ゲームキャスト

面白いゲームを探すなら、ここ。

ドイツ連邦教育研究省が、有名インディー開発者と共同で制作した学習脱出ゲーム『Kitty Q』レビュー。子供の好奇心を刺激し、勉強とゲームは両立させる取り組み

Kitty Q (App Store 無料 / GooglePlay 無料)
csm_33KatzeQ-www_d380f82f6a
「勉強ばかりしてないで、ゲームしなさい」
四国新聞で展開されたメッセージ広告が、ネット・ゲーム依存症対策条例を定めてゲームを制限する香川県への挑戦として日本では話題になった。
が、ドイツでは「そもそもゲームと勉強は両立する」とばかりに、子供の好奇心を刺激すいる量子物理学学習ゲーム『Kitty Q』が開発され、スマホ向けにリリースされた。
しかも、ドイツ連邦教育研究省(国)の出資で制作されているため、無料で広告一切なしなので、誰でも手軽に手を出せる。

開発は数々のヒット作・受賞作を制作し、直近でも『Song of Bloom』でApple Design Award を受賞したドイツ・インディーゲームの鬼才 Philipp Stollenmayer。
それでいて研究組織 Cluster of Excellence ct.qmat の協力で科学的な解説・考証もバッチリ。
面白さでも、学習への取り組みでも妥協のない1作となっている。

ゲームを開始すると、あなたの家に謎の箱が届く。
その送り主は、量子物理学における思考実験“シュレディンガーの猫”で有名な学者エルヴィン・シュレーディンガーのひ孫で科学者のアンナ・ブラウナイザー(ちなみに、アンナさんは本作を後援している本物のシュレディンガーのひ孫で、特別出演している)。
彼女が屋根裏部屋で見つけた箱の中には……。
kitty0002

なんと、半分生きていて、半分死んでいる猫!
シュレディンガーは、「箱に猫を閉じ込めたとき、開けるまで猫の生死は確定しない」という『シュレディンガーの猫』の実験をして、箱閉じたまま屋根裏部屋に置きっぱなしにしていたのかもしれない……。
csm_33KatzeQ-www_d380f82f6a
▲そうすると一世紀ぐらい観測されずにいたネコ?

とにもかくにも、死んでいるか生きているのかわからない、この猫。
プレイヤーは、箱の中の世界に入って猫を観測することで、半死半生の猫を助けられることを知り、アンナに協力する形で箱の中に入ることとなる。

本作のプレイは、気になる場所をタップして、画面の情報からパスワードを取得したり、装置を作動させたりしていくポイントクリック型の謎解きアドベンチャー形式だ。
kitty0006

全体的にアートはかわいく、癒やしの世界観が演出されている。
ゲーム内に隠されているステッカーを手に入れると、猫を着せ替えできるようなおまけ要素も。
おすすめはヘッドホン猫で、これをつけているとテーマソングがプレイ中ずっと流れる。
kitrtyr0001

対応言語は英語とドイツ語だけだが、謎解きにはほぼ文字が必要ないため、日本語しか理解できなくてもほぼ謎は解ける。
画面の動きは小気味よく、謎の解答にも納得感があり、脱出謎解きゲームとしてまず面白い。
kitty0005

それでいて、勉強面も面白さを損なうことなく組み込まれている。
すべての謎は量子物理学の何かしらの解説と紐付いており、謎を解くとゲーム内のスマホからアクセスできる Kittypedia に学問的な解説が加わる。
そこで「ああ、今解いた謎はこういう元ネタがあったのか!」と楽しみながら学習できるわけだ。
kitrtyr0002

開発協力の ct.qmat は、この説明文に非常に力を入れたそうで、簡単でわかりやすく、正しい説明を作るために長い努力をしたとか。
おかげで、英語力が低くても辞書を引きながらなら誰でも読めるし、翻訳ソフトでもきれいに翻訳できる(ただし、専門用語はある)だろう。

感心したのは、ゲームが説教くさくないというか、学習を強要しない点だ。
ゲームをしたら知識が身につくのではなく、ゲームをプレイして、自分が解いた謎に興味がわいたプレイヤーは Kittypedia にアクセスすれば深く中身を知り、学修できるという作り。
ゲームという楽しめるものを入り口として、興味を持ってもらえたら学習してもらう。
そういった自発的な勉強を促すつくりゆえに、学習要素がゲームを邪魔せず、プレイしていて楽しいわけだ。

ゲームとしても面白い、学習にも役立つ本作は、国の出資があるから完全無料で広告もない。
それだけで充分すごいのだが、量子物理学への興味がわいた子供にはさらに先のお楽しみが提供される。
ゲーム内に『ボーナスアプリ』というアプリが隠されており、これを取得したプレイヤーは、ゲーム内アプリからゲームで感じた量子物理学への質問を学者に直接届けられるのだ。
質問に対しては専用の Youtube チャンネルで現役の科学者たちが、2022年1月以降に回答が投稿される。

▲サンプルの解答動画

入り口から奥まで面倒を見る教育プログラムとなっているわけだ。
すでに、「なんでシュレディンガーは猫で思考実験したの?」、「死んでいる時と生きている時の猫の原子はどうなっているのか?」などの質問が届いているとか。

正直、これが日本語で遊べたらなぁ……と思ってしまう内容で、これが利用できる言語圏の子供達がうらやましくなってしまう。
日本でも香川県の規制が話題になるが、自治体単位で見るとさまざまな場所でご当地ゲームを作り、ゲームを“良いもの“として活用しているので、そろそろ日本でも国の支援でこういったものが出てきていいのではないか。
そう思わされる1作だ。

プレイ動画:


評価:7(要チェック)

おすすめポイント
 かわいい猫と歌
 納得感のある謎解きゲーム
 学習とゲーム一体化の試み

気になるポイント

 日本語対応なし

アプリリンク:
Kitty Q (App Store 無料 / GooglePlay 無料)

開発:Kami box・Cluster of Excellence ct.qmat(ドイツ)
販売:Kami box(ドイツ)
HP:https://www.kittyq.app/

レビュー時バージョン:1.0
課金:なし

ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中