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レビュー:コミック+ゲームに挑む挑戦作 Imaginary Range

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タイトル:Imaginary Range
ジャンル:コミック+ゲーム
価格:無料
ディベロッパー:スクエアエニックス | Version:1.0 | GameCenter:対応なし

評価:3.0(面白い)

+ミニゲームが楽しめる
+かなりの大ボリュームの漫画
-ゲームがコミックを邪魔している
-予告編のような断片的ストーリー
-擬音が英語

最近は大作RPGだらけですっかり大作指向になったかと思われたところに、新たなチャレンジ。
スクエアエニックスはAppStoreの先駆者であることをまた示してくれた一作。
アプリ単品では予告編のような消化不良感が残るが、無料ということを考えれば内容は破格
今後の広がりとゲーム+コミックをどのように処理していくのかが楽しみになる1作。

コミック+ゲーム
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Imaginary Rangeは漫画の流れにそってゲームが挿入される、「コミック+ゲーム」のアプリ。
通常は漫画のコマが1コマずつ送られていき、ストーリーが語られる。

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そして、特定の場所まで来るとミニゲーム発生。
ミニゲームはiPhoneの定番ゲームをアレンジしたもので、普通に楽しめる。
クリアするとコミックの先が見られる仕組みだ。
つまり、ゲームブックやサウンドノベルのような形式ではなく、純粋にコミックにゲームが追加されている形式となる。
コミックは十分すぎるほどちゃんと描かれておりフルカラー、ゲームも楽しめる作り。
無料なのにかなり豪華な作りだ。


先祖帰り
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ゲームと書籍を融合させる試みの歴史は古く、1976年に発売されたゲームブック(小説の主人公を読者が選んで進んでいける形式の小説+ゲーム)が最初とされる。
そこからさらに進んで電子コミックとゲームの融合については、私が知る限りでも1996年のTech win誌の付録としてコマが動いたり、音が出たりする電子コミックがあり、簡単なゲームが融合したものが付属していた記憶がある。
そう、このジャンルは意外にも古い。

では、なぜに今見ることができないのか。
つまるところ、コミック+ゲームというのは相性が悪かったからだと私は思っている。
コミックはぱっと読めるのが売りなのに、ゲームが挿入されると物語への没入間が中断されてしまう。
しかも、間に挿入されるゲームの完成度が高いほど、そちらに気を取られてコミックへの没入度は減ってしまうのだ。
コミックが面白ければゲームは物語の邪魔をする要素となり、ゲームが面白ければコミックなんかどうでも良くなってしまう。
そもそも、コミックを読み進めてもらわないといけないからゲームを難しくしたり複雑にもできない。

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最終的に物語を妨げずにゲーム性を与えることができる「選択肢を選んで進める」というものが残り、「かまいたちの夜」や「街」に代表されるサウンドノベルスタイルが「ゲーム+本」の行き着いた先であったように思う。
コミックでも同様のことはできるはずだが、漫画を書くコストがかかるためか見られなくなってしまった。
強いて言えば、アニメが強いノベル系アドベンチャーやゴーストトリックなどがその子孫と言えるのかもしれない。

Imaginary Rangeはそんな「本+ゲーム」の完成系を飛び出し、昔に戻った挑戦作と言える。


挑戦は成功したのか
結論から言えば、現段階では失敗していると思う。
スタート時に「エピソードΩ」と出てくるように、このゲームのエピソードは始まり・物語の導入だ。
コミックの第1話というのは世界観を伝えつつ、読者を引き込む大事な働きがある。
通常は読者を引き込むための軸となる話があり、それにからめて世界観と能力の説明をするのだが、軸となる話が薄いく、その設定の説明に終始していて1つの読み物としてみたときに面白みに欠ける。


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山場ごとに挿入されるミニゲームをプレイすることで、自分が主人公になったかのように感情移入を促す仕組み…とも読み取れるが、感情移入を促すまでに至らず大昔の単純なコミック+ゲームの失敗を克服できていない感がある。

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また、世界市場を意識してかコミックの擬音が全て英語なのも大きい。
擬音は状況を伝える重要な働きをするが、英語で書かれた擬音は日本人の頭にすっとは入ってこない。
擬音の言語を選べるなどの工夫が欲しかった。


今後に期待
設定からして続きや広い展開を意識しているように見えるので、次回作や追加ストーリーはかなりの確率であるだろう。
現段階では「コミック+ゲーム」の融合は失敗しているが、「意思の力が形になってなんでもできる」「様々な世界が存在する」という設定は手を変え品を変えてゲーム内容を変え、ストーリーを広げられるので、アイデア次第では今後化ける可能性がある。
もし、これができたなら背後に出版社を抱え、コミック雑誌ガンガンなどのコンテンツを持つスクエアエニックスは新たな電子書籍フォーマットを作り出す可能性すらある。

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今回はコミック+ゲームという視点だけで語ったが、ミニゲームはバラエティに富んでいて楽しめるし、動きや音を取り入れたコミックも手の込んだ作りで現段階でも1つの無料アプリとしてならば十分豪華。
コミックを読み終えると後書きよろしく設定資料を眺められるというおまけまである(要ミニゲーム)。

このまま「コストパフォーマンスがいい時間つぶし」で終わるのか「ゲームとコミックが融合した新体験」を提供してくれるのか。
スクエアエニックスが「ゲーム+コミック」の相性を消化し、進化させてくれることを期待したい。