舞台は20世紀の冷戦時代。
カリブ海に浮かぶ島国の大統領になり、何もない島を発展させるゲーム『Tropico(トロピコ)』。
民主化したばかり島は政情不安定で、国内は複数の派閥が異なる要求をしてくるし、外を見ればアメリカとソ連が島を虎視眈々と狙っていて即占領されることもある。
そんな、きな臭い設定から大変なゲームかと思いきや、遊んでみると道路を作って、建物を建てて結んで、人が増えたら渋滞を解決して……王道の『シムシティ』系の街作り箱庭ゲーム。
そして、寝るのも忘れるほど面白い。
本作は何もない島を開拓し、住居を整え、仕事を確保し、島民を幸せにするゲームである。
きな臭い派閥争いやテロもあるが、基本的には島民が幸せになれば選挙にも勝てる“政治&街作りゲーム”だ。
街の様子は通行人の様子まで3Dで表現され、うまく島が発展すれば見ているだけでも楽しい。
もちろん、序盤の発展していない街並みだって味わい深いし、牧場を作れば放牧されている動物まで確認できる。
国の経営に慣れていなくても、見た目で気楽に楽しめるので構えずに遊び始めて欲しい。
さて、ゲームの説明に入ろう。
ゲーム開始時の島は産業も収入もなく、手元には毎年1月にアメリカ、ソ連から送られるわずかな支援金のみと、大変厳しい状況だ。
大統領になって最初にやるべきことは、食糧の確保。たいていの場合は農園を作り、トウモロコシやバナナなどを育てることになる。
食料を生産しないと住人が飢えて死ぬ点ははシビアだが、農園を建てれば解決するので対処自体は楽。
▲地域に応じて育てる作物や得られる資源の適性が異なる。建築家モードを使えば、適性が色で表示されてわかりやすい。
食料が足りたら、次は産業を興して収益の確保が必要になる(そうしないと支援金しか入らない)。
手っ取り早く農場を増やして余ったものを売ってもいいし、豊富な木材の伐採所を作って輸出するのもあり。鉱山があるなら採掘して輸出するのもいい。
産業を興すとき、同時に住宅と道路の整備も必要となる。
農園や住宅の近くに道路を作ると、この道を通って住人たちが住宅から農園まで出勤する。
ガレージを住宅に沿って作ってやれば車で移動を始めるので、生産性は大幅にアップ。というか、これをやらないと通勤路まで徒歩3時間のブラック会社ができあがるので注意。
▲車が動いて人が移動する様子も、もちろん確認できる。間違って徒歩で出勤させると罪悪感が…。
で、港と生産設備を道でつなげば、生産物は自動的に輸出されて待望の収入ゲット。産業成立の瞬間である。
▲ガレージがないと、製品が建物内に輸送されないで残ってしまう。
こんな感じで、『Tropico』の序盤は仕事を作って、住居を作って、交通を整理する地道な作業の連続。
だが、リアルタイムに変化する様子を見ることが楽しいし、収益という形で発展が分かるため、この作業がとても楽しい。
発展中の街は、遠目に見ても「これから」という感じがある。
そして、ここから面白さが加速する。自給自足ができたら、こんどは次世代産業の育成が待っている。
農作物や丸太、鉄鋼は輸出しても安い。工場を作り、缶詰や木材、兵器などの加工品にして輸出すれば国はもっと豊かになる。
高度な製品を作るためには、高等教育を受けた人材が必要となるため、このあたりから高校や大学などを建てての人材育成なども計画に入ってくる。
工場を作りたくなければ、ホテルを建てて、観光者向けの設備を作り、島の自然を活かして海外から観光客を呼ぶ手もある。来て金を落としてくれる。
スラム街を一掃し、きれいな街並みとリゾート施設を作れば見た目にも島がきれいになっていく。
▲観光は難しいので、セオリーとしては二次産業を整えてからが良い。が、マップによってはそうも言ってられない。
島が豊かになるにつれ、移民で人口が増え、観光客が街を移動し、島は活気づく。
すると、こんどは人が増えすぎて道が渋滞してしまう。が、これを上手く整理するとまたダイレクトに収益が伸びて、快感。
もう、気分は完全に『シムシティ』だ。みよ、網の目に道路が走る街を!
