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プレイヤーの恋を思い出させるコミック『Florence』レビュー。ゲーム的な手法で記憶をくすぐる挑戦

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『Florence』は、初恋をテーマとしたインタラクティブコミックだ。
コミックをなんでゲームサイトが紹介するかって?
それは、『Monument Valley』のデザイナーが設立したStudio Mountainで開発し、ゲームの手法をコミックに盛り込んで恐ろしいほど見事に感情移入を促すアプリに仕上がっていたからだ。
要所要所にさしはさまれたミニゲームの前に、誰もが……筆者のような枯れたおっさんでも、恋愛の感情を思い出すことになる。いや、ほんとに。

『Florence』は、退屈な生活を送る女性“フローレンス・ヨー”の初恋を描いたインタラクティブコミックだ。
フローレンスは、毎日起きてはSNSに時間を費やし、仕事をして何となく1日を終えるサイクルに入り込み、閉塞感を感じている。
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しかし、あるときチェリストのクリシュと出会って恋に落ち、その生活が変化を迎える。
この1つの恋との出会い、高揚、緊張、刺激、そして衝突……さまざまな場面と感情をプレイヤーに伝える物語だ。
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『Florence』をプレイしていて驚かされるのは、ゲーム要素が物語に欠かせない要素として盛り込まれていることだ。
たとえば、2人の会話を進めるときにはジグソーパズルのように吹き出しを組み立てなければいけない。とても簡単なパズルだが、最初は4ピース程度を組み立てる必要があり、これには数秒かかる。
しかし、2人の仲が進展するにつれてパズルのピースは減って組み立て時間は減り、最後には組み立てる必要すらなくなって会話がスムーズになっていく。
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プレイヤーが吹き出しを組み立てる速度で、付き合いたてのぎこちない状況から2人の距離が近づくまでを表現しているわけだ。
実際、吹き出しには何もテキストが書いていないのに、完成速度だけで2人の仲が縮まっていくことが体感としてわかる。驚くべき表現である。

そして、仲が進展した2人はついに同棲を始める。
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▲絵柄もおしゃれだが、状況によって色遣いが変化する様子も気が利いている。

ここでもまた、クリシュが持ち込んだ引っ越しの荷物を、整理して棚に置くミニゲームが始まる。
このミニゲームでは好きなものを捨てて自由に荷物を置くだけで次のページに進めるのだが……これがまた強烈に印象深い。
荷物を置いているだけなのに、「実用的なもので被っているものを捨てた方がいいよね」とか、「2人のものを半分こに入れて喧嘩がないようにしよう」とか、プレイヤーの頭の中にストーリーができて、2人の環境や関係に感情移入してしまうのだ。
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単にページをめくるのではなく、作業させることでプレイヤーにゲーム内の環境を推測させ、感情移入を促進するゲームの技法を巧みに織り込んでいる。
また、テキストをと最小限にとどめた表現も功を奏しており、プレイヤーはテキストの欠落部分を自らの記憶から過去の恋愛を引っ張り出してきて埋めるようにプレイすることになる。
これによって、プレイヤーは知らず知らずに自らの過去の恋愛とフローレンスの恋愛を重ね合わせ、さらなる感情移入を果たすことになるわけだ。

プレイ時間は全部で1時間未満だが、ミニゲームを通じて自然に、巧みに環境への感情移入を促す仕組みは見事で、何かしら恋愛を経験してきた大人のプレイヤーには思うところがある(つまり、かなり間口は広い)ことだろう。
ゲーム機などから連想するような「ザ・ゲーム」ではないがゲームの手法をうまく使った作品として、特に大人にお勧めしたい作品だ。

評価:7(要チェック)

おすすめポイント

巧みに感情移入を促すミニゲーム
おしゃれな絵柄と音楽

気になるポイント
ゲームと言うよりはインタラクティブ絵本に近い
 
アプリリンク:
Florence (itunes 360円 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)

開発:Mountain(オーストラリア)
販売:Annapurna Interactive(US)
レビュー時バージョン:1.0
課金:なし
ライター:ゲームキャスト トシ

動画: