『ファンタシースター』シリーズ30周年作品として発表された『イドラ ファンタシースターサーガ』。
発表当初こそ『FGO』っぽいなどと言われていたが、パーティーを切り替えながら戦うコマンド式のバトルは戦術性が高そうだし、イドラという巨大生物(?)になって他のプレイヤーと戦うPvP要素も興味深い。
基本無料RPGの中でもやや歯ごたえのあるシステムだが、セガファン的に重要なのはやっぱり“ファンタシースターらしさ”。今回は、そこについてガッツリ聞いてきた。
今回はプロデューサー・世界設定・脚本の田中俊太郎さん、ディレクター陳智政さんにお話をうかがった……はずが、物語に突っ込みすぎて陳さんの出番が少なすぎたので表題は田中さんのインタビューとさせていただいた。
なお、田中さんは『戦場のヴァルキュリア(以下、ヴァルキュリア)』でディレクターと脚本・世界設定を、『エターナルアルカディア(以下、アルカディア)』の脚本・世界設定を担当しており、
陳智政さんは『PSO2 es』ディレクター、『PSO2』アシスタントディレクターを過去に担当している。
ゲームキャスト:
『アルカディア』と『ヴァルキュリア』の世界が好きだったので、今日は無理言って時間を作っていただいてしまいました。
本日はお忙しい中ありがとうございます。さて、早速ですが一見『PSO』っぽくない『ファンタシースターサーガ』の世界ができた理由から伺ってよろしいでしょうか。
田中:
『ファンタシースター』は30周年ということがあって、歴史が長いじゃないですか。
メガドライブまでの1人遊びのシリーズがあって、『PSO』シリーズの流れもある。
ただ、『PSO』の世界観を楽しむなら、『PSO2』を遊んでもらうのが一番良い。
▲『PSO2』。確かに、PSOシリーズを知るならこれで良い。
また、スマホで遊ぶなら『PSO2 es』というゲームがすでにあって、『PSO2』を補完する形でストーリーを作っています。
そこにもう1個『PSO』の流れで作ろうとなると、どうしても『PSO2 es』と同じ物語の作り方になってしまう。なので、今回はちょっと違う切り口の『ファンタシースター』シリーズを作りたいと思いました。
ゲームキャスト:
私としては『ファンタシースターII』から入って、『ファンタシースターIII』で急にファンタジーっぽくなっていて驚いたクチなので、世界観として違和感はないのですが……実際、どこに『ファンタシースター』らしさを出そうとしているのでしょうか。
▲『ファンタシースターII』は、すごくハイテクな世界。
田中:
それはまだ言えないというか、プレイして感じてもらいたいと思っています。『ファンタシースターIII』は大胆に変えて、賛否両論当時あったと思うんですけど、斬新な展開をやったと。
▲『ファンタシースターIII』OPからはメカメカしさが消えていた…!
私自身プレイヤーとして遊びましたが、違う世界観だと言われていたけど、やってみたら『ファンタシースター』だったと思います。
今回も『ファンタシースター』と縁もゆかりもないように見えてきて、ストーリーを進めていくと『ファンタシースター』の物語もありだな、と。
ゲームキャスト:
少しずつ明かされていく、と。
言えないものは仕方ないので、メイン物語のシステムの話に行きたいと思います。
ロウとカオスに分かれていて、1人のキャラクターの物語が“運命分岐”で変わると聞いていますが、メインストーリー自体もプレイヤーによって変わることがあり得るのでしょうか?
