、『俺の時代がやってきた』から始まっています。
最初に『ミストアーク』がARPUと継続率(※)が低いため、開発会社様の方から改善したいという依頼があってプロジェクトが始まりました。

※ARPUと継続率とは
継続率とはゲームを継続して遊ぶ割合。ARPUとは、プレイヤー1人当たりの平均売上額。
継続率が低いということはプレイヤー次々とやめていくことを示し、そのうえでARPUが低いとプレイヤーが少ないのに売り上げも低いという状況になってしまう。

nama
コンサル的な立ち位置ですね。
しかし、ARPUと継続率が低いのは、運営型ゲームとしてかなりまずいですね……。

伊藤D:
『ミストアーク』自体はすべてが悪いわけではありません。たとえば、アートなどは良かった。
そこで私が当時の市場を分析し、放置ゲーム要素が入っているゲームが日本の流行りでもあったので、放置要素を入れようとか、ガチャの仕組みを変えようとかそういった改善提案を私が立案し、開発会社様が『ミストアーク』をベースに変更し、新作として2カ月で開発・配信したものが『俺の時代がやってきた』になります。

nama
なるほど、『俺の時代がやってきた』がリリースされたとき、『ミストアーク』と同じイラストが使いまわされていて、「違法に画像を利用したゲームか?」と言われていたのですが、実際はアジア圏で見られる再利用系ゲームだったのですね。

中国圏ではサービス終了したゲームと同じ画像を使いまわしたものがたまに見られるし、同じキャラクターや映像を意図的に使いまわしてスターシステムのようにするシリーズも存在する。
ソシャゲのイラストはあんなに豪華なのに、大抵は終了したらもう日の目を見ないというのも悲しいし、ゲームキャスト的には合法で、最初から使いまわせる前提の設定なら“あり”だとは思っていますが……『ZERO』の世界観の変更はどのような経緯でなされたのでしょうか。

伊藤D:
『ミストアーク』の世界観のままでリリースしても、王道の競合タイトルは多くあるため、マーケティングの結果として『ハーレム伝説』という新しいハーレムもの、お色気を前面に出した世界観へ変更することも提案しています。

nama
開発会社様は、世界観の変更に関してどのような反応をされたのでしょうか。
基本はゲームのリメイクですから、イラストなども同じものを使っているでしょうし、王道ゲームのヒロインがハーレム要員になってしまうのは、抵抗があったのでは。

伊藤D:
ゲーム内容の修正案には積極的に取り込んでいただけたのですが、元の世界観をハーレム系にすることは難色を示されました。
交渉する過程で、開発会社様が自分たちで作っていたゲーム世界を愛していたのが我々にも伝わってきました。

しかし、王道ファンタジーのままではプレイヤーの目にとまることすら難しいのも明らかで、我々としては中途半端な真面目なものより、突き抜けて欲しいと考えていて。
結局、『俺の時代がやってきた』では、我々が押し切ってハーレムの世界観へ進めさせていただきました。

nama
結果、どうなったのでしょうか。

伊藤D:
世界観のインパクトがあってゲームのDL数は伸びました。ARPUも継続率も上がり、開発会社様には満足していただけました。

nama
やはり、DL数においてエロは強いということですか。

伊藤D:
底堅い需要があるのは確かで、効果があったと思います。
ただ、問題の本質は違う。当たったとき儲かるからこそ、王道のゲームは世にたくさん出ているわけです。だから、王道で勝負するのは大変なのです。
王道で突き抜けて目立つために他社の王道ファンタジーゲームより予算と時間をかけられますか、そうでないならハーレム(などの違う路線)にしましょう、だと思っています。

nama
予算規模で考えた結果のハーレム路線と。
ゲームシステムの変更については、どのように受け取られたのでしょうか。

伊藤D:
数字としては結果が出たので、良かったのかなと。
ゲームとしては放置系システムやガチャの仕組みを変更して、その時期にゲームを探していたユーザーにとってより面白くなったと思っています。

同時に、ハーレムの世界観と決まったときにプレイするユーザーはターゲティングできます。
具体的には『ハーレム伝説』の世界観になったら、そういったものを好むユーザーが満足できる要素を追加しました。
具体的には、キャラクターが進化するときに衣装がはだけていく要素を入れました。これでキャラクターが欲しくなる(ARPUが上がる)し、進化させるために長く遊んでくれるはず、と。
こういった演出はDMMのゲームを研究して参考にしました。

nama
私が前にインタビューした『いじばと』で女神と野球拳して脱がす要素を加えてプレイヤーから好評を得たと語られていましたが、その経験の原点がここにあると。

伊藤D:
当時は萌えを理解していなかったので、理屈としてゲームに入れ込みましたが、その経験は役立っていると思います(笑)
『Civilization』などの戦術ゲームが好きなのですが、当時は戦術(ゲーム性などの適切な改善)として、ゲームで勝つために入れるべき内容として理屈で考えて導入していました。
万人に受けることを諦めて、さらにハーレム路線が好きなユーザーがゲームを見つけてくれて、その期待をはずさずに楽しんでもらえるものになったと思います。

nama
大手が狙わないところを狙って特化したということですね。

伊藤D:
そうですね。
それで『俺の時代がやってきた』が成功して、開発会社様とは信頼関係で結ばれたというのが『ZERO』が生まれる前の状態です。

nama
自社ゲームの売り上げをあげたかった開発会社と、それに成功したエクスカリバーという関係ができていたんですね。

伊藤D:
そうです。
その後に開発会社様との信頼関係を背景に『ミストアーク』を運営していたトライエグゼ社の『ミストアーク』を買収することが決まります。
もちろん、開発会社様も先に納得のうえです。

nama
しかし、『ミストアーク』を買収しても収益としては厳しかったのでは。
もともと『俺の時代がやってきた』は、『ミストアーク』のダウンロード数も課金も伸びなかったから改変版として作られたものですよね?

伊藤D:
そうですね。
当時は立て直しが必要で、大きな予算はないという状況でしたが、ちょうど『俺の時代がやってきた』が好調だったのが我々の切り札でした。
『ミストアーク』と『俺の時代がやってきた』は同じゲームをもとにした作品なので、キャラクターも共通している。ならば、そのまま『ハーレム伝説ZERO』という名前に変更すれば『俺の時代がやってきた』のプレイヤーがやってくれる可能性がある。
相互コラボをやってお互いユーザーを増やせれば、プレイヤー数が少ない問題は解決されると考えていました。
そして、それは自分たちの力でほぼ無料でできる。

nama
例のシナリオは伊藤Dが書かれたのでしょうか、それとも外部の方が?

伊藤D:
『いじばと』ではシナリオライターの方にお願いしていますが、そこも予算の都合で手弁当で……。
当時は私が萌え・異世界文脈を理解していなかったので、シナリオは社の知人に手弁当で書いていただいて改修しました。

nama
シナリオも手弁当で……!
とはいえ、継続率が悪い=ゲームがそもそも楽しくないのではないか、という問題も残っています。
私が試した限り、シナリオや主人公のアイコンだけが変更されていて、ゲームシステムなどが変更されたわけではない。ハーレムという建前でガチャから女性キャラは出ますが、エロもない。
となると、少しプレイヤーが増えたところですぐサービスが終わることは目に見えている。

伊藤D:
それに対しては、全プレイヤーに思い切って1,000連ガチャをプレゼントして対処しました。大きくシステムを変えることはできませんが、もともとキャラクターを揃えたあとの面白さはゲームとして設計されていました。
1,000連回せばキャラクターが揃って、ゲーム内でプレイヤーが色々な組み合わせを楽しめることができるのがわかっていた。

ゲームキャストさんは「既存プレイヤーが怒るのではないか」とおっしゃっていますが、我々としてはゲーム内のプレイヤーが増え、既存のユーザーさんのマイナス印象よりも、プラス印象の方が大きいと考えていました。
売り上げが増えれば、ゲームの開発もいろいろできるようになる。何もしなければ、何もできないでゲームが終わってしまう。

nama
確かに『ZERO』にリニューアルされたときは、『ミストアーク』のときでは考えられなかったほどランキングが上がっていましたね。

伊藤D:
リニューアルによって開発の予算が捻出でき、何回かアップデートもできました。
これで大失敗だと申し訳が立ちませんが、本来は提供できなかったはずのものが提供できたので、もとの『ミストアーク』のゲーム性が好きで続けてきてくださった方にも申し訳が立ったと思っています。
あと、私としては売れなければそれに応じて縮小もあり得て、責任重大だったので心底ほっとしました。

nama
売るか縮小か……究極の分岐点だったのですね。
売上による継続やアップデートが重要であるととらえて、ハーレム伝説に至った、と。

伊藤D:
運営型のゲームでは「なぜ、あんなアップデートを」と言われることがあります。
しかし、運営としては「売上を重視してプレイヤーに新しいものを出す余力を確保するか」「今回はもうあきらめるのか」というような、反発も覚悟してアップデートしています。

nama
ネットでは当時「開発元はOKしているのか」などと言われていましたが、最初から開発元の許可はあった。
世界観の改変については反発を覚悟していたが、トータルではプレイヤーの利益が大きいという考えだった、という理解でよろしいでしょうか。

伊藤D:
そうですね。ゲームキャストさんは納得されていないと思いますが、アップデートがない状態で続いてすぐ終わった方がいいのか、変わってもアップデートされてイベントが開催され、続いた方がいいのか、どちらが良いかは人それぞれかもしれません。
いろいろとご意見があると思いますが、コンテンツが1日でも長く続いて遊べることがサービス運営者としての誠意で、喜ばれることだと思っています。

nama
謎の多い事件について語っていただき、ありがとうございました。
私としては、このような形での変更が自分の好きなゲームになされたら納得いかないとは思います。一方でSNSを見ると喜んでいる方もいるのも事実。
私にメールをくださった方も、この記事を見て自分なりに結論を出してくださると思います。

以上。

さて、ここで最後にお知らせがある。
今回の記事公開許諾に合わせて『ハーレム伝説2』の事前登録が始まった。
伊藤Dがどのようなゲームを作るのか、この記事から興味を抱けたなら下記のリンクから事前登録し、ゲームを待ってみるといいだろう。
『ハーレム伝説2』のリリースに合わせて『ハーレム伝説ZERO』と『ハーレム伝説 俺の時代がやってきた』はサービス終了し、それぞれの進行度に合わせて特典もあるそうなので、旧作のプレイヤーも登録しておくといいだろう。

事前登録: