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「ゲーム作りは諦めていた」開発者がインディーで立ちがるまで。『Million Onion Hotel』の木村祥朗さんインタビュー

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アクションパズル&ポエムというユニークなジャンルで期待を集める新作『Million Onion Hotel』。
その期待度は、ゲームキャストのような僻地ブログの記事が1000RTを突破するほど。
ここまで読者が求めているなら、記事にせねばならない。
どうせゲームは明日リリース予定で、いろんなメディアが取りあげる。ならばと、今回はゲーム内容を無視して木村さんや『moon』などのゲームのファンの方だけに振った与太話をお送りする。
『Million Onion Hotel』とは!?
hikku
ピース博士のすむ不思議な館での出来事を描くアクションパズル。
5×5マスの中に出現するオニオンをタッチするとマスが赤く塗りつぶされて、たくさん塗ると得点が入って、最後には宇宙に突入し……?
パズルらしからぬ奇抜な演出が持ち味のゲーム……のはず。まだ出ていないのでわからないが、PVが面白そうだったのでずっと注目している。

nama
ということで、ゲームの簡単な紹介をお願いします。

木村:
『Million Onion Hotel』は、コンパクトなアクションパズルゲームなんだけど、僕はいつもポエムと言っていて。
アクションパズルと僕なりの世界観ポエムのこもったゲーム。
短編小説みたいなものを目指していて、ざーっとあそべば物語がわかっちゃう、そしてゲームも面白いという感じで……えーっと……。

nama
どうせすぐ出るし、ゲーム内容は飛ばしましょう。PV見ておけばわかる。
そんなことより、もうすぐ出るゲームにどんな想いを込めて作ったか聞きたい。飲み屋の与太話みたいなものを聞いて、買ったときそれを気にしながら遊ぶから。


木村:
アホ!コラ!ゲームの紹介飛ばすインタビューってなんだよ!(笑)
パズルなのにドット絵たんまりだし、音の演出もいいからから、これは豪華。
たくさんの素材が凝縮されていて、短い体験なのに美しくかっこよくを突き詰めようと思って作った。
sun

nama
これを言うと申し訳ないですけど、木村さんて、奇妙でとがっていて、生々しいというか……かっこよくないじゃないですか(笑)

木村:
ハンサムキャラがきどったセリフを言うタイプのかっこいいじゃなくて、僕のやりたいカッコイイは奇妙で狂ってる感じのカッコイイだから。
インディーゲームがたくさんある中で、、変なゲームにかっこよさで負けたくない。そういうかっこよさを目指して作った。

nama
なるほど。短く美しく、奇妙に狂っているゲームと。
そういう上物もいいんですけど、もっと深いところでそもそも『Million Onion Hotel』を作った理由を聞かせてくださいよ。
2014年に発表されたときに基本システムがもうできていたわけじゃないですか。そこからずっと作り続けて、それでTwitterであらぶってツイート消したりして、変な情念みたいなものを感じるんですよね。
▲消されてないあらぶったツイートの一例。

木村:
長くなるよ。
ひとつは一気に駆け抜けて作りたかったんだけど、ソースが全部消える事故が2015年にあってそこから麻痺していました。

nama
普通に悲惨な事故ですね……。

木村:
2016年、去年に作り直しが始まって結果的にクオリティが上がってよかったんだけど。

nama
もうひとつは?

木村:
そもそも、2012年ぐらい僕は日本のゲーム業界でゲームを作れる気がしなかったんです。
ゲーム業界の人間関係に疲れていたし、ゲーム業界辞めようかなって。
あと、自分のゲームのアイデアが思いつかない。

nama
いつでもゲームのアイデアはあるって、前に言っていたじゃないですか。

木村:
売り込めるゲームのアイデアという意味で。
DMMの『勇者ヤマダくん』もそうだけど、いつでもパブリッシャーと組んでゲーム作りたいとは思っているんだけどね。でも普通はそんな人いないの。
僕が変なゲームつくるから、僕と組んでくれるプロデューサーって奇特な人で、勝負かけている人なんだよね。
そんな人を不幸にしたくない。自分にもパブリッシャーに対しても意味のあるタイトルと思わないと売り込めない。
それは、世の中のバランスをとっているわけで。もう、思いつくアイデアがそのバランスをとれないと思っていた。

nama
売れる目算の立つゲーム企画ってことですね……。

木村:
2012年は家庭用ゲームは縮小し、モバイルが輝いていて。
サブカルって、元の市場が大きいからサブカルが存在できるわけで、僕はサブカルだから家庭用で勝負しづらくなった。
モバイルでソーシャルゲーム作りたくないし、自分の生き方としてはどん詰まり。

