スマホに変わる個人向け端末 “スマートツールス” が普及し、だれもが A.I.秘書 “PASS” を活用するようになった未来の2236年1月1日。
その年の元旦、主人公のヨツバは宝くじの大当たりを引いたような……大金を手に入れてしまう。
小心者のヨツバは、この金で自分の A.I.秘書であるマスコに課金して、振袖衣装をプレゼントしたのだが……そのプレゼントは、2人の違いを見せつけるものになるのだった。
課金から始まり、課金に終わる青春物語が始まる。
『西暦2236年の秘書』は、頼りない男の子ヨツバが、A.I.秘書のマスコにデジタル衣装を贈り、2人(?)の出会いから現在までを振り返る様子を描いたノベルアプリだ。
ゲームの舞台はとうぜんながら23世紀。もはや世界は変わりきっていて、言葉を使わずに意志を伝えるテレパシー会話が実用化され、コミュニケーション手段すら違う。
しかし、十分な人工知能を持つ A.I.秘書はこの世界でも最新型で、ヨツバから見ても未知のもの。
マスコを入手した当時、普段から女子と接点のないヨツバは見た目にドキドキしてうまく接することができない。
一方、マスコもヨツバとうまくコミュニケーションを取れずに落ち込んだりする。
また、ヨツバも年頃の男の子だし、ちょっとエッチなお願いをしてしまったりする。
A.I.秘書は、成人した人間とならお互い合意のうえなら解放される機能もあるそうで……。
「スカートの中身が見たい」
そういわれたマスコは、ヨツバに喜んでもらうためスカートをめくり……。
「描画できませんでした」
まあ、そうなるよなー、と。
『西暦2236年の秘書』はこんな感じでコミカルに始まり、楽しく気軽に読み進められるライトなノベルだ。
読み終えるまでたった40分。だが、ライトなだけでは終わらない練り込みがある。
本作は「A.I.秘書と主人公の心のギャップを埋めるノベル」である。
同時に、美人のヒメ先輩と2人だけの部活動を行う「学園青春ノベル」の要素もあり、物語は甘酸っぱく、いやらしさもなく、軽快に進む。
同時に A.I.秘書を嫌うヒメ先輩の PASS ヨシナガと、マスコの対比も行われ、最後の最後で青春ノベルの仮面を脱ぎ、本性をちらりと見せてドキリとさせてくれる。
テレパシーが現実化しても埋まらない人の認識の差、新しいものと古いものの間にある断絶を見事に見せつけて、「マスコかわいいなぁ」と読んでいると、最後に不意打ちを受け物語が終了する。
ノベルを読んで30分、ラストについて考えて30分と、とても気持ちの良い読書と考察を楽しめた。
軽快な青春モノで読ませる文章力、その中に主題の伏線を撒く構成力、さらには本編(これのみで完結しているが、実際は『2236 A.D.』というノベルの外伝となっている)を知りたくなる呼び水……30分の中にこれだけのモノを凝縮したことに驚くしかない。
私はもう、このノベルの見事さに『2236 A.D.』を即座に購入(約2,000円)してしまった。思えば2018年、Vtuber だとか VR Chat だとか、また多くの新しいものがやってきて、新しい価値観も生まれた。
2019年もきっとそうなるのだろう。
新しい年の準備に、「違うものを理解する難しさ」を気づかせてくれる本作は間違いなくおすすめだ。
概要:
A.I.秘書が普及した未来で2人の男女・A.I.秘書の関係を青春ラノベ風に描き、同時に視座の違いを描く。
評価:8(かなり面白い)
おすすめポイント
軽快な青春ノベル
現実にあり得る視点の差異を気づかせる対比
気になるポイント
なし
アプリDL:
西暦2236年の秘書 (itunes 無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)
2236 A.D. (Steam)
開発:Chloro(日本)
HP:http://chloro.space/
レビュー時バージョン:1.1
課金:なし
ライター:ゲームキャスト トシ
動画: