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多数決で仲間を殺す狂気。人狼モチーフのアドベンチャー『ADVレイジングループ』レビュー

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人間とは見分けのつかない「オオカミ」を会話であぶり出し、多数決で打倒する人気コミュニケーションゲーム『人狼』。
近年ではテレビ番組などに使われるので、ご存知の方も多いだろう。
その『人狼』と同じ儀式を、実際に行っている地域があるとしたらどうだろうか。
人と人がお互いに疑いあい、会話し、多数決で殺しあう『人狼』と同じような儀式を行うとしたら、さぞ悲惨な状態になるのではないか……?
『レイジングループ』は、そんなシチュエーションを体験するノベルアドベンチャーである。

主人公は、外界と隔絶された集落「休水」に迷い込み、そこで奇妙な風習の話を聞く。
集落の人間は、大昔にオオカミを殺した人間の末裔であり、オオカミは定期的に蘇って霧の出る晩に集落の人間を殺すというのだ。
おり悪く、集落にたどり着いた晩にオオカミは蘇り、主人公は村に紛れ込んだオオカミを退治する儀式、「宴」に参加することとなる。
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宴の内容は、『人狼ゲーム』そのもの。
オオカミは人間を識別でき、1晩に1人を殺害して人間の数がオオカミ以下になれば勝利となる。
対する人間側は、オオカミと人間を見分けることができない。
なので、人間側はオオカミと思われる人間を推測し、多数決で1日に1人を殺し、オオカミをすべて殺せば勝利となる。
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オオカミは人間を恨む神であり、人間側はそれに対抗する4種類の神の力が与えられている。
死んだ人間がオオカミか判別できるカラス、1日に1名を占い、人間かオオカミか判別できるヘビ。
2人1組でお互いに人間であることがわかるサル、1日に1人だけ指名した人間を守れるクモ。
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ただし、サル以外の能力者は自らを人間であると証明する手段を持っていないため、能力者と名乗り出てもその証拠を示すことができない。
例えば、オオカミが「私はヘビである」と名乗っても、人間側はそれが本当かわからないわけだ。
なので、村人たちは疑心暗鬼になりつつも、会話を通じて真実を追い求める。
ゲームならばいいが、現実で人を殺しながら儀式を進めれば、精神的な負担はかなりのもの。
そういった人々の心の動きや、人狼ゲームならではの推理の語り口を楽しめるのがこのゲームの魅力といえるだろう。
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この極限状態で、主人公は、死ぬ前の記憶を保ったまま「宴」の始まる直前にタイムスリップできる「死に戻り」という能力が身についていることに気付く。
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なぜ、このような風習があるのか?
本当に神が存在し、人間を争わせているのか?
プレイヤーは、何度も死に、戻り、過去に得た知識で人々を説得して流れを変え、その謎を解き明かしていくこととなる。

と言っても、『レイジングループ』には推理要素が薄く、システムはアドベンチャーというよりも純然たるノベル寄りとなっている。
物語を進めると選択肢は出てくるが、物語の進行にかかわる選択は最初に選べない。
主人公が死を迎え、事件の真相や人間関係を知ると新しい分岐を選べるようになり、メインストーリーは順番に進行するのだ。
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1度体験した分岐ならば、いつでもフローチャートからワープすることができる。
なので、何度も物語をスキップして見る手間もない。構造としては、完全に一本道のノベル。
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さらに言えば、人狼ゲームをモチーフにしているが、推理するまでもなく「主人公が死ぬ」ときにオオカミの正体はわかってしまう。
このゲームのジャンルは推理小説ではなく、伝奇小説なのだ。
そう思うと、このゲームの良さが見えてくる。

『レイジングループ』の世界は、常に不穏で奇妙な空気に包まれており、十分プレイヤーの興味を引くことだろう。
キャラクターはよくできているし、萌えのないキャラクターイラストも奇妙な物語にマッチしている。
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声優の演技は好き好きあると思うが、主人公と一部のキャラを除いて良かったし、ヒロインたちもそれぞれに魅力的。
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▲ヒロインの1人。萌えのかけらもないけど、読んでいると愛着がわく。

ドワンゴと提携して作っているためか、過去のケムコのノベルアドベンチャーと経路の異なるネタ、表現が気になることはある。
が、読んでいて先は気になり、なんだかんだで十数時間もかかるノベルを最後まで読ませるクオリティがある。
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▲さすがに、これはちょっと辛かったが。

さすがに、スパイクチュンソフトのサウンドノベルや『Steins;Gate(シュタインズゲート)』などの高額人気作品の品質にはかなわない。
だが、約5時間程度のメインストーリー+αが無料で楽しめて、続きの購入は任意。
気になる方は体験して、先が気になった時に購入してみるといいだろう。

評価:
2.5(価格通りに楽しめる)

課金について

本編+サイドストーリーセット1,600円
本編全ルート1,060円
サイドストーリー240円

おすすめポイント
魅力的なキャラクター
先が気になるストーリー

気になるポイント
真相の納得感が薄い
キャラクターの内面に共感しづらい
人狼ゲームのスリルがない

(バージョン1.0、ゲームキャストトシ)

アプリリンク:
ADV レイジングループ (itunes 体験無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)

ここから先は、かなりネタバレを含んだ感想になるので、まだプレイしていない方は見ない方が良い。
さて、なぜ「しっかり読ませる」と書きつつも評価は2.5なのか。

人狼ゲームには、「誰が敵かわからない」スリルと、真実を推理する楽しさがある。
だが、「死に戻り」の能力は容易にそれを壊してしまう。無敵モードの人狼ゲームは、面白くない。

そうなると、「死に戻り」や「宴」のシステムの謎、人間模様と謎の解決に立ち向かうカタルシスなどが重要になってくる。
しかし、強烈な個性のキャラクターやヒロインは良かったが、登場人物が多すぎるためか行動原理などの描写が弱く、主人公の性格もやや外道なので共感はしづらい。
そのため、主人公と一緒に問題を解決し、ハッピーエンドにたどりついてもカタルシスが薄くなってしまっている。
人狼ゲームに要する人数がボリュームに対して多すぎ、設定をそのまま使うとわざとらしさが鼻につき、モチーフをうまく消化できずに終わっているように感じる。

また、最後(本当のエンディング直前)の種明かしについてはもう少し納得できる伏線が欲しかった。
元がコメディーな『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』なら、緩めな、今回程度の仕掛けでもよかった。
だが、シリアスなゲームとなるともう一段練りこみが欲しかったところだ。
よって、評価は2.5とした。