nama
ゲームメディアもソーシャルゲームにうまく乗らないとやばいって空気でしたね。

木村:
そうそう。それで行き詰っていたんだけど。
そのころ、たまたま偶然サンフランシスコのGDCにいってIGF(インディゲームフェスティバル。インディーゲームの祭典)見たんだよ。
そうしたら変なゲームが次々に出てきて、そんなのが出るたびに大勢のお客さんが喜んでいて。
そのでかいスクリーンを見た瞬間に、なんで僕はこういう事しないんだろう…と。
「ゲーム業界でゲームを作ることを恐れていたけど、なんでじゃあ、そんなの無視して作らなかったのか」と。

nama
今でこそインディーインディーいわれますけど、当時はそういった概念が広まり始めたころですよね。
木村さんにも、2012年にインディーが初めて届いたと。

木村:
今までパブリッシャーの協力を得て作っていたけど、少人数でパブリッシャーのことなんて考えずに作ればいいじゃないかと。
突然気持ちが開花して、突然新しい時代に進み始めて。
そこから苦渋(笑)42歳の僕は立ち上がって、で、仲間探しから開始。
いろんな仕事した。その間にiPhoneのゲームのこともすごい学んだし。主に洋ゲーやってた。

nama
そこからビットサミットの展示につながるんですね。

木村:
実は、IGFのあとに「日本にもインディーありますよ」といろいろな出会いがあって、ジェームスミルキーに会うのね。で、その流れで、本当はまだ何も作っていなかったのに「面白いからおいで」と2013年に席だけ用意されて最初のビットサミットにオジャマして。
こんなの作りたいってキャラクターの絵だけ出してた(笑)裸のおまわりさんのドット絵。
2012年Bitsummit

そのあとで、なにげにOnion Gamesのロゴのキャラでもぐらたたきを作ってきた友達がいて、そこで思いついちゃったの。『Million Onion Hotel』のイメージを(笑)
ゲーム開発って仕様とか企画とか考えるのが普通なんだけど、最初のプロトタイプまでは仕様とかなくて、話しながら実装して面白くしていって。って感じでした。やばい作り方。

nama
勢いですね、完全に。それにしては大きいゲームに育ちましたね。

木村:
今思えば、その流れにすごいパワーがあったと思う。

nama
やっぱり、ミリオンのストーリーにもそのころの木村さんの気持ちや勢いがのってる?

木村:
「自由に作ればいいじゃん」ってことで、過去、旅していて出会った人の話とか、インディーの話とか、アートの話しとか、色々なものが混ざって初心に帰って。
「迷ったら子供の時のようにやればいいんだよ。」っていうアラスカのロッジの人の言葉を思い出して、子供の頃に楽しいと思った気持ちで立ち向かえばいいと思って。
中学一年生のときにゲームを作っていたころ、仕様とかマーケットとか考えずに、好きに考えてたそのときの気持ちに戻って、ゲームを考える事にしました。
単なるパズルだったら、無限に面を追加してストーリーなんていらないけど、やっぱいれちゃうことにしたり。
結局、世の中に反抗したいんだよね。まともな世の中に反抗したい。
『勇者ヤマダくん』なら、会社に行かないでいいとか言いたい。『Million Onion Hotel』は中学生から頭にあった「平和なピース博士というのがいまして」という物語がはいってる。

nama
そういう意味では、会社への配慮をぶっちぎって、インディーで解き放たれる最も素の木村さんが見られるってことですね。

木村:
あと、今回は自分の(ゲームデザインの)セオリーを破って、お客さんへの気遣いも薄い。ごめんなさい。
お話も中学生のときに考えていたものがベースだし、ゲームもまとまりがないし、荒々しくても、触れたときに子供と触れ合ったときに感じるワンダーな気持ちがゲームに出るようにとすごく思って作った。
だから、『moon』とか僕の昔のゲームを好きって言ってくれている人に「いいかなぁ」「大丈夫かなぁ」と思うところもあるけど、作り切った。

nama
それでいい、それがベスト!これこそインディーですよ。いや、日本の同人かもしれない(笑)
しかし、外から見ると「やっぱり木村さんのゲーム」って味が出て見えますけどね。

木村:
ありがとう。それは嬉しいです。味という意味では珍味ができてよかった。
でも(好き勝手作ったゲームが)それでいてこのゲームが自分たちの運命も握っていて。
この話の時点でリリース時の価格ってまだ決めてないけど、仮に480円で出したとして、1本売れたときにストアの取り分を引くと、僕たちの手元に残るのは300円ぐらいで。
300円で10,000本売れても次のゲームはだせない。

nama
Twitterであらぶっていたあれですよね。いくら何でも木村さんが10,000本ってのはないんじゃ。売れる可能性だってあるじゃないですか。そういう話も聞きたい。

木村:
そう。
10万本だと『Million Onion Hotel』じゃない次のゲームが作れて、30万本いったらアドベンチャーゲームを作るのに回した方がいいと思っている。
箱庭型のアドベンチャーを作り、設計するのは僕の天職だから。
ゲーム業界の中で企画を通せないと思っている僕の気持ちとか、変なノイズぬきにお客さんから儲けたお金でゲームを作れる。
坂口さんが無料ゲームでダウンロードスターターしてるけど、これは有料ゲームのダウンロードスターターみたいなもんです(笑)

nama
いまどき1億であのアドベンチャーを作れるんですか?形を変えるならできそうですけど。

木村:
(ストーリーを語るなら)唯一さらっといけるかなと思うのはテキストアドベンチャーだけどさぁ。
でも、話しかけたいじゃん。箱庭の中を歩きまわりたいじゃん。

nama
ぐっ、わかる!

木村:
1億円超えたら結構形になる物が作れるんじゃない?そこまで出来てたら、KickStarterで見せびらかしたり、もっとアピールする事もできるんじゃないかな?
というか1億円あったら世界小さめの『moon』みたいなのはいけるんじゃないかな。クラウドファンディングいらないんじゃない?
まぁ、イメージはあるわけだから、とにかく僕(が新しいゲーム世界をつくるの)に必要なのは人とお金で。

nama
すっかりゲーム作り諦めモードから抜けきってますね。

木村:
僕、ゲームが作りたいからね。どこまで行けるかわからない。
もちろん、次に作りたいのは『moon 2』でもなく、『CHJULIP 2』でもないけど、アイデア自体はいつもあって、『moon』の精神を引き継いだゲームのアイデアもあって、2012年は諦めていたけど今は不可能だと思わないし、諦めてないんだよ。
お金を集める先はパブリッシャーでもお客さんでも構わないけど、お客さんだといいと思ってる。
お客さんから儲けたお金だと、自分たちがお客さんに面白いと思ってもらえたという自信になるから。

nama
では、売れなくてもゲームを作るのをあきらめないと。

木村:
(売れるまで)粘ろうと思うけど(笑)
よくKickstarterやると、「ギロチンにかかった思いだ」っていうじゃないですか。そこで達成しなかったらファンに「お前に価値はない」と見放されたようなもんじゃん。
ゲームを発売するのだって同じで、好き勝手作って売れなかったら、声をあげて泣くだろうね。斬首。公開処刑。

nama
そうですよね。ゲームのファンの立場である僕だって、好きなゲームが売れないとそれこそ「続編が出ない!」なんて悲しくなりますけど、作者はもっとつらいですよね。

木村:
でも、売れなかったら泣いて「え、でもこれ面白いよね、これ」と立ち上がりたい。

nama
ちょっと、2017年の木村さんかっこよすぎじゃないですか。とはいえ、ゲーム機畑で作ってきた人が、パブリッシャーへの売れる配慮とかそういったセオリーから解き放たれた作品をつくるってのは私も楽しみですね。出たら遊んで、木村さんの素を感じてみたい。
最後に一言、ゲームキャストの読者……というか、ゲームを待っているみんなにください。

木村:
紳士淑女の皆様!
『Million Onion Hotel』をよろしくお願いします!今回、唯一無二の不思議なゲームができたと思います!
奇抜なだけじゃなくて、ちょっと面白い筈なので是非遊んでみてください!
たくさん売れたらまた、もっと不思議で面白いゲーム作りたい!
ぜひぜひ、ストアでご購入ください!

nama
ありがとうございました!
発売して1年ぐらいしたら答え合わせしますか。
どうだったの?って。今はリリース前で時間ないですけども、その時は本当に酒飲みながらなんでもありで(以下、無駄話が続く)

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『Million Onion Hotel』は、10月16日、0時リリースを予定している。
もし、発売されたらこのトークを思い出してみると、普段よりもゲームが楽しめるかもしれない。
ゲームの感想も、コメント欄までどうぞ。

追記:でました。
Million Onion Hotel (itunes 480円 iPhone/iPad対応)