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遊びは『FGO』を踏襲し、完成度は『FGO』未満。セガ×ディライトワークスが送る『サクラ革命』レビュー

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未完成品。
セガの『サクラ大戦』シリーズ新作にして、『Fate/GrandOrder(以下、FGO)』のディライトワークスが開発・運営する『サクラ革命 ~華咲く乙女たち~(以下、サクラ革命)』の感想は、そんなものだった。

まず『サクラ大戦』と『サクラ革命』の関係について軽く説明しておこう。
『サクラ大戦』は1996年にセガサターンで始まった作品で、日本開国後に霊子機関と蒸気機関が発達した架空の時代“太正”を舞台としている。
プレイヤーは政府組織の帝国華撃団隊長として、乙女たちとともに悪と戦い、その中で信頼や恋愛・人間模様を描かれる。
ゲームとしてはヒロインと交流して結ばれる恋愛要素、和洋折衷のモダンな世界観をゆったりと味わう要素、自らも戦う隊長自身の生き様や魅力を楽しむ要素、演劇要素、ダサい中にあるかっこよさ……などなど、多くの要素が複雑に絡み合い、独自の面白さを提示する歴史の長いシリーズである。
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▲サクラ大戦ポータルより

『サクラ革命』はその世界観を受け継いだ作品で、舞台は初代作品の88年後の太正100年。
日本では霊子エネルギーが大事故を起こして信頼を失って社会基盤が揺らぎ、さらに“降鬼(こうき)”と呼ばれる魔物が出現して人を襲い始めている。
プレイヤーは降鬼と戦う組織、大帝國歌劇団BLACKの司令となるが、着任と同時に日本政府が霊子エネルギーに変わって導入する新エネルギー”ミライ”の危険性を知り、ミライを推進する首相に反旗を翻す。
『サクラ革命』は、九州に逃れて帝国華撃団を結成し、各地で人材を集めながら日本奪還を目指す主人公たちの旅を描く反抗の物語だ。
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▲劇の道具も積んだトレーラーで全国を回る。劇の上映パートもある!

遊び方としては『サクラ大戦』とつながりは薄く、システム的には完全に別物。
ヒロインを選んで恋愛する要素も、仲良くなることで合体技を繰り出す要素も、隊長の生き様をメインとした物語も、ゆったりと世界観を楽しむ要素もない。
だが、それでも私がプレイして感じたのは「これもまたサクラ作品」と言うことだった。
世界観や小ネタには『サクラ大戦』リスペクトが感じられる。
直球・駄洒落なキャラクター名やアイテム名もそうだし、決め台詞などのダサかっこよさも健在だ。
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▲列刀「王断」など、ネーミングセンスや小ネタはサクラ。

メインストーリーでは世界各地に和洋折衷な太正文化を意識した背景アートが見られ、「あー、なるほど、帝都の外はこうなっているのだな」と感じる面白みもある。
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なお、地方には“メガロポリス出雲”などぶっ飛んだ町もあり、このあたりも笑って楽しめる。
遠い親戚みたいなものと思って遊べば楽しめるので、シリーズファンの方は手を出してみるのもアリだと思う。
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私の周囲の『サクラ大戦』ファンにはとてもウケが悪いのだが、これはもう宣伝の仕方が悪かったように感じる。先ほども書いたように『サクラ大戦』は多彩な要素が絡まりあっているものだから、プレイヤーによって核が違う。
例えば、私の場合はディレクターの方が「乙女たちが精一杯生きることがサクラ大戦の核」と言ったの発言にがっくりきたが、遊んでみたらサクラテイストはあって楽しめている。
肝心のゲームはスタミナを消費してクエストをこなし、ストーリーを読んでいくものとなっている。
ストーリーパートは吹き出しを用いた独特のコミックのような演出で進み、テンポ良く読める。
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3Dグラフィックを採用していることを活かし、さまざまなカメラアングルを用いた演出は見物。
こういった3D演出ではスクウェア・エニックスの『スクールガールストライカーズ』のような先駆者はいるが、カメラワークと吹き出しの位置まで工夫されていることは『サクラ革命』独特の特徴と言って良いだろう。
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3Dキャラクターが演技するアドベンチャーにおいて、メッセージを早送りすると演技が省略されてしまう。
しかし、本作はセリフ自体が送られても(早送り速度が遅いのもあるが)キャラクターの演技は終わらず、セリフだけが切り替わって最後まで演技する。これが上手い尺に収まっていて、セリフを送っても動きや感情表現に違和感を抱かない。
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ストーリーにも光る部分はあり、メインキャラクターとなるシノとライバルの展開は良かったし、中国編は納得感もあって楽しめた。
描写不足で「この人が危険な反政府組織に加入する理由を感じない」などと感じてしまう箇所も多かったが、それでも演出も含め充分楽しめる範囲だ。
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クエスト時に挟み込まれるバトルには、『サクラ大戦』原作のタクティカル要素をRPGバトルに落とし込んだような、位置が重要になる仕組みを採用。
5マスのフィールドを前後に移動しながら戦うターン制バトルを採用しており、(うち1人はフレンド)で、各キャラクターは”前進して攻撃”・”その場で攻撃”・”攻撃してから1歩下がる”の3基本コマンドを毎ターン利用して戦うようになっている。
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基本コマンドとは別にターン消費なしに使える技、気力を貯めると使える必殺技などの要素もある。
スマホゲームと見ても演出テンポが良く、さらに倍速モード、オートモード、必殺技演出スキップなども用意されていて快適。
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全体的に尖った能力のキャラクターが多く、攻撃力がとても高く、雑魚の攻撃ですぐ倒れるような者もいる。
必然的に敵の射程を意識して距離をとったり、ヘイト(敵が攻撃相手を決める仕組み)をコントロールすることも重要になり、戦力がギリギリのときのバトルは緊張感を持って楽しめる。
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遊び方のサイクルとしては、同じディライトワークスが制作した『FGO』を踏襲している。
遊びというのは、画面構成とか枝葉のシステムのことではない。
たしかにガチャ確率表記を見ると実家に帰ってきたような感覚にすらなるし、育成に関してもシステムは酷似しているが。
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実際に遊んでみると育成は各曜日クエストに初回報酬(毎日復活する)が手厚く、毎日1回クエストに挑めばストーリーで遊ぶ分は簡単にキャラが育つ。
必殺技最大レベルが10なので「★5キャラをガチャで10体当てるゲーム」と誤解されるが、遊んでみると★5必殺技レベルアップ素材が報酬として手に入るイベントも見られる。
プレイ感覚・バトルに関しては『FGO』に似ているようで似ておらず、サクサク遊べてストレスがないよう改良されている。

重要なのは、ゲームの遊びの中心にメインストーリーがある構造を踏襲している点だ。
メインクエストの他にはシンプルな素材獲得・育成クエストがあるのみで、対戦もレイドボスモードもない。
つまり、『サクラ革命』はメインクエストでストーリーを楽しみつつ、修行僧のようにシンプルな育成クエストでキャラクターを育成し愛でるゲームなわけだ。

だが、ここに1つ問題がある。
確かに『サクラ革命』はバトル・育成部分は育成が楽でサクサク遊べる『FGO』と言えるが、本命のキャラクターとストーリーにおいては退化していたのだ。
『FGO』を真似るというのは、「このゲームはキャラクターとストーリーを徹底的に立てて、それだけで勝負します」ということ。
それができていない……どころか、未完成と感じてしまった。

まず気になるのは3Dキャラクターだった。
3Dキャラクターは泥臭さがあって売れ線とは思わないが、表情や動きが映える愛嬌も同時にある。メインキャラのシノなどは、ときおり良い表情を見せてくれた。
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だが、全体としてみると動きのかわいさ、絵になるアングル・表情が乏しさ、口パクが無い違和感など気になる部分が多い。
ゲーム内でも良くないアングルで見せられることが多々あり、ゲーム側の造り込みが足りない。
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キャラクターの個性を示す花形の必殺技演出などは「顔アップ、しょぼいエフェクトでごまかしてまた顔アップ!」という演出の連続で、キャラクターの個性を立てて「このキャラが良い」と思わせるに至らない。


シリーズ伝統の光武に変わって登場した霊子ドレスのデザインも武骨で、ただダサい。fgorrgrc-1

ダサいのはいい。
『サクラ大戦』が出たときだって光武はダサいと言われていたものだが、それを動きでかっこよく見せて味に変えていた。
だが、動きが足りないのでただダサくなってしまっている(まれに登場する光武の方がかっこいい)。
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キャラを立てるシステムで見ても、キャラクターの個別ストーリーも実装されていないし(一応、使い込んで信頼度が上がると台詞が増える)、メインストーリーの見返し機能もない。
この記事でも本当はもっと魅力的なシーンのスクリーンショットを使いたかったが、1度見たストーリーは見られないから偶然に撮ったものを使用している。
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ギリギリで外側の3Dキャラクターは作り終えている。
しかし、キャラを魅力的に見せる演出も、システムも、物量も足りていない。
単に品質が低いなら理解できるが、どちらかと言えば「作る時間がなかった」ような印象を受ける足りなさ。

実際、キャラクターの動きやシステム面の不足だけでなく、説明が足りない箇所やバグも多くみられた。
バグで言えば編成画面で護符(装備)を外せないベーシックなモノから、バトルで倒れたキャラが復活、フレンド枠で選択と異なるフレンドがやってくるなど2桁ほどのバグに遭遇した。
サポートに逐一報告していたが、あまりに多くてレポートをやめてしまったほどだ。
どうしても、「時間が足りなくて完成しなかったけど年末に出したかった」という大人の事情を感じてしまう。
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▲敵より後ろにキャラが移動するバグ。背面には攻撃できないし、敵のいるマスに侵入できないので50ターンぐらいかけて気力をため、必殺技を使って抜けなければならない。

よって、現時点での感想は「未完成」となる。
勇気を持って延期して、必殺技を作り直し、バグを潰してストーリーを増してもらってからサービスして欲しかったように思う。

幸いなことに開発元も「足りない」ことは認識しているようで、今後キャラクターシナリオやストーリーの見返し機能なども実装されていくと明言されているし、育成やクエストにもすでにテコ入れが入っている。

ディライトワークスも『FGO』を長くアップデートして盛り上げた経歴がある。
『FGO』後に初めて作るオリジナル作品で、『FGO』と異なる面白さを提示できないまま終わったらそれこそディライトワークスのゲーム開発力が疑われる。きっとこのままでは終わるまい。
3ヶ月、半年と見守って「完成した」と思えたらまた記事を書こうと思っている。
ということで、現時点の評価は5としておく。
2013年ごろのソシャゲのような感覚で遊べばストーリーも豪華だし、充分楽しめる。

プレイ動画:


概要:
『FGO』ライクなストーリー主体のゲーム。2013年頃のシンプルなストーリー+育成ゲームとして遊ぶことはできるが、2020年の基準に達していない。

評価:5(楽しめる)

おすすめポイント
小ネタなど随所でサクラ大戦のテイストが味わえる
サクサク進んで余計なプレイをあまり要求されない
メインストーリーは結構面白い

気になるポイント
キャラが映えないアングルで見えることが多々ある
ドレスがダサい
サクラ大戦とシステム的なつながりは見いだしづらい
バグが多い
ストーリーを終えた後でやることがない

アプリリンク:
サクラ革命 ~華咲く乙女たち~ (App Store 無料 / GooglePlay 無料)

開発:ディライトワークス(日本)
販売:セガ(日本)
HP:https://sakura-kakumei.sega.jp/
レビュー時バージョン:1.0.0
課金:ガチャ

ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中