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見た者を異世界に引きずり込む魔法の絵本。砂漠を歩くクジラの物語『Flewn』レビュー

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その昔、「本がデジタル化したら、音が出て、絵が動いて、なにかすごく進化するんだろうなぁ」と信じていた。
そして今、『Flewn』がその理想を実現してくれたと思っている。

『Flewn』は、タッチパネルで見せる表現を追求した絵本で、操作は指で画面をなぞるスクロール操作だけ。
指で画面をスクロールすると時間が経過し、キャラクターが動き、物語が進む。
キャラクターが動いているのでアニメのように見えるが、プレイヤーの指で物語を進めるので、主体はあくまで読者。
アニメでもなく、かといって従来の絵本でもない。新しく、そしてプレイヤーを今までになく本の世界に引きずり込む魔法の絵本だ。

本作の主人公は、年老いたクジラ。
彼は、なぜか歩行器を身に着け、ひたすらに砂漠を旅している。
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そして、その背中には町があり、海洋生物が暮らしている。
なぜ、クジラは陸を歩いているのか。なぜ、背中に町があるのか。
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これが、寂しげな音楽とともに語られるインタラクティブ絵本である。
動画を見れば、雰囲気はわかるはずだ。


しかし、この絵本の良さは動画では伝わらない。自分の目で見て、触って初めてわかる。
『Flewn』にはページの概念がなく、指で画面をスクロールすると時間が経過し、話が進んでいく。
その操作が、スマホにこれ以上なく馴染んでいる。

例えば、クジラが歩いている様子を右にスクロールしてみていくと……。
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はるか先に山が現れ、少し時間も経過する。
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そして画面が縦になり、上に向かってスクロールすると切り立った山が出てくる。
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「スクロールする」ことを、「移動と時間の経過」として扱い、プレイヤーの指に合わせて物語が進行する。
山が出てくるときは、多重スクロールを使って山の絶望的な高さを伝える。

すると、傍観者のはずの読み手が、自分の意志で砂漠を進んでいるような気持ちになり、山が出てきたときなど自分が困難な障害に突き当たったかのような錯覚すら覚える。
『Flewn』は、紙の本では不可能な「没入感」を提供しているのだ。

要所ではムービーも挿入され、独特な世界観をさらに表現する。
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文章だけを追っていくと、なんてことない物語かもしれない。
だが、世界にのめり込んだあとでは話は別。どんな些細な事でも、深刻に受け止めるようになり、感情がひどく揺さぶられる。
単なる絵本でこんな体験をしたのは、幼稚園のとき以来だろうか。
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プレイヤーの操作に合わせ、ストーリーと映像演出、音がたくみに動く様子は、まさに新世代の電子本。
というよりも、巻物のようにスクロール(巻物だけに!)するので、電子巻物か。
動画を見て世界観が合いそうなら、ぜひ体験して欲しいと思う。

欠点というか、絵本なので当たり前だがゲームと比べればどうしてもボリューム面では劣る。
早ければ、だいたい15分でストーリーを読み終えてしまうだろう。
カエルを操作して冒険するゲームモードもあるが、合わせても30分といったところ。
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しかし、最初に書いたとおりこれは絵本だ。
この世界観と没入感、素晴らしくも寂しい音楽、このストーリーが480円というのはべらぼうに安い。
世界観さえ合いそうなら(クジラのイラストが気になった方ならOK!)、ぜひ手にとってもらいたい1作だ。
できるだけ静かな場所で、落ち着いて見てほしい。

評価:4.0(すごく面白い)

おすすめポイント
寂しげな音楽と演出、シーンの融合
独特のアートと世界観
スクロール操作を活かした演出

気になるポイント
絵本なのでボリュームはない

課金
なし

(バージョン1.0、ゲームキャスト トシ)

アプリリンク:
Flewn (itunes 480円 iPhone/iPad対応)