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美しい世界『World for Two』に隠された秘密と、完全無料でリリースされた経緯。開発者ミニインタビュー。 #BitSummit

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動物の死に耐えた世界で、ただ1人生き延びた老博士が、科学的に動物を作り、再び世界を再生する……そんなテーマと美しいアートで、瞬く間に話題をさらった『World for Two』。
インディーゲーム展示会BitSummitにて、その制作に関して、プログラマーでありシナリオなどのメイン作業をほぼ担当したしんいちさん(@shinichi399)、アートを担当したおでーんさん(@ohanhan)、音楽を担当した椎葉大翼さん(@shiibadaisuke)にお話を伺えたのでミニインタビューとして掲載する。
nama
『World for Two』のリリース、おめでとうございます!
さっそくですが、これだけのゲームが完全無料で提供されたのがにわかに信じられず、その理由をお聞きしたいのですが、可能でしょうか。

しんいち:
理由は複数あります。
単純に、たくさんの人に遊んで欲しかったのが1つ。
無料、広告なしによるインパクトの狙い。
最後に、うまくいけば寄付でもやっているんじゃないかという希望を持って無料にしました。

今は有料でだしても開発者のファンが多いか、ゲームのクオリティがすごいかでないと儲からないので、それなら無料+寄付の方が私とユーザー双方にメリットがあるんじゃないかと思いこのようにしました。

このゲームは『優しい世界』をテーマに創りました。
ゲームの世界感での優しさを、私からは無料(広告なし)でプレイヤーへ優しさを、そしてプレイヤーからは支援という形の優しさを頂けたら完成するゲームと考えています。
すみません、少し良いように言い過ぎました(笑)

nama
かっこよすぎますね(笑)
価格についてちょっと思ったのですが、以前の完成前の開発インタビューで、しんいちさんは本業があり、それを安定させることを重視してインディーゲーム開発をされているとおっしゃってましたよね。
命なき世界に生命を作る『World for Two』開発者インタビュー
インディーゲームというと、ギリギリの中で作るようなイメージもありますが、安定しているからこそ、思い切った選択ができた面もあるのでは?

しんいち:
生活に労力を注いでいるからリスクを取りやすかった側面もあると思います。
でも、安定するように努力しても理想通りにいかない(笑)
ゲームを出すとき、結局はいろいろな苦労と経済上の負担があり、「安定した生活で優雅に開発」という理想の状況にはなりませんでした。
また、本業のために『World for Two』の開発が止まる事もあって両立は難しく、開発まで2年かかってしまいました。

nama
「安定したインディー開発」ではなく、「生活費を最低限稼げば死なないから、最終的に絶対に完成する」という泥臭いメソッドの方が近いニュアンスですね……。
そんな『World for Two』で、とくに苦労された部分などあれば教えていただけませんか?

しんいち:
シナリオ部分ですね。すべてを語らず、でも(結末を)しっかり予想できるように匂わせたり、キャラクターなどに愛着を持ってもらえるようにこだわりました。
例えば、博士とアンドロイドがお互いに名前で一切呼び合わない部分も意図があってそのようにしています。

nama
ビジュアルが注目されがちですが、苦労やこだわりはシナリオ系なんですね。
「ここは見て欲しい!」という部分などはありますか?

しんいち:
ネタバレになるので内容は言いませんが、最後まで遊んでもらえると嬉しいです。

nama
たしかに、最初は映像に目を奪われましたが、終わってみるとその回答にも納得できますね。
続いて、アートのおでーんさん、今回はエフェクトをバリバリにかけたドット絵ですが、そういったエフェクトを活かすというところで、特別な工夫などあったら教えていただけないでしょうか。

おでーん:
ドット絵はピクセルパーフェクトを目指さず、グラデーションやエフェクトを使うなど“空気感”を重視ししました。
見どころとしては、時間帯による空の表現や水の反射の表現はプログラムで制御してもらっているのですが、例えば夕暮れ時の空のグラデーションを作る場合、こちらでカラーのイメージを作り、そのグラデーションになるよう時間の変化をプログラムしてもらうという形です。
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▲絶妙なグラデーションは、アートとプログラムが密に連携して作られていた。

nama
ドット絵を打ったアーティストが、時間の変化による色の変化も指定して、それに合うようにプログラム側で制御していたと。
だから、自然な色合いにで変化できていたんですね。

おでーん:
はい。「地球に似ているが少し違う世界」を見て楽しんでもらえればと思います。
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nama
ありがとうございます。
もう1つ、次は音について聞かせてください。
『World for Two』を遊んでいて、環境音がない前提で音楽が作られているな、と感じたのですが、環境音を補って音楽で世界観を表現するにあたっての苦労などありますか?

椎葉:
沼地・森林・砂丘・遺跡それぞれの曲に関しては(環境音なしということが決まっていたので)何となくそのステージの雰囲気が感じられる音色を時間をかけて選んだのと、ゲーム中で昼夜の概念があるので、朝っぽく、昼下がりっぽくて、夕暮れっぽくもあり、そして夜っぽいと言える音楽を各ステージ一曲で表現することに苦心しました。
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▲ゲーム内では時間が流れて景色も変わる。普通、時間帯ごとに曲を作ったりするものだが……アプローチがぜんぜん違う!

nama
言われてみると、どの時間帯でもそれっぽい感じになっていましたね。
開発規模を考えると、時間に合わせて音色を変えるとか、時間に合わせて曲を変更するなどは難しそうですし……。
それを「朝・昼下がり・夕暮れ・夜全部に対応する音楽を作る」で解決するとは……。
音に関しても今回はだいぶこだわったと聞きましたが。

椎葉:
音色にはとくにこだわりました。
共通して言えるのはレトロかつ独特な音色で、作品の雰囲気向上に貢献できたと考えています。
ラボの曲である「夢想曲」は、オープンリールのテープを備えたスタジオでピアニストの演奏をアナログ録音しています。
各ステージの曲は80年代の音色を復刻したシンセサイザー(Roland D-05)を本作のために用意していただいたうえで作曲しました。
おでーんさんの一点一点魂の入ったドット絵、しんいちさんによる感動的な物語と共に三位一体で味わっていただきたいです。

nama
いい感じの締めの言葉、ありがとうございます。

以上。
私自身、紹介の記事でも書いたが、ドットとプログラム、そしてサウンドが一体化した『World for Two』の世界は一見の価値があるので、ぜひ遊んでみて欲しい。

また、これまで遊んでいる方もインタビュー内容を踏まえてプレイしてみるとまた新たな発見があると思うので、ふたたびアプリを起動してみてはいかがだろうか。
「朝っぽく、昼下がりっぽくて、夕暮れっぽくもあり、そして夜っぽいと言える音楽」を注意して聞くのも、また楽しいはずだ。
そして、この世界が気に入ったら寄付するなり、World for Twoのグッズを購入して応援してあげて欲しい。

アプリリンク:
World for Two (itunes 無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)