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目指したのは「記憶の中で美化された」SFC風ドット再現。『リバーシクエスト2』は、いかにして”タクティクスオウガ風”のアートを作ったのか

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ついに、iOS / Android 両方でリリースされた『リバーシクエスト2』。
リバーシ+RPGの独自システムは前作から引き継いでいるが、本作の注目された点は『タクティクスオウガ』風のアートにある。
先行リリースされた Google Play 版のレビューでは「コピーである」と言うプレイヤーもいるが、実際に2つの作品のドット絵を並べると、明らかに異なる。
しかし、プレイヤーは本作のアートに『タクティクスオウガ』を強く感じている……それは、なぜなのか。
今回は、開発した YOKOGOSYSTEM の田崎亮さんに、「タクティクスオウガ風にする手法」と、本作のアートの見所を聞いてきた。

nama
今日はお時間ありがとうございます。
早速ですが、『リバーシクエスト2』をなぜ作ったのか、なぜ『タクティクスオウガ』風なアートを採用したのか、改めて教えていただけないでしょうか。
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田崎:
そもそも、『タクティクスオウガ』のアートを見たときに、吉田明彦さんのドット絵に衝撃を受けてゲーム業界に進んだので、1回はそういった方向性のアートのゲームを出したかったんです。
アイデアファクトリーという会社の『スペクトラルフォース2』にドットで参加してからずっとアートに関わっていましたが、商業でそれをやるチャンスはなかった。
どうしても、『タクティクスオウガ』や『ベイグラントストーリー』のようにシリアスな方向でオウガをリスペクトしたアートでゲームを作りたかったんです。

nama
『FFタクティクス』などは、後継になりませんか。

田崎:
『FFタクティクス』はデフォルメタッチでしたし、他のハードで出た『タクティクスオウガ外伝』なども、吉田さんじゃないので、なにか違うんですよ。
吉田さんの絵はドット絵なんですけど、絵のタッチがあるんです。
普通の人が見たら気が付かないかもしれないですが、絵のわかる人が見たら「ちょっとちがうな」って。
リアルに見えるけどバタ臭く見えないラインをたもっていて。
ちょっとでも崩れると洋ゲーみたいになって、日本人が受け付けない。自分の力では真似できなくて、一言で言えば才能の差を感じる。
でも、今回は自分の描ける限界の絵で挑戦しました。

nama
吉田さんが神……わかります。私は『伝説のオウガバトル』派ですが。
でも、「才能の差を感じる」とは言いますが、『リバーシクエスト2』のゲーム画面からは『タクティクスオウガ』感がにじみ出ていました。
「スーパーファミコン(スーファミ)風」であり、「オウガ風」なアートを作ることに成功していると思います。

田崎:
でも、実際はまったく「再現」はしていないんですよ。
アプリについては「スーファミの再現」ではなく、「みんなの記憶の中のスーファミ」を目指しました。

nama
記憶の中のスーファミ?

田崎:
スーファミって神格化されていて「すごくきれいだったな」って印象がありますけど、今になって見ると結構ショボいところもあって。
当時のテレビがにじんでいた(※)からきれいに見えていたところもあるし、記憶の中で美化しているところもある。
(※当時のテレビはドットを正方形できれいに表示できなかった。そのため、にじみを前提にドット絵が作られた)

nama
時間を経て醸成される、古き良き思い出。
それでも、ゲーム内でも再現されていますけど、実際にタイトルからモザイクがかかってメニューに移動するゲームのスタートや、拡大縮小は懐かしかったし良かった(笑)

田崎:
あれも実は、当時のスーファミより細かくきれいに作られています。
そのままに合わせると、「当時に感動した記憶」よりもショボくなってしまうので。
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▲モザイク処理は確かに細かい。

nama
おお……そう言われれば。当時のテイストと同時に、当時の思い出分の美しさを加算したきれいさが「スーファミっぽい」なんですかね。

田崎:
そのつもりですね。
ドットに使う色は制限(※当時のハードは使用できる色と同時に使用できる色数に大きな制限があった)していますけど、それもスーファミの制限内ではない。
音楽もスーファミっぽい音源で作っていますけど、本当にスーファミそのものにするとショボくなりやすいので、「それっぽいけど豪華」に。

nama
さきほどの「TVのにじみ」についてですけど、ハードの差などで苦労した場所はありますか?
例えば、今のスマホで遊ぶとドットがくっきりしてしまいますよね。

田崎:
一応、フィルタでそこをカバーしています。
iOS では標準設定でにじみフィルタが ON になっています。くっきりさせたときはフィルタを OFF にしてみてください。
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nama
自分は最近のドット絵に慣れてくっきりが好きになってしまったので、OFFにできるのは助かります。

田崎:
あと、スマホは機種によって自動的にドットが拡大表示されてものがあって……機種によって細かく倍率を指定して対応するのが大変でした。
ドット絵のゲームは、拡大しても絵を構成するドットが正方形を保たないと崩れてしまうんです。

nama
それ、ドット絵を大事にする方からは、よく聞きます。

田崎:
でも、正方形を気にしているのは自分ばっかりで、プレイヤーからしたら少しぐらい正方形じゃなくても気にならないんですよ。
すべてを整数倍していくと、今度は機種によって遊びづらいものが出てしまう。なので、厳密な機種と、遊びやすい大きさで表示される機種を作っています。

nama
あくまで「スーファミ風」であり、「スーファミ」ではないんですね。
何となく、冒頭で言っていた「オウガ風」であっても、「コピーではない、まったく違うもの」ということのヒントが見えてきた気がします。

田崎:
そもそも、『タクティクスオウガ』と『リバーシクエスト2』のドット絵はまったく違うんですよ。

nama
え…!?

田崎:
ディフォルメキャラクターの絵は等身から違っていて、すべてオリジナルです。
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▲『タクティクスオウガ』より等身が高く、目が細い。デフォルメキャラはまったく別物。

nama
違うというと、会話が行われるマップに関しても『タクティクスオウガ』は立体ブロックの地形だったのに対して……。
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▲『タクティクスオウガ』は、ステージと同じようなマップ(立体を積み重ねた足場)で会話が行われる。

『リバーシクエスト2』は描きこまれた平面ですね……。
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▲リバーシクエストはかなり大きな平面のドット絵。

田崎:
顔絵も『タクティクスオウガ』は縦長に描かれている。ところが、『リバーシクエスト2』は正方形で描かれている。
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▲リバーシクエスト2(左)と、タクティクスオウガ(右)。そもそもとして色使いも異なり、「オリジナルのドット絵でテイストを似せる」方向に徹していることがわかる。

nama
顔絵はテイストが似ていますが、比べてみると光の使い方やフラットさも違いますね……!
しかし、実際にゲームを見ると、これだけ違っているものに我々は『タクティクスオウガ』を感じてしまっている。
先に出た Google Play のレビューを見ると「これはコピーである」みたいな受け取られ方をされているものもありますよね。

田崎:
それはある意味で狙いが当たりすぎたというか、辛いところでもあるのですが……(苦笑)
自分が昔に衝撃を受けた吉田さんのリアル調ドット絵は、当時のドット絵の頂点にあると思っています。
だから、目指していたのは『タクティクスオウガ』のようにリアル味があるドット絵で、それにマッチしたシリアスな物語のゲームをやりたいというところでした。

nama
比べてみると、ドット絵は違うものですが……なぜ、我々はこれに『タクティクスオウガ』味を感じてしまうのでしょうか。

田崎:
ビジネスとして成り立たない部分にこだわったというのはあると思います。
例えば、ドットゲームでも、フォントはすごく滑らかとかあるじゃないですか。
あれも本来はドット絵のフォントを使うべきですが、ビジネスの側面で不自然に滑らかになっているところが多いんですよ。
それが嫌でフォントもドット絵にしたんですけど、その弊害として、中国語対応が絶望的です(笑)
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▲2色対応したフォント。このせいで中国語対応が絶望的。

nama
普通に見かけるドットフォントとは違うものなのですか?

田崎:
そうですね。フォントについてはドットのフリーのフォントがあるんです。それは1色で構成されているんです。
しかし、『リバーシクエスト2』では2色の構成にして、ドットだけどより滑らかに見えるようにしています。
『タクティクスオウガ』というのは、これをスーファミでやっている数少ないゲームなんですよ。
滑らかになっているんだけど、ビジネスで考えるとあまり意味がない。

nama
「日本だけで採算が取れないから中国にも出そう」って時代に、よくその決断ができましたね。

田崎:
インディーゲームってそういうものじゃないですか。
とくに、仕事で作ってないインディーゲームというのは(笑)
そのへんを曲げれば曲げるほど、ほかと同じ作品と同じになってしまう。

nama
さらに、いいですか。
フォントが近いからテイストを感じるのは分かるのですが、地形に関しては『タクティクスオウガ』の立体ブロックと『リバーシクエスト2』の広くて平たい地面で完全に違いますよね。
なぜ、これで『タクティクスオウガ』感を見て取る人がいるのか、地形のオウガ風の構築というか、そこが一番不思議で……。

田崎:
実は、背景に関しては、あまり『タクティクスオウガ』を意識していないです。
やっぱり描き込みの差だと思うんですね。商業でやる採算ラインというか、RPGツクールの共通パーツのような、なんにでも使えるパーツは一定以上の描き込みがないんですよ。
ある一定以上に描き込むと記憶の中の古き良きスーファミを思い出して、『タクティクスオウガ』っぽく見えるのではないかな、と。
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▲どう考えても『タクティクスオウガ』とは異なるフィールド

nama
うーん、私の知るいくつかのゲームは同じように描きこんでいますが、『リバーシクエスト2』の地形は何か違う気もする……しつこいようですが。

田崎:
それは、光源のあてかたの差かもしれないです。
一般的なクォータービューのゲームだと、ブロックの1番上を明るくして、左右の横が2番目、3番目に暗くなるんですよ。
『タクティクスオウガ』は右横が明るくて、上が2番目で、左が一番暗くなるんですよ。
『リバーシクエスト2』もそれと同じように光源を当てています。
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▲光の強さの考え方。上の図はイベントシーンで窓から光が入っているが、基本的に位置関係としてはこうなる。

nama
なるほど、普通のゲームだとキャラクターが乗る一番上を目立たせる。
しかし、『タクティクスオウガ』ではリアル寄りに光を当てていた……!?

田崎:
あるとすればそこですね。
『タクティクスオウガ』っぽいと思ってもらえれば狙いは当たっていて、できれば今は途絶えている「あの思い出の中のテイスト」を独自に再現していると思ってもらえたら嬉しい。

nama
言われてみると、そうなっている気がします。というか、差を見つけながら遊ぶのが楽しくなってきました(笑)
もう1つ、今度はゲーム内容について質問があるのですが、ゲーム内容には『タクティクスオウガ』感がぜんぜんない。これはなぜですか?

田崎:
ドット絵のテイストを寄せて、システムコピーになったらオリジナリティがなくなって、インディで作る意味がないからです。
初代『リバーシクエスト』より複雑で、理解してくれる人が作ってくれれば良いと思っています。
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▲白と黒のユニットを挟み込んでダメージを与え合うリバーシバトル。根元の白黒でひっくり返すリバーシルール+終端の色(赤や緑)を揃えないといけない。複雑だが楽しみもある。

nama
ありがとうございます。
システム部分は体験無料なのでダウンロードして楽しめると思いますが、これからプレイする方に、こだわりのアートの見どころを教えてください。

田崎:
各キャラクターの過去シーンは専用でドットを描いているので、ぜひ見て欲しいですね。
基本は自分でストーリーを書いているのですが、過去イベントのストーリーは制作に協力していただいている方に頼んだんです。
自分で書くと、新しいシーンを入れると描かないで済むように既存の場所でストーリーを展開してしまう。でも、ほかの方なら、そのあたりを気にしないで作るので。
「こう作りましたー」
って、言われたらもう描くしかない(笑)
そんな感じで専用のシーンがどんどん増えていきました。
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nama
大変すぎる(笑)
でも、プレイする方としてはドット絵のジオラマが増えて良いですね……。
最後になりますが、業界に入ったころからの夢だった「オウガ風」の作品を出して、田崎さんの次の作品はどうなるのでしょうか。

田崎:
リアル長のドット絵が流行っていないのは、今はビジネス的なニーズがないからで、それにインディーズで挑戦できたのは満足しています。
まあ、吉田さんに届くまでいってないと思いますが、自分の中で今にできることはやった。
まだ『リバーシクエスト2』が最後まで作り切れていないので、まずは最後まで作ります。その上で次の作品を作るとしたら次はちょっと違ったアプローチをしたいな、と思っているんですけど。
ドット絵好きだからドットにしたいですけど、ただのドットじゃないゲームってたくさんあるじゃないですか。
何か発明がないといけないから、どうしようかな、って。試行中の段階です。

nama
夢を実現した今、よりオリジナルの方向へと飛翔する……と。
次回作も楽しみにしています。とはいえ、まずはインタビューで伺ったことに注意しながら『リバーシクエスト2』のドット絵、過去シーンを見ていきたいと思います。

田崎:
あと、自分は最近 Steam と Nintendo Switch で出た『BLACK BIRD』というシューティングゲームでもアートをやっています。
そちらも合わせて、よろしくお願いします。
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▲『BLACK BIRD』

nama
貪欲(笑)
とは言え、そっちも面白くてゲームキャストでレビューしているし、おすすめと合わせておきます。
(RPGのように発見し上達するシューティング『Black Bird』レビュー)
それでは、本日はありがとうございました。
このゲームと記事の影響で、日本でもっと『タクティクスオウガ』に影響を受けたリアルドット絵が増えて欲しいですね……!

以上。
『タクティクスオウガ』風のアートに注目していた方は多いと思うが、この記事に書いてあるような部分に注目して「何がタクティクスオウガ風にしているのか(おそらくまだ秘密が隠されている)」、「どこに差があるのか」注目してみると、『リバーシクエスト2』はより一層楽しめると思う。
ぜひ、このアートの世界を堪能して欲しい!

アプリリンク:
リバーシクエスト2 (itunes 無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)

関連リンク:
BLACK BIRD 公式サイト