「このゲーム、オンラインの必要あるかな?」
ゲームをプレイしていて、そんな風に考えたことはないだろうか。
私は、特にストーリーが売りの基本無料ゲームで、それを考える。オンラインでもオフラインでも変わらない物語を読むためにネット接続するなんておかしな話だし、それをやるならもうオフラインゲームで売った方が快適ではないか。
しかし、『拡張少女系トライナリー』は違う。プレイヤーの行動がときにゲーム世界に影響を及ぼし、物語が変わるオンライン物語ゲームなのだ。
本作はフェノメノンと呼ばれる現象と戦う特殊部隊、トライナリーの隊員達と愛を育む恋愛RPGである。ただ、そのゲームサイクルはちょっと特殊だ。
まず、最初に最初にナビゲーターであり、ヒロインたちとの仲を取り持つ“ラブラブトレーナー”千羽鶴(ちはる)との問答が始まり……。
その後、短いアニメパートが始まる。アニメはこれから発生することを描いた未来の様子である。
▲このアニメパートには様々な伏線が張られている。見逃さないため、、アニメを見た後テキストの要約版を見ることをお勧めする。
続いて、アニメの中で描かれていた事件がどのような過程で発生したのか、各ヒロインの視点から描かれる。ここで、プレイヤーは“WAVE”という『LINE』のようなチャットソフトを介してヒロインたちと会話する姿のない存在として物語に介入できる。
ここではヒロインたちが特別な決断をする様子までが描かれるが、このときにヒロインたちの心の中に入る能力を使い、その決断の後押するのがプレイヤーの役割となる。
ヒロインたちの心の中には「なまけたい人格」「やる気ある人格」など、特定の分野をつかさどる人格が存在しており、それぞれの人格が“クラン”と呼ばれるキャラクターとして描かれる。
特定のクランの望む決断を助けると、ヒロインのクランと信頼関係が生まれてラブラブできる……という理屈である。
このクランとの対決はターン制のバトルとして描かれ、ランダムで提供される手札で役を作って攻撃する仕組みになっている。が、基本的にはごり押しで進めるので詳しい説明は省略する。
とにかく、バトルに勝って決断が下されるとヒロインとの仲が深まり、ストーリーが進むわけだ。
アニメで未来が表示され、その未来に向かう過程を4人のヒロインの視点で描き、過程にプレイヤーが干渉する……これが結構上手くできていて、後半になるとアニメから情報を得て、各視点で描かれた情報をまとめるサイクルが回り出す。
物語が尻上がりに面白くなり、システムとかみ合うのだ。
▲最初は毒にも薬にもならない恋愛ゲームだと思っていた…。
しかし、それは見えやすい特徴の1つでしかない。
『拡張少女系トライナリー』を遊ぶと言うことは、もっとすごいことだ。
私の例で行くと、冒頭でヒロインたちと恋愛関係を経て結婚することが目的として提示されたあと、まったくラブラブが始まらないことに驚かされた。
プレゼントなどを私て好感度を上げると“らぶとーく”という特別な会話が見られたり、ご機嫌をとる(そしてご機嫌ポイントショップで買うと)と近くで見られたりする要素はあるが、らぶとーくで恋人関係にたどり着くまでに数カ月。
ヒロインたちは自我を持っており、かなり過程を経ないとプレイヤーを好きにならないことに驚いた。
▲友達になるのですら遠い…!