田中:
メインストーリーは今のところ分岐はしません。しっかりした軸のあるストーリーになっていると思います。
いずれ大型アップデートで変わるかもしれませんが、今は予定にはないです。
ゲームキャスト:
プレイヤーはイドラという巨大な怪物になれるようですが、そもそもイドラとは最終ボスとして明かされているダークファルスと関連するのでしょうか。
例えば、『PSO』シリーズではダークファルスに取り憑かれた人間が巨大な怪物ダークファルスとして立ちはだかりますが……。▲初代『PSO』のダークファルス。シナリオの中心人物が取り憑かれた姿だった
田中:
それも今は言えないんですけど(笑)
ダークファルスが取り憑く、取り憑かれるでドラマがあったと思うんですよね。
そこがプレイヤーとしても好きなので、大事にしたいなと思っています。
ゲームキャスト:
言えないことが多い(笑)
では、イドラの設定について教えてください。
そもそも、プレイヤーがイドラに変身して他のプレイヤーのイドラと戦うわけですが、人間同士で争い続ける殺伐とした世界なのでしょうか。
田中:
イドラは世界を普通にさまよう災厄というか、世界に組み込まれています。
人間に戻れなくなった野良イドラがいまして、それは村を襲ったりとか、人々の生活を脅かす。
まれにイドラになれる人たちがいて、白羊騎士団もそうなんですけど、そういう人たちはイドラと戦うことを生業にしている。
ゲーム内でも報酬がもらえるんですけど、イドラの皮とか骨とかが人々の生活に役立つようになっていて、素材として生活インフラを支えている。
そうなるとイドラになれるプレイヤーに襲うならず者もいて、戦っていかないといけない。
イドラ同士で戦うことは普通なんですね。
ゲームキャスト:
なるほど。イドラになってプレイヤー同士が戦うPvP要素があって、ゲーム全体としてみるとプレイヤーがイドラになって自衛のために他のプレイヤーを襲っているけど、他のプレイヤーから見るとプレイヤーが襲いかかっているように見えるわけですよね。
その辺りの物語構造が……。
田中:
今は回答できません(きっぱり)。
ゲームキャスト:
ぐぬぬ。まだ発売まで時間があるだけに、秘密が多いですね。
それでは、田中さんの物語作りについて教えてください。自分は『アルカディア』の多様性がある世界観、王道の物語が大好きで。『ヴァルキュリア』もやっぱり世界を感じられる作品でしたが、あの世界観はどうやって作られるのでしょうか。
田中:
私は話を作る前に地図を作るところから始めるんです。
この世界がどういう大陸で、気候で、なんのために戦っていて、資源はなんなんだと。
そういうのを固めないとストーリーは作れないと思っていて、地図を作ったら今度はお金の仕組み、あの国の服装がボタンとか、この国はジッパーなのかとか、決めていく。
『ヴァルキリア』でも同盟の国家まで作って、政治の仕組み、議会制だとか作って、そのうえでお話を作ってというのはすごく大事にしている。
『ファンタシースターサーガ』でも、この世界がどいういうもので、人々の信条はどういうもので、生活はどうなっているか決めて、そこからお話を作っています。
ゲームキャスト:
『戦場のヴァルキュリア』も『エターナルアルカディア』も、確かに世界観とか風景とか、すべてがっちりしていましたよね。
そういった話の作り方は、どういった経験から作られたのでしょうか。
田中:
私は『サクラ大戦』に参加していたんですけど、広井王子(サクラ大戦のプロデューサー)さんが、そういうところをすごくしっかり作るんですよ。
太正時代にどんな文化があって、銀座があってどんなところなのか。
それが広井さんのやりかたで、そこがすごく勉強になって。
ゲームキャスト:
確かに!『サクラ大戦』は単に恋愛ゲームであるだけでなく、としてとらえられがちですけど、世界観ゲーでもありましたよね。
あの太正の世界観にいつまでも入っていたくなる。
▲サクラ大戦より。背景の建物なども含め、世界設定がしっかりしている。
田中:
お話を作ってそこに世界観を合わせるのではなくて、出てこないものまで作り込む。
資源が何かって、冬寒いときにどんな暖房使って、エネルギーはなんで。『戦場のヴァルキュリア』だったらラグナイトというものがあるとか。
おかげで『戦場のヴァルキュリア』のときに作った設定が続編でも使い続けられました。
ゲームキャスト:
それで言うと、出てこない設定まで考えても『アルカディア』のように1作で終わると出せないとか、悲しいですね……。田中:
『アルカディア』の経験も『ファンタシースターサーガ』に生きているんですよ。
『アルカディア』には、いろいろな個性豊かな巨大ボスの“ギガス”が出てきますよね。実はギガスはイドラに似ているじゃないですか。
ゲームキャスト:
確かにギガスは個性的でしたね。最初、戦艦が拳で殴られたときはどうなるのかと思いました(笑)
▲『アルカディア』より、緑のギガス。戦艦がコイツに殴られるインパクトに驚いた。
田中:
今回は星座のイドラがいて、それぞれに個性的な特徴を持っています。レオなんてまさにパンチですし。
『アルカディア』では一方的に倒す相手だった巨人ですが、今回はプレイヤー側もイドラになれるので、そういった所も楽しんで欲しいですね。
ゲームキャスト:一連の参加作品で世界観を楽しめたのには、そういった世界へのこだわりがあったんですね。すごく納得しました。
続いて、スマホゲーを作る上での物語作りのチャレンジについてうかがえないでしょうか。
セガというと、「ソーシャルゲームにストーリーはいらない」なんて言われていた時代に『チェインクロニクル』を物語でヒットさせて、一躍スマホゲームの構造を変えてしまった功績者です。
▲これが登場するまで、スマホゲーにストーリーはいらないという説が堂々と出ていた
そこに対して『FGO』などの後続作品が出たわけですが、最近はファンとしてセガゲーの物語の語り方に硬直感も感じているところもあり……ずばり、セガの過去のスマホゲームのストーリーに対して、変えたことはありますか?
例えば、「魔物(FGOならワイバーン)がきたぞ!」でストーリーが中断する問題の対処とか。
田中:
敵も、魔物が出たぞというのが意味を持っているようにしていますね。
人間関係が込み入っているので、敵とかボスが他のキャラクターとかが出会って、それがストーリー的に意味があるように作っています。
ゲームキャスト:
遊んでみて、どう処理されているのか楽しみですね。
続いて、セガの系譜と言うよりも、田中さんとして、これまでできなかったことに対するチャレンジなどはありますか?
田中:
いろんなキャラクターがお話に絡んでくるのを挑戦したくて、それをやっていますね。
普通のスマートフォンのゲームって、キャラクターがどんどん追加されていきます。
すると、メインストーリーに関わらず、キャラクターの固有クエストでしか物語に登場しないキャラクターも出てきてしまう。それをやりたくなかった。
どのキャラクターも大きなストーリーのうねりの中に、何らかの形で関わるようにしています。
ゲームキャスト:
そうすると物語の整合性を保ったり、キャラクターを作るのが大変ではありませんか?
田中:
「(メインストーリーに)めっちゃキャラいっぱい出てくる!」と言われます(笑)
ゲームキャスト:
『チェインクロニクル』などから物語の整合性がとれていて、セガのストーリーゲームはそういうのが得意な印象がありますが、セガにはそういった物語を管理する秘伝のテクニックみたいなものが存在するのでしょうか?
実は、ずっと気になっていました。
田中:
私も『チェインクロニクル』すごく好きで、もともと一緒に仕事している松永がつくっているのがあって、どういう風にチェンクロを作ったとか、こだわりを聞いていますが、秘伝のテクニックではないですね。
私が頑張って見ています。自分でも文章を書いきますし、ライターさんから上がってくる物語も私が監修して手を加えています。
ゲームキャスト:
思った以上に人力……!
田中:
物語の整合性やキャラクターの物語もこだわっていますが、キャラクターの能力もこだわっていて。
プレイヤーが考えて遊べばダメージ量も全然違うようになっている。考え甲斐のあるバトルになっていると思います。
陳:
1キャラクター、1キャラクター、こだわって作っていくところが原点にあります。
キャラクターの使い捨てをやりたくなくて、イドラではどんなキャラクターでも使えるようにしていきたい。
パーティー編成は結構、無限大というか。レイドボスバトルとかも、ユーザーがボスになるので、片方が立つと片方が立たないので苦労していますね。
田中:
まあでも、それが開発の醍醐味だけどね。
ゲームキャスト:
キャラクター物語も、能力もこだわって作られていると。
『サクラ大戦』から続いて『アルカディア』から『ヴァルキュリア』まで続いた世界設定と物語へのこだわり、その上でスマホにおける“キャラクターが使い捨てにされない”チャレンジ。
そこに『ファンタシースターサーガ』の物語へのこだわりがあるのですね。
田中:
はい。
物語の『ファンタシースター』らしさは、プレイするまでお見せできないかな、と思います。遊んでみて『ファンタシースター』を感じることを楽しんで欲しい。
そのかわり、プレイすれば早い段階からその一部は感じられると思いますし、徐々に徐々に面白い設定も出てくるので楽しみにしていてください。勘が良い人は、いまのPVでもわかるところがあると思うので、じっくり見てみてください。
ゲームキャスト:
話をうかがって、非常に楽しみになってきました。
リリースまで高いテンションで待っていたいと思います。本日はありがとうございました。
さて……PV見直さないと!
以上。
『ファンタシースター』を遊んでいたプレイヤーが、『サクラ大戦』で学び、『戦場のヴァルキュリア』や『エターナルアルカディア』などを作った上で、さらに製作するセガ人の系譜なゲームが『イドラ ファンタシースターサーガ』。
そう考えると、かなり期待度は上がってくるのではないだろうか。