▲網の目状になった道路。慣れてくると最初から都市計画を考えて建設できるようにもなる。
初期の食料生産、簡単な産業作り、人材育成ときて、最後に交通整理。
簡単なところからどんどん複雑度が増して自然に楽しめるし、序盤の街の構造が後々に響く奥深さもあり、もう最高。
これだけだと「南の島でシムシティ」だが、もちろん『Tropico』ならではの面倒ごともある。
多少の収入ができたあたりから、さまざまな派閥から要望が届くようになるのだ。
宗教家は教会を作れとか、国粋主義者は国をたたえる設備を作れとか、派閥ごとの希望を政府の財務状況も気にせずに送ってきて、無視すると支持率が下がる。
ランダムイベントが発生して強制的に状況が変わってしまうこともあるし、アメリカやソ連と交渉するため(仲が悪くなりすぎると占領されて即ゲーム終了)“外務省”を作ったりと、やることは盛りだくさん。選挙をにらんだ票集めと、島を発展させるための政策、その間を探りながら国のかじを取るジレンマは本作に独自性を添えており、一筋縄でいかない感じが楽しい。
▲デモの様子も3Dで確認可能。
これを乗り越え、国民の支持を取り付けた大統領には素晴らしい未来が待っている。
島には高学歴の人材があふれ、発電所にの電力で高級ホテルやマンションが建つようになる。台風での停電や環境問題も発生するが、このあたりになると政権は揺らがない。
汚職して銀行に金を送金(横領した金額がクリア後のスコアになる)しても、見逃してもらえる。
一方、発展が遅れるとプレイヤーは厳しい立場になる。
選挙では対立候補に追い上げられ、ギリギリの勝負になったら選挙で不正を選択したり、選挙を取りやめて独裁者として地位を保つハメになる。
しかし、それで一時をしのいでも、不正はいつかばれ、軍で抑え込めば反対派のテロによって国が転覆し、最終的にバッドエンドに至ることが多い。
独裁者にもなれるが、その末路は悲惨……最初のきな臭い設定は、バッドエンドの伏線と考えてもいいだろう(敗北専用ムービーもある)。
▲こういうゲームでもある。
ゲームモードは自由に難易度や環境を設定して遊べるサンドボックス(ほぼ無限の資産で遊ぶことも可能)と、15のシチュエーションを集めたキャンペーンから成り立っており、キャンペーンを遊べば一通りルールはわかる優れもの。
ゲームとしても「高学歴の住民の職業を最適化する」細かいやり込みから、「細かいことは無視しして街だけ作る」プレイスタイルも許容している。
きな臭い舞台設定ではあるが、建物を建てて道で結び、住宅と輸送ルートの最適な配置を割り出していく作業は熱中して夜が明けてしまうほど、初期は猛烈にハマる。
同時に、スマホ・タブレットに欠けていた「豪華な街作りゲーム」という場所を、『Tropico』は見事に埋めてくれている。
概要:
カリブ海の島で大統領になり、不安定な政情を切り盛りしつつ島を発展させる街作りゲーム
評価:9(すごく面白い)
おすすめポイント
3Dで細かく表現される街の様子
住居、生活クオリティ、交通を考える都市計画
住民の教育、産業の寿命も踏まえて行う産業デザイン
序盤の街作りが後半に影響する奥深さ
気になるポイント
道が引きづらいときがある
細かすぎる設定も可能で、初期はわりきらないと面倒に感じる
アプリDL:
Tropico (itunes 1,400円 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)
開発:Feral Interactive (米国)
オリジナル版開発:Kalypso Media(ドイツ)
HP:https://www.feralinteractive.com/en/ios-games/tropico/
レビュー時バージョン:1.1.3
課金:なし
ライター:ゲームキャスト トシ
動画: