先日、電子マンガサミットというイベントが開催された。
有名マンガ家と、電子マンガ販売サイトeBookJapanの会長が電子マンガの未来についてトークを繰り広げる、現役の先駆者だけのトーク。
その4人とは“限界集落(ギリギリ)温泉”シリーズが累計2万DLを突破した漫画家・鈴木みそ氏。
Kindle初の日本語マンガ『青空ファインダーロック』を出版し、新しい事に挑戦し続ける漫画家・うめの小沢高広氏。
人気漫画家であり、絶版漫画を無料配信するJコミの代表として活躍する赤松健氏。
世界最大の電子マンガ販売サイト「eBookJapan」の現会長の鈴木雄介氏。
普段はゲームアプリだけを追っているゲームキャストだが、電子コンテンツのDL販売の未来はどうなるのか、という点でこの動きには非常に興味を持っている。
今回はアプリという形でAppStoreにて電子出版を行なっている超水道のミタヒツヒトさんの視点から、電子マンガサミットをレポートしてもらった。
大御所たちが語る電子出版について、まだ売り出し中の物書きはどんなことを感じたのだろうか。
1.自己紹介
お初にお目にかかる方も多いと思います。
この記事を書かせていただくことになりました、アプリ制作ユニット「超水道」のミタヒツヒトと申します。
超水道は、文と絵、音楽を一緒に楽しむ「ノベルアプリ」を作っています。
中学校からの友達と、僕はシナリオ、友人はイラストを担当して、日々、制作に打ち込む日々を送っています。
前に、星海社さんからAppStoreで配信しているノベルアプリの番外編を出してもらったりしています。
だから、立場としては「アマチュア以上プロ未満」くらいのところにいるんじゃないでしょうか。
「ノベルだけで食って行きたいけど儲からねーよ無理だよなーあーうー」ってボヤきながら毎日を暮らしています。
ちなみに、小中学校で書いた「将来の夢」は「ゲームクリエイター」でした。
さて、そんな僕らにとって、「電子出版」は大変興味の分野であるわけで。
「電子書籍ってなんか儲かるらしいじゃん? 小説で喰っていく方法が聞けるかも! 行くしかない!」
というノリで行きました。不純なものです。でも、切実です。
この場をお借りしまして、先日阿佐ヶ谷ロフトで行われました「電子マンガサミット」で、何が語られたか。
ルポ風にタイトルをつけるなら、「無名ノベル書きが見る電子マンガサミット」!という感じでしょうか。
やや脱線することもあるかも知れませんが、掛け値なしの本音で書いていこうと思います。
2.電子出版は儲かるのか?儲からないのか!?
しばしばゴールドラッシュのように語られる電子書籍。
しかし自分ではどう儲けたらいいのか、そもそも儲かるのか。よくわからないと思います。
みんな漠然と「なんか良い感じに大儲けする人が出たらそのマネすればいいや」と漠然と考えているイメージなんですが、いかがでしょう。
このサミットでは電子出版の第一人者が集まっているわけで、実質、先生方以上に詳しい方々はいないのではないかと。
で、そんな先生方は、どう言っているのかと言うと。
『そんなに儲からない。すごく頑張れば、儲からないこともない』
結局、そういう結論でした。
ある意味、これが全てです。ちょっとがっかりです。
例えば「2万冊売った!」という「伝説」について。
売上の分布としては、
最初の月にそれなりに売れ、
次の月にはもっと売れ、
その次の月にはガクッと売れなくなる。
という感じだそうで。
「電子書籍は品切れがない!」という利点は確かにありそうですが、どうやらロングテール現象なんてものは期待できそうもありませんね。
でも、それが現実です。しょうがない。
電子出版でガッ!と儲ける方法はただ一つ、
「ものすごく売れるもの」を「ものすごいスピード」で「ものすごい出し続ける」こと、だそうです(笑)
マジかよ。
確かに、利益50円でも、1万冊売れる本を、月2回も出版出来れば月に200万円入ってくるので、確かにウハウハでしょうが。
そんなコトができる人は、もうジャンプあたりで連載持てばいいんじゃないですかね。
3.電子出版が描く個人出版者の形
では、電子出版での「成功」とはどういうことなのか?考えてみることにします。
鈴木みそ先生は、「一部の作家がコアなファンを一定数抱えて細々と堅実に食っていく」という未来を提唱しておられました。
確かに、ぎりぎり現実的なラインと言えばそのあたりでしょうか。
しかしそれができるのは、ネット上でセルフブランディングに成功している、一握りの作家だけ、でしょう。
電子書籍によって最も恩恵を受けるのは、純粋な小説家、マンガ家ではない、と思うのです。
では、どんな人々にとって、恩恵になりえるのか。
そう、小説家でもマンガ家でもない人々です!
ずばり、電子書籍の恩恵を真っ先に受けるのは、例えば有名ブロガーさん等ではないでしょうか。
いわゆる、「自分の専門とする分野で成功しネームバリューがある」という人々は、もうすでに自分の発言に価値があるし、可視化された支持層が存在しています。
そういったフォロワーをターゲットに、定期的に、電子出版していく。
本業を頑張れば頑張るほど、きっと書籍は売れていくだろうし、小説家、漫画家が裸一本で売りに行くよりも、需要と供給が成立している。
本業があるから、たまに書籍がスベったりしてもまぁ大丈夫だろうし。
書籍というものに親しんできた作家、そして編集者などよりも、
書籍分野の「外」にいた人たちに、この「電子出版革命」は、意味のあるものだと、僕は思います。
4.そんなものは未来でもなんでもない
とはいえ、そういう世界が訪れたとしても、それって一番最初に言われていた、
「誰も彼もが小説家・ルポライター!これは流通の革命だ!」みたいなモノとは完全に別物ですよね?
既にドル箱を持ってる人がますます儲かる……って、そういう話でしたっけ?
新しい稼ぎ方の選択肢であることは間違いないでしょう。
しかし、クリエイターにとっては、手段がひとつ増えたというだけで(しかもその手段もそれほど効果的とはいえない)、革命が起きたとは言い難いものです。
ていうか、鈴木みそ先生、うめ先生がヒイヒイ言って何とか頑張られているこの状況で、後発が入っていって、どうにかなるんでしょうか?
スタートダッシュに参加すらしていない新参が入るスキは、実質ないと言えるのではないでしょうか。超水道は死ぬしかないんです。
『電子書籍に期待しすぎ』?
確かに。そうなんですよね。
5.よく考えたら「電子出版」は新しくない
頭を空っぽにして考えてみると、電子書籍って新しくもなんともないんじゃね?って思うんですよね。
だって、画像がデジタルになって、活字がテキストになっただけ、じゃないですか?
話の内容は変わらないし、うん、選択肢が増えたのはいいことだけど、だからどうしたんでしょう?
僕らのような90年前後生まれの子供って、多分、スキなイラストサイトの絵をこっそり持ち帰ったりしてたし、
「毎週水曜更新です♪」みたいな、ゲームキャラの二次創作四コマとかを毎週ダイヤルアップでアクセスしてもくもくと読んでたし。
男の子な話で恐縮ですが、エロ情報なんてのは、ウィルスにビクビクしながら18禁サイトで仕入れてくるヤツがグループに一人はいたし。
エロ掲示板をプリントアウトしてきたヤツもいたなぁ。懐かしい。
そう考えると、別に何にも新しくはない。
みんなが「新しい!」って言ってるし、端末も新しいから、新しく見えるだけで。
個人出版も、別に新しくないですよ。だってそれって同人誌と一緒だし。
コミケはずーーーっと前からあったわけだし。
コミケでも電子出版でも、売れるために必要なのは「知名度」です。
漫画家や小説家の「知名度」というのは、結局、出版社といっしょに培ったものですよね。
鈴木みそ先生、うめ先生も、元々のネームバリューが無ければ、売れるのは難しかったでしょう。
結局、個人出版の時代とはいえ、作家というのは出版社の引力から逃れられないのではないでしょうか。
サミットの中で、電子書籍懐疑派の赤松健先生は、「印税が一割だろうが出版社に流通してもらって沢山売ってもらうのが賢いのではないか」とおっしゃっていましたが、確かにそうですよね。
KDPなら七割印税が入る。けれど、プロモーションも様々な管理も、全て自分でやらなければならない。
僕も超水道でアプリのプロモーションで色んなことをやったり、考えたりしますが、プロモーションって本当に大変だし、個人では限界がある。
宣伝って、個人でできることは本当に限られているんです。
アプリ出してると、宣伝段階でそう感じることが本当に多くて、印税の「一割」という数字も、何だか納得できてきてしまうんですよ。
6.しかし人は電子出版にしがみつく
なぜでしょう?
理由は単純で、「古くはない」からですよね。
出版業界の芳しくなさは、誰もが知っているところです。
作家界隈にも、その余波は及びまくっているわけで、まぁ色んなことがありますね。
そんな現状の突破口があるとしたらどうやら「電子書籍」にしか、ありえないっぽいんですよね。
どちらにせよ死ぬなら、アクセルを踏むしかないんですもんね。えらい時代です。
でも、出版社業界は大きいぶん、動きが遅かったりします。
その遅さに血反吐を吐いてる関係者さんもいっぱいいるんだろうな、と思います。
だからこそ、個人でエンジン全開にしてその先回りをすれば、勝ち目はあるでしょう。
でも、出版社は、いつか追いつきますよ。間違いない。そうしたら個人はどうなるんでしょうね?
新しくやる人にはイバラの道。儲けを期待するほうが間違い。超水道は死ぬ。それが電子書籍。
声を大にして言うべきなのは、みんな、「本を読まなくなった」んじゃない、「本以外も読むようになった」ということではないかと。
ミタヒツヒトはネット小説育ちなので、もう一年以上、小説買ってないんですよね。
ぶっちゃけ、電子書籍って別に面白くはないですよね。
コンテンツの入れ物が変わっただけで、人が見てるのはコンテンツであって、入れ物じゃないですよね?
「電子書籍で儲ける可能性」は面白いけど、それって別物でしょう。
儲かる可能性があるから皆、「未来だ」とか言ってるだけで。
そこんとこ、履き違えてはいけないと、僕は思います。
7.21歳の超水道として
電子出版は、少なくとも、自分にとって、超水道にとって、救世主ではありえないな、というのが個人的な所感です。
そもそも、「第一人者」そして「固定のファンとバリューがある」と二つ条件を揃えた、偉大な先人ですら危ういのですから。
超水道が「うるせえ!!! いこう!!!」と、何も考えず参入しても、Amazonの藻屑と消えてしまうのは必然でしょう。
知り合いの絵師さんが「pixivは知名度を稼ぐRPGみたいなもんだよ」おっしゃっていましたが、電子出版の世界で言えば僕らはレベル1の雑魚そのものですし。
ここまで考えて、「デジタルノベルやっててよかったな」と思いました。
絵も、文も、音楽、その他もろもろ、それぞれのジャンルからの注目を得られるのは、実は他のジャンルにはない強みです。
「東方Projectには音楽から入った。そのあとゲームが好きになった」っていう人はけっこう多いですよね。総合芸術の強みは、まさにそこにあると思います。
そして、必要があれば、電子出版などの世界に踏み出すことができる。「活用できるけれど依存はしない」関係性を構築することができます。
演出やプログラムの部分で、魅力をさらに高めたり、「電子書籍」「ゲーム」とちらの世界にも訴求できる。
その分、人数、時間、技術的なコストがバカ高いのが欠点ですけどね。
時間コストが高いということは、マッハなスピード感を持つネット界隈において致命的と言ってよいですし。
分野が広いということは、マトを絞るのが難しいということだし。
でも、下手に外に打って出るより、得意なことを伸ばすほうがいいんじゃないか、と思っています。
8.「個人作家」が「出版社抜き」で「電子出版」で生きていくには?
自分のやりたいことが決まっている人ならそれを伸ばせばいいと思うんですが、これから「ゼロ」の状態から、Kindleでマンガを売りたい、小説を書きたい!という若い作り手志望の方は多いはず。
個人出版でサクセスしていくための方法を、ミタヒツヒト的にまとめてみます。
・Kindleで本を出すのは活動の半分
はっきり言って、Kindleで本を出して一躍スターに!は「無理ゲー」です。
例えば、コミックジャンルを見てください。ランキングは商業マンガで埋め尽くされていて、個人の、しかも無名作家の入り込むスキはありません。
個人でブログを始めて人気を博すなり、Twitterで炎上マーケティングしたり、顔に自信があれば、顔出し生放送をして、パッと人気者になってください。
え?そんなのできないって?
大丈夫、僕もできません!
だから、真面目に、コミケとかに参加しまくって、研鑽して、少しずつファンを増やしましょう。
はっきり言って、現状、コミケで売れるのと、Kindleで売れるのだったら、コミケの方が数段楽勝なはずですよ。
知名度ゼロから始めるのなら、まずは自分のファンを持つことから。
電子書籍は金脈じゃないんです。ただの新しい土地なんです。
そこにどんな家を建てるかはまったくもって自由なんです。
・専業なら徒党を組もう
現代は、マルチクリエイターの時代と呼ばれています。
いわゆる、絵も文も音楽もプログラムもできちゃうような人たちですね。
そういう人たちが、先端的な作り手の中では、もはやスタンダードです。
でも、「俺にはマンガしかないんだ!」「僕は小説に全てを賭けるんだ!」という人も多いと思うんです。
そういう人たちにしか作れないものはあるし、そういう人たちはいなくなっちゃダメだ!と僕は信じています。
専業、ステータス極振りで行きたい、そんなあなたは、「他の専業者」と、徒党を組むことをオススメします。
いま、アプリ界隈で上手く行ってる開発者さんって、デザイナーさんとプログラマさんのコンビが多いそうですよ?
よきパートナーをしっかり選んで、自分の力を活かしていくのも、きっと、とても楽しいことだと思います!
TwitterなどのSNSを使って「あ、いいな」と思った、他の作り手さんに声をかけてみると、新しい道が開けるかもしれませんよ?
芸術性、テクノロジー、どちらも伴わなければ、やっていけない時代です。
その比率は人それぞれ、信念に従うべきですが、「どちらも兼ね備えねばならない」ということは真実だと思います。
作り手にとって生きづらい世の中。何とか、何とか頑張ってやっていきましょう…!
まとめ
・電子書籍は「儲かりにくい市場」。変な希望を持つな!
・偉い先生も大体そういう意見だ!
・自分の得意なことを活かすんだ!
・ノベルアプリ王に俺はなる!
9.最後に
さてさてそんなわけで、ミタヒツヒトによる、「無名ノベル書きが見る電子マンガサミット」でした。
偉そうなことを沢山言ってしまった気もしますが、ウソをついてもしょうがないので、思ったとおりに書きました。
個人のクリエイターが生きていくのが極めて難しいこの時代、一体どうしたらいいのか、僕も常に考えてウンウン言っております。
唯一言えるのは、「活気が出て悪いコトはない」ということだと思うので、電子書籍もAppStoreも、みんなで盛り上げていきましょう!
僕の所属する「超水道」から、来週アプリが出ます!まだ審査通ってないけど!
「ボツネタ通りのキミとボク」という、『ボツる』そして『作る』ことについて色々考える作品です。
昨年は自分も色々あったりして、「書くってどんなコトなんだろ?」という袋小路で迷っていた中で絞り出した作品で、すごく愛着があります。
超水道作品の例によって、エロくもないし世界救わないし平行世界がどうのとか言わない、売れ線をぶっちぎった作品ですが、
とにかく「愛」をもって作っておりますので、どうかどうかリリースされました際は落として読んでやってくださいまし。
そうそう。AmazonでもiBooks Storeでもないですが、超水道のノベルアプリの音楽が、iTunesStoreおよびAmazonMP3で販売中でございます。
【森川空のルールサントラiTsunesリンク】
【ボツネタ通りサントラiTsunesリンク】
ちなみに、僕らに入ってくるお金は、売値の60%強です。多いと見るか少ないと見るかは、人によると思いますが。
しかしながら個人でもわりと簡単に配信できちゃうので、そのうち紹介記事を書きたいと思っています。
それではみなさん、またどこかで!
超水道のミタヒツヒトがお送りいたしました!
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