地球の文明が災害で崩壊し、一部の富裕層だけが火星に逃れた未来。
人が住めなくなった地球の廃墟はゴルフコースに改造され、道楽で遊びにくる場所になり、プレイヤーもまたその1人として、終末を感じながらゴルフに興じる……。
そんなポストアポカリプス・ゴルフゲームが『Golf Club: Wasteland』だ。
私が『Golf Club: Wasteland』を買ったのは本当に偶然で、App Storeの説明文に“金持ちが廃墟でゴルフ”と書いてあって、それが気になって買っただけだった。
いったい、どんなゲームなんだ?
そう思ってゲームを起動すると、待っていたのはロックな注意書き。
このゲームはコメディであり、誹謗中傷の目的はありません。しかし、もし気分を害されたなら、どうぞゴルフクラブをケツにお挿しください。
これはヤバいゲームを引き当てたに違いない。そんな予感に反して、出てきたのは崩壊した世界を静かに、目と耳で味わう贅沢な雰囲気ゲームだった。
ゲームだから映像があって、音楽がある。目と耳で味わうのは当然だが、この表現には理由がある。
まず、映像……ゲーム面から紹介していこう。『Golf Club: Wasteland』の舞台は、地球が大災害で崩壊し、富裕層だけが火星に移住した未来だ。
壊滅した地球の廃墟はゴルフコースとして再利用され、火星からチャーター便で金持ちがやってきては遊んで帰る。主人公もまた、そんなツアー客の1人。
ゲームとしては引っ張り操作でボール打つ方向と強弱を決め、ボールをホールに落とす普通のゴルフ。
▲一応、メニュー画面からコースのノルマ(パー)を確認でき、ノルマを達成するとステージの背景が日本語で明かされる。
ただ、それが面白くないかと言えば違う。ゲームとして成立しているし、文明崩壊後のコースを進むことが興味深いのだ。
建築物は姿を残しているが、地上にいるのは発光するウシなど、人間が飼っていたであろう生物だけ。
地下には緑色に輝く水が湧き出ており、人間が生きていられない、変わり果てた世界を見て回ることができる。淡々と世界の崩壊を見るゴルフプレイは、それだけで1つの雰囲気ゲームとして成立している。
ここに、『Golf Club: Wasteland』の背後で流れるBGMがもう1つの作品として加わる。
この時代の火星では、人々が地球を懐かしみ、在りし日の思い出を語りつつノスタルジックな音楽を聴くラジオ番組が人気を集めている。
このラジオ番組は『Radio Nostalgia from Mars』という独立した作品として Apple Music などに配信されており、これ単体で世界観を完成させている。
MVを聴くだけでも、郷愁を誘う音の素晴らしさがわかるはずだ。
崩壊した地球の現在を見るゴルフゲーム、在りし日の地球を懐かしむラジオBGM。独立した2つの作品を同時に再生(プレイ)することで、プレイヤーは崩壊した地球の現在と過去を同時に感じる贅沢な体験ができる。
ラジオは英語だが、聞き取りができなくても心配はいらない。何かの作業をしているときに聴くラジオなど、雰囲気で感じられれば十分。トークを聴いているだけで「何かを懐かしんでいる」感情は感じられる。
そして、本作は最後の最後の瞬間にこの2つの作品が融合し、過去と現在が1つになって素晴らしいエンディングを迎える。プレイ時間はおよそ1時間半程度だろうか。
最後まで静かで美しく、ゲームだから可能な演出によって余韻を残して終わる。
淡々と、少し退屈に遊ぶことも世界観を感じるためのアプローチとして取り入れられているので、アクションや手応えを求める方にはおすすめしない。
しかし、ノスタルジックで退廃的な世界を味わう雰囲気ゲーとしてなら、このゲームは絶対に買うべき最高の1品だ。
そして、買ったら絶対最後まで遊んで欲しい。
評価:8(かなり面白い)
ゲーム概要
崩壊した地球で、金持ちがノルタルジーに浸りながらゴルフをする。
おすすめポイント
単体で世界を構築しているラジオBGM
崩壊後の世界を描いたグラフィック
淡々と遊ぶプレイが、BGMとゲームの融合を導く
注意点
アクションや手応えを感じる熱いゲームではない
アプリリンク:
Golf Club: Wasteland (itunes 360円 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)
開発:Demagog Studio(セルビア)
レビュー時バージョン:1.0
課金:なし
公式ページ:http://golfclubwasteland.com/
ライター:ゲームキャスト トシ
動画: