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コロプラによるVtuber再生産か、ゲームキャラ表現の進化か。体験すべき、狂気の実験作『ユージェネ』レビュー

ユージェネ (App Store 無料 / GooglePlay 無料)
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コロプラの新作ゲーム『ユージェネ』は LIVE と GAME が融合した Live Playing Game で、時と場所を超えた”#ゼロ距離エンターテインメント”を、”生(なま)キャラ”たちが届けるものと発表されている。
生キャラという言葉は、『ユージェネ』のサービスとテクノロジーで実現した”生きているキャラクター”を示すコロプラの造語。

うーん、生キャラ。
生チョコではないのだから、もう少し名前を頑張れなかったのか……などと少し小馬鹿にしながらもゲームを始めて3日。
私はキャラクターからは他のゲームには存在しない「生きている」感を感じ、興奮していた。
間違いない。これは途方もない労力をかけた実験で、新しい体験をプレイヤーに提供している。
難点はあれど、ゲームのキャラ表現の新境地に切り込む、価値ある体験だ。

『ユージェネ』は、物質にとりついてその存在を消していき、最後には世界そのものを滅ぼしてしまう敵“アイズ”と戦い、世界を取り戻すゲームだ。
プレイヤーは異なる#世界(ハッシュワールド、平行世界のようなもの)からやってきた瀬戸さくら、田中・コズミック・天、アニャの3人と共にアイズによって失われた物質を取り戻すために活動するロボット“ロイド”として登場する。
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▲公式サイトより、右からアニャ、さくら、田中、ロイド、そして謎の科学者クレイ

ゲームプレイとしては、日本地図をベースにしたオープンワールドの世界探索、登場キャラクターによる定期的なライブ配信を行き来する独特な仕組みを採用している。
プレイヤーはまず、日本地図から生成されたオープンワールドを探索し、アイズと戦うことで信号機やパンケーキ、パンダなど、かつて#世界に存在したさまざまな物質を復活させていく。
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そして、ライブ配信時には復活させた物質を送ることができ、ライブを盛り上げると、その物質はアスタエナジーに変換される。
そして、アスタエナジーがたまると#世界が蘇るという設定だ。
つまるところ、探索ゲームでライブ配信時に使用するアイテムを入手し、ライブ配信時に遊んだ分盛り上がる。
そして、ライブが終わったらまた探索ゲームに戻る、というゲームサイクルが構築されている。
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これだけならまあ、普通に「探索してとライブを行き来するのか」という話で終わるのだが、実際にプレイして見るとこれがすごくきっつい。
人によっては「虚無」とすら言ってしまうほど探索パートはアレな感じだ。
まず、ストーリーは Youtube 動画のような字幕付き茶番動画のノリで語られ、普段見るゲームのストーリー語りとはかけ離れている。
他にたとえるのであれば『バーチャルさんはみている』という番組にノリは近い。
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続いて、日本地図上を歩くパートに移動するのだが、ここは結構すごい。
日本が高低差も含めて立体的なマップとして表現されており、さすが位置情報ゲームで名をはせたコロプラのゲームと言えよう。
なお、プレイヤーのいる都道府県からゲームは始まるが、それ以外に位置情報要素はなく、あくまで日本を再現したマップ上をバーチャルスティックで動き回って、指定のポイントに移動してクエストをこなすものとなっている。
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クエスト地点に到達すると美しいセットのような学校、山、地下鉄などのロケーションが登場し、これまた数あるゲームの中でも充分印象的。
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探索はかなり充実しており、都市を見つけてゲームセンターを発見すれば中にはいってゲームを実際に遊べるし、カジノで賭けを楽しんだり、ショッピングを楽しんだりもできる。
ヒントで示された場所を探す謎解きゲーム、移動を楽にするアイテムを探す特殊クエストなど、探索要素慢点。
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で、敵シンボルとエンカウントするとバトルが始まる。
バトルではアイズにとりつかれた物質と対峙し、傾きセンサーで照準を定めるシューティングゲームで、制限時間内にアイズの周囲のオーブをすべて撃ち落とせば勝利となり、その物質が復活する。
これは単純にプレイヤーテクニックだけで戦うもので、あくまでミニゲームと行った感じ。制限時間が過ぎると最初からやり直しになるだけでペナルティもないし、バトルに課金要素もない(というか探索で課金する要素がない)。かわりに、あまり面白くもない。
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つまり、ライブを楽しむためには探索が必要だが、ゲームを始めると独特のノリのストーリーを見せられ、探索パートではあまり楽しくないバトルをやらされる。
ライブにたどり着く前に力尽きること必至である。

一方、ライブはどうかというと、すごい箇所と問題がある箇所がまた混在している。
登場キャラクター3人の誰かが毎日ライブ配信しており、先ほど書いたとおり、探索パートで手に入れた物質をエールとして送り、ライブ配信時にキャラクターのいるステージに投げ込める。
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ライブは動画の垂れ流しではなく、モーションや声のデータだけを送って手元のアプリで3Dキャラクターを操作して配信を再生する仕組みをとっている。
コメントの遅延は少なく、もともと3Dに気合いが入っているから画質も見栄えもいい。
送ったアイテムをキャラクターが触って(違和感なく画面内のアイテムを触って動かす技術も良い)反応する。それを自由な角度から眺めたり、現実に投影したりもできて、造り込みは素晴らしい。

一方、問題はライブを楽しむためにゲームをする必要をあまり感じないこと。
アイテムを送るときには探索で得た#ポイントか、有料通貨のクリスタルが必要になる。探索で手に入る#ポイントは少なく、#ポイントを使ってエールを送ってもすぐにライブから消えてしまう。

一方、クリスタルでは#ポイントで送れない特別なエールも送れて、キャラクターの衣装を変更することもできる。クリスタルで出現させたアイテムはステージに残る時間も長い。
つまり、ライブにものを投げて参加する遊びは課金の比重が大きすぎ、プレイ意欲を削いでしまう。
また、ライブ内容はゲーム本編とほぼ関係ないお便りコーナーであり、ゲーム本編との関わりは希薄だ。

つまり、本作は微妙な探索ゲームに、プレイヤーも介入できるすごいライブ配信システムがついており、探索ゲームとあまり関係なしに登場キャラクターがそのライブシステムで配信するアプリとなっている。
残念ながら、これはない。
プレイして2日目にして、私はこのゲームのアンインストールを決めた。

が、翌日に世界は変わってしまった。
最後と思ってゲームを起動すると「あなただけの特別なメッセージが届きました」と表示され、それを見てみると……!?


ゲーム内で設定した「ゲームキャスト」という名前で、ゲーム内キャラクターが自分の名前を呼んでいるではないか!
調べてみると、他のプレイヤーにもそれは届いていたが、それぞれまったく異なるメッセージで、それぞれのプレイヤーの発言や行動を踏まえたメッセージが届いていた。

つまり、本作はライブ内での行動やコメントに応じてキャラクターが1対1でメッセージをくれるアプリなのだ。
たった少しのメッセージだが、私にはものすごい衝撃だった。
ゲームセンターで『アイドルマスター』をやっていて、携帯電話に「今日は来ないの?」という感じでアイドルからメッセージが届いたとき以来かもしれない。

この文章を読んでいる方は「たった数十秒のメッセージをもらっただけ」と思うかもしれないが、これは実際に体験してみると思いのほか強烈だ。
ゲームキャラクターが自分を認識して語ると、突然にゲーム内キャラクターが生きているような印象を植え付けられる。

現在まで3通のメッセージをもらったが、「連続できてくれてありがとう」とか過去すべての行動を踏まえて矛盾はない。
おかげさまでアンインストールを思いとどまり、ゲームを続けてしまった。

それが観察する限り数百人以上のプレイヤーに(ライブのたびに!)に届いているのだから、途方もない労力がかかっていることが想像される。
声優に個別のプレイヤーメッセージを語らせるのは力技ではあるが、2年前から次世代プロジェクトという触れ込みでオーディションを実施していたし、おそらく長い訓練期間、プレイヤーの行動を把握して的確にまとめるバックエンドシステムの準備など、綿密な用意がなされていたのだろう。
そして、それが無料でも味わえるなんて、『ユージェネ』プレイヤーは途方もなく贅沢な実験台だ。

また、ここには2つの興味深さがある。
Vtuber という存在が出てきたとき「スキャンダルもない、現実にいないキャラクタ-」のように言われたが、現在は結局、役者のプライベートがのぞき見られる Vtuber が主流で、魔王とか騎士とかの設定の Vtuber が「私がコストコでバイトしていたとき」なんて話をしていたりする。
良い悪いは別として、世界から造り込み、架空の存在を徹底することはコストがかかることもあってか架空を貫く Vtuber はあまり見なくなってしまった。

▲ファンタジー世界を完全に作り込んだリオネル殿下など、存在しているが大抵は配信頻度が低い…。

ところが、コロプラは独自のゲーム世界を箱として、完全に架空のキャラクター(Twitterにすら登場しない)を作ることを再チャレンジしている、というのが1つの興味深さ。
死屍累々の道に、何か新しいものを見いだせるのだろうか?

そしてもう1つは、ゲームキャラクターの存在感をより強化する実験としての興味深さ。
例えば、新しいアイドルゲームが出るとして、ゲーム内でライブが見られて、VIP席にいるプレイヤーだけにささやきかけてくれたらどうだろうか。

ゲームキャラクターの存在感が上がったサービスが終了したらどうなるのだろう?
アイドルゲームのサービス終了の日、最も愛したアイドルからメールが来て「プロデューサーさん、この事務所も私とプロデューサーさんだけになっちゃいましたね……」と、最後のセリフを語ってくれたら。
そういった未来のゲームを想起させるもので、ゲームのキャラクター表現の最先端を見る思いがある。

この話をすると、誰もが「声付きでメールをもらった程度で……」というのだが、実際に遊ばせると「やばい、プライベートメッセージすごいよ!」と『ユージェネ』の深みにはまっていく。
そして、だいたいは5日ぐらいして「やっぱ、ゲームが面白くないのでやめるわ」となってしまうのだが、ゲームに問題があっても一瞬はすごいテンションをあげてしまうほど、この実験は効果を発揮している。

ゲームの未来は、ここにあるかもしれない。
Vtuber の新しい形、ゲームキャラクターの新しい可能性、そういったものに興味があるならば、『ユージェネ』を「全力」で3日ぐらいやって損はない。
全力で、というのはそれぐらい遊ばないとたぶんメールが届かないから。
今のプレイヤー数なら、無料でも全力で遊んでいる人は大抵メールが届いているようなので、実験に参加するときは早めに、全力で行け。

動画:


概要:
探索で得た物をライブで差し入れるライブビューイングゲーム。キャラクターが個別にプレイヤーを認識してメッセージを送ってくる。

評価:6(なんなん!?)

おすすめポイント
未来を感じるキャラクター表現
お部屋改築、マップ探索要素の細かいつくり込みはすごい(でも面倒だから遊びづらい)
ライブ配信の快適さと、見栄えの良さ

気になるポイント
探索のバトルゲームがあまり面白くない
探索とライブ、ゲームストーリーとライブ、メッセージの関連度が低く、ゲームの存在意義が低い

アプリリンク:
ユージェネ (App Store 無料 / GooglePlay 無料)

開発:コロプラ(日本)

HP:https://colopl.co.jp/yougeneration/
レビュー時バージョン:1.0.6
課金:ライブ時の衣装替え、物の差し入れ

ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中