そうして「一向にラブラブが始まらないなー」などとプレイしていると、ラブより先にゲームの本筋が私に牙をむいた。
本作は、アニメで示されたより良い未来に向かって心の葛藤が収まるよう手伝う……つまり、心の中の都合良い人格に干渉して選択を促す洗脳ライクな行為を続けるゲームである。
多少はうまくいっていたかと思ったら、別の人格から「お前は嫌い」的なことを宣告されたりもする。そりゃそーだ。
選択肢の重さもまた、印象的だった。一部の選択肢はやり直しがきかず、その後の自分の物語だけでなく、全プレイヤーの選択が集計されてゲーム世界における決定になったりもする。
そのぶん悩み、選択して、結果がでるまで「俺の決断が何を生むのか」とワクワクできるのは新鮮だった。
さらに。これは最も忘れられない事件だが……ゲーム開始から半年後に恐ろしいことが起きた。
推しのヒロインが「あなたを信じていない」的な発言をして、私の意見を無視して重大な選択を行ってしまったのだ。ギャルゲーで言えばバッドエンド。
「ヒロイン全員と結婚してほしい」というハーレム恋愛ゲーム的なノリで始まったが、ヒロインたちを人間として見て選択を重ねなかったプレイヤーには半年越しに残酷な審判を下す……まさに外道。
1人用のゲームと異なり、オンラインゲームのプレイ結果は戻せない(もしくは、リプレイに大変コストがかかる)。
もはや「気に食わなければすぐリセット」という時代ではないのだ。
▲ヒロインの1人、ガブリエラ。彼女も世界を変えるほど重要な選択をした一員だが、開発のデバッグ期間中に選択比率が変わって大変だったらしい…。
そんな性質を持つオンラインゲームを前提に運用されているストーリーは本作独自のもので、制作の労力は途方もないはずだ。
そして、それをやってのけている『拡張少女系トライナリー』は、特別ユニークで、他にない素晴らしいゲームだ。
が、人に勧めようとすると結構これが……好きなのに勧めづらいゲームでもある。
最初に立ちはだかるのは、チープすぎるバトル。
3Dキャラクターが戦うのに、敵はイラスト。しかも、イラストの世界観が合っていない。
3Dキャラクターのモーションも、カメラワークでごまかそうとしているが微妙だ。
▲カメラを回転させつつ3Dと2Dのキャラが同時に出るので、違和感たるや…。
物語ゲームなのに、物語を中断するような“キャンディ”システム。
キャンディは選択肢を選ぶのに必要になるアイテムで、選択肢の感情に対応したキャンディを消費して受け答えしてゲームを進める。
これが足りない時は有料通貨のジュエルで購入するわけだが……キャンディが足りない時に購入する行為も、キャンディ入手のためにクエストを回す行為も、物語を中断する。
ジュエル配布は多いし、キャンディはデイリーミッションやクエストで十分入手できるとはいえ、このあたりの見せ方は工夫が欲しかった。
▲いっそのこと、「キャンディが足りない時は自動でジュエルから補填」というオプションがあっても良かったかもしれない。
また、ストーリーを通してプレイしようとしているときに「次のストーリーに進みますか?」と聞かれてメニューに戻ってからイベントが進むとか、ゲームのつなぎも気になる。
全体的に操作のもたつきなどが感じられ(Galaxy S8+使用時。iOSは少しマシだった)、ストレスが細かく蓄積される。
バトルや育成が必要なのは「オンラインRPGで物語を語る」代償なので良いとしても、アプリのつくりはどうしても気になる。
とは言え、全部が平均点なゲームより、すっごく良いところがあって残りがダメなゲームの方が面白いのは確かで、この面白さを体験できるのは『拡張少女系トライナリー』だけだ。
最新のストーリー(つまり、物語に影響を与える選択!)についていく気合いも必要だが、今、ちょうど第1部が終わって新しい物語に入るところなので、チャレンジャーな皆さんはそこに参加すべくアプリをDLしてみて欲しい。
合わなければ、ぽいっと投げ捨てる気持ちでも良いので。
▲ヒロインと仲良くなって着せ替えしよう(安直な誘い方)!
なお、本作のリリース時期は信じられないほどバグが多く、シナリオ的にも尻上がりに面白くなる性質もあって厳しいアプリだった。
だが、早送りはミッションの追加でだいぶ(リソース的にもプレイ的にも)やりやすくはなったので、以前諦めていたプレイヤーの方も是非戻ってきて欲しいと思う。
評価:7(要チェック)
おすすめポイント
4つの視点で語られる物語
長期視点でデレるヒロインたち
プレイヤーたちの選択の反映からTwitterまでオンラインであることを活かした物語
オシャレなUI
気になるポイント
バトル・バグ・レスポンス……物語とデザイン以外の部分
アプリリンク:
拡張少女系トライナリー (itunes 基本無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)
開発: ガスト(日本)
レビュー時バージョン:1.2.0
課金:ジュエル(物語進行に必要な全て、衣装、ガチャなどで使用できる)
ライター:ゲームキャスト トシ
動画: