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サービス終了したゲーム素材を利用して制作したリメイク新作『スーパーバレットブレイク』開発振り返りインタビュー。「大変だったけど、やってよかった」

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その昔、「スマートフォンのゲームはサービスが終了したら何も残らない」のが常識だった。
そして現在、サービス終了後には短い間だけ図鑑やちょっとしたお楽しみアプリが残ることが増えてきたが、また新しい流れができつつある。

2022年10月28にサービス終了した『東方ダンマクカグラ』は、Steamで新作『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』が出ることが予告されている。
2019年1月17日をもってサービス終了した『リトル ノア』には、2022年になって世界観を受けついだアクションゲーム『リトル ノア 楽園の後継者』が登場した。

サービスが終了しても、別のプラットフォームで同じゲームの世界観などを継承した新作が登場する流れが増えてきたのだ。
しかし、他プラットフォーム版をリリースした後のメーカー側の事情はどうなっているのだろうか。
今回、2020年10月19日にサービス終了した『バレットブレイク』を、Steam / Play Station 4 / Nintendo Switch / Mac App Store 向けに『スーパーバレットブレイク』としてリメイクし、リリースしたビサイドさんに興味深いお話を伺えたので、皆さんにお伝えしたい。

インタビュイー:南治一徳さん
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ビサイド代表取締役。
1996年、友人達とSCE(現SIE)のオーディション「ゲームやろうぜ!」に応募し合格。
1999年に『どこでもいっしょ』を企画&制作し大ヒット。その後、『どこいつシリーズ』を手掛け、PlayStation3 のローンチ時にはPS3をネットに繋ぐと無料で見られる配信番組『まいにちいっしょ』などを開発し6年半にわたり運営した。
現在ではスマホで『ペルシャと魔法のパズル』、『おじさまと猫 スーパーミラクルパズル』などの運営・開発を担当。

インタビュワー…ゲームキャスト、寺島壽久(以下、ゲーキャス)
nama
本ブログの運営者。
 
サービス終了したゲームが残らなくなるのは、寂しい
ゲーキャス:
本日はお時間をいただきありがとうございます。
『バレットブレイク』が『スーパーバレットブレイク』として復活した経緯からお聞きできますか。

南治:
よろしくお願いします。
理由ですね、自分のブログでもちょっと書いたんですけど、やっぱりサービス終了で完全に消えちゃうのは寂しくて。
これまで、ウチが携わったタイトルではサービス終了後になんとか残すということをチャレンジしてきていまして、『魔法科高校の劣等生 LOST ZERO』はストーリーやバトルを切り出したオフラインアプリにしてみたり、『トロとパズル』はさらにオフラインでずっと遊べるようなバージョンを作ったのも、そういった気持ちからですね。
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▲サービス終了した『トロとパズル』。終了時はほとんどの機能を備えたオフライン版が提供され、話題となった。

ゲーキャス:
今回はスマートフォンではなく、プラットフォームを変更してリメイクという判断になったのはなぜでしょうか。 
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▲スマートフォンの『バレットブレイク』。縦画面で遊ぶ引っぱりアクションだった。

南治:
これまでいろいろな復活のさせ方をしてきましたけど、『バレットブレイク』はコンソールで出そうとサービス終了のタイミングで決めていました。
スマートフォンだと基本的にF2Pタイトルが中心ですし、なんといっても(時期的に)インディーの主戦場がSteamやコンソールゲーム機だったので、じゃあそっちでチャレンジしてみようって考えました。 

ゲーキャス:
「これまでいろいろな復活のさせ方をしてきました」って言えるのは、業界でも少ないですよ(笑)
でも、実際PS Vita版の『拡散性ミリオンアーサー』でも終了時に閲覧アプリが残りましたし。良いのかわからないですけど、ビサイドさん開発のゲームには「終了しても残る安心感」みたいなものがありますよね。
そのあたりに哲学すら感じます。復活に対するこだわりなど、お聞かせ願えないでしょうか。

南治:
自分は、どんなに面白くないゲームでも未来に残すこと、繋げていく事には意味があると思っているんですよ。
面白いゲームが未来のゲームの参考になるのはもちろんですけど、面白くないゲームだったとしても「こういう風にダメだったよね」とか「こういう話があったよね」って含めて後に続く開発者の参考になるところがあると思うんですね。

それが、なくなってしまうと、まったく引き継がれなくなっちゃうから、いいところも悪いところも断絶が生まれてしまう。そんなわけで「何かは残したいよね」っていうことで。
今回、ゲームそのままは残りませんけど、『バレットブレイク』というゲームがあって、こういう風に生まれて、変化して残ったんだよ、という跡をつくるのはありなのかな、と思ったんです。

ゲーキャス:
なるほど、寂しいだけでなく、ゲーム業界にあったものを、過去に残していきたいという考えがそこにあったのですね。

スマホ版のイラストを流用したら、結果的に差別化に成功
ゲーキャス: 
さて、続いて『スーパーバレットブレイク』というゲームができるまでの経緯をお聞かせ願えるでしょうか。

南治:
先ほどお話したように『バレットブレイク』では、終了の段階でコンソール版を出そうというのは決めていましたから、開発スタッフのみんなにも「コンソール版で出すから、サービス終了して、リソースをうまく使ってやるっていうのをやってみようよ」っていう話してたんですよ。
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▲『バレットブレイク』には100を超えるキャラクターが登場。そのイラストやボイス、ちびキャラなどのリソースがあった。画像は『スーパーバレットブレイク』のもの。

ゲーキャス:
リソース流用ありきで、最初から計画していたと。
サービス終了ゲームでリソースを再利用しようとしても「権利の関係で〇〇が使えない」みたいなことを多く聞いて、結果として何もできないことも多いとききます。が、『バレットブレイク』は大丈夫だった理由は特別にあるのでしょうか?

南治:
自社開発で権利を100%ウチで持っていたため(サービス終了後をにらんだ動きも)かなりスムーズだったとは思います。
他社さんのIPを使ったゲームだったりすると、契約しなおし、許諾のとり直しなど必ず必要になるから不可能とは言いませんけど、厳しかっただろうとは思います。

ゲーキャス:
なるほど、自社で作っていたうえに、終了後をにらんだ考えもあって作れた、と。
ジャンルは変更する前提でしたか?

南治:
例えば、RPGとかならそのままRPGとして移植できるところでしたが、『バレットブレイクは』引っぱりアクションだったから。
コンソールでタッチパネルを使って遊ぶ人は少ないだろうし、別のゲームにしないと楽しんでもらえないと思っていました。
そのうえで、リソースは引き続き使いたいと思っていたので、どういう(ゲームデザイン上の)解法があるだろう、というところで試行錯誤しましたね。

ゲーキャス:
なるほど「膨大なリソースを活かすゲームデザイン」というところで、そこに苦労はあった。

南治:
試行錯誤の段階では、普通の縦シューのようなものを作ってみたりとか、引っぱりアクションを残せないか考えてみたりとか、いろんな事をやったんですけど、まぁうまくいかなくって。
そんななかで、開発スタッフのひとりが『Slay the Spire』が好きで、ローグライク(ローグライト)って方向でやってみたら、キャラクターがたくさんいることを活かせるし、いいんじゃないかって案が出てきまして、いいかもなって。
で、作り始めてみたら「この方向で行ける!」ってことで決まりました。 

ゲーキャス:
スマートフォン版の画像などリソースを使い回していますが、リメイクだからこそできた、良かったという点はありますか? 

南治:
アーティストさんのコストが下げられたというのは単純にありますよね。
普通にインディーで作ったら、こんなにイラストを描いてもらわないと思うんですよ。
だから、買ってくれた人からしたら「この価格のゲームに、なんで大量の可愛い女の子のイラストが入っているの!?」みたいな驚きがあると思います。
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▲『スーパーバレットブレイク』には原作キャラクターたちが登場。もちろん、ハロウィンや水着など季節イベントバージョンも収録されている。

ゲーキャス:

普通、『Slay the Spire』系のゲームといえば攻撃方法1つ1つがカードで、カードを使うとちょっとエフェクトが出る感じですけど。
『スーパーバレットブレイク』はカード1枚1枚がキャラクターで、しかも動いてしゃべる、「なんでこの値段でこんなに豪華なんだ!?」ってなりますよね。
実際、レビューを見ているとそういう評価は多い気がします。

南治:
なぜなら流用したからさって(笑)
ゲームとしても、このイラスト数が差別化につながっていると思います。

ゲーキャス:
もう何年も前からスマートフォンの運営型ゲームは、コンシューマーででかいゲームを作れるぐらい予算がかかっているのも普通になっていますよね。
となると、その予算で作られた膨大なイラストを流用できるとなると、もはやインディー規模だと反則技クラスの豪華さになると。
スマートで運営型のゲームが終了するとき、「こんなに〇〇があるのに持ったないない」といわれますが、こうして活かすパターンもあり得るんですね。 

ゲームシステム面の差別化についても、お聞きしてよろしいでしょうか。

南治:
『Slay the Spire』はすごい面白いゲームだと思うんですけど、アート面がちょっと個性的ですよね。一方で、やっぱりゲームはかわいいキャラクターのゲームをプレイしたい人もいると思うんですよ。
そういう人にも、このジャンルの面白さを伝えられるんじゃないかと思いますね。
それと、『Slay the Spire』は難しいゲームだったので『スーパーバレットブレイク』はもう少し簡単にしているつもりです。

ゲーキャス:
確かに、システムを理解するとでかいコンボも作りやすいので、クリアはしやすいですね。パラメーターというか、性格とか属性とか、覚えることが多いのは結構大変でしたけども。

南治:
そこは海外での販売を担当してもらっているパブリッシャさんからも言われていて、なんかすいません。
ただ、あの辺はもとのゲームの名残りというか、スタッフのこだわり的な側面もあるので、こんな感じになっています。

ゲーキャス:
もともとが「たくさんのゲームの世界に入り込んで、多彩なキャラクターと遊ぶ」コンセプトだったので、原作の世界の特徴を意図的に残しているところだったんですね。
そういった原作ありきの制約と格闘した結果ああなったと。
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▲ゲームの世界を救うという設定の本作では、学園恋愛ゲーム『こいいろの季節たち』、シューティング『フェニックスの機銃』など様々なゲーム世界が登場する。それぞれのゲーム世界1つ1つが攻略すべきステージとなる。

南治:
そういう部分もあります。さっきでたコンボに関しては行動順番を待つ時間をコストにする独自要素になっているので、そこも楽しんでほしいですね。
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ゲーキャス:
多くの『Slay the Spire』系は「行動力」のようなものを消費しますけど、『スーパーバレットブレイク』は、敵の行動の素早さが決まっていて、行動するまでの時間を消費してカードを使うんですよね。
相手にする敵が早いとカードのコンボが完成する前に途切れてしまったり、逆に遅ければドリームコンボを叩き込めたりして、良かった。

あと、ストーリーも大胆に変更されてましたよね?
あっさり目というか、唐突というか。
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▲原作ではスタート時にやや長めのストーリーが展開していたが、『スーパーバレットブレイク』では、通話アプリ風UIで会話してすぐにゲームが始まる。

南治:
そこはみんな早くゲームやりたいだろうし、シンプルでいいかな、と。
とはいえ、スマートフォン版のストーリーは時間的な制約でできなかったんですが、今回は社内で書き下ろしました。ぜひ、最後まで見てほしいですね。
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▲ゲーム中の会話シーンも存在する。

ここで語った以外にも細かいところまで変更したり作りこんでコンシューマー版を作っているので、ぜひ遊んでみてください。

サービス終了したゲームだけど、次回作も出る夢も見られる!?
ゲーキャス:
ビサイドさんは今までコンシューマーゲーム機中心、もしくはスマートフォンでゲームを出されていましたが、自社でSteamで出すことの苦労など、ありましたか?

南治:
Steamはむしろ、(開発は)一番楽だったですね。
ただ、Steamでただ出しただけでは、埋もれてしまって売れないと思ったので、海外を含めて広告など作ってくれそうなパブリッシャーさんを探して一緒にやっています。

ゲーキャス:
パブリッシャー。具体的にどういったことをしているのでしょうか。 

南治:
たとえば、ローカライズは例えば日本語の他7言語ぐらい今あるんですけれど、翻訳を対応して、販売プロモーションをしてくれてるのはパブリッシャーさんです。
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▲Steamの言語対応状況。

Steamはeコマースなので、まあ我々でも売ろう思えば売れるんですけど、海外向けのマーケティングはNintendo SwitchとPlay Station 4でも売ってますから、Steam含め、全部一緒にしたプロモーションができる方がメリットが大きいのかなというのがあって。
バラバラにプロモーションすると効率が悪いですしね。Steamについては細く長く売れる市場と聞いていましたが、いまだに動画配信や広告やってくれてるんで、そこも結構ありがたいかなと思っています。 

ゲーキャス:
おお、手ごたえがありそうな言い方ですね。アップデートなどの予定はありますか?

南治:
まず、不具合とかはちゃんと直していってチューンし、そういったアップデートは予定しています。
がんばって作ったので、新バージョンを作っていくのもいいかもしれないなって思うこともありますね。ゲーム内のダウンロードアイテムや新ステージをDLCとして出すとか。
Steamでは続編を出したとしても前作が売れなくなることはない、みたいな話を聞いているので、大幅なバージョンアップ版を次回作として作る、というのも考えることがあります。

ゲーキャス:
スマートフォンの『バレットブレイク』は終了してしまったけども、『スーパーバレットブレイク』が売れたら、シリーズの新作ゲームが出る可能性があるなんて、夢がありますね。
ちなみに、売れ行きの方は。

南治:
万々歳じゃないですが、出してよかったと思えるぐらいですね。
Steamは毎日少しずつ売れると聞いていましたが、本当に毎日見ると売れていて。

ゲーキャス:
売れ続けて欲しい……。
自分はわりと豪華さもそうですけど、コンボシステムが好きなんで、不満点を解消した次回作は本当に欲しいですね。

『スーパーバレットブレイク』をリリースしてみて
ゲーキャス:
本日はありがとうございました。
復活の話もそうでしたが、サービス終了したゲームに次の展開があり得るかもしれない……というのは、推しゲームが消えがちなスマートフォンゲーマーとしては希望を抱かせるトピックでした。
やはり、『バレットブレイク』ファンの方などは喜んでるんだろうなぁ、と思いながら聞かせていただきました。

南治:
実際、Twitterとか、配信してくれている方で「前このキャラ好きだったからうれしい」とかいらっしゃいますね。
あとは中の人というか、声優さんが「私やってた」って言ってくださって。だいぶ前に収録したはずなのに、見つけてくれてうれしかったですね! 

ゲーキャス:
プログラムとかの開発側の方だけでなく、声優さんからプレイヤーまで、作ったものが残ると嬉しいですよね。
最後になりますが、南治さん自身、『スーパーバレットブレイク』を作ってみていかがでしたか。

南治:
そうですね、大変だったけど、お客さんの反応は総じてポジティブで。
自分としてもゲームが好きだったファンのため、作った人のため、未来にゲーム作ってくれている人のためにも、どうやってサービス終了したものを残すか考えたとき、何かしたかった。
会社として儲かるかどうか難しいところだと思うんですけど、やって後悔がないので、やる判断をして良かったです。
今後も、こういうチャレンジをしていきたいと思っています!

ゲーキャス:
ありがとうございました。
プレイする側としても、そういった考えを持っている会社さんのゲームは遊びやすいというか、安心できますし、増えてほしいですね。 
個人としても『スーパーバレットブレイク』の時間コスト制はかなり好きだったので、売れて次回作が出る日を待ちたいです……!

以上。

こういった後継ゲームは「製作者がやりたいから、赤字覚悟で」というイメージがあったが、リメイク版が売れて「次回作を考えることもある」という状況になりえる、というのはスマートフォンのゲームをプレイするものとして非常にうれしい事態だった。
スマートフォンのゲームの素材を流用することで、インディーとしてはありえないほど豪華なゲームが制作でき、差別化となったというところも、もしかしたら真似する会社もあるかもしれない。

こういった流れが増えてほしいし、うまくいってほしいと思わせられるインタビューであった。
「じゃあ、実際どんなゲームになっていて、どう素材が使われているの?」
というところは、以下のリンクからゲームを購入して確かめてみて欲しい。

関連リンク:
スーパーバレットブレイク (公式サイト / Twitter / Steam / Switch / PS / Mac)